最初の仕事
呼吸を整えてるうちに視界もはっきりしてきて遠くも見えるようになった。
見えるようにはなったが、結構な人数がいるわりにみんな動かないのでマネキンを見ているようだ。
先程までのざわめきとは打って変わって一帯が静寂に包まれている。
眩しいと思った部屋も目が慣れるとそうでもなく、天使(仮)が生まれるには少し明るさが足りないくらいだ。
「えーと・・。」
声を発したらまた騒がしくなり、人々が動くのが見えた。
と、同時に気を失った。
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目が覚めるとそこは大きなバスタブの中だった。
気を失っている間に身体が洗われていたらしい。
「リチア様、お召し物です。」
どうやら僕はリチアという名前のようだ。
「あ、どうも。」
シンプルなワンピースのような物を差し出してくれたのでそれをモゾモゾと着る。スカートは穿いたことがなかったので少し落ち着かない。
しかし、それ以上に気になるのはやはり羽の存在だ。
服は窮屈なんじゃないかと思ったが、背中の羽の部分があらかじめ開いていたので意外と気にならない。
服を着ると肩越しに見える羽を動かそうとしてみる。
肩が動くのに合わせて羽も揺れる。が、それだけだ。
空を飛べるのかと思ったが今のところ飛べる気配はない。
「リチア様、お付きの者が参りました。」
そうこうしているうちに細身の長身で長い黒髪の男性が目の前に現れた。
「今日から身の回りのお世話をさせていただきます、ジャービスと申します。何かありましたら私にお声掛けください。」
・・この人にも羽が生えている。
天使というよりは妖精とか蝶々とかそんな感じなので種類は違うけど。
羽は自分だけの特権かと思ったが周りを見渡すと珍しいわけではなさそうだ。特別な存在なのかもしれないと思った自分が恥ずかしい。
「あ、はじめまして。あの~、確認なんですけど僕はリチアという名前でいいんですよね?」
「はい。皆でリチア様と名付けさせていただきました。」
「そうなんですね。それじゃあジャービスさん、よろしくお願いします。」
「ジャービスで結構です。」
「あ、分かりました。・・えーと、それで僕はこれから何をしたら・・?」
「リチア様にはしていただく勉強や仕事がありますが、今日はごゆっくりお休みください。お食事もお部屋までお持ちします。ではリチア様のお部屋をご案内します。」
テキパキと部屋まで案内され中に入ると、テーブルや椅子、洗面台や大きなベッドなど様々な物が揃っていた。立派な部屋で、ここだけで生活できそうだ。
部屋の中をキョロキョロしているとすぐに食事が運ばれてきた。
スープや野菜ばかりだったけどそれでもお腹いっぱいになり、満足して眠くなってきた。眠気と闘いながらなんとかベッドまで移動すると更に眠気に襲われる。
明日から何をするんだろう。
羽があると仰向けでは寝られないことに気付き、うつ伏せになったり横向きになったりしながら考える。
夢なのか本当に生まれ変わったのかも分からない。
どちらにしても身体は元気だし、あれこれ考えるもこともまだないので気持ちは楽だが。
未知の世界なのに全く不安はなく、フワフワと楽しい気持ちに包まれている。
目覚めたら結局いつもの僕だったということがありませんように。
そう願いながら深い眠りについた。