友人
お昼寝の時間をもらったが、開いたままの本に再度視線を移して続きを読むことにした。
軟禁されているのか気になり始めたら眠気どころでなく、何かしていないと落ち着かなくなったからだ。
・・出入口のドアの他にいくつかの小窓はある。
が、人が通るにはギリギリ過ぎるし、羽がある僕には無理だ。
出るとしたらやはりドアからしかない。幸い、今ジャービスが部屋を出てから鍵をかけられた様子はなかった。
持っていた本をテーブルに置き、静かに椅子から立ち上がるとドアへ向かう。
部屋から出てみよう。
おそらく連れ戻されるだろうし、怒られないか少し怖いけど・・。
ドアノブに手をかけ少し重いドアを押すとジャービスが立っていた。
「あっ!」
ビックリして大きな声が出る。
「リチア様、どうされましたか?」
「あ・・あの・・。」
寝惚けましたなんて笑って誤魔化そうかとも思ったが、目をつぶり「よし」と心の中で決意を固め
「ジャービス・・。僕はずっとここから出られないの?」
と訊いた。前世の僕とは違うんだ。ハッキリ訊いてやる。
「リチア様・・。」
ジャービスが目を丸くしてこちらを見ている。
「申し訳ございません。・・少しの間、部屋から出てはいけない決まりなのです。外には危険な物も誘惑も多いので、少しずつ世界に慣れてもらいます。もう少ししたら部屋から出られますので今日はお部屋にお戻りください。」
こうして勇気を出して踏み出した一歩は部屋から出ることなく終わった。
-----数日後-----
ジャービスの言っていた通り、羽が動く動かないに関係なくお城の中を散策するという時間が設けられ、たまに部屋から出るようになった。
ある時、城内の広い廊下をジャービスと歩いていると、人だかりができている部屋があったので足を止めた。
背伸びして見てみると、部屋の中央には両手で持てるくらいの大きさの卵が置かれている。
「間もなく生まれるので皆で見守っているのですよ。」
人だかりに混ざってキョロキョロしていたらジャービスが教えてくれた。
卵から音がしたかと思うと少し亀裂が入った。
なんとなく鳥が生まれるのかと思って見ていたが、隙間から猫のような姿が見えたので少し驚く。この世界ではみんな卵から生まれるのかもしれない。
まだ目も開かないのに卵の殻を自分で割って出てくる様子に思わず「頑張れ!」と力が入る。
ジャービスによると、姿が完全に見えるまでは手助けをしてはいけない決まりとのことだ。
動物の誕生シーンは前世でも映像で見たことはあったが実際目の当たりにすると感動する。
なるほど。僕もこうやって誕生したのか。
周りに人がいる様子だったのに誰も助けてくれなかったのはそういう理由があったのだ。割れるまで大変だったな~と、昨日のことなのに懐かしく感じる。
「僕が生まれた卵はこれよりもっと大きかった?」
隣にいるジャービスを見て訊いてみる。ジャービスもあの現場にいたのか分からないけど。
「・・そうですね。リチア様が生まれた時はもっと大きく頑丈でした。」
そう答えたので、やはりジャービスも見守ってくれていたらしい。
今生まれた動物は猫なのかウサギなのか分からないけど「みゃー、みゃー」と鳴いていて、誰かに抱えられ部屋から出て行った。
「さて、そろそろお部屋へ戻りましょうか。」
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夜、一人になったのでベッドへ移動する。
部屋から出られるようになった分、やはり疲れは溜まる。
だけどジャービス以外の人との関わりも増えて楽しくなってきた。
何より今日は感動の誕生シーンにも立ち会えたし。
羽を動かす練習や読書も順調なので明日も頑張ろう、と思いながら目をつぶる。
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コツッ
何かが窓に当たったような音がした。
ベッドから下りて窓の近くに行く。が、何もない。
窓を背にしてベッドに戻ろうとすると
カンカンッ
今度は確実に何かが窓を叩いている。
見たところ何もないが窓を開けてみる。
すると水色の小さな光が部屋の中へ入ってきた。
「やぁやぁ、久しぶり~!しばらく姿を見てなかったけど元気だった?」
入ってきたのは妖精だ。それも小さくて可愛い。
呆気にとられていると妖精が眉をひそめ話を続ける。
「あれ?友人の私を忘れた?サーピエリだよ。・・というか羽の色が変わってるね。もしかして終わっちゃったのかな。」
「・・誰?」
「あー!やっぱり!そうかなぁとは思ってたんだよね~。せっかく仲良かったのに忘れられて残念だよ。では改めて、私はサーピエリ。君の今の名前は?」
「・・リチア。」
「リチアね!よろしく。私のこともサーピエリって呼んでね。ところでリチアのお世話係は誰?・・ふーん。ジャービスか。あいつは私のことを嫌ってるから私のことは内緒にしててね。その代わり、知りたいことがあったら教えてあげるよ。」
突如現れた友人の話に頭がついていかない。
「え?えっと・・。」
怪しさ満載だけど色々と教えてくれるのは正直ありがたい。
胡散臭いなと思ったら信じなければ良いだけだし、まずは話を聞いてみよう。