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CHERRY─彼女が狩人になった理由─  作者: 彩心
第二章 二学期

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第28話 雅side ざわつく胸の奥

 早瀬君って確か隣の教室だよね。


 私は自分のクラスを通りすぎて、隣の教室に入った。


 早瀬君を探せばすぐに見つかった。


 「早瀬君!」


 私がそう名前を呼べば、ざわざわとしていた教室が一瞬で静かになり、一斉いっせいに視線がコチラを向いた。


 一瞬怖さを感じたが、早瀬君がすぐに私に気づいてくれて「どうした?」と言って、こっちに来てくれた。


 私はホッとして「あの、朝陽君の……」と言いかけた所で女子達の敵意ある視線に気付いた。


 何人かの女子達はこっちを睨みつけて、ヒソヒソと何か喋っている。


 何?


 さっきといい、一体何なの?

  

 「ん? どうかした?」


 私が見ていた方を早瀬君も見ながらそう聞いてきた。


 「うううん、何でもない。それより、朝陽君の事なんだけど……」

 

 「あー、ここじゃちょっとな……廊下に出てもいい?」


 「あ、うん……」


 私は早瀬君に続いて教室を出ようとした時「クソビッチ」と聞こえた。


 心臓が一瞬ドクンっと強く鳴った。


 私は声が聞こえた方を振り返ってみたが、誰が言ったのか分からない。


 ただ女子達がコチラを見て口元を押さえて笑っていた。


 くだらない……言いたい事があるならハッキリ言えばいいのに。


 「音瀬さん?」


 後ろをついて来ていない私に気づいた早瀬君が戻って来て、私の名前を呼んだ。


 舌打ちしたい気持ちを抑えて「……ごめん、行こ」と早瀬君に言い、2人で廊下に出た。


 人気ひとけの無い廊下のはしに来ると、早瀬君は壁にもたれた。


 「朝陽の話聞いた?」


 「停学って事だけ……朝陽君の怪我って大丈夫なの?」


 「え? 怪我したのも聞いたの?」


 「違う、見たの。タケが朝陽君の頭を棒で殴る所」


 「え? 見てたの!?」


 私はコクリと頷いた。


 「屋上からね」


 朝陽君が殴られた瞬間の鈍い音がまだ耳に残っている。


 「朝陽君が危ないと思って、私が先生に言ったの」


 「そうだったんだ……絢斗先輩、音瀬さんに救われたな」


 「え? 危なかったのは朝陽君でしょ?」


 早瀬君はそう言った私を見て笑った。


 「どうして笑うの?」


 「いや……ごめん、朝陽は大丈夫だよ。あいつクソ強いから」


 「え? でも、頭を棒で殴られたんだよ?」


 「あー、なんか3針縫ったって言ってたな」


 「やっぱりひどい怪我だったんだ!」


 早瀬君はなんて事がないように言うが、3針も縫うなんてたいした怪我だと思う。


 胸の奥がざわついて、無意識に薄手のカーディガンのそでつまんでいた。


 「それなのにあいつ、テープ貼っとけばいけるって思ってたんだって。雑すぎるだろ」


 そう言いながら早瀬君はまた笑った。


 「それは流石に無理なんじゃ……」


 「だよな。どこで男気おとこぎだしてんだよって、昨日も笑ったよ」


 早瀬君と喋ってから、朝陽君の印象がどんどん変わっていく。


 喧嘩が強くて、自分の怪我に無頓着って……何ソレ。


 かっこいいし、可愛いと思ってしまう。


 「……ふふ、朝陽君って意外とヤンチャなんだね」


 「基本面倒くさがり屋だけどな。そんな朝陽がさ……止められなかったんだって」


 さっきまで笑っていた早瀬君が、急に真面目な顔をした。


 「先生に止められるまで、加減もできずに殴り続けたんだって」


 「え?」


 「あいつ、やりすぎたって言ってたよ。朝陽がやりすぎって言うくらいだから、先輩達の方が酷い怪我だと思うよ」


 「え? 3針縫うよりも?」


 「3針縫うよりも。先輩達はもちろん停学だけど、やりすぎって事で朝陽も停学」


 「それで停学……」


 「そう。あの面倒くさがり屋が、何でこんな面倒な事したんだろうね?」


 早瀬君は私を見てニッコリと笑う。


 確かにどうして?


 何で朝陽君は絢斗達と喧嘩したの?


 「……なんで喧嘩したの?」


 「何でだろうね? いつもの朝陽なら軽くかわして逃げてたと思うよ。でも、そうしなかった……朝陽はね、大切な人を守る時だけ熱い男になるんだよね」


 早瀬君は私を見ながらそう言った。


 「私の……ため?」


 摘んでいた袖の感触が、急に熱を帯びた気がした。


 「さぁー、どうだろ? それは本人に直接聞いた方がいいと思う」


 「教えて! 何か知ってるんでしょ!」


 「俺は何にも知らないよ。ただ、そう思ったってだけ」


 早瀬君は手を広げて何にも知らないというジェスチャーをした。


 「朝陽の停学3日だってさ。朝陽が来たら聞いてみたらいいよ」


 「でも、私……」


 「朝陽の事()ったんでしょ? それは聞いてる」


 「振った私に近付かれるの、嫌じゃないかな……」


 「気にしないでしょ。むしろ喜ぶと思うね」


 「ふふ、何それ」


 「だからさ、本人に聞いてみなよ」


 早瀬君は優しく笑って私の方を見ていた。


 「分かった。聞いてみる……早瀬君、ありがとう」


 「どういたしまして」


 「なんか、早瀬君がモテる理由が分かった気がする」


 私が何気なくそう言うと、早瀬君の目が一瞬きらりと光った。


 「ほんと? なら付き合う?」


 「付き合わない。だって早瀬君、童貞じゃないから」


 「だよな。知ってる」


 早瀬君はオーバーにガックリと肩を落とした後、こっちを見て笑った。


 「やっぱり、早瀬君は分かってたよね。朝陽君は気づいてなかったけど……」


 「あいつは童貞だからな」


 「そこが可愛いんだよ、朝陽君って」


 「……音瀬さんって、もしかして……」


 私は人差し指を口元に置いて「さっしがいい奴は嫌いだよ」と言った。


 「何それ……可愛い」


 「知ってる」


 私達はそうやって笑い合った後、真面目な顔をした。


 「……分かった。俺は何も言わない。何か事情があるんだろ?」


 やっぱり察しがいいな……。


 私はうなずきでそれに返した。


 「はぁー、何で朝陽ばっかりモテるかな」


 「早瀬君もモテるじゃん」


 「好きな人に好かれなきゃ意味ないでしょ?」


 そう言って早瀬君は寂しそうに笑った。


 「まぁ……そうだね」


 「でしょ? ま、俺から見ても朝陽はかっこいいからしょうがない。外見も中身も」


 早瀬君は体を伸ばすと、壁にもたれるのを止めた。


 「だからさ、あんまりもてあそばないでやって。俺の大事なダチだからさ」


 早瀬君は軽く言っているが、目が本気だ。


 「分かってる……だから離れようと思った。朝陽君優しいからさ……つい甘えたくなるんだけど、私の事情に巻きこんじゃいけないって思って」


 私は軽く聞こえるように、つとめて明るく言った。


 けど、声が震える。


 私は視線を床に落とした。


 そんな私に早瀬君はポンと肩を叩いた。


 「音瀬さんの事情は分かんないけどさ、朝陽ってそんなやわじゃないよ。本気ならさ、甘えてみても良かったんじゃない?」


 「え?」


 「まぁ、本気ならね」


 早瀬君はそう言ってポンポンとまた私の肩を叩くと、話は終わったとばかりに颯爽さっそうと教室へ帰って行った。


 私はその背中を見送りながら、早瀬君に言われた言葉が頭の中を反芻はんすうしていた。

 


 

 

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