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CHERRY─彼女が狩人になった理由─  作者: 彩心
第二章 二学期

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第30話 普通の顔

 俺は職員室から神妙しんみょうな顔で出た後、ふーっと息を吐いて肩の力を抜いた。


 頭に貼ってあるガーゼを取って、グシャグシャと髪を馴染ませる。


 はー、やっと停学終わった。


 停学中の反省文や課題はすぐに終わったし、ちょっとした休日だったな。

 

 ……音瀬、気にしてないかな?


 俺を振った後に3日も休まれたら、俺が相当落ち込んでると思うよな。


 はぁー、ダセー。


 先輩達を殴った事は後悔してないけど、その事を考えてなかった事には後悔する。


 俺、本当音瀬の前じゃカッコつけられないな。


 俺は自嘲気味じちょうぎみに笑った。


 重い足取りで教室に向かっていると、中庭のベンチに音瀬が座っているのが見えた。


 気まずい……非常に気まずい。


 まさかこんな所で音瀬に会うなんて思ってなかった。


 まだ心の準備が……。


 それにしても、いつもは教室で騒がしい奴らの中心にいるのに、こんな所に1人でいるなんて珍しいな。


 そう思って見ていると、ふいに音瀬と目が合った。


 音瀬は俺に気付くと「藤真君!」と俺の名前を呼んで、け寄って来た。


 「おっす……」


 俺はそれだけ言うと気まずくて視線をらした。


 「藤真君……もしかして動画見た?」


 「え?」


 音瀬の瞳が何故か不安げに揺れていた。


 「動画? 何の?」


 何の事か分からなくて音瀬にそう聞けば、音瀬は「うううん、何でもない」と言って笑った。


 ……何で無理して笑ってるんだ?


 口元は笑っているのに、目が合わない。


 やっぱり俺と居るのが気まずいとか?


 そんな事を考えていると、音瀬は俺の頭を見て「怪我、大丈夫?」と聞いてきた。


 「え? 何で知ってるんだ?」


 「早瀬君から聞いた。3針縫ったって」


 「あー湊ね。たいした傷じゃねーよ」


 「たいした傷だよ! ……ほんと、心配したんだから」


 「なんか心配させてごめん。でも、ほんと大丈夫だから。湊が大袈裟おおげさに言ってるだけで──」


 「大袈裟じゃない!」


 音瀬が俺の言葉にかぶせるように叫んだ。


 「……私、見てたから」


 「え?」


 俺の心臓が一際ひときわ大きくドクンと鳴った。


 あれを……見てた?


 どこから?


 もしかして絢斗先輩達の話を聞いてたんじゃ────


 「屋上から見えたの」


 「あー……なんか話、聞こえた?」


 「話は聞こえなかったけど、藤真君が殴られてるのを見て私が先生を呼んだ」


 俺はホッとした。


 あんな話を音瀬には聞かせたくない。


 「そうだったんだ。ありがとうな。先生が止めてくれて正直助かったんだ」


 「藤真君、あの時何があったの?」


 「絢斗先輩が『この前の仕返しだ』って絡んできたから、やり返しただけ。ちょっとやりすぎちゃったよ」


 俺は軽く聞こえるように、少しおどけて言った。


 「あ、あの時の……藤真君、ごめんね。迷惑かけちゃって……」


 せっかくおどけて言ったのに、音瀬が気にしてシュンと落ち込んでしまった。


 「気にすんなよ。俺はムカつく絢斗先輩を殴れてスカッとしたんだから。だから、これは俺の自業自得」


 「藤真君……本当にそれだけ?」


 そう疑う音瀬に俺はフッと笑いかけた。


 「本当にそれだけ。だから音瀬は気にせず笑ってれば良いんだよ」


 そう、音瀬は何も知らなくていいんだ。


 あれは俺が勝手にやった事だから。


 「……ありがとう」


 音瀬はそう言うと静かに笑った。


 俺もそれに釣られて笑顔になる。


 やっぱり音瀬の笑ってる顔好きだな。


 って、音瀬に見惚みとれてる場合じゃなかった!


 「そろそろ教室に行かないとまずくね?」


 「そうだね……」


 「あー……一緒に行く?」


 俺は案に気まずくないかと聞いたら、音瀬は「うん」とすぐに返事をした。


 俺達は2人で教室に向かって歩いた。


 俺はスマホで時間を確認すると、少し急ぎめで歩いた。


 なのに音瀬の足取りは何故か重かった。


 「どうしたんだ?」


 「え……うん、別に……」


 歯切れの悪い返答に、俺はやっぱり気まずいよなって思った。


 「やっぱり俺と一緒じゃ気まずいよな……」


 「え?」


 「だって振った相手と一緒って普通気まずいだろ?」


 「あ、そっか……そうだった。藤真君が普通すぎて忘れてた」


 「忘れてたって何だよ。俺の決死の告白を忘れるなよ。俺は普通なんかじゃないよ。普通をよそおってるの! 悪いけど、俺は今音瀬と一緒にいれて嬉しいから」


 「ごめん、他に気を取られてたっていうか……私も。私もね、今朝陽君と一緒にいれて嬉しいよ」


 「はぁーーーー、小悪魔すぎだろ……」


 「ふふ、だって本当だもん。さ、教室早く行かなきゃ遅れちゃうよ」


 音瀬はそう言って俺の腕を引っ張った。


 「分かったよ」


 俺は音瀬に腕を引かれたまま廊下を歩いた。


 教室が目前に迫った時、音瀬の手がかすかに震えた気がした。


 

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