第44話 遅い告白
「え?」
一瞬、俺の時が止まった。
これって……あれだよな?
有名な告白のセリフだよな?
「えっ!?」
ま、ま、ま、まさかな……。
ただ本当に月が綺麗で言ってる可能性も……。
俺はもう一度LIMEの画面を見る。
『月が綺麗ですね』
いや、これはもう確定だろ……。
分かってて書いてる。
音瀬なら『月が綺麗だよ』とか言うはずだ。
俺の心臓がバクバクとうるさい。
震える手で返信を打つ。
『死んでもいいわ』────
そこまで打って、手が止まった。
死んでも?
死?
『人間いつかは死ぬよ』
その言葉と同時に、屋上の写真がチラついた。
……まさか、な。
でも、何で突然こんな事を言い出すんだ?
今まで俺がどれだけ好きって言っても、ダメだったのに。
これじゃ、まるで遺言のようじゃないか……。
俺は打った文章を消して『今、どこにいる?』と送った。
既読が中々つかない。
痺れを切らした俺は電話をかけた。
だが呼び出し音が鳴り続けるだけで、やがて切れた。
俺はもう一度かける。
結果は同じだった。
焦りがどんどん募っていく。
なんで?
なんで既読もつかないし、電話も出ないんだよ!
告白したなら普通、返事が気になるだろ?
今までの違和感が、一本の線に繋がった気がした。
まさか……まさか、まさか!?
音瀬!
馬鹿な事考えてんじゃねーよ!
俺はスマホを握りしめたまま、家を飛び出した。
エレベーターを待っている間、音瀬の居場所が特定できないか写真を見返す。
何かないか?
焦っているからか、何も見つけられない。
「クソッ!!」
マンションを出ると「おい、朝陽!」と声をかけられた。
こんな時に誰だよと思って顔を上げると、要が居た。
「丁度良かった! 見ろ! ついにバイク買っちゃいました!」
嬉しそうに要はバイクを俺に披露するが、今はそれどころじゃない。
「ごめん、要。また今度話聞くよ。今急いでるんだ」
「急いでるなら、尚更俺じゃね?」
「は?」
「2人乗り出来るけど?」
そう言って、要はニヤリと笑った。
「要……頼めるか?」
「当たり前だろ。それに元々朝陽乗せるつもりだったし」
要はヘルメットを俺に投げて寄越した。
俺はキャッチすると「ありがとう」とお礼を言った。
「で? どこに行けばいいんだ?」
「それが、まだ特定できてなくて……」
「は? どういう事?」
俺は要に写真を見せた。
「ここに行きたいんだけど、場所が分からなくて……」
要は真剣にスマホの写真を見ると、無言でスマホを操作した。
少しすると、要の指が止まった。
「これ、病院じゃね?」
「え?」
俺はスマホを覗き込んだ。
そこには『白凪総合病院』と書かれた建物が写っていた。
俺はすぐにその病院を地図アプリで検索した。
すると、音瀬の家の近くにそれはあった。
「もしかして、マンションの屋上?」
「朝陽、なんか分かったのかよ?」
「あぁ、ここに向かってくれ!」
俺は音瀬の家を目的地にして、スマホを要に渡した。
「分かった。急いで行ってやるよ」
要はスマホをバイクにセットすると、ヘルメットを被った。
俺もヘルメットをしっかりとつける。
バイクに跨った要は、スタンドを上げると方向転換した。
バイクからエンジンの小気味良い音が聞こえる。
要は俺に「乗れ」と言ってきた。
俺は後ろに跨り、背もたれを掴んだ。
「んじゃ、しっかり掴まってろよ!」
「おう!」
バイクは爆音を出しながら、軽快に走りだした。
あっという間に音瀬の家のマンションに着いた。
俺はバイクを降りると、ヘルメットを外した。
要にヘルメットを渡すと、要も俺のスマホを渡して来た。
「今度はちゃんと俺のバイク見ろよ」
「分かってる。今日はありがとうな」
「おう! また何かあったら連絡してくれ」
「あぁ」
俺はそう言うと、急いでマンションの入り口に向かった。
背後では要のバイクの音が遠ざかって行く。
デカい音だなと思いながら、音瀬の部屋番号を押した。
呼び出し音は鳴っているが、誰も出ない。
どうしよう……。
これじゃ中に入れない。
もしかしたら、間に合わないかもしれない!
どうする、どうする、どうする!
その時、マンションの住人が中から出て来た。
開いた。
今だ!
俺は住人に軽く会釈すると、中に入った。
エレベーターに乗り最上階を目指す。
その間にLIMEを確認するが、まだ既読はついていなかった。
間に合ってくれ!
俺はそう祈りながら、エレベーターの増えていく階数を睨んでいた。
エレベーターの扉が開いた瞬間、俺は飛び出し屋上への階段を探す。
エレベーターの横に扉があった。
あれだ!
俺はすぐに扉を開けて、階段を駆け上がる。
先の扉は開いていた。
俺は屋上に出て辺りを見回すが、音瀬の姿はない。
ここじゃないのか?
そう思った時、靴にカツンと何かが当たった。
下を見ると、スマホが落ちていた。
俺はそれを拾い上げて、電源ボタンを押した。
待ち受けの画像がトイプードルだった。
俺は焦る気持ちでスマホを裏返す。
ケースの中には、音瀬が友達と撮ったプリクラが入っていた。
これ、音瀬のスマホじゃねーか!
やっぱり音瀬はここに居る!
「音瀬!」
俺は力一杯叫んだ。




