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CHERRY─彼女が狩人になった理由─  作者: 彩心


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第11話

 あれから色々考えてみた。

 二度と会いたくないのか、それでも好きなのか。


 今はまだ音瀬に会いたいとは思わない。


 まんまと騙されていた馬鹿な俺を、心の中でずっと笑ってたんじゃないかと考えると、恥ずかしくて怒りが込み上げてくるからだ。

 それに騙されていたと知って、どんな顔で会えばいいのか分からない。


 「あーもう面倒くさい!」


 なんか全てがどうでも良くなってきた。

 あれからずっと音瀬の事ばかり考えている。

 もう感情がぐちゃぐちゃで考える事自体が面倒になってきた。

 もういい。

 もう音瀬の事を考えるのはやめよう。


 前回だってそうだった。

 また友達と遊んで楽しく過ごしていれば、音瀬の事も元カノのようにただの思い出になるさ。

 もう金輪際女子とは必要以上には関わらない!

 絶対にな!

 

 そう結論付けてから、週明けに俺は図書室に気合いを入れて向かった。

 この前あれだけ言ったのだから、音瀬はもう図書室には来ないだろう。


 でも、もし来たら?

 何食わぬ顔して『おはよー』とか言って来そうだ。


 その時は当たり障りのない態度で最低限に接して、眼鏡だけは返してもらおう。

 うん、そうしよう。


 そう意気込んでいたというのに、俺達が出会ってから初めて、音瀬は図書室に来なかった。


 なんだか肩透かしをくらった気分になるが、来ない事は良い事だ。

 だって女子とは関わらないと決めたんだから。


 次の日もその次の日も音瀬は来なかった。

 

 たまに図書室を利用する生徒がやって来るが、ドアが開くたびに俺はビクっとした。

 音瀬が来たんじゃないかと思って。


 来訪者の姿を確認してホッとした後、なぜか寂しい気持ちになったが、俺はそれに気付かないふりをした。


 そんなある日、図書室のドアが「ガラッ」と大きな音をたてて乱暴に開いた。

 こんな乱暴にドアを開けるのは湊だろうとそちらに目線をやれば、俺に当番を全て押し付けてきた佐藤 律が居た。


 「おっすー、久しぶりだな!」

 「あぁ、久しぶり。何か用?」

 「最近図書室に音瀬さんがよく来るって聞いて部活の合間に来てみた!」


 ニコニコしながらそう言った佐藤は、音瀬を探しているのかキョロキョロとしていた。


 「今日は音瀬さん居ないの?」

 「いないよ」

 「なんだよー、せっかく顧問の目を盗んで抜け出して来たのに! 無駄足だった!」


 佐藤はガッカリと肩を落とした。


 「音瀬に何か用でもあったの?」


 俺がそう言っただけなのに、佐藤は眼光鋭がんこうするどく俺を睨みつけてきた。


 「音瀬……だと? お前ごときが音瀬さんを呼び捨てにするな! 音瀬()()と呼べ!」


 佐藤は腕を組んで鼻息荒くそんな事を言ってきた。


 またかよ。

 サッカー部は皆こんな奴らばっかりなのか?

 そのうち音瀬をあがたてまつりそう……。


 「はぁー」とため息をついて呆れていると、佐藤は俺の顔をまじまじと覗き込んできた。


 「何だよ」

 「お前眼鏡やめたの? なんだイメチェンか?」

 「あぁー、眼鏡無くしただけ」

 「眼鏡無くしたって大丈夫なのか? ちゃんと見えてるのか?」


 今まで少ししか喋った事のない俺なんかを心配してくれる佐藤。

 こいつって実はいい奴だったのか?


 「大丈夫。無くても見えてるよ」

 「なら良かった。お前眼鏡ない方がいいんじゃね? なんか綺麗な顔立ちしてるし、隠すの勿体もったいねぇーよ」

 

 「ははは」と笑ってそこは誤魔化した。


 「佐藤! お前何恐ろしい事言ってんだよ!」

 

 ビックリしたーー!!

 いつのまにか佐藤の後ろに湊が居た。


 「おぉ湊! なんだ? お前も音瀬さん狙いか?」

 「ちげーよ。お前を探すついでにサボってるだけだ」

 「何だ、お前もサボりかよ」

 「それよりも、お前は朝陽の顔面の恐ろしさを知らないから、そんな事が気軽に言えるんだ!」

 「なんだよ藤真の顔面の恐ろしさって。何か顔に傷があるとか?」

 「そんな事じゃない。朝陽が顔をさらして歩いてみろ! 俺達の高校生活は終わる! 確実にな!」

 「高校生活が終わるってどういう事だよ?」

 「見れば分かる」

 

 湊はそう言うと俺の方を見た。


 何だよ。前髪を上げろって言いたいのか?

 まぁ、佐藤は男だし別にいいけど。


 俺は前髪をかきあげて、自分の顔が見えるようにした。


 「何だよ……お前、クソイケメンじゃねーか!」

 「そういう事だ」


 なんで湊が得意気なんだよ。


 「でも俺って本当にイケメンなのか? そこそことかじゃなくて?」

 「はぁ? 何言ってんだよ! 俺の悲惨な中学の過去をこの前話しただろう!」

 「湊って藤真と同じ中学だったの? それは悲惨だわ」


 はははと笑う佐藤を湊は軽く小突いていた。


 「でも音瀬はこの顔見ても何とも思ってなかったみたいだけど?」

 「おま、お前音瀬さんにその顔見せたのか?」

 「あぁ、なんか成り行きで」

 「どんな成り行きだよ。フッ……フフ……お前……それでもフラれたとか……」

 「うるせーな」


 笑う湊を横目に俺はぐしゃぐしゃになった前髪を整えた。


 「えっ、お前も音瀬さん狙いだったの?」

 「まーな……」

 「だよな! あんな美人一目みたら好きになっちゃうよな! でも、なんだ……元気だせよ!」

 

 別に元気だが、気を遣ってそう言ってくれる佐藤はやっぱりいい奴そうだ。


 『藤真ってさ、夏休み暇だろ? 俺の当番よろしくな!』とだけ言って、俺に無理やり当番を押し付けてきた佐藤だとは思えない。


 「フラれてるならさ、藤真の当番俺と変わってくれないか?」

 「え?」

 「俺、音瀬さんの事好きなんだよ。でも、接点が何もなくてさ……」


 照れながらそう言う佐藤を見て、俺は動揺した。


 いや、何動揺してんだよ。

 俺はもう音瀬とは関わらないんだから、どうだっていいだろ。


 「音瀬さんが図書室によく来るって聞いて、チャンスだと思ったんだ。藤真に当番全部押し付けておいて、今更何だって思うかもしれないけど、俺本気なんだ! 当番押し付けた事は悪かった!」


 そう言って佐藤は俺に頭を下げた。


 丁度良かった。

 残りの2週間、全て佐藤に変わってもらおう。

 いつ音瀬が来るのかと考えるのも面倒だったし。

 佐藤と変われば音瀬に会う事はもうないだろう。

 元々接点なんてないんだから。


 そう考えると何だか心にポッカリ穴が空いた気がしたが、その気持ちも無視した。


 「いいよ。明日から2週間毎日よろしくな!」

 「藤真! ありがとうな! 本当、自分勝手でごめん」

 「いいよ、別に」

 「藤真! お前って本当にいい奴だよな! 俺、頑張ってみるよ!」

 「あぁ……」


 俺の心はズキリ、ズキリと痛む。


 そんな時に小声で湊が「お前本当にそれでいいのか?」と聞いてきた。

 

 俺はそれにうなずきで返した。


 「お前はそう決めたんだな。分かった。おい、律! そろそろ部活に戻るぞ!」

 「あっ、確かにそろそろやべーな。藤真本当にありがとう! 明日からは俺に任せてくれ!」

 「……あぁ。部活頑張れよ」


 佐藤は笑顔で俺に手を振りながら、さっさと歩く湊と一緒に図書室を出て行った。


 その後ろ姿を見送りながら、俺の心はズキリとまだ痛んでいた。


 



 


 

 



 

 

 




 

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