表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
11/25

11 拘置所よりもまずい飯

 最悪な想像を、いつまでも続けていても仕方がない。気がめいって来るだけで、生産的に活動しようとする気概さえもが、見るみる削がれてしまう。


 気分を変えようと、翔太朗(しょうたろう)は摘んで来た草木の新芽を見せながら、食事の提案をしていた。


真司(しんじ)、そろそろ胃に物を入れないか? ちょっと探しただけでも、これだけ見つかったんだ。ちゃんと見つけて来れば、それなりの量になると思う。今度は俺が行って来るから、愛莉(あいり)とここで待っていてくれ」


 だが、真司(しんじ)が返事をするよりも早く、愛莉(あいり)がぴしゃりと翔太朗(しょうたろう)の意見を一蹴する。


「これだけあれば十分でしょう! そんなことより、この洞窟に逃げこめるのかどうか、今のうちに確かめておかないと!」


 翔太朗(しょうたろう)が採集した新芽の数は、多く見積もっても一〇個程度。それを三人で分けようというのだから、とても満足のいくものではない。


 先ほどの一件から、愛莉(あいり)に対して不満を隠そうとしなくなった真司(しんじ)は、そんな彼女のことを鼻で笑っていた。


「自分は先に食べたので、もう要りませんってか? お前、何様だよ」


 だが、それに対して、愛莉(あいり)は臆することもなく、顔を歪めて嘲笑うように答えていた。


「それは翔太朗(しょうたろう)まで疑うって意味? 少しは考えて話しなさいよね」


 真司(しんじ)を待たずに、愛莉(あいり)が食事を始めていたのであれば、当然に翔太朗(しょうたろう)も共犯者でなければならない。そうでなければ、愛莉(あいり)の身勝手さを、翔太朗(しょうたろう)真司(しんじ)に告げてしまう恐れがあるからだ。


 なるほど。翔太朗(しょうたろう)愛莉(あいり)が怪我人であることを鑑み、甘い判断を下して、彼女の非行を真司(しんじ)に話さないかもしれない。だが、それも結局は、愛莉(あいり)の暴走を翔太朗(しょうたろう)が隠蔽していると、彼を疑うことになる。


 実際は、真逆と言ってもよかった。

 食事を先に摂ったらどうかと話した翔太朗(しょうたろう)のほうが、愛莉(あいり)に窘められた形だからである。むしろ、翔太朗(しょうたろう)のほうが真司(しんじ)を裏切っていたとさえ、評価できるだろう。


 悪化する班の雰囲気に、翔太朗(しょうたろう)は内心、勘弁してくれと愚痴を漏らした。


「……。この中を覗きに行くとしても、飯が先だ。入ったっきり、しばらくは出て来られないなんてことに、なりたくはないからな。食える物があるなら、その場そのばで手にいれるべきだろう」


 真司(しんじ)の同意も得られた以上、座っているのは時間の無駄だ。

 宣言どおり、翔太朗(しょうたろう)が一人で向かおうとすれば、愛莉(あいり)が自分も行くと言い出していた。そこまでして、真司(しんじ)と一緒にいたくないのだろうか。


 正直、愛莉(あいり)には自分の足の療養に、専念して貰いたいのだが、真司(しんじ)も彼女と言い争うことに疲れたのか、結局は、全員で食料を探す方向に心を固めていた。


 三人が森の中へと入っていく。

 少しして、翔太朗(しょうたろう)と二人きりになれるタイミングを作った真司(しんじ)が、小声で話しかけて来ていた。


「さっきは悪かった。……頭に血が上っていて、冷静じゃなかった」


 翔太朗(しょうたろう)を疑うつもりなのかと、愛莉(あいり)に言い返された件についての話だろう。

 もちろん、翔太朗(しょうたろう)は怒ってなぞいない。

 第一、そもそもの原因は愛莉(あいり)の側にあるだろうと、翔太朗(しょうたろう)真司(しんじ)を庇っていた。


「いや、さすがにあれは愛莉(あいり)が言い過ぎただろう。……だが、俺も真司(しんじ)には悪いと思うが、一度、相手を助けると決めた以上は、できるだけ愛莉(あいり)を見捨てたくない」


 真司(しんじ)の目を見つめながら話せば、彼も翔太朗(しょうたろう)に本心を打ち明けてくれる。


「それについては、いまだに俺は否定的だよ。翔太朗(しょうたろう)、お前と二人だけのほうが、うまくやっていけると思う。もっとも……」


 言いかけた台詞の続きが気になって、翔太朗(しょうたろう)は小首を傾げてみたが、真司(しんじ)は何でもないふうを装うばかりだった。


「わからん。事情は変わるかもしれん」


 真司(しんじ)の真意は気になるところだが、あまりに長く彼と内緒話をすることで、愛莉(あいり)の心証が悪くなるのは避けたい。かろうじて今は、翔太朗(しょうたろう)が蝶番の役目を果たしているが、それも何をきっかけに急変してしまうのかは、残念なことに不透明なのだ。


 食料の調達に専念しよう。

 そうやって集めたいくらかの新芽と、食べられるかどうかのわからない腐りかけの果実とを、全員で分けていく。


 ようやくの食事だ。

 洞窟に戻る体力もなかったので、休憩がてら、三人はその場に座りこんでいた。

 体を動かす熱量に飢えている。

 一同が真っ先に手にしたのは、もちろん果実のほうだ。

 口端から出かかる涎を拭いながら、がぶりと思い切りかじりつけば、舌の上に新鮮な甘みが広がった。


 旨い……。

 だが、直後に感じる猛烈なえぐみは、ぺっと唾を吐き出すには十分過ぎるものであり、口に残ったびりびりとした感触を紛らわすために、翔太朗(しょうたろう)はべろを前に伸ばしながら、何度も音を立てて息を吸っていた。


 とてもではないが、食えたものではない。

 見れば、真司(しんじ)も似たような状況にあるらしい。目が合うと、こちらに苦笑いを返して来ていた。

 果実は諦め、仕方なく新芽に手を伸ばす。


「……」


 先ほどとは違って、食べられないほどに酷い味でこそないものの、これを主食に生きていきたくはないという、薬品のような苦みがした。


 意外だったのは、ここでも愛莉(あいり)が一つの文句を言わずに、淡々とそれらを食べていたことだろう。驚きのあまり、翔太朗(しょうたろう)が美味しいのかと尋ねれば、呆れたように愛莉(あいり)は眉をひそめていた。


「まずいに決まっているじゃない、馬鹿なの?」

 コメントまでは望みませんので、お手数ですが、評価をいただけますと幸いです。この後書きは各話で共通しておりますので、以降はお読みにならなくても大丈夫です(臨時の連絡は前書きで行います)。

 次回作へのモチベーションアップにもつながりますので、なにとぞよろしくお願いいたします。(*・ω・)*_ _)ペコリ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ