第9話
俺は絢斗先輩の姿が見えなくなってから、ため息をついた。
何だよあの小物感満載な去り方は。
まぁーあんなに粋ってたし、そんなもんか。
音瀬が居たからあれで済ませたけど、あんなんじゃ俺のイライラはおさまらない。
やっぱり、もうちょっとやっとけば良かったか?
俺が必死にイライラをおさめていると「朝陽君、大丈夫?」と音瀬が心配そうに後ろから声をかけてきた。
俺が振り返ると音瀬はシュンとしていて「ごめんね、巻き込んじゃって……」と今にも泣き出しそうな目で俺を見上げていた。
「いや、べつに……俺もムカついたというか……」
「ほんと……ごめん……」
「もしかしてさ、絢斗先輩って元彼だったりする?」
「え?」
「あ、いや、絢斗って呼び捨てにしてたからそうなのかと思って」
「……もう1年前ぐらいの話だよ」
やっぱりそうか……なら、アイツが言ってた事もあながち嘘じゃないのか。
「でさ、アイツが言ってた『遊び』とか『おもちゃ』って何の事?」
俺は苛立ちを抑えながらなるべく優しく聞いた。
音瀬はそれを聞いて気まずそうに俺から視線を逸らした。
なんだよ、それ……。
「そのまんま……って意味か?」
「……最初はそのつもりだった。でも、今は違う!」
必死な様子で音瀬は訴えかけてくるが、俺の耳にはもう音瀬の言葉は入ってこなかった。
「最初はって……おかしいと思ってたよ。喋った事もないのに『エッチしよ』とか、いきなりキスしてきたり」
「それは……」
「それがお前の常套手段なんだろ? 人の感情 弄んで楽しんでたんだろ?」
「楽しんではない!」
「じゃー何でこんな事してんだよ! 楽しんでいる以外理由なんてないだろ! こんな事してて、恋愛小説みたいな恋なんて出来るわけねーだろ!」
「だから出来ないって言った! 楽しんでる訳じゃないけど、理由は言えない!」
音瀬は涙を堪えながら、必死の形相で俺を見て言った。
それでも苛立った俺の心には響かない。
ただの言い訳に聞こえた。
「何だよそれ……はぁー、馬鹿らしすぎる。俺言ったよな? 揶揄うなら他の人にしてくれって!!」
語気を荒げて言う俺に音瀬は「ごめん……なさい……」と泣きながら謝ってきた。
やっとまた本気で女性を好きになれたと思ったのに、遊ばれていただけなんて……気付かなかった自分が恥ずかしい。
あれだけ警戒していたのに、俺がチョロすぎたせいで……馬鹿だなぁ。
久しぶりの恋に舞い上がってしまった俺は、本当に馬鹿だ。
悔しくて、情けなくて、この気持ちの行き場は怒りしかなかった。
泣きながら謝られたところで、今は到底許せそうにない。
「もういいから、俺の前から消えてくれ!」
俺が怒り任せにそう言うと「本当にごめん……でもさっきのキスは本気だったよ。それだけは嘘じゃない」と俺の目をしっかり見ながら音瀬は言ってきた。
それだけ言うと音瀬は鞄を拾い上げ、俺に背を向けたまま「バイバイ」と言って走って帰って行った。
俺はその場に座りこみ、項垂れた。
ほんと何なんだよ。
俺の事を弄んでたくせに、さっきのキスは本気とか言ったり……音瀬の考えている事がまったく分からない。
やっぱり女と関わると碌な事がない。
俺は力任せに近くの壁を殴った。
コンクリートの壁は硬く、俺が殴ったところでびくともしないが、頭は少しスッキリした気がした。
「俺も戻るか……」
そう言って立ち上がると、俺は図書室へと戻った。
今回は短くてすみません。
完成されてた所だけ先に更新しました。




