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【完結済】伝説の「龍覚者」に覚醒した俺、大切な居場所を守るためなら手段を選ばない 〜始原の森から始まる、現代知識チートによる最強建国記〜  作者: シェルフィールド
4章:帝国大侵攻と龍覚者の反撃 〜裁かれる罪、王女の決断〜

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第121話:欺けぬ機械と、人の死角

深夜の公王執務室。


静寂に包まれた部屋には、魔石ランプの明かりだけが灯っている。


その薄暗がりの中で、俺は机いっぱいに広げられた広域地図を、ただ無言で睨みつけていた。


こめかみが、ズキズキと痛む。


(……広い。あまりにも、広すぎる)


俺は、地図上の「国境線」を指でなぞる。


軍事都市、生産都市、鉱山都市。


そして、それらを囲む広大な始原の森。


エルム公国の領土は、急速な発展と共に拡大を続けていた。


それは喜ばしいことだ。


だが、同時に「守るべき範囲」が、俺一人の手で抱えきれる限界を超えつつあることを意味していた。


(【マッピング】を展開すれば、見える。森の木の葉の一枚一枚、地中を這う虫の動きまで……)


俺は目を閉じ、意識を森へと飛ばす。


脳内に、膨大な情報が雪崩れ込んでくる。


風の揺らぎ。


夜行性の魔物の息遣い。


落ち葉が地面に落ちる、微かな振動。


(だが……全てを「疑う」ことは不可能だ)


見えている情報は、あまりにも多すぎる。


その膨大な「ノイズ」の中から、敵意を持った侵入者だけを瞬時に選別する。


そんな極限の集中力を、24時間、365日維持し続けることなど、神でもない限り不可能だ。


もし、俺が疲労で意識を途切れさせた、その一瞬を突かれたら?


俺が「ただの風だ」と判断したその反応が、もし風に偽装した手練れの暗殺者だったら?


(……その一瞬の遅れが、国を滅ぼすことになる)


冷や汗が、背筋を伝う。


俺は重い溜息をつき、疲労に霞む目をこすった。


限界だ。


その時だった。


コンコン、と控えめなノックの音が響き、執務室の扉が開いた。


「……レンさん。やはり、まだ起きていらっしゃいましたね」


入ってきたのは、ティアーナだった。


彼女は心配そうな表情で俺に歩み寄ると、手に持っていた温かい飲み物をデスクに置いた。


「あまり、ご自身を追い詰めないでください。あなたの顔色が優れないと、城中の士気に関わりますわ」


「……すまない、ティアーナ。だが、どうしても不安が拭えなくてな」


俺は礼を言い、カップに口をつける。


ハーブの香りが、ささくれ立った神経を少しだけ和らげてくれる。


ティアーナは、俺が睨んでいた地図に視線を落とし、そして、力強く言った。


「全ての荷物を、一人で背負おうとしないでください。……あなたのその『悩み』を補うために、私たち技術者がいるのですから」


彼女はそう言うと、抱えていた一枚の大きな設計図を、俺の目の前に広げた。


そこには、複雑怪奇な魔力回路が刻まれた、一本の「杭」のような構造物が描かれていた。


「これは……?」


「名付けて、『広域監視結界杭ボーダー・パイル』です」


ティアーナの青い瞳が、自信に輝く。


「以前開発した【鉱脈探査結晶】と、【探知魔道具】の技術を統合・発展させたものです。これを国境線に打ち込むことで、地脈の微細な振動とマナの乱れを感知し、司令室へ即座に伝達する……いわば、公国の『五感』となるシステムです」


「五感……」


「ええ。これがあれば、レンさんが常時マッピングを展開する必要はありません。機械が、休むことなく国境を見張り続けてくれます」


それは、俺が喉から手が出るほど欲していた「眠らぬ目」だった。


だが、その提案に、部屋の隅から懐疑的な声が上がった。


「……素晴らしい技術ですが、機械は所詮、機械です」


声の主は、壁際の影に控えていたイリスだった。


彼女の隣には、先日「影」として任命されたばかりのシエナも、同じように腕を組んで立っている。


「想定された動きには強いでしょう。ですが、『想定外』の動きには脆い。帝国の『影蛇』や、かつての私のような……魔法を使わず、気配そのものを絶つ手合いまで感知できますか?」


イリスの指摘は、もっともだった。


高度な隠密技術を持つ者は、探知の網をすり抜ける術を知っている。


シエナも、生意気そうに鼻を鳴らした。


「そうよね。私だって、レン陛下のマッピングの『更新の隙間』を縫って歩くことくらいできるわよ? 機械任せにして、そこを抜かれたらおしまいじゃない?」


二人の「影」の専門家からの、手厳しい指摘。


だが、ティアーナは怯まなかった。


むしろ、眼鏡の奥の瞳を鋭く光らせ、不敵な笑みを浮かべた。


「あら。……言いましたね?」


ティアーナは、設計図をバンッ! と叩いた。


「私の最高傑作が、あなた方の隠密ごときに見破れないと? ……面白い。なら、実験しましょう」


「実験?」


「はい。今からこの杭を試験的に設置します。イリスさんとシエナさん、お二人が本気で侵入を試みてください」


ティアーナは、挑発的に二人を見据えた。


「レンさんの『目』と、私の『機械』。……どちらが先にあなた方を捕まえられるか、勝負です」



◇◇◇



深夜の森。


エルムヘイムから少し離れた山岳地帯に、試験用の『広域監視結界杭』が設置された。


俺とティアーナは、急造の司令室テントの中で、魔石モニターを監視している。


対する侵入者は、イリスとシエナ。


公国最強の騎士にして隠密の達人と、闇に愛された天才少女。


この二人を同時に相手にするなど、悪夢のようなシチュエーションだ。


「……行くぞ、レンさん。開始の合図を」


「ああ。……スタート!」


俺の合図と共に、実験が始まった。


俺は即座に【マッピング】と【魔力感知】を最大出力で展開する。


意識が森全体を覆い尽くす。


木の葉の裏、土の中、風の流れ。


全てが、俺の脳内で三次元の映像として再構築される。


(……見える。全て見える)


だが。


「……いない?」


俺は、眉をひそめた。


開始地点にいたはずの二人の反応が、忽然と消滅していたのだ。


いや、消えたのではない。


森には、無数の「気配」があった。


眠っている鹿、枝を揺らす風、地面を這う虫たち。


それらの自然なノイズの中に、二人の気配が完全に溶け込んでしまっていたのだ。


(……なるほど。気配を『消す』んじゃない。『同化』させているのか!)


俺は戦慄した。


彼女たちは、自身の魔力波長を、周囲の自然環境と完全に「同調シンクロ」させている。


俺の目には、確かに何かが映っている。


だが、その波長が「ただの風」や「野生の鹿」と全く同じであるため、俺の脳が勝手に「これは脅威ではない(安全な風景だ)」と判断し、意識の外へ追いやってしまうのだ。


(くそっ……どこだ!? あの鹿か? それとも、あの揺れる枝か!?)


疑心暗鬼に陥る。


全ての風景が怪しく見え、しかし、どれも決定的な確証がない。


情報量が多すぎて、脳が焼き切れそうだ。


「……ダメだ。特定できない」


俺は、脂汗を流しながら呻いた。


「俺の目には……この森には、小動物しかいないように見える」


人間の脳が持つ、「不要な情報をカットする」という機能。


イリスたちは、その生物としての本能的な死角を、完璧に突いてきていた。


これでは、侵入を許してしまう。


「……ふふ」


その時。


隣でモニターを見つめていたティアーナが、涼しげに笑った。


「レンさん。やはり、人の目には限界がありますね」


「ティアーナ? 何か映っているのか?」


「ええ。……機械には、『風景に見惚れる』という機能はありませんから」


彼女が指差したモニターには、真っ赤な警告灯が明滅していた。


そして、そこには冷徹なまでの「数値」が表示されている。


『警告:座標D-3。対象識別「鹿(擬態率98%)」』


『――移動ベクトル異常。野生動物のランダム性が欠如。目的を持った直線移動を検知』


『――心拍ゆらぎ異常。呼吸リズムが人工的に制御されています』


「なっ……!?」


俺は絶句した。


モニターは、イリスたちが「鹿」になりきっていることを認識した上で、その「動き」と「生体反応」のわずかな機械的矛盾を、冷酷に暴き出していたのだ。


「いかに魔力を自然に似せようとも、質量が移動する際の『大気の排除』や、訓練された者特有の『無駄のない動き』までは消せません」


ティアーナは、勝ち誇ったように眼鏡の位置を直した。


「レンさんは騙せても……この子は騙せません。そこに『異物』がある限り、必ず拾い上げます」


座標が特定された。


もはや、隠れ蓑は剥がされたも同然だ。


「……行ってくる!」


俺は、モニターに表示された座標を脳に焼き付け、転移魔法を発動させた。



◇◇◇



森の中。


イリスとシエナは、風になりきって疾走していた。


「(完璧ですね、イリス様。レン陛下の感知が、私たちを『風景』として素通りしていくのが分かります)」


シエナが、ハンドサインで伝えてくる。


「(油断するな。だが……このまま行ける。人の意識の隙間を縫う、これが『無形の歩法』だ)」


イリスもまた、勝利を確信していた。


機械ごときに、研ぎ澄まされた達人の技が見破れるはずがない。


そう思っていた、その瞬間。


バヂィッ!!


二人の目の前の空間が歪み、光が弾けた。


「――そこまでだ!」


転移してきた俺が、イリスの背後を取り、切っ先を寸止めする。


「なっ……!?」


イリスが驚愕に目を見開き、足を止めた。


完全に気配を消していたはずのシエナも、腰を抜かさんばかりに驚いている。


「う、嘘でしょ!? 完璧だったはずよ!?」


「ああ、完璧だったさ。俺の目には、お前たちはただの『風』と『鹿』にしか見えなかった」


俺は剣を収め、苦笑した。


「だが……機械は、お前たちの心臓の音と、歩き方の癖までは見逃してくれなかったみたいだ」


「……心拍と、歩き方……?」


イリスは、呆然と呟いた。


感情も先入観も持たない機械だからこそ、達人が作り出した「完璧な幻影」の中にある、ごくわずかな「数字の矛盾」を見抜いたのだ。


「……完敗です」


イリスは、悔しげに、しかし清々しく笑って両手を上げた。


「私の隠密が、杭一本に負けるとは。……ティアーナ殿の技術、底が知れませんね」



◇◇◇



実験は終了し、俺たちは司令室へと戻った。


「どうですか、お二人とも。私の『杭』の性能は」


ティアーナが、淹れたてのハーブティーを配りながら、悪戯っぽく微笑む。


「……参りました。あんなの、どうしようもないわよ」


シエナが、ふくれっ面で茶を受け取る。


「魔力を消しても、私がそこに『質量』として存在していることまでは消せなかった。……泥棒泣かせの国ね、ここは」


「ああ。これなら、帝国の『影蛇』が来ようとも、必ず探知できるだろう」


イリスも、その性能を全面的に認めた。


そして、ティアーナは真剣な表情に戻り、モニターの地図を操作した。


画面がズームアウトし、エルム公国の全土、そして国境線が表示される。


「今回の実験は成功です。ですが、これはまだ『点』に過ぎません」


彼女は、国境線に沿って、無数の光の点をプロットしていく。


「この杭を、国境線に沿って等間隔に数百本設置し、それらを魔力回線で結ぶことで……初めて公国を包む『感知の網』が完成します」


壮大な計画図。


だが、今の俺には、それが決して不可能な夢物語ではないことが分かっていた。


「……分かった。だが、システムが完成しても、俺一人でモニターを見続けるわけにはいかないな」


俺は、地図上で輝く防衛ラインを見つめ、新たな決断を下した。


「運用体制を決めよう。『国境監視班』を新設する」


「監視班、ですか?」


「ああ。このシステムなら、高度な魔力感知能力を持たない一般兵士や文官でも、モニターの警告を見るだけで異常を察知できる。24時間、3交代制で常に誰かが国境を見張る体制を作るんだ」


俺は、カイルやイリスたちを見渡した。


「そして、アラートが鳴った時だけ、待機している俺たち『遊撃部隊』が出動する。……これなら、俺たちも常に張り詰めている必要がなくなる」


その言葉に、全員の顔に安堵の色が浮かんだ。


「なるほど。それなら、我々もいざという時の瞬発力に温存できますね」


「ふふ、レンが過労で倒れる心配もなくなって、私たちも一安心ね」


そこへ、夜食を持ったアリシアが入ってきた。


「お疲れ様、みんな! すごい発明ができたんだって?」


彼女の明るい声に、張り詰めていた空気がふわりと緩む。


「ああ、アリシア。……これで、俺たちはようやく『眠ることができる』よ」


俺は、アリシアから受け取ったサンドイッチを頬張りながら、モニターに映る光の境界線を見つめた。


個人の力に頼っていた防衛が、組織としての「システム」へと進化した瞬間だった。


休息は、怠惰ではない。


次の戦いを万全の状態で迎えるための、最大の武器なのだ。


俺は確かな手応えと共に、久しぶりに訪れた心地よい睡魔に身を委ねた。


「面白かった」


「続きが気になる、読みたい!」


「今後はどうなるの?」


と思ったら、


下にある☆☆☆☆☆から、作品への応援をよろしくお願いいたします。


面白かったら☆5つ、つまらなかったら☆1つ、正直に感じた気持ちで勿論、大丈夫です!

皆さんの応援が、本当に作品を書く、モチベーションに繋がります。


ブックマークもいただけると本当にうれしいです。


何卒よろしくお願いいたします!

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