第40話 檻の外へ
もう昼休みになるが、未だに音瀬は教室に帰って来ない。
どうしたんだろう?
心配になるが、俺は今動けない。
休み時間になる度女子に席の周りを囲まれ、廊下側の窓や扉には他クラスからの見物人が沢山集まった。
俺はそれを下を向いて無言でやり過ごした。
そうだ……、そうだった……。
中学でもこんな感じだった。
湊と要が居たから、ここまで酷くはなかったけど。
高校では友達作りを諦めたせいで、助けてくれる友達もいない。
前髪が恋しい……。
あぁーー、もう面倒くさい。
さっきからうるさく質問攻めしてくる女子にイライラしてきた。
動けねーし、うるさいし……もう、殴ってもいいかな?
そんな事を考えるぐらい限界だった俺の腕を誰かが掴んだ。
ゾッと鳥肌が立って、上を見上げると真剣な顔をした湊が居た。
俺は湊の顔を見てホッとした。
「朝陽、行くぞ!」
「あ、あぁ……」
そう言って、俺の手を引くと廊下側ではなく窓際に移動した。
「朝陽、いけるか?」
湊はニヤッと笑って聞いてきた。
窓を見て、俺も理解した。
「なるほどね。久しぶりだな」
俺も湊に笑い返した。
「じゃ、行くぞ!」
湊は2階の窓から飛び降りた。
俺もそれに続いて飛び降りる。
「きゃーーーー!!」
俺達が飛び降りたせいか、驚いた誰かの悲鳴が聞こえた。
うるせっ。
そう思いながら、着地した時の衝撃を逃す為にロールした。
久しぶりにやったけど、案外身体が覚えてるもんだな。
服が砂まみれだけど……。
「キャーーーー、藤真君かっこいい!」
「今のヤバすぎるんだけど!」
俺が服をはたいていると、上からそんな声が聞こえてきた。
上を見上げると、女子も男子も窓から身を乗り出して俺達を見ていた。
「ねぇ! 俺は? 俺も凄いよね?」
横で湊が上の女子達に向かって叫んでいる。
俺はそんな湊の肩を叩いて「行くぞ」と言った。
自分への賞賛がなかった湊は、ガックリ肩を落とすと俺の後をトボトボと着いてくる。
「ありがとな。連れ出してくれて……正直限界だったんだ」
「あぁ、だろうなと思ってた」
「もう殴ろうかなって」
「お前、それはダメだろ!」
「うん……分かってるんだけど、イライラが止まらなくて」
「こうなるって分かってて髪切ったんだろ?」
「いや……考えてなかったというか、忘れてたというか……」
「はぁ? じゃー何で切ったんだよ?」
「隠れてたら、大切なものを守れないって思ったから……」
昨日の悔しさが込み上げてきて、俺は拳を握る。
「また……何かあったのか?」
俺はコクンと頷いた。
「もしかして日坂と何かあった?」
何で日坂?
本当に湊は動画の事を知らないのか?
「日坂は関係ない。音瀬の動画の件、知ってるか?」
「音瀬さんの動画? なんだよ、それ」
「今、音瀬のフェイク動画が拡散されててさ、教室で孤立してるんだよ」
「音瀬さんのフェイク動画? ちょっと待って、誰かに聞いてみる」
湊はスマホを操作して、誰かにメッセージを送っているようだった。
「きた。朝陽、これか?」
湊は送られてきた動画を再生して、俺の隣に来ると2人で一緒に動画を見た。
「うわー、えげつな。これ、ハメ撮り動画じゃん……」
「いや、待て……これ、俺が前に見た動画と違う……」
「え?」
「また……違う動画が拡散されてる」
「……うそだろ?」
「誰だよ……誰がこんな事してんだよ!」
何でこんな事が出来るんだ?
音瀬はそこまでされる程、何かしたっていうのか?
胸の奥から、抑えきれない怒りが込み上げてきた。
「あぁー、何で俺が知らなかったか分かった」
「え?」
「サッカー部には動画回すの禁止だったらしい」
「何でそこだけ?」
「知らね。何でなんだ? どうせバレるだろ。今みたいに」
「犯人がサッカー部に関係ある……とか?」
俺達は顔を見合わせた。
「それはありえる話だな。でも、サッカー部の奴等にこんな動画作ってる余裕なんてない」
「そうだよな……湊は適度にサボってるけど、他のみんなは真剣にやってるもんな」
「いや、俺も結構真面目にやってるよ」
「部員じゃなくて、関係者の線が濃厚か……」
「……無視かよ」
「サッカー部で音瀬に関係ある人って誰だ?」
「音瀬さんと? うーん、俺が知ってるのは律と俺だけかな」
「そうか……他にいないか音瀬にも聞いてみる必要があるな」
「悪いな……全然力になれなくて」
「そんな事ねーよ。いつも助けてもらってる。俺1人じゃここまで分からなかった。だから……ありがとう」
「朝陽がデレてる……」
「は? お前、人が真面目に言ってるのに!」
「素直にそう言われると俺だって照れるだろ!」
「何だよそれ」
俺は呆れた目で湊を見た。
「とにかく、俺の方でも調べとくから、お前は音瀬さんの所に行ってこいよ」
「あぁ、そうするよ。ありがとな、湊」
「もぉー、その顔でデレるのやめて。早く行ってこい!」
湊はシッシッと手を振った。
俺はそれを笑いながら、音瀬を探しに行った。
※パルクールの「ロール」とは斜め方向への受け身の事です。
朝陽と湊の身体能力が凄すぎなんだが……∑(゜Д゜)




