第19話 自己満足
そんな事を考えている間に、絢斗先輩の拳は俺の顔面近くにきていた。
反射神経だけでサッと避けると、大振りだったからか絢斗先輩は体勢を崩した。
「おい何やってんだよ!」
「マジダセェ!」
外野がケラケラと笑っている中、俺は絢斗先輩を横目で見ていた。
すると、急に目の前に足が見えた。
危ねっ! と思い、とっさに片腕でガードしたが、思ったよりもズンッと重たさがあり、腕が痺れた。
体勢を崩したと見せかけて、回し蹴りかよ。
俺が攻撃を受け止めた事で絢斗先輩は「チッ」と舌打ちをした。
かなりイラッとはしたが、俺は先輩に聞きたい事がある。
ご機嫌斜めな先輩に、俺は笑顔を貼り付けて喋りかけた。
「もういいでしょ? それより聞きたい事が──」
俺が喋っている最中だと言うのに、先輩は下から俺の腹にパンチを入れてこようとしてきた。
それを咄嗟に左腕で軌道をそらして払い、右手で先輩の左頬を思いっきり殴った。
あぁー、まっずい。
つい条件反射でやってしまった……。
先輩の勢いも乗ってたから、相当効いたハズ。
先輩は地面に膝をついて、プッと口の中の血を吐いていた。
「あぁー、口の中切れちゃいました? ほんと今のは条件反射でワザとでは……大丈夫ですか?」
俺は本当に殴るつもりはなかったので、申し訳なく思い、恐る恐る先輩に声をかけた。
「……お前本当に舐めてんな」
「いえ、別に舐めてませんよ。それより聞きたい事があってですね」
「……なんだよ」
おっ、やっと聞いてくれる気になったか。
「音瀬を……その……レイプしたっていうのは本当ですか?」
これはただの俺の憶測だ。
カマをかけてみたが、絢斗先輩はなんて答える?
俺はゴクリと唾を飲み込み、返答を待った。
それを聞いた先輩達は目を合わせ合うと、突然笑いだした。
「ハハハ、お前それ雅に聞いたのか?」
「なんだよ、レイプって。そんな事する訳ないだろ」
先輩達は笑いながらそう答える。
そうだよな……さすがにそんな訳ないよな。
良かったー、俺の勘違いで。
ホッとしたのも束の間だった。
「あれは雅も同意してんだよ。だからレイプじゃねー。ただの複数プレイってやつだ」
「え?」
「雅ちゃんもノリノリだったからね」
「俺達は紳士だから、無理矢理なんてしねーよ」
「は? え? でも絢斗先輩は音瀬と付き合ってたんじゃ……」
「付き合ってたよ。でも、彼女は彼氏の言う事を聞くもんだろ?」
そう言って絢斗先輩はニヤリと笑った。
「でも雅は顔が良かっただけで、別れる前は人形みたいになっちまって、つまらない女だったよ」
「あぁー確かにな。でも、顔も体も良かったから、絢斗も惜しい事したよな」
「俺もそう思ってこないだ声かけたら、コイツに邪魔された」
「あれ? 根暗君って雅ちゃんの事好きな感じ?」
「雅に遊ばれて本気になった童貞君だろ」
「何それ、ウケるんだけど。一回鏡見てから考え直した方がいいよ」
3人がそう言いながらゲラゲラ笑っている中、俺の頭は冷静に状況を整理していた。
どう考えても同意じゃないだろ。
音瀬は絢斗先輩が好きだったから、同意せざるを得なかっただけだろ!
……何が紳士だよ。
狂ってるだろ!
音瀬はやっぱり傷ついているんだ。
だからこそ、自分を汚いなんて言うんだろ!
そこまで音瀬を追い詰めた奴らが、楽しそうにゲラゲラ笑っている姿に怒りが込み上げてきた。
ここで俺が何をしようが、音瀬の傷ついた心は癒えない。
これはただの俺の自己満だ。
一番近くに居た絢斗先輩の友達の横っ面を目掛けて、俺は後ろ回し蹴りをした。
相手は無防備だったため、もろに入ってしまい横に吹っ飛んだ後、ピクリとも動かなくなった。
まず1人。
「ちょっ、お前大丈夫か!?」
絢斗先輩の友達がそう言いながら、吹っ飛んだ友達に駆け寄った。
「お前いきなり何してんだよ!!」
絢斗先輩が怒ってこちらに向かってくる。
「いや、なんか腹立ってきたんで蹴っちゃいました」
「何が蹴っちゃいましただよ! お前に関係ない話だろ!」
「関係ないけど、ムカつくもんはムカつくんで」
「スカしてんじゃねーよ!」
絢斗先輩はそう言って、また殴りかかってきた。
今度は下からか。
俺はそれを半身を捻って避けると、戻る勢いで絢斗先輩の鼻を殴った。
絢斗先輩は後ろにのけ反った後、鼻を抑えた。
鼻からぽたりぽたりと赤い液体が地面に落ちた。
「このクソガキがーー!!」
それを見た絢斗先輩は更に憤慨し、また返り討ちに合うというのに、拳を用意しながらこっちに突進してきた。
それなのに俺の近くまで来ると、絢斗先輩は急に止まった。
攻撃に備えて構えていた俺は、絢斗先輩の行動に気をとられた。
その時「ゴンっ」という音と共に、俺の頭が揺れた。
痛ってぇーと思いながら後ろを振り返ると、絢斗先輩の友達が棒切れを振り上げていた。
そういえば、もう1人残ってたな。
俺は棒が振りおろされる瞬間、手をクロスにして相手の手首を受け止めると、そのまま時計周りに下に大きく回し、相手の手を捻り上げた。
そのまま片手で手を掴んでから、相手の顎を目掛けて渾身の一撃を当ててやった。
脳を揺らしたからか、相手はその場に倒れた。
そこで寝てろ、カスが!
これで2人。
俺はすぐに振り返って絢斗先輩を睨みつけた。
朝陽君強すぎ……




