表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
CHERRY─彼女が狩人になった理由─  作者: 彩心
第二章 二学期

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

14/20

第14話 臆病者

 「えっ! 律が!」


 たまたま帰りが一緒になった湊に「音瀬と佐藤は付き合っているみたいだ」と言うと、湊は驚いていた。


 「うわぁー、マジか。律ってそうだったのかよ」

 「何が?」

 「いや別に……」


 湊は歯切れ悪くそう答えると、誤魔化すように話題を変えた。


 「で、お前はへこんでる訳か」

 「べ、別に凹んでなんて……」

 「どう見ても凹んでんだろ。だから言っただろ? 『本当にそれでいいのか?』って」


 ぐぬぬ……湊に何でもバレてしまっているのが悔しい。


 俺は諦めて「フゥー」と溜め息を吐いて、湊を見てコイツに隠し事は無理だったと諦めて笑った。


 「何だよ。俺の顔見て急に笑うなよ」

 「いや、隠し事できないなと思ったら笑えてきて」

 「お前何回もそう言うけどな、結構顔に出るから分かりやすいんだよ」

 「そんなに? 俺自分ではポーカーフェイスだと思ってたんだけど」

 「ブハァッ! ハハハ、お前がポーカーフェイスって、ウケる!」


 何がツボったのか分からないが、湊はずっと笑い続けている。

 俺の背中を笑いながらバシバシ叩かないでほしい。

 俺がムッとした顔をすると、湊は「ごめんごめん」と謝りながら、目元の涙をぬぐった。


 「で? 失恋した朝陽君はどうしたいんだ?」

 「失恋がこんなに苦しいなんて知らなかったんだ……できる事なら早くこの気持ちを無くしたい。お前なら分かるだろ? どうやったら早くこの気持ちを無くせるんだ?」


 俺がそう聞くと湊は「はあー」と大きなため息をついて、片手で顔をおおった。

 

 「どうしたんだよ」

 「お前の馬鹿さ加減に呆れてた」

 「何が馬鹿なんだよ! お前が言ったんだろ! 相手の迷惑になるなら恋心を消せって!」

 「言ったけど、お前はまずやるべき事をやってないだろ」

 「やるべき事って何だよ」

 「お前音瀬さんに『好き』って気持ちちゃんと伝えたのかよ」

 「そんなの言わなくても答えなんてもう分かりきってるだろ……」

 「それが馬鹿だって言ってるんだよ」

 「はぁ?」

 「ちゃんと自分の気持ちを伝えてフラれてこい。でないと後悔が残って、中々忘れられなくなるんだよ」


 いつになく真剣な顔で湊がそう言ってきた。


 「でももうフラれてるようなものだし、言っても恥じかくだけで意味ないだろ……」

 

 そんな俺の返答に、また湊は「はぁーーーー」と長いため息を吐いた。

 そして呆れた目でこちらを見ると「ならずっと引きずっとけ」と言って、先を歩いて行った。


 「待てよ!」


 俺は慌てて湊に声をかけた。

 それでも湊はこちらを振り返りもせず「臆病者に教えられる事はもうない」と言って、ヒラヒラと手を振った。


 その言葉にイラッとはしたが、何も言い返せず下を向いた。


 『臆病者』


 その通りだから。


 今まで面倒な事から逃げ続けた。

 逃げ続けた結果、向き合い方が分からなくなった。


 今もこの苦しい気持ちから早く解放されたくて仕方がない。


 俺は手にギュッと力を込めた。


 「……本当にちゃんとフラれれば、早く忘れる事ができるのか?」


 不安気に顔を上げると、湊は振り返ってニッと笑っていた。


 「何も言わないよりはな」


 湊は俺の所に戻って来ると、グシャグシャっと俺の頭を撫でてから肩を組んできた。


 「な、なんだよ! 暑いから離れろよ!」

 「いやー、あの何にも執着しなかった朝陽がここまでになるなんてな……なんか感慨かんがい深くなっちまって」


 そう言って湊は空をあおいだ。


 「うるせーな。お前は俺の母親かよ」

 「ん? うーん、母親というより兄のような気持ちだな」

 「何が兄だよ。俺よりちょっと誕生日が早いだけだろ」


 ほんの1ヶ月の違いで何を兄貴ヅラしてんだか。

 呆れた目で湊を見ると、目が合った湊はニヤリと悪い笑みを浮かべた。


 「いやだってお前まだ童貞だろ?」

 「は、はぁー!? お前、今それ言う?」


 な、なんて言葉でマウントとってくるんだよ!

 確かに童貞だけど、別に今言わなくてもいいだろ!


 予想外の言葉に驚いて恥ずかしくて、俺の顔がとても熱くなっている。

 多分顔が赤くなっているので、隠す様に顔に手をあてる。


 「ハハハ、お前が動揺すんの珍しいな。これからも使っていこう」

 「使うな!」

 

 俺で遊ぶ湊を精一杯の抵抗で睨みつけた。


 「今日のお前の怒り方はプンスコって感じだな。それだとただ可愛いだけだよ朝陽君」

 

 何だよそれ。

 ムカつくムカつくムカつく!!

 

 ハハハと笑う湊の顔面目掛け渾身こんしんの一撃を放った。


 「うおっ!? あっぶねー」


 そう言って湊は俺のパンチを手のひらで受け止めた。


 「チッ」

 「つーか、痛ぇぇ。お前結構本気で殴ってきただろ!」

 「俺は真剣なのに、お前が茶化すからだろ」

 「確かに可愛いって言って悪かった……って、危ねーだろ!」

 「チッ」


 またもや顔面への一撃がかわされてしまった。

 

 「分かった、分かった。俺が悪かった。お前が振られてきたら、誰か紹介するから機嫌直せよ」

 「いや別に紹介はいらない」

 「何言ってんだよ。失恋を癒すなら新しい恋に決まってんだろ」

 「え?」

 「キッパリ振られてから、後悔なく次を探すんだよ」

 「でも別に彼女が欲しいわけじゃないし……」

 「早く忘れたいんだろ?」

 「それは……そう」

 「なら決まりだな」

 「え?」 

 「お前、明日音瀬さんに告白してこい」

 「え?」

 「そしたら明日は遊びに行くぞ!」

 「ちょ、ちょっと待って……」

 「そしたら今から声かけとかないとな……じゃ、俺忙しいからちょっと先に行くわ!」

 「え? ちょ、ちょ、ちょっと待って!」


 俺の返事も聞かずに湊は誰かに電話をかけながら、走って行ってしまった。


 え? 本当にちょっと待って。

 俺、明日音瀬に告白するのは決定事項なの?


 ……でも、こうでもしないと俺はいつまでも告白なんてしないだろうな。

 早くこの気持ちから解放されたいなら、確かに早い方が良いに決まってる。

 

 よし、決めた。

 湊の言う通りにするのはしゃくだが、俺は明日音瀬に告白する!

 それで……振られる。

 

 そしたらこのズキズキとした胸の痛みも治って、またいつもの日常に戻るんだ。

 あの平穏の日々に……。

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ