第21話 雅side 狩人になった理由
「放して!」
泣いてる顔を見られたくなくて、私は咄嗟にそう叫んで、朝陽君の腕を振り払って駆け出した。
とにかく早くこの場所から逃げ出したかった。
そうでもしないと、私の決心が揺らいでしまうから。
本当は「助けて」って、今すぐ縋りつきたい。
でも、それではダメ。
朝陽君の隣に自分が居て、彼が幸せになる未来がまったく想像できないから。
好きだからこそ、朝陽君には幸せになってほしい。
ズキズキと痛む胸が苦しいが、私は手で涙を拭きながら無我夢中で走る。
当てもなく走り続けていたのに、結局たどり着いたのはいつもの屋上。
一人になりたい時によく来る場所だ。
ドアを閉めて、隣の壁にもたれて座った。
ふと上を見上げると、綺麗な青い空が広がっていた。
「綺麗だな……」
自分はこんなに汚れているのに────。
最初は洗っても洗っても、自分の体が汚いと感じた。
死にたかった。
だから死ぬ方法を調べた。
結局怖くて死ねなかった。
死にたいのに生きたい。
でも生きていたくない、消えたい。
周りには普通に過ごしているように見せかけて、そんな矛盾した思いを毎日考えていた。
そんな地獄のような日々を過ごしていた時に思いついた。
死の決行日を決めようって。
そう思ったら気分が楽になった。
そして死ぬ前にやりたい事を思いついた。
それが『童貞狩り』
自分の処女は最悪な形で失った。
だからこそ強烈な思い出になった。
だから今度は自分が奪ってやる!
そう強く思った。
それに相手の初めてを奪えば、その人の記憶に私の痕を残せる。
そして……私は私を自ら汚す。
私は汚されたんじゃない、自分の意思で汚すんだ。
そんな一石二鳥も三鳥の事を思いついた時、私は笑いが止まらなかった。
そして私は生きる期限を決めた。
それから期限の日まで、作業をこなす毎日が始まった。
もう何人と寝たのか分からない。
でもまだ足りない。
そんな時に朝陽君と出会った。
夏休み中で出会いが減った中、新たな獲物を探しに学校まで足を運べば、図書室に彼は居た。
彼とは同じクラスなのに、一度も喋った事がない。
というか、影が薄くてあまり記憶に残らない。
女子と居る姿も見た事がないので、これは確実に童貞だと私の勘が告げる。
見つけた!
今日も簡単に獲物を仕留められそうだと私はほくそ笑んだ。
名前を脳内の記憶から引っ張り出して、声をかける。
「ねぇ、私とエッチしない?」
私がそう声をかけると彼は驚いたのか、固まっていた。
「もう一回言ってもらってもいいですか?」
やっと喋ったと思ったらこれか。
そうだよね、いきなりこんな事言ったら嘘だと思うよね。
私は男ウケが良い笑顔を作りもう一度言った。
「藤真 朝陽君、私とエッチしない?」
「はい」
チョロすぎ。
でも話が早い方が正直助かる。
また次を探さないといけないから。
私は制服のリボンを取り外し、シャツのボタンを外していたら「ここ学校だから!」とこちらを見ないようにして朝陽君が言った。
ぷっ、何それ。
今からしようってのに、何をそんなに恥ずかしがってんの?
私はイタズラ心が芽生えて、彼の耳元にフゥーと息を吹きかけた。
驚いた彼がこちらを向くと、ワザと谷間を強調してみせた。
「学校じゃなかったらいいの?」
そう上目遣いで言えば、彼は何を思ったのかその場から逃げ出した。
離れて行く足音を聞きながら、やりすぎたかもと少し反省した。
「あぁー今日の収穫失敗しちゃった。やっぱり夏休みは効率悪すぎ!」
そう悪態をつきながら、私は近くの椅子に腰を下ろした。
それにしても図書室は久しぶりに来たな。
絢斗と会いたくなくて、一度だけ逃げ込んだ場所。
あの時読んだ本を思い出して、もう一度読みたくなったので本を探すことにした。
中学生の時に「高校生になったらこんな恋をするんだ」と憧れて、何度も読んだ。
素敵な先輩との恋の物語。
目当ての本を見つけると、私は席に戻り本を開いた。
やっぱり、この先輩の外見絢斗に似てるんだよなー。
それに私もすっかり騙されたというか、馬鹿だったというか……。
一番好きな告白シーンまでページを飛ばす。
「私もこんなに愛されてみたいな……」
小さな願望がつい口から漏れる。
でも、そんな事は無理だと分かっている。
私が幸せになれる日は決行日だけだと思ってる。
私は人の心に残ればそれで良い……。
そう思っているはずなのに、涙が溢れた。
止まる様子のない涙に困惑していると、扉の方からガタッという音が聞こえた。
驚いて音の方に顔を向ければ、ドアの上のガラスから朝陽君がこちらを見ているのに気づいた。
泣いてる姿見られた?
私は恥ずかしくなって、一気に顔がカーッと赤くなった。
これ以上こんな姿を見られたくなくて、鞄を持つと私はその場から慌てて逃げた。
最悪最悪最悪っ!
こんな弱い姿、誰にも見られたくなかった!
私はトイレに入って洗面台の鏡を見た。
マスカラやアイラインが涙で滲んでいて、最悪な顔した自分が映っていた。
「ははっ、こんな顔じゃ狩人失格だね」
私は鞄からメイクポーチを取り出して、メイクを簡単に直した。
いつもよりは薄めになったが、スッピンでいるよりはマシだ。
「もう少し、もう少し」
私は鏡に映った自分にそう声をかける。
それはあの日から自分を励ます言葉になった。
「よしっ」と気合いを入れて、私はまた獲物を探す。




