表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
2/25

2 異世界への入口――霞が関地下

 死刑囚星野(ほしの)翔太朗(しょうたろう)を含む、調査員三六名が大阪拘置所を出発したのは、深夜の出来事だった。


 行き先は知らされていないが、着くのは朝方であるので寝ていろという。それだけの時間があれば、東北より下のどこにでも、自分たちを運ぶことができるだろう。


 あまり興味もなかったので、言われたとおりに翔太朗(しょうたろう)は目を閉じていた。

 それから五時間ほど経過しただろうか。

 太陽の気配を察した調査員たちが目を覚まし、互いに会話を始めている。

 普段であれば厳しく咎められる私語だというのに、見張りの男は何も注意しようとはせず、ただ、調査員の動向だけを神経質そうに見つめているのだった。


 いきなり変わる態度に面食らってしまうが、それだけ大きなことを任されたのだという使命感も、心なしか湧いて来るように感じた。


 翔太朗(しょうたろう)が目を覚ましたことに気がつくと、隣に座る男が顔色を窺いながらも彼に話しかけている。


「よう、星野(ほしの)翔太朗(しょうたろう)だよな?」

「そうだが……お前は?」

真司(しんじ)(たちばな)真司(しんじ)だ。月に一度の昼食会で、いつも顔を合わせているんだ。喋ったことはなくても、名前くらいは知っているだろう?」


「悪い、いつも一人でいたんでな」

「そう言えば、そうだったな。まあ、お前に比べれば俺は全然有名人じゃないよ」


 自分が有名人?

 どういう意味なのかと、当然のように浮かんだ疑問には、斜め前に座る男が答えてくれていた。何ともまあ、冷たい印象を受ける顔立ちだ。どうやら、この車内には全部で、一二人の調査員が乗っているらしい。


「そりゃお前は有名人だろう。お前の事件はみんなが知っている。高校生の時、交際していた((裕菜))輪姦(まわ)された。それを知ったお前は実行犯の六人を殺害。躊躇なく全員を殺しているんだ。惚れた女のためにそこまでできるとは、中々の男だよ。お前、見所あるぜ」


「そりゃどうも……」

「もっとも、隣のそいつに比べれば霞むがな」


 釣られて真司(しんじ)のほうに向きなおれば、彼から逆側だと諭される。そこには翔太朗(しょうたろう)でさえも知っている人物が座っていた。


「知らねえとは言わせねえぜ。ガキでも知っている、戦後最大の通り魔だ」


 永田(ながた)(たけし)。合計三二人をめった刺しにし、そのうちの二四人を殺害した死刑囚である。こんな大物まで大阪拘置所に収監されていたとは、今日の今まで全く知らなかった。


 無遠慮な男の言動にも、(たけし)は気にした様子を見せず、翔太朗(しょうたろう)に向かってマイペースに喋りだしている。


「俺さ、萩佳(しゅうか)さんのファンなんだよね」

萩佳(しゅうか)?」

天ノ梢(てんのこずえ)槇原(まきはら)萩佳(しゅうか)。知らない?」


 カルト教団天ノ梢(てんのこずえ)と言えば、何人もの死刑囚を作った日本で最大の団体だろう。たしか、その教祖の名前が槇原(まきはら)萩佳(しゅうか)だったような気がする。そのファンということは、(たけし)天ノ梢(てんのこずえ)の信者ということなのだろうか。


 いくらここにいる全員がアウトローとはいえ、さすがに翔太朗(しょうたろう)としても、カルト教団とはお近づきになりたくない。やんわりと断ろうとするが、どうやら(たけし)はそうではないらしい。


「すまないが、あまり詳しくないんだ――」

「ああ、勘違いしないで。俺は信者じゃないよ。俺が殺した人の中にも、信者っていたみたいだからね。誰を殺したかなんて、一々覚えていないけど。俺は萩佳(しゅうか)さんのファンなだけ。天ノ梢(てんのこずえ)なんかどうでもいいよ」


 それを聞いた斜め前の男は、(たけし)のことを鼻で笑う。


「はっ。お前も萩佳(しゅうか)に騙された口かよ。いるわけねえだろう『天使』なんて(笑)」

「凡人に、あのカリスマ性がわからないのは仕方ないことだよ」


 (たけし)に煽られ、男は手を出そうとするが、見張りが鋭く睨んだために腕を引っこめていた。


「やめろよ。俺たちはチームの一員だろう?」


 話の方向が読めず、翔太朗(しょうたろう)真司(しんじ)を見返す。


「ああ。翔太朗(しょうたろう)は寝ていたから、聞いていなかったよな。ここにいる調査員のうち、前方の六人で一つのチームとなる。俺たちは第⑤班、そして後ろの六人が⑥班ってわけさ」


 真司(しんじ)に促され、翔太朗(しょうたろう)が面々の顔を見回していく。

 真司(しんじ)・老人・女性・男・(たけし)、そして翔太朗(しょうたろう)

 意外だったのは、やはりそこに女性が混じっていたことだろうか。女性の死刑囚は珍しい。名前はそれぞれ、宗一郎(そういちろう)愛莉(あいり)拳斗(けんと)と言うのだと、のちに真司(しんじ)が小声で教えてくれた。


「みんなには悪いが、⑤班のリーダーは俺が任された。そういうことで一つ、よろしく頼むよ」


 真司(しんじ)が挨拶を終えたあと、翔太朗(しょうたろう)は彼と簡単な話を続けていた。

 自分だけが相手の過去を知っているのは、どうにも不公平だと思ったのだろう。真司(しんじ)翔太朗(しょうたろう)に、少しだけ自分の犯した罪について語ってくれた。曰く、人を殺すために放火したのだ、と。


 他人には言いにくいことを話してくれた。

 その気遣いは、真司(しんじ)を信用できる人間だと思わせるには、十分なものだった。

 まもなく、一同を乗せた車両が霞が関に到着する。

 異世界パースへの入口があるのは、その地下である。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ