第24話 笑いすぎじゃね?
俺はあの後病院に連れて行かれ、結局頭を3針縫う事になった。
処置が終わって待合室に戻ると、母さんが居た。
「よっ」と俺が軽く声をかけると、母さんは呆れたように「はぁーー」と長いため息を吐いていた。
「『よっ』じゃないわよ。急に学校から電話があって驚いたんだからね」
「あぁー……ごめん。別に大した怪我じゃないんだけど、先生が大げさでさ……」
「で、どうだったの?」
「3針縫った」
「大した怪我じゃないの! なーにが大した事ないよだよ。こういうのはね、ちゃんとしといた方が後々のためにいいんだからね! あぁー先生が病院連れてきてくれて良かった。じゃなかったらあんた、隠すつもりだったでしょ?」
「まぁーテープ貼っとけばいけるかなって……」
「ほんと自分の事には適当なんだから。そういう所お父さんにそっくりだわ」
「でもいつも怪我したら『ダッサ』『ヨッワ』とか言ってくるじゃん」
「まー本当の事だし。で、勝ったの?」
「それはもちろん」
「なら、ダッサ。頭殴られてんじゃねーよ」
「ほら、やっぱり言うじゃん! だから知られたくなかったんだよ!」
父さんと母さんは元ヤンだからか、こういう喧嘩事や礼儀には異常に厳しい。
母さんは何がおかしいのかずっと笑っている。
「それにしても、あんたが喧嘩するの中学以来じゃない? 高校生になって真面目になったと思ってたのに」
「まぁ、色々あるんだよ……」
「ふーん。あっ、好きな子のためとか? なーんて……え? あんたマジで?」
くそー、流石母親だ。
俺が一瞬反応したのを見逃さなかったか……。
「そっか……そっか、そっか。ふーん、それは男を見せましたな朝陽君」
そう言って嬉しそうに母さんは肩を組んできた。
うぜぇー。
揶揄う気満々じゃねーか。
「俺は絶対言わないからな」
「えー。まぁ別に湊に聞くからいいけど」
「マジでやめてくれ!」
「えー、お父さんと息子の恋について話したかったのに」
「もっとやめてくれ!」
「ほんと、あんたはいくつになっても可愛いね」
そう言って母さんは俺のほっぺを、ぷにぷにと指で押してきた。
「な、何言ってんだよ。やめろよ、気色悪りぃーな」
俺は悪態をつきながら、母さんの指を払いのけた。
母さんは不服そうにしながらも笑っていた。
「あ、会計呼ばれた。ほら、これ鍵。先に車に乗ってなさい」
そう言って母さんは俺に車の鍵を手渡してきた。
「そういえば先生は?」
「先生も忙しいんだから、少し話しして先に帰ってもらったわよ」
「ふーん」と俺は短く返事をすると、母さんは会計しに行ったので、俺は1人で病院を出た。
その後病院から帰る車内で、母さんがずっと俺の好きな人について探ろうとするので、俺はずっと黙秘を貫いた。
家に着いた頃には精神的疲労がヤバかった。
家に着いてすぐ、俺は自分の部屋に篭った。
部屋着に着替えて部屋で脱力していると、家のインターホンが鳴った。
「お邪魔しまーす」という聞き慣れた声を聞いて、湊が来たとすぐに分かった。
俺は湊が母さんに何か言う前に、部屋を慌てて飛び出し、湊確保のために素早く動いた。
玄関に着くと湊ともう1人居た。
「要?」
俺に名前を呼ばれた要は「よっ」と言って片手を上げた。
要は中学の時の友達で、会うのは大分久しぶりだった。
ヤンチャな高校に行ったからか、髪色がシルバーになっているし、ピアスもめっちゃ空いていて、一瞬誰だか分からなかった。
「ほら朝陽、鞄持って来てやったぞ」
湊はそう言って俺に鞄を差し出してきたが、俺は鞄を受け取りながら、何で要も一緒に居るんだろうと困惑していた。
「あぁ、要? 今日は要も一緒に遊ぶ予定だったんだよ。それなのに、お前が怪我したから予定変更したんだよ」
「そういう事。楽しみにしてたのになー、朝陽の失恋パーティー」
「おまっ、ちょっ、余計な事言うな!」
「えぇー! 何それ! お母さん何にも聞いてないけど!」
やっぱり聞いてたか……。
「とりあえず俺の部屋に行こう」
母さんに捕まる前に、俺は2人の背中を押して自分の部屋へ案内した。
バタンと部屋の扉を閉めて、俺はホッと一息ついた。
要は久しぶりに来たというのに、慣れたように漫画を手にとると、その辺に座って読みだした。
湊はその隣に座ると、対面の床をポンポンと叩いた。
俺は素直にそこに座った。
「で? 一体何があったんだ? 告白しに行ったと思ったら、喧嘩して怪我するってどんな状況だよ」
「お前が怪我するなんて珍しいな」
要は漫画を読みながらも、話しは聞いているようだ。
「いや、告白はちゃんとしたんだ。フラれたけど……」
「だっはっはっはっ! あの朝陽がフラれるとか面白すぎる!」
「ちょ、おま、あんまり笑うなって……ふっ、ふふ」
「うるせーな。湊、お前はそんな事言って、この前散々笑っただろーが」
「いや、今でも笑える」
2人で大爆笑してやがる……人の失恋を何だと思ってんだよ、コイツら。
まぁいい。
コイツらは昔からこんな感じだった。
俺は諦めて続きを話す事にした。
「そんで音瀬が居なくなった後に絢斗先輩に絡まれて、喧嘩した。それだけ」
「あの面倒くさがり君がそんな簡単に喧嘩するか?」
ギクッ。
要、久しぶりに会ったっていうのに何でそんなに鋭いんだ?
「要、朝陽は愛のために戦ったんだよ」
「ちょっ、何勝手に言ってんだよ!」
「いや絶対そうだろ。お前が怒るのは音瀬さん関連しかないだろ?」
ぐぬぬぬ……何も言い返せない。
俺は視線を逸らして、誤魔化しを図った。
「だっはっはっはっ! 図星か! あの朝陽が愛の……ため……に……ヤバい……面白すぎる」
「うるさい! 笑うな! ってかお前、何しに来たんだよ!」
「だから言っただろ。お前に会いに来たって」
「言ってねーよ、一言も」
「んっ? そうだったか? まぁ、そんな細けぇー事はいいじゃん。昔はほとんどずっと一緒に居たのに、最近は全然会ってなかったから、俺これでも今日会えるの楽しみにしてたんだぜ」
「ほんとかよ……」
「本当だって! それにアイツもお前に会えるの今日楽しみにしてたみたいだぞ」
「アイツって誰だよ」
「日坂だよ」
「「えっ?」」
「俺同じ学校だからさ、朝からはしゃいでたよ」
ニコニコと笑ってそう言う要だが、俺と湊は驚いていた。
だって日坂は、一番会いたくない俺の元彼女だからだ。




