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転生龍覚者と導きの紋章 〜始原の森から始まる英雄譚〜  作者: シェルフィールド
3章

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第105話:金色の雷

「――龍覚者以外は、皆殺しにせよ!!」


“鉄壁”のギデオンが振り下ろした鉄篭手ガントレットの合図と、その非情な号令が、黒鉄鉱山の広大な大空洞に響き渡った。


その瞬間、俺たち九人を包囲していた千人規模の帝国軍本隊が、一斉に殺意を解き放った。


「放てぇ!」


「殲滅せよ!」


四方八方の回廊から、帝国兵による矢と魔法が、文字通り「雨」となって降り注ぐ。


ヒュンヒュンと空気を切り裂く無数の矢、属性もまばらな魔力の奔流が、俺たち後衛組めがけて殺到した。戦場の混乱、怒号、悲鳴が、一瞬にして俺たちの鼓膜を突き破る。


「円陣を組め! 後衛を守り切れ!」


帝国兵の攻撃が俺たちに届くよりも早く、セレスティーナの鋼のような号令が響いた。 カイル、イリス、セレスティーナ。エルム公国とドラグニア抵抗軍が誇る最強の前衛三人が、俺たち後衛組(俺、アリシア、ティアーナ、オリヴィア、フィーナ)を守るために、即座に死の雨の中へと飛び出した。


「うおおおおっ!」


カイルが先陣を切り、龍脈鉱で強化されたゴードンさん特製の盾を構える。降り注ぐ矢の雨が、彼の盾に当たっては火花のように弾け飛んでいく。


「させません!」


「無駄だ!」


イリスとセレスティーナも、カイルの両翼を固める。二人の神速の剣技が閃き、迫り来る魔法の弾丸を、まるで紙切れのように次々と切り払っていく。三者三様の超人的な防御が、絶望的な物量の前に、かろうじて俺たちの命を繋ぎとめていた。


「カイル! イリスさん! セレスティーナ総長! 回復します! 【ハイ・ヒール】!」


アリシアが、手の甲の紋章を輝かせながら、前衛三人の消耗を癒すために回復魔法を飛ばし続ける。


「【ウォール・オブ・ストリーム】!」


ティアーナも、防御の隙間をカバーするように水の障壁を展開する。だが、敵の攻撃はあまりにも執拗で、水の壁は瞬く間に蒸発と凍結を繰り返していた。 俺も魔鉄の剣を抜き、応戦する。 「【フレイムランス】!」 無詠唱で放った炎の槍が、回廊の弓兵の一人を焼き払う。だが、すぐに別の兵士がその場を埋め、再び矢が放たれる。


「くそっ……! キリがねえ!」


カイルが吐き捨てる。 俺も、この異常事態に気づいていた。


魔力妨害ジャミング結界」の影響だ。俺やティアーナの放つ魔法の威力が、明らかに減衰している。普段なら数人をまとめて吹き飛ばせるはずのフレイムランスが、兵士一人を倒すのがやっとだ。 敵の攻撃は無限に続くように感じられた。前衛三人の体力と魔力だけが一方的に削られていく。


完全な「ジリ貧」だった。



◇◇◇



レンたちが予想以上に粘るのを見て、玉座の傍らに立つカジミール卿が、冷静にギデオンに進言した。


「ギデオン将軍。時間をかけすぎるのは得策ではありません。あの龍覚者レンの力は未知数。持久戦となる前に、将軍自らが、あの厄介な護衛を排除すべきかと」


「……手間をかけさせる」


ギデオンは短く舌打ちすると、ついにその巨体を玉座から起こした。


ズシン……。


ただ一歩、彼が戦場へと歩を進めた。 その瞬間、あれほど騒然としていた戦場の空気が、凍りついた。


帝国兵たちの攻撃が、まるで合図でもあったかのようにピタリと止む。混乱した叫び声も、魔法の詠唱も、全てが消え失せた。戦場を支配していたのは、ただ一つの、絶対的な威圧感。 “鉄壁”のギデオンが放つ、死そのもののようなオーラだった。


「ひっ……」


フィーナが、俺のローブの後ろで小さく悲鳴を上げる。


なんだ、こいつは……。


魔物とは比較にならない。ゼノンとも違う。存在そのものが、暴力の塊だ。 ギデオンは、ゆっくりと俺たちを見据えた。その視線は、まず俺を守る三人の騎士――カイル、イリス、セレスティーナ――を、まるで邪魔な石ころでも見るかのように一瞥した。


戦場は、一瞬にして水を打ったような静寂に包まれた。その異常な緊迫感に、俺たちは息を呑む。 ギデオンが、その紫黒の重厚な鎧を軋ませながら、ゆっくりと歩を進める。


「小僧どもめ……! 先日はまんまと出し抜いてくれたが、それもここまでだ。この『鉄壁』のギデオン自らが、貴様らに本物の絶望をくれてやる!」


その言葉と共に、ギデオンは背負っていた巨大な両手剣を音もなく抜き放った。


ズン、と空気が重くなる。 剣身は闇よりも深く、その表面には禍々しい紫色のオーラが、まるで生きているかのように脈打っている。


剣が抜き放たれた瞬間、ギデオンの魔力が、俺たち龍覚者や共鳴者にも匹敵するほど爆発的に膨れ上がった。


「うっ……!」


「きゃっ……!」


剣が放つ邪悪なオーラだけで、魔力に敏感なアリシアとフィーナが強烈な魔力酔いを起こし、顔を青ざめさせてその場に膝をついた。


俺が慌てて二人を支えようとした。


「はっはっは!」


ギデオンが、その光景を見て、腹の底から笑った。


「無理もない! 貴様らは、この剣のオーラに触れただけで毒されるわ!」


彼は、その魔剣を愛おしげに掲げ、嘲笑と共にその名を告げた。


「この剣はな、貴様らの同胞、ドラグニアの民数千の魂を非道な実験で啜り、鍛え上げられた逸品よ! その名は、魔剣『ソウルイーター』! 貴様らの仲間を斬るには、相応しいだろう!」


「なっ……!」


「貴様、何を……!」


「許さんぞ、外道めが!」


その言葉は、セレスティーナ、イリス、オリヴィアが、激しい怒りを露わにした。



◇◇◇



「貴様ぁあああっ!」


怒りに燃えるセレスティーナとイリスが、疲弊した体に鞭打ってギデオンに斬りかかった。ドラグニア最強の騎士二人による、渾身の同時攻撃。


だが、ギデオンは、その神速の斬撃を、ソウルイーターで「遅い」とばかりに軽くいなした。 カキンッ! 剣と魔剣が触れた瞬間、セレスティーナとイリスの愛剣が、まるで魔力を吸われたかのように輝きを失い、ボロボロに錆び落ちて崩れ去った。


「なっ……!?」


「愛剣が……!」


二人が武器を失い、驚愕に動きを止めた、その一瞬。


「セレスティーナたちから離れやがれ!」


カイルが、仲間を守るために最後の力を振り絞り、渾身の【シールドバッシュ】を放った。


ギデオンは、その突進をソウルイーターの剣身で正面から受け止めた。


ゴォォォンッ!


凄まじい衝撃音と火花が散る。


「ほう、ただの雑兵とは格が違うようだな、だが!」


ギデオンが魔力を解放すると、ソウルイーターの紫のオーラが、まるで獲物を見つけた獣のように爆発的に膨れ上がった。


「魔剣の前では無意味だ!」


バキィィィィィン!! カイルの龍脈鉱の盾が、魔剣の圧倒的な力の前に耐えきれず、大きな亀裂が走った。


「ぐっ……おおおおっ!?」


最強の前衛三人が、武器を失い、盾を破壊され、ギデオンが最後に放った剣圧だけで壁際まで吹き飛ばされ、瓦礫の中に崩れ落ちた。



◇◇◇



俺たち後衛組――俺、アリシア、ティアーナ、フィーナ、オリヴィア――が、ギデオンの前に無防備に剥き出しになる。


「さて、龍覚者よ」


ギデオンが、ゆっくりと俺に向かって歩み寄る。


その一歩一歩が、俺たちの命の終わりを告げているかのようだ。


「その力を陛下に献上してもらおうぞ」


ギデオンが、ソウルイーターを振り上げる。


俺も最後の力を振り絞り、右手甲の龍の紋章を輝かせ、龍の力を解放しようとする。だが、ソウルイーターの邪気とジャミング結界の影響で、力がうまく制御できない。魔力が体内で暴走しかけている!


「レン、私が力を抑える!」


フィーナが俺の背中に必死に触れ、彼女の「調律」の力でかろうじて暴走だけは防いでくれている。だが、最大火力は到底出せない。


絶体絶命。ギデオンの魔剣が、抵抗できない俺に向かって、無慈悲に振り下ろされようとした、その瞬間。 これまで恐怖と絶望に震えているだけだったオリヴィアが、傷ついた俺とフィーナを守るように、その前に立ちはだかった。


「やめなさいッ!!」


オリヴィアの魂からの叫びが、大空洞全体に響き渡った。


「わたくしの民を、仲間を、これ以上傷つけることは許しません!」


その叫びに呼応するかのように。 彼女の体が、戦場の邪気を吹き飛ばすほどの、眩い「金色の雷光」に包まれ始めた。


絶望的な状況下で、これまで恐怖に震えているだけだった彼女が、俺とフィーナを守るように立ちはだかっている。


「小娘が、まず貴様から魂を啜ってくれるわ!」


“鉄壁”のギデオンは、オリヴィアの無謀な抵抗を嘲笑し、その動作を一切止めない。禍々しい紫色のオーラを纏った魔剣が、無慈悲に振り下ろされる。


「オリヴィア、危ない!」


俺は最後の力を振り絞って叫んだ。だが、龍の力の暴走をフィーナに抑えてもらっている今、俺は動けない。


その瞬間だった。


ドクンッ! 俺の右手甲に宿る龍の紋章が、灼けるような熱を発した。それは、オリヴィアの魂からの叫びに激しく「共鳴」するかのようだった。


「――っ!」


オリヴィアの体が、戦場の邪気を吹き飛ばすほどの、眩いばかりの光に包まれた。


「なっ……!?」


ギデオンの動きが、初めて戸惑いの色を見せて止まる。


オリヴィアの手の甲に、新たな紋様が鮮やかに輝き出した。それは、俺たちと同じ、龍の紋章。だが、その色は灼熱の赤でも、清冽な青でもない。気高く、そして全てを貫くかのような「金色」だった。


「これは……!」


彼女の全身から、これまでの王女としての魔力とは比較にならない、膨大な「雷」の魔力が金色のオーラとなって溢れ出す。バチバチと空間が軋むほどの魔力の奔流。


(嘘だろ……オリヴィア、君も……!)


俺は驚愕と共に直感した。彼女こそが、龍覚者の血を引く末裔。カイル、アリシア、ティアーナに続く、第四の「共鳴者」として、今、覚醒したのだ。



◇◇◇



ギデオンの魔剣『ソウルイーター』が、オリヴィアから無意識に放たれる金色の雷の障壁オーラに激突する。 凄まじい轟音と衝撃波が、大空洞全体を揺るがした。


「――ッ!!」


ソウルイーターが放つ禍々しい紫色のオーラと、オリヴィアの聖なる雷光が激しくぶつかり合い、空間が軋むほどの火花を散らす。だが、拮抗は一瞬だった。 魔剣が啜ってきた数千の魂の怨嗟が、オリヴィアの金色の雷に触れた瞬間、まるで闇が光に焼かれるかのように、「浄化」され、霧散していく!


「なっ……!」


ギデオンが、予想外の事態に驚愕の声を上げた。魔剣の力が、弾き返されている。 彼は、魔剣の一撃を咄嗟に中断し、数歩後退した。


「雷だと!? 馬鹿な!?」 ギデオンの兜の奥で、その目が初めて焦りの色に見開かれる。


オリヴィアは、自らの身に宿った未知の力に戸惑いながらも、レンを守るために一歩も引かなかった。彼女はギデオンを真っ直ぐに見据え、王女としての気高さを取り戻し、宣言する。


「わたくしはもう、守られるだけではない! 民と共に、仲間と共に戦う!」


オリヴィアから放たれる金色の聖なる波動は、障壁となってギデオンを阻むだけではなかった。その光の余波が、魔剣の邪気によって魔力酔いを起こし、うずくまっていたアリシアとフィーナに流れ込む。


「あ……っ。体が……楽に……」


「レン、フィーナ、元気になった!」


二人の呪縛が解き放たれ、顔に血の気が戻る。


さらに、その覚醒の奔流は、壁際で倒れていたカイル、イリス、セレスティーナにも流れ込んだ。


「ぐっ……! なんだ、この力は……!」


カイルが、呻き声と共に身を起こす。アリシアの「回復」とは違う。体の奥底から闘志を強制的に燃え上がらせ、細胞を活性化させるような、荒々しくも力強い感覚だった。


「体が……動く!」


「姫様……そのお姿は……!」


イリスとセレスティーナもまた、満身創痍ながらも、予備の短剣や折れた剣の残骸を手に、再び立ち上がった。


ギデオンは、一時的に後退したものの、戦局が覆ったことを即座に理解した。彼は再びソウルイーターを構え直し、その口元に不敵な笑みを浮かべた。


「面白い。龍覚者に加え、雷の共鳴者か。二匹まとめて陛下に献上してくれよう!」


レン、カイル、アリシア、ティアーナ、オリヴィア、イリス、セレスティーナ。そしてフィーナ。 絶望的な包囲網の中、俺たち全員が、ギデオンと対峙する。



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