第17話 音瀬の目的
「だから……だから……ごめんなさい」
音瀬はそう言って俺に頭を下げた。
一瞬期待してしまったけど、やっぱりそうだよな。
分かってても結構キツいもんだな……。
俺が胸の痛みに耐えていると、音瀬は顔を上げた。
その瞳には涙が溜まっていた。
「こんな汚い私じゃ、朝陽君には釣り合わないから……朝陽君にはもっと素敵な人と幸せになってほしいって思ってる」
音瀬は無理矢理笑顔を作ってそう言った。
目を細めたからか、目からは涙がこぼれ落ちた。
「なんだよそれ……汚いって何だよ。俺と釣り合わないって何だよ!
音瀬が泣いてるのも、他の人と幸せになれって言うのも、全部、全部意味が分からない!
泣きたいのは俺の方だ!
もっと素敵な人って何だよ!
俺は音瀬と一緒に居たかっただけで、好きな人から他の人を勧められるなんて最悪な気分だ」
音瀬は涙を手で拭いながら「ごめんね」と繰り返す。
違う、俺が聞きたいのはそんな言葉じゃない!
「勝手に俺の幸せを決めるなよ! それなら普通に佐藤と付き合ってるから、無理って言ってくれよ!」
あぁー本当に泣きそうだ。
フラれただけでも、しんどいのにこの仕打ち……俺ってもしかして嫌われてたりする?
「佐藤君?なんで佐藤君かは分からないけど、 佐藤君とは別に付き合ってないよ」
「は? だって佐藤と……したんだろ?」
「あぁー知ってた? うん、したよ」
なんて事のないように肯定されて、分かっていたのに俺は軽くショックを受けた。
「それなのに付き合ってないって……また遊びかよ」
音瀬はフフンと笑って、いつもの余裕そうな笑みを浮かべた。
「朝陽君、私が仲間内で何て呼ばれてるか知ってる?」
「え? 『雅』とかじゃねーの?」
音瀬は静かに首を横に振った。
「『童貞狩りの雅』って呼ばれてるの。ハハハッ、ダッサイ呼び名だよね。でも本当の事。私、童貞以外とはエッチしないの。だから朝陽君と会った時も言ったでしょ? 『エッチしない?』って」
「それが……遊び? いや、癖っていうのか?」
唐突にそんな事を言われて、俺は混乱した。
癖なら仕方ないのか?
そんなの人それぞれだしな。
だから湊はダメで、俺は誘われたのか。
「でも、楽しんでるわけではないだよな? ん? どういう事?」
「フフフッ、そう。癖じゃないし、別に楽しんでる訳でもない。私の目的のためにしないって決めてるだけ」
音瀬は楽しそうにクスクスと笑っている。
「目的?」
「初体験の相手になれば記憶に残るでしょ? 私は1人でも多くの人の記憶に残りたいの……どう? 幻滅した?」
楽しそうに弾んだ声でそう聞いてくる音瀬だが、目は死んでいた。
そのギャップに俺の頭は益々混乱する。
「いや……」
「正直に言ってくれていいよ。『ドン引きだー』て。それにね、私エッチが大好きなんだ。エッチしてる時はね、生きてて良いよって、必要だよって言ってもらってるみたいで嬉しいから」
「何でそんな……」
「私ね、毎日生きてるのが辛いの 」
「え?」
「でもただ死ぬのは嫌。出来るだけ多くの人に私を覚えていてほしいの。
ハハッ、これ言ったの朝陽君が初めてかも」
そう言って音瀬は壊れた様に笑った。
ひとしきり笑った後、フゥーと息を吐いて真顔に戻った後、こちらを向いて「だから、ごめんね」と音瀬は言った。
何と言えば良いのか分からず、棒立ちになっている俺に音瀬は近付いて来て、俺の肩に腕を置くと耳元に顔を寄せて来た。
「朝陽君、私とエッチしない?」
「え?」
驚いて音瀬の方に顔を向けると、すぐ近くに音瀬の顔があった。
「チュッ」
柔らかいものが唇に一瞬あたって、すぐに離れていく。
そして音瀬も俺から離れた。
「なーんてね。うそ。朝陽君とはもう出来ない」
「俺が音瀬の事を好きだから?」
「違うよ。でも理由は内緒」
「何だよそれ」
「ふふふ、じゃーね藤真君」
音瀬は泣きそうな顔でそう言うと、無理矢理笑顔を作って俺の肩をバシバシ叩いてから、俺の横を通りすぎて行った。
だから何でフった方が泣きそうな顔してんだよ。
俺は咄嗟に音瀬の腕を掴んだ。
「おいっ! ちょっと待てって……え?」
振り返った音瀬の顔は濡れていて、やっぱり泣いていた。
それを見られたと気付いた音瀬は「放して!」と声を上げると、俺に掴まれている腕を大きく振った。
驚いて力が抜けていた俺の手は簡単に音瀬の腕から外れた。
俺の手が離れた瞬間、音瀬は走って校舎の中に消えて行った。
「何で泣いてんだよ……こんなのほっとけねーだろ」
音瀬がまだ何か隠してるのは間違いない。
俺は音瀬を追いかけるかどうか悩んだ。
でも彼氏でもないし、ましてやフラれてるのに、そんなにしつこく聞くのも変だ。
俺は結局その場から動けないで居た。
せっかくフラれて綺麗さっぱりするつもりだったのに、後味の悪いモヤモヤが残っただけだった。
やっとタイトルの意味を書けた




