特訓と思惑
「おはようございます、リチア様。」
無事に朝を迎えた。
朝日は眩しいし、目覚めのダルさもちゃんと感じる。
これで生まれ変わった説にだいぶ近付いた。
しかし世界観と自分の立場が分からないことには変わりない。
歩くことも話すことも出来ない赤ちゃんだったらお世話してもらうのも単純に理解できるが、僕は最初から歩けるし話をすることだって出来た。見た目も赤ちゃんではなく、それなりに成長している姿だ。
まだ親らしき人物には会っていないが、由緒正しき家柄の子として生まれたから特別扱いされているのだろうか。
性別が分からないことも何か関係しているかと思ったが、それも重要視されている様子は今のところ特にない。
朝食を運んで来てくれたのでそれを口にしながら考える。
そういえば寝る前に「明日から勉強と仕事」と言われた。
もしかして朝から晩まで重労働をしたり、実験や研究対象として何かさせられたりするのだろうか。
呑気に爆睡しておいてなんだが、夢じゃないとすると聞くのが怖くなってくる。
・・こちらからは話題に出さないでおこう。
「お食事は済みましたか?」
ジャービスの冷たい視線を感じる。
「は、はい!ごちそうさまでした!」
ジャービスがペンで紙に何かを書き込む。
「では次に・・」
いよいよだ!
戦わせられたり売られたりする妄想が拡がり、下を向いて拳をギュッと握る。
「今日はこれから羽を動かす練習と読書をしてもらいます。」
「・・・へぇっ?・・それだけ?」
拍子抜けして変な声が出た。
「・・?はい。大事なお勉強です。」
ジャービスが眉をひそめて言う。
いや。それだけの訳がない。
羽を動かせなかったら役立たずとみなされ捨てられるのかもしれないし、絶対に何か裏がある。
なんとかして羽を動かせるようにならなくては、と席を立ち早速練習に取り掛かるがやはり難しい。
肩や腕しか動かず、四苦八苦しているとジャービスに声をかけられた。
「まずは感覚を掴みましょうか。リチア様、前を向いてて下さい。」
言われた通り、前を向いたまま背筋を伸ばす。
「羽に触れますね。失礼します。今どちらの羽に触れているか分かりますか?」
・・凄い!
肩でも腕でもなく、ジャービスの手が別の場所に触れているのが分かった。
羽だけ触れられたことで、感覚が少し掴めた気がする。
「左!」
「そうです。さらに、背中に近いのか羽先なのかで感覚が違います。」
なるほど。漠然としていたが意識のさせ方が分かってきた。
感覚を掴むまでそれを繰り返していたが、後ろに立っていたジャービスがふいに目の前に移動して来た。
「ではリチア様、手をこのように動かしてみて下さい。次に足です。その流れで羽です。」
ピクッ。
ジャービスの真似をして動いたら僅かに左の羽が動いた。
「あっ!!」
嬉しくてジャービスを見ると「そうです」と微笑んでいる。
この調子で動かすぞと意気込むが、また羽は微動だにしなくなった。
「リチア様は身体がかたくなってますので、全身をリラックスさせると羽も動かしやすくなりますよ。」
ジャービスに言われたので深呼吸をしてリラックスを心掛けるが、数回ピクリと動かすことに成功しただけで、あっという間にお昼になってしまった。
昼食を摂ると、今度は読書の時間だと言われた。
文字はなんとなく読めるが内容が難しくて眠くなり目をこする。
羽の練習が成功できていない分、頭の良さをアピールしなくてはと自分に言い聞かせるが文字はぼやける一方だ。
それを見ていたジャービスが
「少し休憩にしましょう」と言う。
「いや!大丈夫です!まだ読みたいです!」
急いで姿勢を正しジャービスに訴える。
「いえ。眠い時は寝て下さって結構ですよ。目が覚めた頃にまた参りますね。ゆっくりお休み下さい。」
そう言うとジャービスは部屋から出て行った。
羽を動かすことだけでなく、読書もまともに出来なかった。
一人になると、期待に沿えなかったという焦りが出てくる。
それにしても昼寝まで許されるなんて・・やはりこの好待遇は怪しい。
油断させておいていずれ生贄にでもさせられるのだろうか。
そういえば今はかけられていないが、昨日この部屋には鍵がかけられ出られないようになっていた。何不自由なくといえば聞こえは良いが、もしかしてこれは軟禁と監視をされているのか?とそこでようやく気が付いた。