20 恐れていた最悪の答え。ゆえに、交渉決裂
腹立たしさを抜きにしてみれば、権蔵たちも日本に戻るつもりでいるはずなのだ。彼らと一緒に行動することは、決して悪い選択肢じゃない。
待遇にこそ不満は残るが、武具を持たない今の状態よりは、いくらか安全に暮らせるとも言えた。しばらく一緒に生活し、打ち解けてくれば、おのずと関係も修正されるだろう。
ゆえに、真司は翔太朗たちに向かって首を横に振った。
合流すべき対象が、④班以外に考えられない以上、この条件で飲むしかないと伝えたかったのだ。
妥協に妥協を重ねたような結果だったが、仕方がない。
「……わかった。その場合、まずは何から始めればいいんだ?」
「とりあえずは、そうだな。ある程度まで、楽に寝起きできるように身の回りを整える。飯の心配をしなくていいようになったら、旅の支度をして現地人に会う。めでたく出会えた先の話は、その時にでも考えりゃいいだろう」
「OK。日本への戻り方は、土着の人間に尋ねていく方針なんだな?」
「……は? 何、言ってんだ。そんなのしねえよ。酒と車とのために決まってんだろうが……。おいおい、⑤班。お前らまさか、地球に帰るつもりでいるのかよ?」
およそ、考えうる最悪の返答だろう。
翔太朗たちにとって、④班の持つ帰還プランは絶対条件だ。ゆえに、その概要を問うた真司の言動に、非はない。それどころか、早い段階で互いの齟齬を知られて、よかったとさえ言える。
だがしかし、いくらなんでもこれは想定外だ。
フィニアスと別れたという話から、権蔵たちが戻りたい派であると、完全に信じてしまっていた。
だのに、答え合わせがこれとは。
もちろん、今にして思えば、それらしき兆候がなかったとも言い切れない。権蔵が調査員になった動機は、とりもなおさず、再度の飲酒と自動車の運転とにあったからだ。常識的に考えれば、日本での自由を手にしたいような口ぶりだが、パースの代替品でも、満足できるということを含意している。
自分たちは警戒を解くのが早すぎたのだ。
つかの間、鳩が豆鉄砲を食ったように、呆けていた真司だったが、すぐに焦ったように説得を試みていた。そのジェスチャーも知らずしらずのうちに、大げさなものになって来ている。
珍しい。
真司が本気で戸惑うことなぞ、これまでになかっただろう。
「待てよ、権蔵。こんなところに永住するつもりでいるのか? 曜介、お前もか!?」
「う~ん、俺も当分は帰る気ないかな~。お前たちが戻りたいって言うなら、のちのち⑤班が頑張って集めた帰り方を、借りるだけでい~や」
なんと悠長な心構えだろうか。
翔太朗たちが、無事に帰還方法を見つけられる保証はないし、ましてや、苦労して探しだした手段ならば、そう易々と教えて貰えない可能性だってあるのだ。もちろん、実際にそうなれば、わざわざ⑤班が隠し立てすることはないだろうが、それにしたって楽天的が過ぎる。
沈黙。
どっしりとした重たい気配が、翔太朗たちの体にのしかかって来ていた。
畢竟、それが答えである。
「終わりだな」
今度こそ決着がついたと言いたげに、権蔵が踵を返す。拠点の修繕という、先ほどまで自分がしていた作業に戻ったのである。
真司が訴えるように翔太朗に視線を送った。どうやら、ダメ押しの一手を考えておくべきだったと、ここに来て翔太朗に謝罪しているようだった。
「女だけは置いていってもいいぞ。足手まといの世話は、無防備のお前らには荷が重いだろうからな。お前たちも、そのために連れてんだろう?」
「一人増えたくらいじゃ、詰まんね~ままだよ。旦那~」
愛莉を匿うという話は、明らかに、女性としての役割を期待した意味合いである。曜介の能天気さ加減にも、ここまで来ると呆れるしかない。
無論、そんな提案で安心するような愛莉ではない。彼女は不愉快さを隠そうともせず、これ見よがしに盛大な溜め息をついていた。
どうにか共存を成立させようと、躍起になる真司だったが、当然ながら芳しい手応えはない。
そんな班員とは対照的に、翔太朗の心はひどく落ち着いていた。
なぜならば、権蔵たちの説得が、容易に行えると思われたからである。
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