第14話 臆病者
「えっ! 律が!」
たまたま帰りが一緒になった湊に「音瀬と佐藤は付き合っているみたいだ」と言うと、湊は驚いていた。
「うわぁー、マジか。律ってそうだったのかよ」
「何が?」
「いや別に……」
湊は歯切れ悪くそう答えると、誤魔化すように話題を変えた。
「で、お前は凹んでる訳か」
「べ、別に凹んでなんて……」
「どう見ても凹んでんだろ。だから言っただろ? 『本当にそれでいいのか?』って」
ぐぬぬ……湊に何でもバレてしまっているのが悔しい。
俺は諦めて「フゥー」と溜め息を吐いて、湊を見てコイツに隠し事は無理だったと諦めて笑った。
「何だよ。俺の顔見て急に笑うなよ」
「いや、隠し事できないなと思ったら笑えてきて」
「お前何回もそう言うけどな、結構顔に出るから分かりやすいんだよ」
「そんなに? 俺自分ではポーカーフェイスだと思ってたんだけど」
「ブハァッ! ハハハ、お前がポーカーフェイスって、ウケる!」
何がツボったのか分からないが、湊はずっと笑い続けている。
俺の背中を笑いながらバシバシ叩かないでほしい。
俺がムッとした顔をすると、湊は「ごめんごめん」と謝りながら、目元の涙を拭った。
「で? 失恋した朝陽君はどうしたいんだ?」
「失恋がこんなに苦しいなんて知らなかったんだ……できる事なら早くこの気持ちを無くしたい。お前なら分かるだろ? どうやったら早くこの気持ちを無くせるんだ?」
俺がそう聞くと湊は「はあー」と大きなため息をついて、片手で顔を覆った。
「どうしたんだよ」
「お前の馬鹿さ加減に呆れてた」
「何が馬鹿なんだよ! お前が言ったんだろ! 相手の迷惑になるなら恋心を消せって!」
「言ったけど、お前はまずやるべき事をやってないだろ」
「やるべき事って何だよ」
「お前音瀬さんに『好き』って気持ちちゃんと伝えたのかよ」
「そんなの言わなくても答えなんてもう分かりきってるだろ……」
「それが馬鹿だって言ってるんだよ」
「はぁ?」
「ちゃんと自分の気持ちを伝えてフラれてこい。でないと後悔が残って、中々忘れられなくなるんだよ」
いつになく真剣な顔で湊がそう言ってきた。
「でももうフラれてるようなものだし、言っても恥じかくだけで意味ないだろ……」
そんな俺の返答に、また湊は「はぁーーーー」と長いため息を吐いた。
そして呆れた目でこちらを見ると「ならずっと引きずっとけ」と言って、先を歩いて行った。
「待てよ!」
俺は慌てて湊に声をかけた。
それでも湊はこちらを振り返りもせず「臆病者に教えられる事はもうない」と言って、ヒラヒラと手を振った。
その言葉にイラッとはしたが、何も言い返せず下を向いた。
『臆病者』
その通りだから。
今まで面倒な事から逃げ続けた。
逃げ続けた結果、向き合い方が分からなくなった。
今もこの苦しい気持ちから早く解放されたくて仕方がない。
俺は手にギュッと力を込めた。
「……本当にちゃんとフラれれば、早く忘れる事ができるのか?」
不安気に顔を上げると、湊は振り返ってニッと笑っていた。
「何も言わないよりはな」
湊は俺の所に戻って来ると、グシャグシャっと俺の頭を撫でてから肩を組んできた。
「な、なんだよ! 暑いから離れろよ!」
「いやー、あの何にも執着しなかった朝陽がここまでになるなんてな……なんか感慨深くなっちまって」
そう言って湊は空を仰いだ。
「うるせーな。お前は俺の母親かよ」
「ん? うーん、母親というより兄のような気持ちだな」
「何が兄だよ。俺よりちょっと誕生日が早いだけだろ」
ほんの1ヶ月の違いで何を兄貴ヅラしてんだか。
呆れた目で湊を見ると、目が合った湊はニヤリと悪い笑みを浮かべた。
「いやだってお前まだ童貞だろ?」
「は、はぁー!? お前、今それ言う?」
な、なんて言葉でマウントとってくるんだよ!
確かに童貞だけど、別に今言わなくてもいいだろ!
予想外の言葉に驚いて恥ずかしくて、俺の顔がとても熱くなっている。
多分顔が赤くなっているので、隠す様に顔に手をあてる。
「ハハハ、お前が動揺すんの珍しいな。これからも使っていこう」
「使うな!」
俺で遊ぶ湊を精一杯の抵抗で睨みつけた。
「今日のお前の怒り方はプンスコって感じだな。それだとただ可愛いだけだよ朝陽君」
何だよそれ。
ムカつくムカつくムカつく!!
ハハハと笑う湊の顔面目掛け渾身の一撃を放った。
「うおっ!? あっぶねー」
そう言って湊は俺のパンチを手のひらで受け止めた。
「チッ」
「つーか、痛ぇぇ。お前結構本気で殴ってきただろ!」
「俺は真剣なのに、お前が茶化すからだろ」
「確かに可愛いって言って悪かった……って、危ねーだろ!」
「チッ」
またもや顔面への一撃がかわされてしまった。
「分かった、分かった。俺が悪かった。お前が振られてきたら、誰か紹介するから機嫌直せよ」
「いや別に紹介はいらない」
「何言ってんだよ。失恋を癒すなら新しい恋に決まってんだろ」
「え?」
「キッパリ振られてから、後悔なく次を探すんだよ」
「でも別に彼女が欲しいわけじゃないし……」
「早く忘れたいんだろ?」
「それは……そう」
「なら決まりだな」
「え?」
「お前、明日音瀬さんに告白してこい」
「え?」
「そしたら明日は遊びに行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待って……」
「そしたら今から声かけとかないとな……じゃ、俺忙しいからちょっと先に行くわ!」
「え? ちょ、ちょ、ちょっと待って!」
俺の返事も聞かずに湊は誰かに電話をかけながら、走って行ってしまった。
え? 本当にちょっと待って。
俺、明日音瀬に告白するのは決定事項なの?
……でも、こうでもしないと俺はいつまでも告白なんてしないだろうな。
早くこの気持ちから解放されたいなら、確かに早い方が良いに決まってる。
よし、決めた。
湊の言う通りにするのは癪だが、俺は明日音瀬に告白する!
それで……振られる。
そしたらこのズキズキとした胸の痛みも治って、またいつもの日常に戻るんだ。
あの平穏の日々に……。




