第46話 雅side 崩壊
朝陽君が信じてくれた。
その事実だけで、まだ生きられる。
まだ、笑っていられる。
放課後になり、さすがに日焼け止めぐらいは塗って帰ろうとトイレに寄った。
トイレで日焼け止めを塗ってから、校門に向かうと少し人だかりが出来ていた。
何だろう? と思って見てみると、そこに朝陽君がいた。
そして、朝陽君の前には他校の女の子が居た。
その女の子は私とは真逆の清楚で綺麗な子だった。
朝陽君を見るその子の目を見て分かってしまった。
いや……やだ。
取らないで。
私の祈りも虚しく、その子は言った。
「ずっとずっと藤真君が好きだったから!」
ズキンと胸の奥が痛んだ。
「他の人なんて好きになれなかった!」
顔を真っ赤にして、必死に告白する姿がとても可愛いと思った。
私なんかより、朝陽君とお似合いだ。
そう思ってしまった。
私じゃ……あの子に勝てない……。
朝陽君が何と言ったのかは、聞こえなかった。
あの恋愛小説のヒロインに少し似ているあの子。
そんな可愛い子に告白されて断るなんてありえない。
付き合うのかな……?
付き合うよね。
だって、私は朝陽君の告白を断ってるんだから……。
そして、朝陽君と女の子は2人でどこかへ行ってしまった。
私は2人が見えなくなるまで、目で追いかけ続けた。
次の日、昨日から重く感じる体で登校した。
教室の近くまで来ると、賑やかな声が聞こえてくる。
「おい、余計な事言うなよ!」
「……ほらね、こうなるんだ。さようなら、俺の青春……」
「はぁー。何が『さよなら、俺の青春』なんだよ。お前の青春はこれからも続く!」
「いや! 続かない! 悪夢の再来だ!」
朝陽君と早瀬君が教室の前で何やら言い合いをしていた。
あれ? 朝陽君、髪切った?
いつもは隠れている顔が、今日はよく見えた。
朝陽君の顔、私しか知らなかったのに……。
何だか胸の辺りがモヤモヤした。
そして、私が教室に入ると佐藤君が来て言った。
「あ、そうか! 藤真、彼女出来たんだろ? それでか!」
朝陽君、彼女できたんだ……。
そっか……そっかぁ……。
私がその場に立ち尽くしていると、誰かが私に気付いたのか、教室が一瞬シンと静まりかえった。
朝陽君がこっちを見ていた。
おめでとうとか言った方がいいのかもしれない。
でも……そんな事言いたくない。
私は無難に「おはよう、藤真君」と言って、足早に席に着いた。
彼女がいる人を、もう気軽に名前で呼んじゃいけない。
……いやだ。
いやだ、いやだ、いやだ!
彼女なんて作らないで!
そう、素直に言えたらいいのに……。
授業の準備をしようと持っていた教科書を握り締めた。
自分勝手だって思うけど、朝陽君に彼女が出来たら、私……独りになっちゃう。
いつ終わるかも分からない、この現実。
独りで耐えるなんて……もう無理。
私には朝陽君しかいないのに……。
その時、コンコンと机を叩かれた。
上を見上げれば、あいつが居た。
「何?」
「何、じゃないわよ。藤真君どうしちゃったの?」
「何が?」
「とぼけないでよ。 藤真君の顔よ」
私は「フッ」と吹き出した。
「何笑ってんのよ」
「別に……」
「ちょっと人がいない所で話しましょ」
「いいですよ。私も丁度ここに居たくなかったので」
私はそいつの後ろについて、廊下に出た。
廊下の端にまで来ると、そいつは振り返って言った。
「あんた知ってたの? 藤真君があんなにイケメンだって!」
私はその言葉を聞いて、声を出して笑った。
「やっぱりあんた知ってたんだ。ただのダッサイ陰キャだと思ってたら、何アレ? ビジュ強すぎでしょ!あんなかっこいい人……見た事ない……」
「だから言ったじゃん。朝陽君は中身も外見もかっこいいよって」
私は更に笑う。
「あんなにだとは思わないじゃん……」
「で? 朝陽君なんて落とすの簡単なんでしょ? 早くやりなよ」
「あんなの無理に決まってるでしょ!」
「まっ、彼女出来たみたいだけどね……」
「はははっ、あんたも失恋してんじゃん! どう? 好きな人を奪われる気分は?」
「……幸せになってほしいと思ってるよ」
「その顔で? 嘘言わないで」
「……最悪に決まってんでしょ」
そいつはそれを聞いて、満足そうに笑った。
「あぁ、藤真君の彼女に感謝だわ。こいつにこんな顔をさせられるなんて! でもね、私はもっと最悪の気分だった」
「……っ」
「好きな人が幸せなら、諦められた。……でも、あんたはその人を傷つけたんだよ! 傷つけてポイッて、あんた何様のつもり!」
私は私の目的のためにやった。
でも、それで傷つく人がいるのも事実だ。
私はそれを見ないようにしていただけ。
事実だからこそ、何も言い返せない。
私は視線を逸らす事しか出来なかった。
「……こんな女のどこが良かったのよ。私なら……私なら、あんな顔させないのに!」
声が震えていた。
「……これで終わりじゃないから」
「え?」
私がそう聞き返したのに、そいつは答えなかった。
それ以上何も言わず、私に背を向けて行ってしまった。
「……ほんと、私って何様なんだろうね」
全部が自分勝手すぎて、笑える。
「……またあいつ、何かするつもりなのかな?」
でも、もう別にどうでもいい。
だって、学校に来る理由が無くなったから。
「ははっ、あいつのやる事無意味すぎてウケる」
私は笑いながら、職員室にゆっくり向かった。
担任に体調が悪いので帰ると伝え、早退届けを貰った。
そして、それを守衛さんに渡して門を開けてもらう。
門を出た後、私は一度振り返った。
これで最後だから……。
バイバイ。
朝陽君。
明日21時次話投稿します!




