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あの星に煌めきを  作者: そーら
第一章 煌めきに導かれた少女
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救いたい一歩

 



 蘭が秀一郎に連絡した翌日、丁度休日だったこともあって彼女たちは事務所に来ていた。


「急に呼び出して済まないね。最近、少し忙しくしていて連絡も疎かになってしまっていたことを詫びるよ。」


「いえ、私たちのために色々と手を尽くしてくれて…感謝しています。」


 今日は社長室ではなく、少し広めの会議室に呼ばれていた。奏空は一日中仕事があるため欠席だが、話は結弦を通しているらしい。


「早速だが、先日の駿河くんの見解を元に調べてみたんだが、君たちの映像を世界中に流すことで、良い影響があることが分かったんだ。

 具体的に言葉にすることが難しいけれど、その影響がアリアとミコトという少女たちいる世界にも及ぶものだと仮定している。こればかりは実際に試してみないと分からないんだが…。」


「試す、とは?」


「駿河くんの予想通り、君たちに芸能活動をしてもらう…ということになるね。」


 秀一郎の言葉に全員が息を飲む。蘭たちも予想していなかった訳では無い。そういう未来もあるのだろうと心の中に置いていたが、実際に言葉で断定されると不安が過ぎった。


「最初、芸能活動については君たちの自由だと言ったが、こうなると協力してもらわなければ話が進まないのも事実…強制はしたくないのだが、選択肢は無いに等しいものと思って欲しい。」


 秀一郎の強い眼差しを受け、蘭は少し考えた後、こくりと頷いた。


「分かりました。私はまだ所属出来るか分かりませんが…もし父の許可が下りれば、やらせて頂きたいです。」


 蘭もまた、彼のように強い眼差しで返した。それを受けた秀一郎は一瞬目を見開いて微笑んだ。


「駿河くん、ありがとう。」


 しかし、蘭の後ろではいつも元気で明るい柚希が下を向いて暗い顔をしていた。


「…ゆず?」


「駿河くんのようにすぐには決められる問題ではないことは承知している。すぐに覚悟を決めろとは言わない。」


 柚希の様子に気付いた楓だが、秀一郎の言葉に遮られてしまった。柚希は正気を取り戻したように顔を上げたが、やはりいつもの活力がなかった。


「あ、あのっ…!わ、私は協力したいです…っ!」


 すると、莉愛が突然立ち上がって声を上げた。照れ屋な彼女のその行動に蘭や柚希は驚いた。


「内海 莉愛くん…初めましてなのに挨拶を省いて申し訳ない。駿河くんから話は聞いているよ、協力に前向きだと。」


「はいっ…わ、私…こんなだし、すぐに人に頼っちゃうんですけど…この機会にたくさん経験して…つ、強くなりたいんですっ!」


 必死な莉愛に秀一郎は優しく頷いた。莉愛もまた強い眼差しをしていたからだ。


「ありがとう、内海くん。君の勇気ある行動に感謝する。」


 秀一郎と莉愛は握手をして契約を約束した。

 そんな中、柚希はどこか他人事のようにその光景を見ていた。そんな柚希を見て、楓は少し顔を顰めた後、立ち上がった。


「煌さん!ボクたちもやるっす!」


「えっ!?めぷるっ?」


 楓は柚希の手首を掴んで立ち上がらせる。突然のことに柚希は声を上げる。


「水野くん…立花くんも、良いのかい?」


「はいっす!みんなやるのにボクたちだけ黙ってるわけにはいかないっす!」


「めぷる………。」


 楓は満面の笑みで柚希を見る。蘭の方からは柚希の顔が見えず、どんな反応なのかは読み取れなかったが、柚希が振り向くと彼女もまた満面の笑みを浮かべていた。


「分かった、ゆずもやります!簡単じゃないことだけど…ゆずたちにしか出来ないなら。」


「ありがとう…。本当に。」


 結局、この場にいた全員が賛同することになった。秀一郎は頭を下げて感謝し、蘭たちはそれぞれの思いを胸に覚悟を決めた。


 ・


「これからについて話そう。活動するからには、他のタレント同様に活躍を期待する。しかし見込みはあれど、君たちはまだ素人だ。」


 秀一郎は活動に向けてのスケジュールを立てていた。出来るだけ早く、活躍が見込めるように手を尽くすだけ尽くす覚悟のようだ。


「そこで五月の連休中に特訓と銘打った合宿に出てもらいたい。」


「合宿?」


 すると、合宿の内容が書かれたプリントを渡される。内容は至ってシンプル、歌とダンスのレッスンを中心とした体力作りやステージ上での振る舞い方など…アイドルに必要なものだ。


「勿論君たちだけではない。事務所で世話になっているトレーナーにも協力を仰ぐ予定だ。」


 アイドルになると決めてすぐに、具体的な活動内容を提示され、ゴクリと唾を飲む一同。今まで業界のキラキラした部分しか見てこなかった一般人には衝撃的すぎる現実だろう。


「駿河くんの所属もそれまでには決まるだろうから、一応予定を空けていてくれると助かるよ。」


「分かりました、よろしくお願いします。」


 蘭は頭を下げて、改めて秀一郎に託した。すると、莉愛がタイミングを見計らったかのように口を開く。


「あ、あの…煌、さん。昨日、蘭先輩にも話したんですけど、私だけ導かれたのが一人だけなのって…何か理由があるんでしょうか?」


「…そのことについては安心してくれ。既に話はしてある。」


「話?」


 蘭は先日、莉愛が疑問に思っていたことも秀一郎に伝えており、彼の中で答えは既に出ている様子。

 彼の言う『話』の意味が分からなくて、莉愛たちは首を傾げる。


「恐らく、君たちは授業中だったから知らなかったんだろう。」


 そう言って、秀一郎はタブレットを操作して蘭たちに差し出す。すると、そこには綺麗な声の金髪の少女が映っていた。




 ・・・




 時は少し遡る。それは莉愛が導かれた日のイギリス、四時のこと。

 一人の少女が眠りに着いていると、不思議な夢を見た。


「んん…ここ、どこ?」


 煌めきに反射してキラキラと光る金髪に幼い顔、ぱっちり開いた目は赤色と青色で彩られている。少女は微睡む視界の中、ぼんやりと世界を見つめた。


「…アイリーン。」


「!?だ、誰っ…?」


 少女の名前はアイリーン・クルス。アイリーンは自分を呼ぶ声の主を探して、キョロキョロと辺りを見渡すがそれは見つからない。


「…私はミコト。言葉、通じてる?」


「う、うん…ミコト?聞いたことの無い名前ね。」


 不思議と言葉は通じる様子、アイリーンは聞き覚えのないその言葉に首を傾げた。


「この名前は日本という国で付けられた名前。」


「日本!?本当!?」


 日本と口にすると、アイリーンは目を輝かせて食い付いた。わぁっ…と声を漏らすとアイリーンの目の前には美しい日本庭園が広がった。


「日本…、私大好きなのっ…!ダディもマミィも大好きで、一回連れて行って貰ったことがあるんだけど…とっても素敵なところだった…!」


 まるでアイリーンの記憶が再生されるように、日本庭園は色んな姿へと変わる。実際に見たもの、本や資料で見たもの、想像したもの。

 しかし、それがどんどんと薄れていった。


「…でも、私には程遠い場所。こんな私じゃ…あの風情ある景色は、似合わない。」


 アイリーンは手で目を覆い隠す。ずっと嫌いだった、赤と青の瞳を潰すようにグッと拳を握った。


「アイリーン、歌って。」


「…え?」


「アイリーンの歌には秘めた煌めきの力がある。強くて儚い何か…自分の中にある光に対する想いがそうさせる。アイリーンの中にあるその何かの答えはもう出てるよ。」


 アイリーンは手を退けて真っ直ぐ前を見た。

 彼女が思い描く、理想の日本。本当はこうじゃなくてもいい、想像するだけでいい。それに対する想いは誰にも負けないから。


「私、日本が好き…。」


 ボソリと呟いたアイリーンの身には気付くと衣装が纏っていた。ゴシックロリータを彷彿とさせる彼女の好きが詰まった衣装。

 いつの間にか持っていたマイクを口元に持っていき、ゆっくりと息を吸った。




 愛苦しくて 可憐な花

 あなたにピッタリ 似合うでしょ


 とっても素敵な

 あなたに捧ぐ 愛を紡ぐ


 I want see you…_____。




 ・・・




「おはよう、アイリーン。」


「おはよう、ダディ…。」


 アイリーンは目が覚めると自分の部屋にいた。少し変な夢を見たなと思いながら、いつも通り過ごす。

 学校までの時間はまだあるため、ゆっくりと朝の時間を過ごす。


「オスカー、日本のシュウイチロウから電話よ。」


「シュウイチロウから?珍しいね。」


 母のロレッタに呼ばれて、父のオスカーは席を立って電話を受け取る。

 珍しい人物からの電話に少し驚いた様子だったが、久しぶりの友人との電話に浮き足立っている。


「マミィ、シュウイチロウさんって昔会った人?」


「えぇ。今は日本で芸能事務所の社長をしているのよ。」


 アイリーンも以前日本に行った時、少しだけ彼と面識がある。オスカーの後ろに隠れて小さく挨拶をした程度だが、うっすらとその姿が浮かぶ。

 すると、オスカーは慌てた様子でリビングに戻ってきた。


「あ、アイリーン!」


「え?なぁに、ダディ。」


「シュウイチロウがお前に話があるって…。」


 そうしてオスカーは電話をアイリーンに差し出した。アイリーンと秀一郎に直接的な関係は無い。アイリーンは首を傾げながら電話を受け取って耳に当てた。


「えっと…もしもし?」


『こんにちは、いや…そちらではおはようだったね。久しぶりだね、アイリーンくん。煌 秀一郎です。私のこと覚えているかな。』


「あ、はい…お久しぶりです。」


 日本人でありながら、英語も達者で聞き取りやすく優しい言葉使いに少し安心する。しかし、用件が明かされないままでは不安だ。


「あの、何の用で…?」


『あぁ、少し長くなるのだが…大丈夫だろうか?』


「はい、時間はあります。」


 アイリーンは少し場所を変えて、自分の部屋へと向かった。机の前に座り、リラックスする。


『アイリーンくん、今朝の夢を覚えているだろうか?』


「夢…?あぁえっと…はい……。」


 夢と言われて、アイリーンは煌めきの夢を思い出す。改めて思うと不思議な夢だったなと他人事のように思うが、何故彼がそのことを聞いていくるのか気になった。


『その夢は不思議な女の子…そうだな、幼げな少女の声が聞こえなかったかい?』


「は、はい!聞こえました…どうして…?」


 秀一郎が夢を見抜いてきたことに驚くアイリーン。それもそうだ、遠くの日本にいる彼…ましてや夢の内容を知る術など彼にも、他の誰にも無い。


『実は今、日本では不思議な現象が起きていてね。その夢の中の出来事が放映されているんだ。日本以外ではそうではないようだから、知らないのも無理は無いけどね。』


「夢が…?」


『とは言ってもごく一部だよ。夢の最後、君が歌う様子だけ。私はこのことについて詳しく調べていてね…それで、アイリーンくんにも協力してもらいたくて連絡したんだ。』


 秀一郎の行動が何となく理解出来た。が、あまりに現実味の無い話に若干の疑念もある。


「えと…協力って、何をすれば…?」


『君さえ良ければ、日本に来ないかい?』


「え、日本に…!?」


 秀一郎の誘いはずっと夢見ていたものだった。

 日本に行き、日本で暮らし、日本で過ごす。アイリーンの昔からの憧れだ。


『君とご両親さえ良ければ、こっちに来て色々と協力してもらいたいんだ。勿論、生活も学業もこちらで負担するから君たちには迷惑は掛けないよ。』


 アイリーンは目を輝かせて笑った。

 バタバタと階段を駆け下りて、両親のいるリビングへと向かう。


「ダディ!マミィ!私、日本に行く!!!」


 アイリーンの赤と青の瞳がキラキラと輝いていた。ずっと憧れていた場所に行けることになり、彼女の世界が色付き始めた。




 こうして、少女たちは煌めきを世界に広めるために動き出す。それぞれに何かを抱えながら、煌めきの世界を救うために…………。

・オスカー・クルス

アイリーンの父。イギリスのゲーム会社に勤めており、日本への憧れが強い。大らかな性格で娘のことが大好き。秀一郎とは昔からの仲。


・ロレッタ・クルス

アイリーンの母。今は専業主婦だが、結婚前は大学で研究をしていたほど頭が良い。アイリーンのコンプレックスを気にかけている。

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