第37話 再会
やっと授業が終わり、後は帰るだけになった。
時計を見ると、予約した時間まではまだ大分余裕がある。
俺は無意識に前髪を触った。
この前髪とも、お別れか……。
俺は昼休みに美容室の予約を入れた。
あまり美容室に行くタイプじゃないから、どこがいいのか正直分からない。
結局、検索して一番上に出てきた店を勢いで予約した。
なんとなくこのままじゃダメな気がしたから。
変わらないと守れない。
もう────
隠れるのはやめる。
俺は一番上のシャツのボタンを開けた。
正直ずっと苦しかったんだよな、ここのボタン。
俺の他にちゃんと止めてる奴、見た事ねーよ。
少しだけ肩の力が抜けた気がした。
教室を出て、俺はそのまま校門へ向かった。
初めての美容室って緊張するんだよな……。
どんな感じの美容室なんだろう?
そんな事をぼんやり考えながら歩いていると、校門の横に一人の女子が立っているのが見えた。
うちの制服じゃない。
あれは要と同じ高校じゃないか?
誰かを待っているのか、スマホを見ながら立っている。
……なんだろう。
見覚えのある横顔だった。
俺の視線を感じたのか、その女子がふと顔を上げた。
そして、目が合った。
「藤真君……?」
懐かしい声だった。
「日坂……」
胸の奥がざわつく。
日坂は俺の方に小走りで近づいて来ると「来ちゃった」と、懐かしい笑みを浮かべて言った。
「……なんで?」
「急に来てごめんね。この前、藤真君達と遊ぶ予定なくなったでしょ? だから要君に聞いて来てみた」
「でも、日坂は誰も誘ってないって……」
「会いたかったから」
「え?」
「藤真君に会えるって知って、変わってもらったの!」
日坂は顔を真っ赤にしてそう言った。
でも俺は、それを見ても何も感じなかった。
「何で今さら……」
無意識に冷たい声がでた。
「ずっと……ずっとずっと藤真君が好きだったから!」
「は?」
「他の人なんて好きになれなかった!」
「 意味分かんねー……」
本当に意味が分からない。
あれからもう2年経つのに、何を今更言ってるんだ。
俺が困惑してると、視線を感じた。
周りを見渡すと、皆んなが俺達を見ていた。
そうだ。
今は皆んな帰る時間で、ここは校門だ。
ここじゃ目立ちすぎる。
俺はスマホで時間を確認し、日坂に「ちょっと場所変えよう」と言った。
日坂も周りの視線に気付いたようで、更に顔を赤くするとコクコクと頷いた。
俺は近くの公園に行こうと思って歩き出すと、日坂も俺の後に続いた。
気まずい無言の時間を過ごして、公園のベンチに2人で座った。
「藤真君、まだ髪伸ばしてたんだね」
気まずい沈黙の中、先に喋ったのは日坂だった。
「あぁ……」
「切らないの? 絶対前の方がいいのに」
「どうだっていいだろ……」
「何で髪伸ばし始めたの? 卒業式の時、全然雰囲気が違って驚いたんだ。それでも、カッコいいけどさ……」
お前がそれを言うのか。
────あぁ、そうか。
原因はお前だったけど、それを言った事はなかったな……。
「……ハッ」
思わず笑いが溢れた。
「お前みたいな女と関わりたくないから、伸ばした」
「え?」
「友情ごっこか何か知らねーけど、巻き込まれたくないからな」
俺がそう言うと、日坂は下を向いた。
傷ついたのか。
でも俺の方がもっと傷ついたよ……。
もう、過去の事だけどな。
「ごめん……」
日坂はそう言うと顔を上げた。
「でも、藤真君は知らないでしょ? 私がどんな目にあってたか……」
「どういう事だよ」
「やっぱり知らないよね……」
「え?」
「私、ずっと女子からハブられてた。明日花だけが私を助けてくれたんだ。でも、そんな明日花が藤真君を好きだって言ったの」
日坂は泣きそうな顔で、必死に言葉にしているようだった。
「明日花まで離れたらって私怖くて……。でもね、やっと明日花に彼氏が出来たんだ。だから、やっと会いにこれた」
「……だからって今更。……なんであの時言わなかった?」
「言えるわけない! ……こんなカッコ悪い事言えないよ……」
「……それの何がカッコ悪いんだよ」
日坂は「フッ」と笑った。
「藤真君には私の綺麗な所だけ見て欲しかった。女のプライドってやつ」
「……意味分かんねぇー」
「ハハッ、分かってる。それに、今の方がカッコ悪いよね。今だに未練たらたらでさ、今更告白なんかしてさ……」
「俺、好きな子いるんだ」
「え?」
「告白して振られたけど、それでも好きなんだ」
音瀬の顔が浮かんで、俺は少しだけ笑った。
「……だから、日坂の気持ちは分かる」
俺が日坂の方を見ると、目に涙を溜めていた。
「……そっか」
「……あぁ」
「でも、振られたんだよね?」
「……あぁ」
「なら、私諦めないから」
「は?」
「私、藤真君の事諦めない! ……もう後悔はしたくないもん」
日坂はそう言って笑った。
「いや、俺好きな人いるって……」
「あーー何も聞こえなーい!」
「おい!」
日坂は鞄を持って立ち上がると「またね」と言って、走って帰って行った。
「なんなんだよ、アイツ……」
フゥーと溜め息を吐いて、公園の時計を確認すると予約時間が迫っていた。
「やべっ。俺も行かないと」
俺は鞄を手に持つと、走って駅の方へと向かった。




