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CHERRY─彼女が狩人になった理由─  作者: 彩心
第二章 二学期

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第29話 雅side 声にならない

 私は教室に戻ってからも早瀬君の言葉が気になった。


 『甘えてみてもいいんじゃない?』


 そんな事、一度も考えた事がなかった……。


 本当に甘えてみてもいいんだろうか?


 誰かに寄りかかってしまってもいいんだろうか?


 1日に何度も頭をよぎる死にたい衝動と、まだ生きていたいと思う葛藤に正直もう疲れた。


 強がっている自分も弱い自分も……。


 朝陽君に言える?


 もう何もかもが嫌なんだって。


 ……言えるわけない。


 それを言われた朝陽君は絶対困った顔をするに決まってるし、最悪『面倒くさい女』って思われて嫌われるのが怖い。


 それなら何も言わず、今まで通りの方が良い。


 朝陽君が好きって言った私のまま、私は消えたい。


 やっぱり私には甘えるなんてできないや……。


 決行日は自分の誕生日だと決めている。


 それまで後少し……頑張るかぁー。


 そう思ったのに、指先がかすかに震えた。


 まだ生きたいと思っている自分がいるみたいで、嫌になる。


 私は震えを隠す様に手を握りしめた。


 そんな時、友達の美緒みおが「雅! これ見て!」と慌ててスマホの画面を見せてきた。


 また美緒の推しのアイドルの動画かな? と思って画面を見たら違った。


 「……なんでエロ動画?」


 「そうなんだけど、この女の人の顔見て!」


 焦った様子の美緒にうながされるまま、私はもう一度スマホをのぞきこんだ。


 「……え?」


 「雅にそっくりでしょ!? でも……雅じゃないよね?」


 美緒は不安そうに聞いてきた。


 「違う、私じゃない。……何、この動画」


 「さっき別のクラスの友達から『これ雅?』ってLIMEで動画が送られてきて、見てみたらこれで……雅、大丈夫?」


 美緒は心配そうにそう言うが、目が笑っていた。


 あー……そういうやつ。


 心配するふりして、私の反応見て楽しむタイプね……ほんと、分かりやすい。


 「こんなそっくりな人を探すなんて暇人だね。くだらない」


 私は動揺を隠して、余裕そうに振る舞った。


 「そ、そうだよね。ほんと暇人だよね! 雅が気にしてなくて良かった!」


 「私だったらもっと良い物撮ってるよ」


 「ハハハ、雅強すぎ! 私も友達に聞かれたら、違うって言っておくね!」


 「……うん」


 言わなさそうな顔してるけどね。


 美緒が自分の席に帰っていったので、私は肩の力を抜いた。


 今日は本当に次から次へとくだらない事ばっかり……少し疲れたな。


 ため息を吐きながら、机から次の授業の教科書を取り出していると「ブー、ブー」と机の上に置いていた私のスマホが震えた。


 スマホを手に取りLIMEを開くと、前に関係を持った男子からのメッセージだった。


 あー、ブロックするの忘れてた。


 私は一度関係を持った男子のLIMEは全部ブロックする事にしているのに、朝陽君の事とか色々考えていたせいで最近の人はそのままだった。


 「面倒くさ……」


 メッセージを開くと動画と『俺ともしよ』という一文があった。


 この動画ってもしかして……。


 動画をタップすると、やっぱりさっき美緒が見せてきた動画と同じだった。


 ……気持ち悪い。


 動画もメッセージも。


 私はアプリを閉じてスマホを机の上に投げた。


 周りのざわめきがやけに大きく聞こえる。


 顔を上げて周りを見渡せば、さっきまでは気のせいだと思っていた視線が、今ははっきりと私に向いている気がした。


 もしかして、もう皆見たの?


 嫌な汗が背中を流れる。


 何人見た?


 どのくらい拡散してる?


 視界の端が白くにじむ。


 でも顔は余裕を崩さない。


 崩したら終わる。


 周りを見ない様に、私は机の中から教科書を取り出すふりをした。


 机の上ではスマホのバイブ音が鳴り続けている。


 ──私じゃない。


 ──気にしてない。


 ──どうでもいい。


 頭の中で何度も繰り返して自分に言い聞かせる。


 それなのに指先が冷たくなって、少し震えている。


 どうして?


 どうしてこんな事をされなきゃいけないの?


 『……ただじゃ済まさないから』


 脳裏に私の頬を叩いてきた女子の言葉が浮かんだ。


 まさか……ね。


 でも、タイミングが良すぎる気がする。


 ……でも、証拠なんてない。


 どれだけ拡散されているかは分からないけど、今さら犯人を特定した所で動画は私だという噂はもう止められない。


 この後どうなっていくのかが容易に想像できる。


 胸がぎゅっと締めつけられた。


 ……やっぱり、無理。


 ──死にたい。


 ──死にたい。


 ──死にたい。


 ほらね。


 やっぱり生きてても、ろくな事がない。


 誕生日まで、もう少し。


 それまで我慢すればいい。


 そうすれば、もう何も感じなくて済むから。


 なのに────……助けて。


 声にはならなかった。


 喉の奥で、小さく震えただけ。


 その時、授業開始のチャイムが鳴った。


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