第130話:グラニット・ベース防衛戦(後編) - 星脈砲、吼える
ズ……ズン……!!
地底の工房を揺るがす、重く、腹の底に響く足音。
森を裂いて現れたのは、絶望そのものだった。
ヴェルガント帝国の超大型魔導兵器『ギガント・ゴーレム』。
全長20メートルを超えるその巨躯は、鉱山の岩盤すら削り取って作られたような、荒々しくも堅牢な装甲に覆われている。
関節部からは高圧の蒸気が噴き出し、胸部には赤々と燃える魔力炉が、心臓のように脈打っていた。
「オォォォォォォッ!!」
ゴーレムが、咆哮のような排気音を上げる。
その丸太のような腕が振り上げられた。
ドゴォォォォォンッ!!
一撃。
たった一撃で、防衛ラインとして築かれていた都市外周のミスリル合金製の壁が、飴細工のようにひしゃげ、粉砕された。
「ぐわぁぁぁっ!?」
破片と共に、前衛のドラグニア兵たちが吹き飛ばされる。
「くそっ……! バケモノかよ!」
バリンが瓦礫に身を隠しながら叫ぶ。
通常のオートマタなら通じたクロスボウの矢も、魔法攻撃も、あの巨体の前では豆鉄砲ですらない。
表面に展開された多重防御結界が、あらゆる攻撃を弾き返しているのだ。
「……あれは、整備したことがねえ」
ドルゴが、震える声で呟いた。
彼の顔からは血の気が失せ、目にはかつてのトラウマ――帝国の圧倒的な力への恐怖が浮かんでいた。
「規格が違いすぎる……! あんな出力の魔力炉、どうやって冷やしてるんだ!? あんな装甲、どうやって動かしてるんだよ……!?」
技術者だからこそ分かってしまう、絶望的な性能差。
帝国の最高技術の結晶。
それが今、自分たちをすり潰そうと迫ってくる。
工房内に、パニックが伝播しかけた。
その時だ。
「ひるむな若造共ッ!!」
ゴードンの一喝が、轟音をかき消すように響き渡った。
老ドワーフは、逃げようともせず、仁王立ちで巨大な敵を睨みつけていた。
「ここを抜かれたらどうなる! この後ろには、首都エルムヘイムがあるんじゃぞ! レンが、民が、ワシらの家族がおるんじゃ!」
「親方……!」
「技術で負けたとて、心まで負けるな! ワシらはエルム公国の職人じゃろうが!! 持ちこたえろ! ティアーナ嬢ちゃんが撃つまで、一歩も通すな!!」
その言葉に、ドルゴがハッと顔を上げた。
そうだ。
自分たちの背後には、巨大な砲身が――希望が鎮座している。
混乱と破壊が支配する戦場の中。
ただ一人、静寂の中にいるかのように冷静な女性がいた。
ティアーナだ。
彼女は、爆風で白衣をはためかせながらも、一歩も退かずに『星脈砲』の制御コンソールに向かっていた。
彼女は耳元のイヤーカフ型に加工された『遠話の魔石』に触れ、呼びかける。
「……レンさん。聞こえていますか?」
『ああ、見えているぞ、ティアーナ』
魔石を通じて、クリアな夫の声が届く。
首都で指揮を執るレンが、その超感覚と演算能力を共有してくれているのだ。
『敵の構造、解析完了だ。 装甲厚は3メートル。だが、胸部中央の魔力炉……冷却サイクルの瞬間に、防護結界がコンマ数秒だけ薄くなる』
レンからの情報が、ティアーナの手元のモニターに青写真として展開される。
敵の弱点、魔力の流れ、そして狙うべき一点。
全てが見えた。
「ドルゴさん、ゴードンさん! 座標特定しました! 『星脈砲』、起動準備!」
ティアーナの凛とした声が響く。
「充填率120%! 冷却装置、パージ!」
その指示に、我に返ったドルゴが吼えた。
「おうよ! やってやらぁ!!」
ドルゴがレバーを全力で引き絞る。
ゴードンがハンマーで安全弁を叩き飛ばす。
「魔力バイパス、全開ッ! エルフの術式に、帝国の排熱機構……そしてドワーフの魂を喰らいやがれぇッ!!」
師弟が顔を見合わせ、ニヤリと笑った。
言葉はいらない。
鉄を打ち、技術を語り合った者同士の、阿吽の呼吸。
ブォォォォォン……ッ!!
星脈砲の砲身に刻まれた魔力回路が、眩いばかりの青白色に輝き始める。
周囲の空気が振動し、工房内のマナが渦を巻いて吸い込まれていく。
ゴードンの鍛造技術が作り上げた強靭な砲身。
ティアーナが組み上げた緻密な魔力回路。
そして、ドルゴが帝国の技術を応用して組み込んだ、強制冷却バイパス。
三つの叡智が、今、一つになる。
『……ふん。悪あがきを』
指揮車両の上で、セラフィナが冷笑した。
『ギガント・ゴーレムの装甲は、城壁を超える防御力。 そんな急造の大砲で、貫けるものですか』
ゴーレムが、とどめを刺そうと巨大な拳を振り上げた。
その影が、ティアーナたちを覆い尽くす。
だが、ティアーナは眼鏡の奥の瞳を、強く光らせた。
「……いいえ、貫きます」
彼女は、照準器ごしに敵の核を見据えた。
「エルム公国の技術を、私たちの絆を……侮らないでいただきましょう!」
魔力が臨界点に達する。
ティアーナは、レンと共に叫んだ。
「――撃てぇぇぇッ!!」
カッ!!!!
世界が、青一色に染まった。
轟音すら置き去りにする、極太の閃光。
それは一本の直線の光となり、空間を焼き焦がしながら疾走した。
ギガント・ゴーレムの防御結界が、紙のように触れた瞬間に消し飛ぶ。
分厚い装甲が、飴のように溶解し、蒸発する。
そして。
光の矢は、吸い込まれるように胸部の魔力炉へと突き刺さり――その背中へと貫通した。
一瞬の静寂。
ズゴォォォォォォォンッ!!!!
ギガント・ゴーレムの内側から、紅蓮の爆炎が噴き出した。
魔力炉の崩壊。
巨体が内側から破裂し、手足が千切れ飛び、溶解した鉄の雨となって降り注ぐ。
その衝撃波は凄まじく、周囲に展開していたオートマタ部隊をも巻き込み、なぎ倒していく。
「きゃぁぁっ!?」
後方の指揮車両にいたセラフィナも、爆風に煽られて吹き飛ばされそうになり、無様に手すりにしがみついた。
彼女の顔には、煤けた汚れと共に、信じられないものを見る驚愕が張り付いていた。
「ありえない……! バカな……!」
彼女は、燃え上がる自身の最高傑作を見つめ、わなわなと唇を震わせた。
「あの出力……あの貫通力……! 私の錬金術を……帝国の科学力を超える技術があるというのですか……!?」
プライド。自信。技術への過信。
それら全てが、あの一撃で粉々に打ち砕かれたのだ。
砲身は反動の高熱で赤熱し、一部は溶解して歪んでしまっている。
(……やはり、ミスリル合金でもこの出力には耐えられませんか)
ティアーナは、撃てなくなった砲身を見ながら、冷静に分析していた。
(でも、データは取れました。 次はオリハルコンの配合比率を変えて……冷却術式を多重展開すれば、連射も可能になるはず……!)
勝利の余韻に浸るよりも先に、彼女の頭脳は既に次の開発へと向かっていた。
まさに、一撃必殺の切り札だった。
「……やったか」
ゴードンが、煤だらけの顔で呟く。
目の前には、残骸となって燃え盛るギガント・ゴーレムと、機能を停止したオートマタの山。
「……へっ。ざまあみろ」
ドルゴが、へたり込みながらも、快哉を叫んだ。
「見たかよ、帝国! これが俺たちの『傑作』だ!」
「おぉぉぉぉぉッ!!」
工房の隅で耐えていたドラグニア兵や職人たちが、一斉に歓声を上げ、勝利の拳を突き上げる。
技術的敗北。
そして、戦力的壊滅。
セラフィナは、ギリと歯ぎしりをすると、燃え盛る戦場を背に、屈辱に顔を歪めたまま指示を出した。
「……撤退です! この借りは……必ず返しますわよ!」
逃げるように去っていく“紅の錬金術師”。
グラニット・ベースの工房に、勝利の凱歌が高らかに響き渡った。
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