第129話:グラニット・ベース防衛戦(前編) - 叡智の工房
鉱山都市『グラニット・ベース』。
地熱の熱気と機械油の匂い、そして鉄を打つ音が絶え間なく響く、公国の技術中枢。
その工房区画に到着したのはティアーナだった。
「――状況は!?」
彼女は白衣の裾を翻し、湯気と粉塵が舞う工房を見渡す。
そこは、まさに戦場の最前線と化していた。
「おお、嬢ちゃん! 待ちかねたぞ!」
巨大な金属塊の上から、ゴードンが声を張り上げる。
彼の目の前には、公国の切り札となる試作超大型魔導兵器――『星脈砲』が鎮座していた。
まだ塗装もされていない、むき出しの鋼鉄の巨砲。
その周囲では、数十人のドワーフたちが、総出で必死の調整を続けていた。
「冷却パイプ、圧力限界まで固定しろ! 漏れたら蒸し焼きだぞ!」
怒号を飛ばしているのは、ゴードンの一番弟子であり、黒鉄鉱山から救出されたバリンだ。
「魔力伝導率、安定しません! 第3回路、バイパス繋ぎ直します!」
反対側では、若きドワーフのドルゴが、スパナ片手に魔力回路の束と格闘している。
他にも、多くの職人たちが、汗だくになってハンマーを振るっていた。
「砲の冷却は万全じゃ! だが……」
ゴードンが顔をしかめ、工房の奥――都市の外縁部に繋がる巨大な搬入路を指差した。
「客人が、少々多すぎるようでな!」
ズズズズズズ……ッ!!
地響きと共に、搬入路の奥から、無数の赤い光が薄暗がりを切り裂いて迫ってくる。
それは、整然とした行進音だった。
ガシャン、ガシャン、ガシャン、ガシャン。
一糸乱れぬ金属音。
恐怖を感じるほど正確なリズム。
「来ましたか……」
ティアーナは眼鏡の位置を直し、杖を構えた。
暗闇から姿を現したのは、人間大の金属人形たち。
ヴェルガント帝国が誇る、自律駆動式魔導兵器――『自動人形』の軍団だった。
その数、数百。
いや、後続を含めれば千を超えるかもしれない。
無機質な仮面のような顔には表情がなく、ただ破壊命令を実行するためだけに、両腕に内蔵されたブレードや魔導銃を構えている。
「迎撃ッ! 撃てぇぇぇッ!!」
防衛ラインで待ち構えていた指揮官が叫ぶ。
そこには、公国軍の鎧を纏った、ドラグニア出身の兵士たちが展開していた。
彼らは故郷を奪われた恨みを晴らすべく、クロスボウと魔術を一斉に放つ。
ドシュッ! バババババッ!!
矢と魔法の雨が、先頭のオートマタ集団に降り注ぐ。
だが。
カィンッ! ギィンッ!
「なっ……弾かれた!?」
ドラグニア兵が驚愕の声を上げる。
矢は硬質な装甲に弾かれ、下級の攻撃魔法は、人形の表面に展開された微弱な対魔障壁によって拡散されてしまう。
「ひるむな! 盾を構えろ! 接近戦で押し留めるんだ!」
「おぉぉぉッ!!」
ドラグニアの重装歩兵たちが、大盾を構えて突撃の構えを取る。
人間対機械。
正面衝突すれば、被害は避けられない。
その時だった。
「……傑作、だと? 冗談じゃねえ!」
一人のドワーフが、工具を握りしめて叫んだ。
顔の半分に火傷の痕を持つ若者、ドルゴだ。
彼は、迫りくる無敵の軍団を見ても、怯えるどころか、鼻で笑っていた。
「へっ! 傑作だか何だか知らねえが……整備させられてた俺からすりゃあ、そんなもん『欠陥品』の塊なんだよ!」
ドルゴは、大きく息を吸い込み、戦場に轟く大声で叫んだ。
「野郎ども! よく聞けぇぇッ!! あの人形の左脇腹! 装甲の継ぎ目だ!」
彼の声が、衝突寸前の戦場に響き渡る。
「そこの装甲板の下に、姿勢制御用の魔力パイプが通ってやがる! 装甲はペラッペラだ! そこを狙えば一撃で止まるぞ!!」
「なっ……!?」
遠くの指揮車両で、セラフィナの目が見開かれるのが見えた。
その情報は、帝国の機密中の機密。
設計者と、現場で泥にまみれて整備させられていた奴隷たちしか知り得ない弱点。
「バリンの旦那! ドラグニアの兵隊さんよ! 左脇腹だ! そこ一点に集中しろ!!」
「……聞いたか野郎ども!!」
バリンがニヤリと笑い、巨大なスレッジハンマーを振り上げた。
「ドルゴの言うことだ! 間違いねえ! ドワーフの意地を見せてやれぇッ!!」
「おうよ!!」
ドワーフたちが、クロスボウの狙いを定める。
ドラグニア兵たちも、即座にターゲットを変更する。
「左脇腹……そこかぁッ!!」
前線の兵士が、オートマタの振り下ろされた腕を盾で受け流し、がら空きになった左脇腹へ剣を突き立てる。
ズボォッ!!
「ギ……ガ……ガガ……」
先ほどまでビクともしなかった人形が、火花を散らして崩れ落ちた。
「効いたぞ! 本当に脆い!」
「いける! いけるぞ!!」
戦場の空気が一変した。
無敵の軍団は、ただの「弱点むき出しのポンコツ」へと変わった。
ドワーフたちの正確無比な射撃が、次々と急所を射抜く。
ドラグニア兵たちの連携攻撃が、確実に敵を仕留めていく。
「な、何をしているのです! 進みなさい! 踏み潰しなさい!」
セラフィナの金切り声が響くが、もう遅い。
蟻の群れのように押し寄せていたオートマタたちは、次々とスクラップの山となって積み上がっていく。
「ふふっ……」
ティアーナは、杖を下ろし、眼鏡を光らせて微笑んだ。
「どうやら、あなたの『最高傑作』は、私たちの『現場の知恵』には勝てなかったようですね」
情景は一転した。
敵の後方、指揮車両の上。
自慢の人形たちが効率的に破壊されていく光景に、セラフィナの優雅な笑みは消え失せていた。
美貌が、屈辱と怒りで歪む。
『……内部構造を知るネズミがいるようですね。 不愉快ですわ。……極めて、不愉快』
ミシッ、と彼女が握りしめた扇子がへし折れる音がした。
「いいでしょう。 ならば、小細工の通用しない『力』で、その工房ごと潰して差し上げます」
セラフィナが指を鳴らす。
『出しなさい。『ギガント・ゴーレム』を』
ズ……ズン……!!
先ほどの地響きとは比べ物にならない、地面が波打つような振動。
闇の中から、蒸気を噴き上げながら、そいつは立ち上がって現れた。
岩盤と鋼鉄で構成された、見上げるような巨体。
全長20メートルを超える、超大型魔導兵器。
「な……なんだ、ありゃあ……!?」
バリンが口を開けて見上げる。
ドルゴの顔から、血の気が引いていく。
「……ギガント・ゴーレム……」
弱点など、その圧倒的な装甲と質量の前では無意味。
ただ歩くだけで全てを粉砕する、破壊の権化が、森の奥深くからその巨大な姿を現した。
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