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転生龍覚者と導きの紋章 〜始原の森から始まる英雄譚〜  作者: シェルフィールド
1章

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第12話:復興の槌音と叡智の光

激闘から数日。レンとカイルとアリシアは、レンの家の庭に集まっていた。

あの戦いの後、特に手甲に龍の紋章がくっきりと浮かび上がった後、魔力量の変化が3人とも大きく感じられ、それをお互いに確かめ合いたいというアリシアの提案だった。


「じゃあ、まずは俺から行くぞ」


カイルがそう言って、静かに精神を集中する。俺とアリシアもそれに合わせて、カイルの魔力を感知しようと意識を研ぎ澄ませた。


「カイルの魔力が相当上がっているな!以前よりも格段に魔力が増えているのがわかるぞ!」


「これでお兄ちゃんも、魔法の練習をすると、もっと強くなれそうだね!」


カイルは少し照れたように頭を掻いた。


「次は戦いで少しも後れを取らないように、これからは鍛錬のやり方も、魔力を使ったものを考えないとな!」


今後のカイルの成長が楽しみである。


次に、アリシアが静かに自分の魔力を開放する。俺とカイルは、アリシアの魔力に触れて、その洗練された、しかし圧倒的な質量に目を見張った。


「アリシアの魔力も、以前よりさらに強く、そして深く、澄み切っているな……俺も魔力が増えたから、前よりよくわかるようになった気がする。」


カイルが呟くように言う。


「すごい……以前とは比べ物にならないくらい、私の魔力が多くなっている……!私もこれから魔法でいろんなことに挑戦できそう!」


アリシアは自分の魔力の上昇と、これからの自分の成長の可能性に、とてもうれしそうである。


「次はレンの番だね。でもレンの場合、感知しなくても既にすごい魔力量なのがわかるけど..」


「ああ、他人から見るとそんな感じなのか…まあ、確認のため、魔力に集中してやってみよう。」


俺は精神を集中した時、アリシアとカイルもそれに合わせて、俺の魔力を感知しようと意識を研ぎ澄ませた。


アリシアとカイルが目を見開いて息をのむ。レンの内側にある魔力の奔流は、まるで無限の泉のようだった。


「……レンの魔力、まるで深い湖の底みたいに、どこまでも広がり続けてるわ」


アリシアが感嘆の声を漏らす。


「俺は、レンの魔力が大きすぎて、なんと表現したらよいか、よくわからん」


カイルも引きつった顔で、答えていた。

また俺も自分で試してみて、ここまで魔力量が増幅しているとは想像していなかった。


「魔力量って、短期間でこんなに上昇するものなのか?」


「魔力量は訓練すれば大きくなるけど、短期間で魔力量が上昇することはないっておばあちゃんも言ってたわ。あと、魔力量って人それぞれ限界があるらしいの。生まれ持った素質も関係するし、どんなに努力しても、壁にぶつかる時がくるんだって」


「だから、今回みたいに短期間で3人とも魔力が増えるなんて、本当に珍しいことなの」


カイルがアリシアの言葉に頷く。


「確かに、以前の俺ならいくら訓練しても、アリシアの魔力量には到底及ばないってわかってた。ただ今は、その壁がなくなって上昇した感じがあるな。ただ今でも俺は、レンやアリシアには魔力量は及ばないからこそ、自分の得意な分野も伸ばすのが大事だと思ってる」


レンは二人の話を聞きながら、自分の中の底知れない魔力に改めて向き合った。この力は、一体どこまで伸びるのだろうか。


「そうか、魔法を使える人も限られるし、魔力も人それぞれに限界があるのか……。俺も、この力をどう使っていくか、もっと真剣に考えないとな」


俺は静かにそう呟いた。



◇◇◇



エルム村の防衛隊長に就任してから、数週間が過ぎた。ゴブリン・ジェネラル率いる軍勢との激戦の傷跡は、村の其処彼処にまだ色濃く残ってはいるものの、人々の表情には絶望の色はなく、復興へ向けた力強い槌音つちおとが村中に響き渡っていた。


犠牲となった仲間たちへの追悼は、決して消えることのない悲しみとして皆の胸に刻まれた。しかし、生き残った者たちは互いを励まし合い、支え合いながら、懸命に前を向こうとしていた。俺とアリシアの【回復魔法】によって多くの負傷者が回復に向かい、労働力が戻ってきたことも、村の活気を取り戻す大きな要因となっていた。


俺は防衛隊長として、カイル(副隊長)、ボルグ(自警団分隊長)、ヘクターさんたちと共に、新たな防衛体制の構築と日々の訓練に励んでいた。


魔力が上昇したカイルの成長は目覚ましく、彼の存在は自警団の士気を大いに高めていた。アリシアも俺の補佐役として、情報整理や物資管理、そして村人たちとの連絡調整など、多岐にわたる業務を献身的にこなしてくれていた。三人の力は、まだ謎が多いものの、互いの存在を強く感じさせ、言葉以上の連携を可能にしつつあった。


村は落ち着きを取り戻しつつあったが、課題は山積みだった。破壊された家屋の完全な再建、厳しい冬を越すための食料や薪の備蓄、戦闘で消耗した資材の補充。そして何よりも、ジェネラルが遺した言葉。ゴブリンの脅威は去ったかもしれないが、根本的な問題は何一つ解決していないのだ。


「守りは固めた。だが、それだけでは足りない……」


ある日の夕食後、俺は借りている家で、カイル、アリシアと共に今後の村の方針について話し合っていた。食卓には、以前よりは少しだけマシになった黒パンと干し肉、そしてアリシアが畑で育て始めた野菜のスープが並んでいる。


「守るだけじゃなく、この村をもっと豊かに、もっと安全にしたいんだ。皆が安心して暮らせる場所に」


俺の言葉に、二人は真剣な表情で頷いた。


「レンの言う通りだ。今回の戦いで、今のままじゃダメだってことがよく分かった」


「うん。もっと村が強くなって、皆が安心して暮らせるようになれば……」


そのために、俺が持つ知識――前世で当たり前だった技術や考え方――と、この世界で得た魔法の力を、もっと積極的に活用する時が来たのだと、俺は決意を固めていた。



◇◇◇



俺がまず着目したのは、建築技術だった。エルム村の家々は、基本的に土壁と木材、そして草葺きの屋根で作られている。素朴で自然と調和した美しい景観だが、ゴブリンの襲撃であっけなく破壊されたように、耐久性や気密性には大きな問題を抱えていた。冬の寒さや夏の暑さも、直接的に住民の体力を奪う。


「ゴードンさん、相談があります」


俺は村唯一の鍛冶師であり、優れた技術者でもあるドワーフのゴードンさんの元を訪れた。彼は防壁建設や俺の【魔鉄の剣】製作を通じて、今や俺のアイデアを形にしてくれる頼れるパートナーだ。


「また何か妙なことを思いついたか、レンの小僧」


炉の前で汗を流しながら、ゴードンさんは相変わらずの仏頂面で尋ねる。


「ええ。村の家をもっと良くしたいんです。今の土と木の家よりも、もっと頑丈で、火にも強くて、それに……できれば早く建てられるような方法はないかと」


「ふむ……確かに、今回の戦いで半壊した家は多い。それに、冬が来る前に建て直さねばならんからのう。だが、頑丈で早く、となると……石造りにでもするか? あれは手間がかかるぞ」


「石造りも良いですが、もっと効率的な方法があるかもしれません。例えば、レンガを使うのはどうでしょう?」


「レンガ? ああ、粘土を焼いて固めた石のことか。確かに頑丈じゃが、あれを作るのは骨が折れるぞ。良質な粘土を探し、一つ一つ形を整え、均一に焼き上げる……窯も必要じゃし、燃料も馬鹿にならん」


ゴードンさんの言う通り、通常の方法ではレンガの大量生産は難しいだろう。だが、俺には魔法がある。


「そこを、俺の魔法で解決できないかと。土魔法で粘土を正確な形に大量に成形し、火魔法で短時間で高温焼成するんです。俺の魔法なら、村中の家を建て直すくらいのレンガは、それほど時間をかけずに作れるはずです」


俺がそう説明すると、ゴードンさんは驚いたようにハンマーを置いた。


「魔法でレンガを量産じゃと……? それも、お前さん一人でか? ……ふむ、確かに、お前さんの馬鹿げた魔力量と、妙に器用な魔法の使い方なら、あるいは……」


彼は顎髭を捻り、真剣な表情で考え込む。


「さらに、そのレンガを積み上げるための接着剤も改良したいんです。今の漆喰や土壁では強度が足りない。石灰や砂に、何か……例えば、魔力を帯びた鉱石の粉末などを混ぜ込むことで、もっと早く、もっと強く固まる『魔法のモルタル』のようなものを作れないでしょうか?」


俺は、前世のモルタルやコンクリートのイメージを伝えつつ、鑑定スキルで目星をつけていた素材について話した。


「魔法仕込みのモルタル?……モルタルはよくわからんが、なるほど、面白い! 火山灰の一種や、特定の魔石の粉末には、マナと反応して急速硬化する性質を持つものがあるという話は、ドワーフの古い伝承にもあったわい。配合次第では、鉄のように固い壁が作れるやもしれん! よし、小僧、そのアイデア、乗った! ワシの長年の知識と経験、そしてお前さんの魔法と知識、合わせて最高の建材を作り出してやろうじゃないか!」


ゴードンさんの職人魂に、完全に火がついた瞬間だった。その目は、まるで新しいおもちゃを見つけた子供のようにキラキラと輝いていた。


それから数日間、俺とゴードンさんは、文字通り寝食を忘れて新しい建材の開発に没頭した。


俺はまず、魔力レンガの量産に取り組んだ。土魔法を使い、村の近くで見つけた質の良い粘土層から、必要な量の粘土を効率的に採取する。そして、魔力を込めて精密に操作し、均一な大きさ・形状のレンガの原型を次々と作り出していく。まるで自動化された工場のラインのように、レンガの原型がみるみるうちに積み上がっていく光景に、手伝いに来ていたカイルやボルグたちは「これが魔法か……」「レン、お前、本当に何者なんだ……」と呆気にとられていた。


次に、成形されたレンガを並べ、火魔法で焼き上げる。魔力が上がったお陰で、俺は、レンガ全体が均一に、かつ最適な温度で焼き上がるように、流れを調整するのが楽になっていた。焼きムラが出ないように、温度分布や内部構造の変化に気を付けながら、数時間の焼成の後、赤褐色のがっしりとした、通常のレンガよりも明らかに硬度が高く、微かに魔力を帯びて熱を保持する「魔力レンガ」が完成した。これなら、十分な強度と耐火性が期待できる。


一方、ゴードンさんは魔法モルタルの開発を担当した。石灰石、火山灰系の鉱石、そして低品質ながらも魔力反応のあった魔石の粉末、さらに川砂などを、様々な比率で配合し、その強度と硬化速度をテストしていく。


「この火山灰は、マナとの反応が良いが、硬化後の強度が少し足りんな」

「こちらの魔石の粉末は、硬化速度を上げるが、混ぜすぎると脆くなる……」

「配合比率は……ふむ、石灰3、砂6、火山灰1……いや、魔石粉末を少量加えるなら……」


ゴードンさんは、ドワーフならではの経験と知識、そして職人の勘を頼りに、最適な配合を追求していく。俺も、彼の指示に従って少量の魔力を練り込む工程を手伝いながら、各試作品の組成や硬化プロセスを分析し、フィードバックを提供した。


そして、数十回の試作を経て、ついに理想的な魔法モルタルが完成した。それは、水を加えて練ると滑らかなペースト状になり、レンガや石材に塗布すると数分で硬化を開始、半日も経てば石のように固く、かつ高い接着強度を発揮するという、まさに画期的な建材だった。


「できたぞ、小僧! これぞワシと魔法の合作、『ゴードン印の魔法モルタル』じゃ!」


ゴードンさんは、完成したモルタルを手に、満足げに胸を張った。その顔には、久しく見なかったほどの満面の笑みが浮かんでいた。



◇◇◇



新たな建材、レンガと魔法モルタル。その性能を村人たちに示すため、そして何より、ゴブリンの襲撃で家を失った家族のために、俺たちはモデルハウス…住宅の見本の建設を開始した。最初の家は、弟のティムが重傷を負い、自身もレンに救われたボルグの一家のために建てることになった。


建設作業は、村人たちの注目の中で進められた。まず、俺が土魔法で正確かつ迅速に基礎工事を行う。地面を掘削し、砕石を敷き詰め、魔法モルタルで固める。その上に、魔力レンガを一段ずつ、魔法モルタルで接着しながら積み上げていく。


「おお……! レンガが、まるで勝手に積み上がっていくようだ!」


「レンガも魔法モルタルでしっかり固定されているぞ!」


村人たちは、その建設スピードと、魔法による精密な作業に驚嘆の声を上げた。ゴードンさんも、自ら開発に関わった魔法モルタルの性能に満足げに頷いている。カイルやボルグたち若者も、レンガ運びやモルタル練りなどの力仕事で積極的に協力してくれた。


壁が立ち上がると、俺はさらに前世の知識を活かした工夫を凝らした。


「壁は二重構造にして、間にこれを詰めよう。断熱効果が高まって、冬は暖かく、夏は涼しくなるはずだ」


俺が指示したのは、アリシアが森で見つけてきた、乾燥させると綿毛のように軽くなる特殊な苔と、藁を混ぜたものだった。これを壁の間に充填することで、簡易的ながらも効果的な断熱層を作り出す。


「それから、ここには換気用の窓をつけよう。高い位置と低い位置に二つ設ければ、自然に空気が循環して、家の中の空気が淀むのを防げる」


計算された位置に換気口を開ける。これも、気密性の高いレンガ造りの家では重要な要素だ。


そして、最大の問題であった「窓」。これまでの家は、光を取り入れるための窓がほとんどなく、昼間でも薄暗かった。


「レン、これ、どうかな?」


俺が窓材について悩んでいると、アリシアがキラキラと光る半透明の薄い板のようなものを数枚、大事そうに抱えてやってきた。


「これは?」


「森で狩った、大きなカブトムシみたいな魔物の羽なんだ。すごく硬いんだけど、光はよく通すみたいで……。薬にはならないから捨ててたんだけど、レンが窓材を探してるって聞いたから、もしかしたらと思って」


俺は早速、手にとって調べてみる。

それは非常に硬質でありながら、高い光透過性を持っていた。研磨・薄化処理を施せば、高品質な窓材やレンズとして利用できる可能性があると理解した。


「……! アリシア、すごい発見だ! これなら、採光窓になるかもしれない!」


俺たちはすぐにゴードンさんに相談した。


「硬質光翅とな? 確かに硬いが……」


ゴードンさんは唸りながらも、加工を引き受けてくれた。


数日後、ゴードンさんの手によって、硬質光翅は見事に薄く、滑らかに磨き上げられ、木枠にはめ込まれたエルム村初の「ガラス窓」(のようなもの)が完成した! それをモデルハウスに取り付けると、室内に柔らかな自然光がたっぷりと差し込み、部屋全体が明るく開放的な雰囲気に包まれた。


「明るい……! こんなに明るい家は初めてだ!」


「それに、レンガの壁のおかげか、外の風も全然入ってこないし、暖かい!」


完成したモデルハウスに入ったボルグ一家は、その頑丈さと快適さ、そして明るさに感涙にむせんでいた。他の村人たちも、口々に称賛の声を上げる。


「レン、ありがとう! これで安心して暮らせる!」


「次は、うちの家もぜひ頼む!」


新建築法は、エルム村の未来を明るく照らす希望の光となった。家屋の再建は急速に進み、村の景観は、以前の素朴な雰囲気から、より堅牢で機能的なものへと変わり始めていた。



◇◇◇



建築技術の革新は、当然ながら防衛設備の強化にも応用された。家屋再建と並行して、俺たちは損傷した防壁の修復と、それを遥かに凌駕する強化工事にも着手した。


「防壁も、このレンガと魔法モルタルで固めよう。特に正門周りは、石材も組み合わせて徹底的に強化する。ゴブリン・ジェネラルの攻撃にも耐えられるくらいに」


俺の指示の下、村人総出で防壁の石壁化工事が始まった。土塁の外周部が厚いレンガと、近くの岩場から切り出してきた石材(これも土魔法で運搬・加工)で覆われ、魔法モルタルで隙間なく塗り固められていく。その作業スピードと完成後の堅牢さは、もはや以前の防壁とは比較にならない。俺の豊富な魔力が、この大規模工事を可能にしていた。


さらに、防壁の上には、石造りの頑丈な見張り小屋が等間隔に設置され、内部にはバリスタや投石機を操作する兵士を守るための射撃用の狭間が多数設けられた。これにより、防壁上での戦闘における安全性と迎撃能力は飛躍的に向上した。


ゴードンさんは、バリスタと投石機の改良と増産にも尽力した。特に投石機は、ドワーフの技術の粋を集め、より少ない力で、より遠くまで、より正確に投射できるよう改良が加えられた。連射機構の試作も進められている。


そして、俺とカイルは、夜になると地図を広げ、新しい防衛戦術の構築に頭を悩ませていた。


「敵がここから来た場合、まず投石機で先制し、堀の手前でバリスタの集中射撃。壁に取り付いたら、狭間からの射撃と、ここから魔力爆弾を投下する」


「いや、レン。敵にジェネラルがいることを想定するなら、兵器だけに頼るのは危険だ。俺たちが前に出て、敵の主力を引きつけ、その隙に後方から弱点を突く方がいい」


「だが、ジェネラル級相手に正面からぶつかるのはリスクが高すぎる。俺の魔法で攪乱し、アリシアの支援を受けながら、ヒットアンドアウェイで削っていくべきでは?」


俺の戦略と、カイルの実戦経験。それらを組み合わせ、議論を重ねることで、エルム村独自の、そしておそらくは非常に強力な防衛システムが形作られていった。強化された石壁、改良された新兵器、そして、俺たち三人の連携を核とした迎撃戦術。エルム村は、まさに簡易的な要塞へと変貌を遂げようとしていた。



◇◇◇



村の発展と防衛強化が進む一方で、俺たち三人は、この手の甲の紋章の力に関する調査と訓練も、秘密裏に続けていた。この力の正体を知り、制御することこそが、村の、そして俺たち自身の未来を守る鍵だと確信していたからだ。


俺たちは、村はずれの森の奥で、互いの力を試し、連携を探る訓練を重ねた。


俺は、力の制御に集中した。手の甲の紋章が出てからというもの、カイルとアリシアとの精神的なリンクがあることがわかり、魔力により戦闘時に互いの動きや考えを察知することができることがわかった。


彼らの存在を感じながら、俺は意識的に力を引き出し、様々な形に変換する練習を繰り返した。炎の奔流だけでなく、圧縮したエネルギー弾、防御的な力場、あるいは身体能力の瞬間的な超強化……。まだ完全ではないが、力の多様な側面と、その制御の糸口が見え始めていた。


そして、魔法の発動においても大きな進歩があった。アリシアから教わった理論と、精密になった魔力操作の鍛錬により、無詠唱での魔法発動を完全にマスターしたのだ。術式イメージさえ確立されていれば、詠唱というプロセスを省略し、思考とほぼ同時に魔法を発動できる。これにより、戦闘における対応速度と柔軟性は飛躍的に向上した。


「レン、すごい! もう詠唱なしでいろんな魔法を使えるようになったんだ!」


「ああ。アリシアのおかげだ。それに、アリシアとカイルとの繋がりが、俺の魔力制御を助けてくれている気がする」


カイルも、大きくなった魔力を着実に自分のものにしていた。魔力を用いた常時能力向上により、短時間ならジェネラルを超えるほどのパワーを発揮できた。訓練では、俺の指示に合わせて盾に魔力を纏わせる盾術も、より安定して発動できるようになっていた。


放出系の攻撃魔法は相変わらず苦手だが、「レンやアリシアから力が流れ込んでくる感覚には慣れた。悪くない」と、まんざらでもない様子だ。


アリシアの成長も目覚ましかった。魔力が大幅に上昇したことで、彼女の持つ光魔法と回復魔法の才能は完全に開花し、その効果は高まっていた。俺の状態を常に把握し、的確なサポートをしてくれる。さらに、弓術にも光の力を乗せた破魔の矢は、魔物に対して絶大な浄化効果を発揮し、新たな攻撃手段となっていた。


俺たちは、互いを高め合いながら、未知の力への理解を深めていった。



◇◇◇



夕暮れ時。俺は、カイル、アリシアと共に、新しくなった防壁の、一番高い見張り小屋の上に立っていた。眼下には、レンガ造りの家々から温かい夕食の匂いが漂い、子供たちの元気な声が響く、活気を取り戻しつつあるエルム村の姿が広がっている。


「……本当に、すごい速さで村が復興したな」


カイルが、夕日に照らされる村を見下ろし、感慨深げに呟いた。


「うん。レンが来てくれたおかげだよ」


アリシアが、隣で微笑む。


「いや……俺一人の力じゃない。カイルがいて、アリシアがいて、ゴードンさんやヘクターさん、村の皆が力を貸してくれたからだ」


俺は首を振る。それは紛れもない事実だった。


「だが、まだ終わりじゃない。やるべきことは、まだたくさんある」


俺の視線は、夕闇に染まりゆく北東の森の奥深くへと向けられていた。資源の問題、他の集落との関係、そして何よりも、まだ見ぬ敵の影。


「ああ。どんな奴らが来ようと、俺たちがこの村を守る」


「うん。私たち三人なら、きっと大丈夫」


カイルとアリシアも、同じ方向を見据え、力強く頷く。


俺たちは、互いの手の甲に意識を向けた。そこに宿る、龍の紋章と絆。この力が、希望となるか、あるいは更なる厄災を招くのか、まだ分からない。


だが、俺たちは進むしかない。仲間と共に、この村の未来を、そして自分たちの運命を切り拓くために。


森の闇は、今日もまた、深く静かに広がっていた。


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