表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CHERRY─彼女が狩人になった理由─  作者: 彩心
第二章 二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

45/52

第45話 生きて

 その時「カシャン」と音がした。


 「音瀬?」


 俺は名前を呼びながら音がした方へと向かう。


 音瀬は屋上のフェンスを掴みながら、下を見ていた。


 「音瀬!」


 俺は音瀬に駆け寄った。


 「朝陽君、なんで……」


 音瀬は何で俺がここに居るのか、驚いているようだった。


 「……お前に会いに来た」


 「え?」


 「あんなLIME送って来ておいて、メッセージも電話も無視すんなよな!」


 音瀬は気まずそうに視線をらした。


 「……ブロックしたから、知らない」


 「はぁ? ブロック? なんで?」


 「ふふっ、だってもう必要ないでしょ?」


 音瀬は笑いながら、またフェンス越しに下を見た。


 「……死ぬつもりだからか?」


 「そう……だってみんな私の事なんて必要ないでしょ?」


 「お前、本気でそれ言ってるのかよ?」


 「本気だよ。元々は誕生日に死ぬつもりだったけど、もういいかなぁーって思って」


 「は? お前やっぱり死ぬ準備してたんじゃねーか!」


 「あぁ、あの時ね。朝陽君に言われて正直焦っちゃった。でもね、もういいの。今日で終わるから」


 音瀬はフェンスに足をかけた。


 「おい!」


 俺は慌てて音瀬の背中に抱きついた。


 「放してよ!」


 「放さない! 放したら音瀬フェンス登るだろ!」


 「死なせてよ! もう限界なの! 楽になりたいの!」


 音瀬の背中が震える。


 「ふざけんなよ……」


 俺の声も震えていた。


 「勝手に終わらせんなよ!」


 「私の人生どうなろうが、私の勝手でしょ!」


 「俺は音瀬が好きだ! 好きなんだ!」


 音瀬に届くように、俺は必死に叫ぶ。


 「だから……死ぬなんて言うなよ!」


 「彼女居るくせに、何でそんな事が言えるの!」


 「彼女なんていない!」


 俺がそう言うと、フッと音瀬の体から力が抜けた。


 「え?」


 「俺に彼女なんていない!」


 「だって、あんなに可愛い子に告白されたら普通付き合うでしょ?」


 「見てたのかよ……」


 「うん……。私さ、今学校行くのしんどいんだよね」


 カシャンとフェンスが揺れた。


 「朝陽君だけが心の支えだったのに、彼女作って裏切り者だって勝手に思って……生きてる理由が無くなっちゃって……」


 音瀬は泣いているのか、段々と声が震える。


 「もう死ぬしかないって……思って。そしたら急に頭がクリアになって……」


 音瀬はフェンスから足を放すと地面に立った。


 音瀬は体を反転させると、俺の目を見てきた。


 「朝陽君が好き。最後にそれだけは言いたくなったの。まさか、来るなんて思わなかった……」


 俺は音瀬を抱きしめた。


 「俺『死んでもいい』なんて言わねぇ」


 「え? ちょ、朝陽君?」


 音瀬は驚いているのか、俺から離れようとする。


 でも放してやらない。


 俺は更にギュッと抱きしめた。


 「俺は音瀬の事好きだけど、それだけは言えない。一緒に生きて欲しい!」


 「何? 『月が綺麗ですね』の返事? 新しいの作らないでよ……バカ」


 音瀬は抵抗をやめて、俺の胸にすっぽりおさまった。


 大人しくなったと思ったその時だった。


 「……助けて」


 か細い声が聞こえた。


 「え?」


 音瀬が顔を上げると、その顔は涙でぐしゃぐしゃだった。


 「助けて……。もう、死ぬ以外どうしたらいいのか分からない……」


 言葉が途切れる。


 小さく息を吸う音がした。


 「死ぬなんて本当は……怖い」


 震える声だった。


 「本当は生きたい!」


 声が崩れる。

 

 「生きて……、生きて幸せになりたい!」


 音瀬は声を出して泣き崩れた。


 俺は、すぐに言葉が出なかった。


 ただ、優しく背中をポンポンと叩いた。


 震えが、少しずつ落ち着いていく。


 「……なぁ」


 やっと、声が出た。


 「俺じゃ、お前の生きる意味にならないか?」


 俺がそう言うと、音瀬はビクッと体を震わせた。

 

 返事はなかった。


 少しして、音瀬がぽつりと話し始めた。


 「絢斗達もクズだし、学校の奴らもクズ!」

 

 「まぁー、それは否定しないな」


 「それに、私もクズ……」


 「……そうかもな」


 「そう、クズなんだよ……」


 「でも、それでも好きだって言ってんだよ」


 「え?」


 音瀬は顔を上げた。


 「全部ひっくるめて雅が好きなんだよ」


 「こんな死にたがりの、面倒くさい所も?」


 「あぁ。焦るからやめてほしいけど……」


 「焦ったんだ」


 「めちゃくちゃ焦ったよ! なんだよほんと。あのLIMEが遺言とかシャレにならねーよ」


 「遺言のつもりだった……」


 「だよな。気付いて良かった」


 「私、朝陽君に気付いて欲しかったのかも……」


 「え?」


 「写真送ったのも、遺言送ったのも、中々飛ばなかったのも……。朝陽君が来るのを待ってたのかもしれない……」


 音瀬は涙を手で拭き取ると、笑った。


 いつもの笑顔じゃない、自然な顔で。


 その後、音瀬は俺に「チュッ」と軽めのキスをした。


 「え?」


 「朝陽君を生きる意味にしてもいいかな……?」


 「……そうしてくれ」


 今度は俺からキスをした。


 何度も何度も。


 音瀬が生きてる事を確かめるように。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ