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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜

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第122話:獣王への布石

生産都市『アグリ・ヴィータ』の中央会議室。


窓の外からは、建設現場の活気ある槌音と、人々の力強い掛け声が響いてくる。 復興と拡張を続けるこの街の鼓動は、決して止まることはない。


室内の空気もまた、決して暗く沈んではいなかった。 そこにあるのは、困難な課題を前にしてなお、最善の道を探し出そうとする、建設的で張り詰めた緊張感だった。


円卓を囲むのは、俺、アリシア、オリヴィア、そして数名の防衛隊幹部たち。 議題は、南西から進軍の兆しを見せている帝国四将軍の一角、“獣王”グラッフへの対抗策だ。


「……報告によれば、グラッフの軍勢は通常の魔獣部隊とは一線を画しているとのことです」


凛とした、よく通る声で口を開いたのは、オリヴィアだった。 彼女は手元の報告書を静かに卓上に置き、王女としての毅然とした瞳で俺を見据える。


その声に、かつてのような怯えや迷いは微塵もない。 あるのは、敵の非道を許さず、民を守り抜くという静かな、しかし燃えるような闘志だけだ。


「彼らが使役する魔獣は、死を恐れません。……いいえ、正確には『恐怖と薬物で脳を焼かれ、痛みを感じない肉の兵器』にされているのです」


その言葉に、会議室の空気がピリリと引き締まる。 防衛隊長たちも眉をひそめ、地図上の敵軍配置を睨みつけながら、対策を模索し始めた。


「足を切断されても、内臓が飛び出しても……彼らは止まりません。敵の喉笛を喰いちぎる、その瞬間まで動き続けると」


想像するだけで吐き気を催すような地獄絵図。 それが、グラッフの率いる軍団の正体だった。


「なんて……ひどいことを……」


アリシアが口元を押さえ、悲痛な声を漏らす。 彼女の緑色の瞳が、怒りと悲しみで潤んでいた。


「生き物を……そんな風に扱うなんて……」


俺もまた、地図を見つめながら思考を巡らせていた。

倒すことはできる。 俺たちの力と、配備された魔導兵器を使えば、彼らを殲滅することは可能だろう。


だが、それは「殺し尽くす」ことを意味する。 薬物で狂わされ、死ぬまで戦わされるだけの哀れな獣たちを、俺たちの手で一方的に屠らなければならないのか。


(……他に、道はないのか?)


ここで「仕方ない」と諦めれば、ただの消耗戦になる。 俺たちが目指すのは、敵を倒すだけでなく、未来を創る戦いだ。 何か、別の手があるはずだ。


俺が新たな策を提案しようと顔を上げた、その時だった。


バンッ!


会議室の扉が、勢いよく開かれた。


「レン! どうしても話を聞いてほしい奴がいるんだ!」


入ってきたのは、カイルだった。 彼の後ろには、一人の小柄な青年が、恐縮したように背中を丸めて立っていた。


まだ新しい衣服を着ているが、その手足には過酷な労働の痕跡が残っている。 だが、その瞳には、何かにすがるような切実な光が宿っていた。


「……こいつは、ゲイル。先日の黒鉄鉱山から救出された中の一人だ。どうしても公王に伝えたいことがあるってきかなくてな」


カイルの紹介に、俺たちは注目した。



◇◇◇


【視点:ゲイル】


眩しい。 この部屋にいる人たちは、誰もがキラキラと輝いて見える。


公王レン様。 オリヴィア様。 そして、アリシア様。


命を救ってくれた英雄たちが、一斉に俺を見ている。 その視線に耐えられず、俺は思わず身を縮こまらせた。 ただの一般人である俺が、こんな重要な会議の場にいて良いのだろうか。


だが、言わなければならない。あの子たちのために。


「……楽にしてくれ、ゲイル。君が知っていることを教えてほしい」


レン様の声は、驚くほど穏やかだった。 威圧感はない。ただ、俺の話を聞こうとしてくれる真摯な響きだけがあった。


俺は、意を決して口を開いた。


「……俺には……聞こえるんです」


「聞こえる?」


「はい……。言葉を持たない動物たちの、心の声が」


かつて、森の奥の集落でひっそりと暮らしていた頃。 この力は、俺の宝物だった。


『お腹すいたよー』 『足が痛いの』 『ありがとう、治してくれてありがとう』


傷ついたウサギの手当てをし、迷子の仔鹿を親元へ返す。 動物たちの純粋な感謝の声に囲まれる日々。 それは貧しくとも、幸せで、誇り高い生活だった。


だが。 帝国が来た日、その全てが奪われた。


「……帝国は、俺たちを捕らえ、黒鉄鉱山へ送りました。そこで俺の力を見抜いた彼らは、俺を魔獣の管理係として使役したのです」


与えられた任務は、魔獣への「投与」と「調教」。 狭い檻の中に押し込められ、鎖に繋がれた魔獣たちの悲鳴。


『助けて』 『暗いよ、怖いよ』 『お家に帰りたい』


『痛い、痛い、痛い……!』


獣心通を通じて、彼らの絶望が、恐怖が、直接脳内に響き渡る。 耳を塞いでも無駄だ。心に直接流れ込んでくるのだから。


俺は、泣きながら彼らに注射器を突き立てた。 狂暴化する薬物を、震える手で打ち込んだ。


逆らえば、目の前で彼らが無残に殺される。


「……ごめんな、ごめんな……」


いつしか俺は、そう呟きながら薬を打つようになった。


「すぐに楽にしてやるからな……」


薬で狂ってしまえば、恐怖も感じなくなる。 戦場で死ねば、この地獄から解放される。


自らの手で彼らを狂わせ、死地へ送り出すこと。 それだけが、無力な俺にできる唯一の「愛」だと、信じ込むしかなかったんだ。


「……レン様。グラッフの軍団を止める方法は、二つしかありません」


俺は、レン様に向かって、乾いた喉から言葉を絞り出した。


「奴らは、特殊な笛の音と、薬物の匂いで制御されています。その感覚を狂わせて同士討ちさせるか……」


俺は、一度強く目を閉じ、そして告げた。


「……あるいは、確実に息の根を止めて、楽にしてやるかです」


それしか、救いはない。 あの子たちを救うには、殺してやるしかないんだ。


部屋に、一瞬の沈黙が落ちた。 誰もが、その残酷な現実に思考を巡らせているようだった。


だが。


「……匂い、ですか?」


凛とした声が、沈黙を破った。 顔を上げると、アリシア様が、何かを閃いたように俺を見つめていた。


その瞳に宿っていたのは、憐れみでも、絶望でもなかった。 強く、澄んだ、希望の光。


「それなら……殺さずに助けられるかもしれません」


「……え?」


俺は、耳を疑った。 助ける? あんな化け物にされた奴らを? どうやって?


アリシア様は、興奮気味にレン様に向かって語り出した。


「レン! 以前、エラーラさんと研究していた『麻痺毒』の応用ができるかもしれないの!」


「麻痺毒……?」


「うん! 興奮剤の成分構造を逆手に取って、神経を強制的に鎮静化させる『鎮静の香』を作るの! まだ理論上の話だけど、それを戦場に散布すれば……」


彼女は、拳を握りしめて言った。


「戦力として無力化するだけじゃない。……彼らを、薬の支配から解放して、正気に戻してあげられる可能性があるわ!」


時が、止まったようだった。


「……しょ、正気に……?」


俺は、呆然と呟いた。


殺す以外の選択肢があるなど、考えもしなかった。 人間にとって、魔獣は害獣でしかないはずだ。 ましてや、人を襲うように改造された兵器だ。


それなのに、この少女は。 アリシア様は、本気で「助けたい」と言っている。 敵の兵器を。 あんなに醜く変わり果てた獣たちを。


「……彼らだって、好きで戦ってるわけじゃないもの。痛いのも、苦しいのも、嫌なはずだわ」


アリシア様が、俺の目を見て微笑んだ。


その笑顔を見た瞬間。 俺の脳裏に、かつての記憶が鮮やかに蘇った。


森の中で、傷ついたウサギを抱き上げていた時の自分。 『ありがとう』という声を聞いて、心から笑っていた自分。


そうだ。 俺は、殺したかったわけじゃない。 助けたかったんだ。 救いたかったんだ。


「……あっ……うぅ……」


凍り付いていた心が、溶け出していく。 罪悪感と諦めで塗り固められていた心の隙間から、熱いものが溢れ出してくる。


「まだ……救えるかも、しれない……」


その希望は、俺にとって何よりも眩しく、そして残酷なほどに尊いものだった。



◇◇◇



数日後。 首都エルムヘイムの転移門前は、慌ただしい熱気に包まれていた。


「急いで! 次の便が出るわよ!」


アリシア様の指揮の下、生産都市から届いた大量の木箱が、次々と運び込まれていく。


箱の中身は、公国の薬師たちが総出で作り上げた「解放の香」。 特製の魔道具に詰められ、投擲すれば広範囲に鎮静効果のある霧を撒き散らす仕組みだ。


「どうか……魔獣たちも、兵士たちも、守ってください」


アリシア様が、戦地へ向かう兵士たち一人ひとりに頭を下げている。 その姿は、人間も獣も関係なく命を慈しむ、彼女の信念そのものだった。


俺は、その光景を少し離れた場所から見ていた。 俺もまた、防衛装備に身を包んでいる。


「……行くのか、ゲイル」


隣に、公王であるレン様が立った。


「はい。……俺も、行きます。あの子たちの声を、もう一度聞くために」


レン様は静かに頷くと、俺の肩に手を置いた。


「ゲイル。これでお前の友達も、助けられるかもしれないな」


「……!!」


友達。


その一言が、俺の胸を貫いた。


化け物でも、兵器でもない。 友達。


かつて、魔獣たちの声を聞き、彼らを愛していた自分。 その自分を、レン様は肯定してくれたのだ。


「……うっ、ぐすっ……」


俺はその場に崩れ落ち、声を上げて泣いた。 これまで押し殺してきた感情が、涙となって溢れ出す。 それは悲しみの涙ではなかった。 魂が救われた、感謝の涙だった。


レン様は、俺が泣き止むまで、何も言わずに待っていてくれた。


やがて、俺は涙を拭い、立ち上がった。 視界は、今までになく晴れ渡っていた。


「ゲイル。頼みがある」


レン様は、真っ直ぐに俺を見据えた。


「戦闘時も、俺たちに協力してくれないか? お前の力があれば、戦場での香の効果範囲や、魔獣たちの状態を正確に把握できるはずだ」


俺は、力強く頷いた。


「……はい! 喜んでお供します!」


かつては、魔獣の断末魔を聞くために使わされた呪われた力。 だが、今度は違う。


彼らの痛みを聞き取り、救い出すために使うのだ。


「……ありがとう。頼りにしている」


レン様が手を差し出す。 俺は、その手を両手で強く握りしめた。


「はいっ! この命に代えても!」


かつての優しい森の青年は、もういない。 今、ここにいるのは、友を救うために立ち上がった、エルム公国の一人の戦士だった。


俺たちは、転移門へと足を踏み入れる。 待っていろ。 今度こそ、お前たちをその悪夢から覚ましてやる。


本当の「救済」を届けるために。

「面白かった」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後はどうなるの?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をよろしくお願いいたします。


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちで勿論、大丈夫です!

皆さんの応援が、本当に作品を書く、モチベーションに繋がります。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします!

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