第41話 残された鞄
俺はあれから中庭や屋上に行ってみたが、音瀬は居なかった。
教室に戻ったのかと思って、一度教室に帰る事にした。
だが、そこにも音瀬はいない。
そして、またしても囲まれる俺。
今度は男まで居る。
「藤真君! さっきの凄かったね!」
「2階から飛び降りるとかカッコよすぎだろ! あれ、どうやったんだ?」
あぁー、目立ち過ぎたのか。
うん、限界だったとはいえ俺が悪いな。
「いや……別に大した事じゃないって」
適当に誤魔化しながら、俺は人の隙間から廊下の奥を見た。
もしかしたら音瀬が戻って来ているかもしれない。
だが、どこにもそれらしい姿はなかった。
「着地どうなってんの?」
「あれって、パルクールってやつ?」
質問が次々に飛んでくる。
俺は苦笑いを浮かべながら、頭の中では別の事を考えていた。
──音瀬を早く見つけないと。
さっきから胸の奥がざわざわして落ち着かない。
音瀬を早く探しに行きたいのに、チャイムが鳴った。
時間切れか……。
俺は一旦諦めて、人の輪をかき分けて自分の席に戻った。
音瀬の席をもう一度見るが、音瀬はやっぱりいない。
──音瀬、どこ行ったんだよ。
遂に放課後になっても、音瀬は帰って来なかった。
鞄はあるので、まだ帰ってはいないはずだ。
俺は寝たふりをして人をやり過ごし、教室に残って音瀬が来るのを待った。
でも、いくら待っても音瀬は来ない。
その内、担任の先生が教室に来た。
「藤真、こんな時間まで残ってどうした?」
「いえ……別に……」
「用事がないなら、さっさと帰れ」
そう言いながら、先生は教室の窓を施錠していく。
「あ、あの……音瀬は? 音瀬の鞄はあるんですけど、本人が居なくて」
「あぁ、音瀬か。朝に体調が悪いって早退したよ」
「え?」
「鞄忘れてるのか……」
「あの! 俺、音瀬の鞄、家まで届けます! ないと不便だろうし……」
「そうだな。藤真、音瀬の家は知ってるのか?」
「いえ、知りません……」
「そうか。個人情報だから本当は教えられないんだが……一度連絡してみるか。藤真、少し待っててくれ」
担任はそう言うと教室を出て行った。
そうか……早退したのか。
だからどこを探しても居なかったんだ。
家になら……居るよな?
ちゃんと話したい。
俺には彼女はいないって。
音瀬は気にしてないかも知れない。
けど、俺が気にする。
昨日まで自分の事好きって言ってた奴が、次の日には他に彼女を作ってたなんて思われたら最悪だ。
誤解されたままなんて嫌だ。
俺が付き合いたいのは音瀬なのに……。
なんで俺、音瀬の連絡先知らないんだろう。
こんな時連絡出来れば、俺は無駄に音瀬を探す事もなかったし、すぐに誤解は解けた。
今まで聞くチャンスなんて沢山あったのに、普段LIMEなんて殆どしないから、すっかり忘れていた。
馬鹿だなー、俺。
俺は机からノートを取り出し、端を破った。
そこに自分の名前とLIMEのIDを書いた。
『連絡下さい』と一言も添えて。
それを折ると、音瀬の鞄の外ポケットに入れた。
……これで、気付いてくれるよな。
「藤真、住所教えても良いってさ……なんだ? どうした? そんな驚いた顔して」
「いえ、ちょっとビックリして……」
後ろから急に声をかけられて驚いた。
俺はバクバクした胸を抑えた。
「驚かして悪かったな。ほら、これ音瀬の住所だ」
先生から住所の書いた紙を受け取ると、俺は音瀬の鞄と自分の鞄を持った。
「鞄、よろしく頼むな」
「はい。では、失礼します」
俺は先生に頭を下げて挨拶をすると、教室を出た。
俺は歩きながら、地図アプリに音瀬の住所を入力した。
俺の最寄り駅の1つ先か。
とりあえず駅まで向かうか……て、何でまた日坂がいるんだよ。
校門の所にまた日坂が立っていて、俺に向かって手を振っていた。
「何でいるんだよ」
「昨日言ったじゃん。諦めないって」
日坂は満面の笑みでそう答えた。
俺は「はぁーー」と溜め息を吐きながら、面倒くせーと思った。
「……諦めろよ」
「あ、藤真君髪切ったんだね! その髪型も似合ってるよ」
「聞けよ!」
「聞かない」
「お前のせいで変な誤解されて、こっちは大変だったんだ! お前がいたら、また誤解されるだろ!」
「その誤解が本当になるかもしれないじゃん」
「ならない」
「なるかもしれない!」
「はぁー、俺急いでんだよ。日坂ってこんな聞き分けないやつだったっけ? 昔はそんなんじゃなかっただろ?」
「そう、私って聞き分けない奴なの。言ったでしょ? 昔は綺麗な自分だけを見せてたって」
「開きなおりかよ……」
「必死なの! ……それぐらい本気って事だよ」
「それでも俺は答えられない。好きな奴がいるって言っただろ」
「……その鞄の子?」
日坂は俺の持っている鞄を指差した。
「そうだけど……」
「藤真君が女子の鞄持つなんて……私でも持ってもらった事ない。……本気なんだね」
「あぁ、だから諦めてくれ」
「諦めないけど?」
「は?」
「だって、振られてるんでしょ?」
「うるせーよ……」
「ふふっ。私、傷心の藤真君につけ込む気満々だから、毎日会いに来るよ」
「いや、普通に迷惑……」
「藤真君が塩対応すぎてツライ……なんてね。藤真君は何だかんだ優しいからね……分かった。今日は帰る。けど明日も来る!」
「いや、来んな」
「ははは。またね、藤真君。かっこいい姿見れて良かった」
そう言って日坂は走って帰って行った。
今の日坂と喋ると、昔付き合っていた時の日坂の雰囲気と全然違う。
明日も来るのか……。
明日は絶対違う所から帰ろう。
そう決めて、俺も音瀬の家に向かった。




