第35話 雅side 軋む音
朝陽君と一緒に教室に入ると、ガヤガヤとしていた教室が一瞬で静かになった。
やっぱりね……。
朝陽君の方を見ると、彼も困惑しているようだった。
ごめんね。
これ、私のせいなんだよね……。
どう説明しようかと思っていると、朝陽君はそれを気にも止めずに自分の席の方へ行った。
え?
気にならないの?
逆に私が困惑していると「藤真君! おはよー!」と朝陽君に声をかける女子達が居た。
「藤真君久しぶりだね!」
「藤真君風邪でもひいたの? 大丈夫?」
なんで?
この前は朝陽君の名前すら知らなかったのに、何でいきなりそんな親しげに話しかけてるの?
「は?」
朝陽君も驚いている感じだ。
それに彼女達は気付かずに話を続ける。
「だって結構休んでたよね? 酷い風邪だったのかなって皆で話してたんだ」
そう言いながら1人の女子が私を睨みつけてきた。
あぁ、私が朝陽君と一緒に来たからか……。
なるほどね。
私は「フッ」と鼻で笑ってやった。
そしたら女子は余計怒った顔をしてた。
馬鹿みたい。
その時、チャイムが鳴った。
「あーチャイム鳴っちゃった」
「藤真君、また後でね」
女子達は猫撫で声で朝陽君にそう言うと、大人しく席に戻って行った。
もちろん私を睨みつけるのも忘れない。
私はそれを無視して、席についた。
そうして授業は始まったが、時折クスクスと笑い声が聞こえる。
何を喋っているのかは聞こえない。
でも、だいたい想像できる。
どうせ私の悪口だろう。
動画が拡散してからよくある事だった。
ようやく授業が終わり教科書を直していると、誰かが「藤真君」と呼んだ。
顔を上げて、声が聞こえた方を向くとあの女がいた。
どうしてあの女が朝陽君を呼ぶの?
朝陽君の方を見ると、あの女と知り合いなのか「どうしたんですか?」と小走りで朝陽君は近付く。
2人は何かを話していて、あの女は時折笑いながらこっちを見てくる。
今度は一体何しに来たの?
私を引っ叩いたぐらいじゃ気がすまない?
何がしたいの!
もしかして────。
私が1番恐れている最悪な想像をした時、朝陽君と目があった。
朝陽君が訝しげにこっちを見ていた。
バレた?
心臓がバクバクしてうるさい。
朝陽君がこっちに近づいて来る。
逃げなきゃ……。
まだ朝陽君に軽蔑される心の準備は出来ていない。
タイミングよくさっきの女子達が朝陽君の足を止めた。
ごめん……まだ話したくない。
私は朝陽君から逃げるように屋上に向かった。
その途中、あの女と出会った。
私は無視して通り過ぎようとしたら、向こうから喋りかけてきた。
「あんた大変な事になってるね」
振り返って睨みつけると、女は楽しそうに笑っていた。
「でも、まだ甘いよね」
そう言ってニヤリと笑った。
「やっぱりアレ、あんたがやったの?」
「証拠もないのに決めつけないでよ」
確かに証拠はない。
でも動画を拡散したのはコイツだと、態度が示している。
どうにもならない気持ちにイラついて、私は舌打ちをした。
「おぉー怖っ。そんな事より、あんた藤真君の事好きなの? 凄い顔でこっち見てたけど」
「……別に」
「じゃー、私が藤真君貰ってもいいの?」
その言葉を聞いて私は笑った。
自信満々に言い切った所が最高に面白い。
「な、何で笑ってるのよ」
「別に……あんたみたいな女、朝陽君は好きにならないだろうなって」
「は?」
「朝陽君はね、中身も外見も最高にかっこいいの。あんたみたいなブスを好きになるわけがない」
「誰がブスよ! あんた頭大丈夫? あんな女に免疫なさそうな陰キャなんて簡単でしょ。それに、中身も外見もかっこいい? ぷっ、ハハッ。あれが?」
「あんたに朝陽君の良さは分かんないよ」
もうコイツとは喋る事はないと、私は前を向いた。
「良さって何? 真面目すぎていいように使われてる所?」
そう言って笑っている女にムカついて、私はもう一度振り返って笑い返してやった。
「何それ……あんた、後悔するよ」
笑うのをやめ、今度は睨みつけてきた。
「後悔するのはあんただよ」
私はそれだけ言うと、また前を向き直して先を急いだ。




