表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18/25

18 文句なしのろくでなし

 些細な挙動も見逃すまいと、相手の身振りに細心の注意を払いながら、⑤班は曜介(ようすけ)へと近づいていく。


 僅かに離れた地点から、様子見を兼ねて真司(しんじ)が片手を持ちあげた。

 挨拶の代わりだ。

 対する曜介(ようすけ)は、こちらの存在に気がつくと、両手を頭上で振り回して、翔太朗(しょうたろう)たちを歓迎していた。


「⑤班じゃん! 元気していた? ってか、女の子もいるじゃん。いっけね、隠さね~と」


 言うやいなや、曜介(ようすけ)は洗濯途中と思わしき衣類を、その身にまとい始めた。まだ服も乾いていないだろうに、中々にせわしないやつだ。


 そのお気楽な態度に、翔太朗(しょうたろう)たちはついつい面食らってしまう。

 これから合流する④班が、もしも日本に戻りたくない派であったらば、いったいどうしようかと、人並みに警戒しながら歩いて来たこれまでの道程は、何だったというのか。


 油断は禁物。とは言え、半分近くの緊張はすでに解けてしまった。

 ほっと息を吐いたことを悟られないよう、注意深く辺りを見回した真司(しんじ)が、当然の疑問を口にする。


「お前ひとりか? ほかのメンバーはどうしている?」


 まるで事情を探るような聞き方であったが、曜介(ようすけ)は何も気にしていないらしい。

 つまらないことを尋ねるなと言いたげでこそあったものの、こちらを疑うこともなく、正直に答えてくれた。


「ん? いや、権蔵(ごんぞう)の旦那ならあっちにいるぜ。フィニアスとは別れた」

権蔵(ごんぞう)……」


 独り言ちるような返答に、翔太朗(しょうたろう)真司(しんじ)を訝しむ。

 だが、それには何も答えず、真司(しんじ)は首を横に振ると、曜介(ようすけ)に向きなおっていた。


「別れた?」

「あ~。だってあいつ、こんなところにまで来て、『殺人がして~』とか言っているんだぜ? 頭おかし~だろう」


 その言葉に、今度こそ翔太朗(しょうたろう)愛莉(あいり)とは、胸を撫でおろしていた。

 発言から察するに、そのフィニアスという何某は、十中八九戻りたくない派だろう。異世界での衣食住を整えるよりも前に、殺人衝動に駆られるような人間が、まともであるはずがない。間違っても、日本に戻ることなんぞ考えていないはずだ。


 裏を返せば、フィニアスと離れたからには、曜介(ようすけ)たちが戻りたい派であると見込める。

 ラッキーだ。

 正式な協力関係を築けていない以上、喜ぶのはまだ早いとしても、少なくとも、肩の荷をおろすことくらいは許されるだろう。


 ④班に話がある。そう言って、真司(しんじ)曜介(ようすけ)権蔵(ごんぞう)のもとまで案内させた。

 茂みの先。

 巨木の一部が天然の(うろ)となって、雨風を凌げるようになっている。

 いい場所だ。

 こんなところを見つけていたのであれば、なるほど、そう簡単に移動はしないだろう。

 曜介(ようすけ)の「旦那」という口ぶりから、薄々わかっていたことではあったが、もう一人のメンバーは中年の男だった。その姿を見るにつき、再び真司(しんじ)がその名を呟く。


柴田(しばた)権蔵(ごんぞう)……」

「なんだ? どこかで会ったか」


 これまたずいぶんと面倒臭そうに、曜介(ようすけ)の連れて来た翔太朗(しょうたろう)たちを権蔵(ごんぞう)は見回す。


権蔵(ごんぞう)、なんでお前が調査員なんかになっているんだ。お前は死刑囚じゃないだろう」

「えっ、そうなん?」


 驚いた声で聞き返していたのは、同じ班員の曜介(ようすけ)だ。その様子に、権蔵(ごんぞう)が呆れるような視線を送っている。おおかた、本人が失念しているだけで、曜介(ようすけ)には事情を話してあるのだろう。


 翔太朗(しょうたろう)愛莉(あいり)とも、真司(しんじ)に言葉を促すようにして彼を見やる。


「ああ、こいつは懲役三十年を食らった大物だよ」

「よく知っているじゃねえか! 役満だぜ? 褒めてもいいぞ」


 言って、権蔵(ごんぞう)が卑猥な笑みを浮かべた。

 日本の懲役刑――つまり、罰として働けというペナルティーは、有期の場合だと、最大でも二十(・・)年にしかならない。ただし、これは一般のケースの話であって、ここから条件つきで一・五倍にまで跳ねあがる。


 有期というのは言葉どおりの意味で、期限が定まっているということである。したがって、期限の定まっていない(・・・)刑罰――無期刑は、当然ながら、有期よりも罪が重いことを意味している。無期懲役というのは、少なくとも三十年以上を指しているのだ。模範囚であるならば、十年も経てば無期懲役であっても、豚箱から出て来られるなぞとうそぶく議員は、仕事もしないで寝てばかりいるので、知らぬ間に頭の病にでも罹患したのだろう。嘘しか言わないのだから、いっそ辞職したほうが国のためでさえある。


 ゆえに、懲役三十年という数字は、上限いっぱいということであり、尋常ではない。


「何をやったんだ?」


 権蔵(ごんぞう)から視線を外さずに翔太朗(しょうたろう)が尋ねれば、同じようにして真司(しんじ)が答えてくれていた。


「飲酒運転だ」

「常習犯か……」


 そうでなければ、加重刑罰((一・五倍))なぞ受けていないだろう。

 翔太朗(しょうたろう)の返事を肯定するように、真司(しんじ)が肩を竦めれば、対面する権蔵(ごんぞう)は、その場で誇らしげに高笑いをあげていた。


「ハッハ! 酒も楽しい。車も楽しい。とくりゃ、飲んで運転するのが、一番楽しいに決まっているだろう? それだけのことだ(こった)


権蔵(ごんぞう)の旦那は『三十年も酒が飲めないなんて、我慢できね~』って理由で、パースの調査員になったからな。筋金入りだぜ~。あっ! だから、死刑囚じゃないってことか、なるほどな~」


 手を叩いた曜介(ようすけ)が独りでに納得している。

 パースの調査員は、日本各地の死刑囚がベースとなっているが、その一部には、権蔵(ごんぞう)のような重罪犯が含まれている。刑務所内での懲罰を恐れない、素行不良の囚人は、その規律の維持に想像以上の手間がかかるので、いっそのこと、パースに送ってしまったほうが何かと都合がよい、というのがその理由であった。ありていに言えば、駄々をこねた結果なのである。


「ちっ、余計なことまで喋ってんじゃねえよ。……それで、お前たちは何しに来た?」。


 本題に入る。

 その予感で一瞬、翔太朗(しょうたろう)たちに緊張が走った。

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ