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あの星に煌めきを  作者: そーら
第十章 道無き道を歩む少女たち
63/64

少女たちの煌めき

 



「みんなぁ〜!やっほ〜っ!!!」


 柚希は自撮り棒を掲げ、先にあるスマートフォンに向かって大きく手を振る。その更に奥にいる大切な人たちを見据えながら。


「突然の配信でびっくりした?今日は、この前のライブの打ち上げで、うたちー行きつけのライブハウスに来ていま〜っす!」


 先程、歌唄の提案により動画配信サイトの煌プロダクションチャンネルにてライブ配信をすることになった。

 秀一郎の許可も取り、盛り上げ上手な柚希が進行を務めている。


「えーっと、そらしはスケジュールの都合上、ちょっとだけ遅れるけど、必ず来るからみんな待っててねっ!」


 初めて行うライブ配信でも物怖じせず、いつも通りの雰囲気で喋る。

 それを少し遠くから見ていた蘭は、関心しながら何が起こってもすぐに対応出来るように優しく見守る。


「みんな、お待たせ〜。オードブル出来たよ。」


「うわぁ〜!雛さん最高っす!!!」


 すると、雛が作ったオードブルが到着する。双葉も手伝いで他のテーブルに運んでいた。


「お椀が無かったから、ごはんもおにぎりにしちゃった。味は付いてないからおかずと一緒に食べてね。」


「雛先輩のおにぎり、握り具合が丁度良くて大好きです。」


「ふふ、蘭ちゃんいつも美味しそうに食べてくれるから作り甲斐があるよ。」


 蘭は雛のおにぎりに目を輝かせる。サッカー部の差し入れでよく食べているが、いつ食べても絶妙な食感に惚れ惚れしている。


「わぁ〜!めっちゃ美味しそう!みんなも見て見て〜♪」


 カメラを持った柚希が食い付き、雛の料理が画面に移る。中学生が作ったとは思えないクオリティにコメント欄も盛り上がっている。


「そうだ!今日ライブ配信をしたのは、打ち上げの様子をただ見せたかっただけじゃなくて、ゆずたちの今後の活動についてお話したかったんだ!」


 柚希は蘭の隣に座り、二人で映りながら配信の理由を語る。

 先日のライブ、『Grand×Cross 〜あの星に煌めきを〜』にて彼女たちが活動する目的が達成されたこと、この先は自分たちの意志に任されたこと。


「勿論、自分の未来を決めることだからそう簡単じゃなくて…ファンのみんなが望んだ未来じゃないかもしれないけど、それでも今までゆずたちを応援してくれた大好きなみんなに伝える場が欲しかったんだっ!」


 柚希が先程までモヤモヤしていた理由は、打ち上げをして見慣れたメンバーだけで楽しく終わることへの違和感だった。

 有葵と命、麗生を助けられたのは、応援してくれた人あってのことだ。けれど、その応援をしてくれた人への感謝する場が無いことへの無力感。

 そこへ歌唄の提案があり、柚希はすぐに行動に移すことが出来たのだ。


「ゆずたち、今まで必死だったからファンの人たちと話す機会もあんまり無かったし…今日はゆずたちの普段の姿を見てってねっ!」


 配信という距離はあるが、とても身近に感じられる形で交流が出来る嬉しさが込み上げてくる。

 いつものように蘭に抱き着き、さらに楓が柚希に抱き着く。先日凄まじいライブをしたとは思えない、年相応な少女たちの姿に配信の同時アクセス数も増えていく。


「じゃあ…進路といえば三年生ってことでひなたんからっ!」


「えっ、私からっ!?ええっと………コホン。皆さんこんばんはっ。小鳥遊 雛です。

 先日のライブはありがとうございました!たくさんの人の顔が直接見られて、とても嬉しかったです。」


 急にカメラを向けられ、雛は慌てつつもカメラの奥にいるファンたちに笑う。


「えっと、私の進路ですが………単刀直入に言うと、煌プロダクションを退所します。」


 一度深呼吸をして、真剣な眼差しを向ける。

 退所の言葉を口にした瞬間、不思議と走馬灯のように今までの活動が記憶の中で蘇る。


「私は、ほんと何にも無くて…出来ることといえば料理とかみんなをサポートするくらいで、自分から何かをすることって殆ど無くて。

 この活動も、とあるきっかけがあって…そこから流されるように始めました。何をしたら良いのか分からなかった私を導いてくれたのは、弥生ちゃんと双葉ちゃんでした。」


 視界の端で優しく見守ってくれている弥生と、元気に応援してくれる双葉が映る。そんな二人を見ていると、心が和らいだ気がした。


「そして伊織ちゃんと出会って…自分とは違う考えを持つ人って怖くないんだなって思いました。

 きっと私は心のどこかで、周囲の人と違う自分が嫌で…でも、自分の気持ちを捨てきれなくて雁字搦めになっていたんだと思います。

 みんなと出会って、人と違う自分を好きになれて…自分の夢にも目を向けるようになりました。」


 雛はゆっくりと自分の気持ちを言葉にする。その様子を遠くから見ていた伊織は、とても柔らかな笑みを浮かべている。


「私、大好きな花を使って…みんなを笑顔に出来る料理を作りたい。これからたくさん勉強をして、たくさんの努力をして腕を磨かなきゃいけないけど…でも、やっと出来た夢だから絶対に叶えたい。

 この活動を通して出来た夢を胸に、私は一歩ずつ進んでいきますっ!」


 雛が目を輝かせて言い切る。その場で見守っていた者たちは拍手を送り、画面越しで見ているファンたちも涙していることだろう。


「ひなた〜ん!!!ゆず感動した〜〜〜!!!」


「アハハ…ちょっと語り過ぎちゃったかな。」


「そんなことないよォ〜!じゃあ…次は、めぷるっ!」


「エッ!あんな良いスピーチの後にボクっすか!?」


 目に涙を潤ませた柚希はカメラを雛から楓へ移す。雛同様に突然カメラを向けられた楓は、感動的な雛のスピーチからの振りに身構える。


「え…ええっと、ボクは雛先輩ほど良いコトは言えないっすけど…。

 ボクも煌プロダクションを退所するっす!今年はライブがあったから逃したっすけど、これからもサーフィンの大会に出て、プロになってみせるっす!」


 楓の夢はずっと変わらず、プロのサーファーになること。ライブがあって出られなかった分も含めて、来年チャレンジすることを決めた。


「サーフィンに興味があったら是非応援して下さいっす!」


「めぷるがんばれ〜!!!」


 最後は楓らしいとびきりの笑顔を見せ、白い八重歯をキラッと光らせる。


「はいっ、次はりあちねっ!」


「んっ、んぐっ!わわ、私ですか!?」


 次に柚希のカメラは莉愛の方を向く。雛の料理を食べていた莉愛は驚いて、口に入れたものをほとんど丸飲みしてしまった。


「だって〜退所ばっかりじゃ見てる人たちも落ち込んじゃうでしょ〜?」


「それもう、ネタバレのような気が…。」


 水を一口飲んで、心を落ち着かせた莉愛は身なりを整え、カメラに向き合う。


「えっと、こんばんは。内海 莉愛です。さっきのゆず先輩の話から大体察するとは思いますが…事務所に残ることにしました。

 私はコスプレが趣味で…今までは趣味の範疇だったんですけど、これまでの活動を通して…私を応援してくれている方と交流する楽しさを知って、これからも私の好きな形で活動を続けたいなって思いました。」


 コミュニケーションが苦手な莉愛がここまでハッキリと胸の内を喋るのも、活動を通しての成長だろうと彼女を映す柚希は思う。

 カメラ越しでも伝わるその小さな輝きは、直接見てしまえば焦がれるような情熱を持っていた。


「本当は自分だけで頑張ってみようと思ったんですけど、まだまだ学生ですし、煌プロダクションの方々にご協力頂けるなら安心かと思い、こう決めましたっ。

 なので、皆さんと会える機会はあると思います!これからもよろしくお願いします。」


 深々とお辞儀をして、次に顔を上げた時には少しの照れと晴れやかな笑顔があった。


 それからは少し話題を変え、打ち上げらしい盛り上がりを見せた。

 一つのトークテーマに絞って話してみたり、莉愛おすすめのボードゲームをしてみたり、楽しい時間が続いた。


「双葉、アスターのヒーローになる〜!」


「アスターのヒーロー?」


「ふ、双葉っ!それ言っても良いんですか!?」


「んえ?あ、まだ内緒の約束だった!」


 途中、他の皆も進路を発表していた際、双葉が何か大事なことを言おうとしたが、それはまだ公に出来ない話。生配信の事故として流され、時間は既に一時間を過ぎていた。


 料理も一通り食べ尽くし、配信的にも中弛み始めたその時。


「み〜んな〜!盛り上がってるか〜〜〜っ!」


 その声と共にギターの音が鳴り響く。その声のする方を向くと、ステージの上には歌唄がギター片手にスポットライトを浴びていた。


「まだまだ打ち上げは終わんないぞ〜っ!」


「いえ〜〜〜いっ!うったち〜!!!」


 柚希は一番良い場所にカメラを設置し、最前列で盛り上がる。楓や双葉も柚希に続き、蘭たちはその様子を後ろから見守る。


「ここからはあたし()()のライブだぁ〜!」


 歌唄がそう言うと、ステージ全体がスポットライトに照らされる。するとそこには、他のCHILL BLAZINGのメンバーが揃っていた。


 エマのスクラッチプレイで一気にCHILL BLAZINGの世界観に惹き込まれ、そのままクールな電子音でイントロに入る。梢のベース中心の静かな始まりが彼女たちの十八番。

 そこからサビに向けて、ドラム、キーボードと音が増えていく。


「…歌唄、楽しそう。」


「えぇ。歌唄のバンド、初めて見たけど中々良い演奏じゃない。」


 最前列の柚希たちより数歩後ろで奈帆と伊織は歌唄を見る。サビに入り、眩しいくらい楽しそうに歌う彼女は見ていて飽きない。


「煌めきの夢を見なければ、決して見ることの出来なかった景色…ね。」


「そうだね。私もずっと、歌唄のライブに来てみたかったけど…人が怖くて来れなかったと思う。」


「私たちの人生において大きな分岐点よね。ほんと…こんな未来、想像なんてしてなかったのに、今になれば他の未来なんて考えられないもの。」


 伊織は呆れを通り越して笑みを零し、奈帆もそれに続いて笑う。

 歌唄の真っ直ぐ響いてくる歌声が無い未来なんて今更想像出来ない。それほどまでにこの数ヶ月間は、彼女たちに大きな影響を与えた。


「…事務所を辞めても、この変化は無くならないわよね。」


「勿論っ。私も歌唄も、ずっと伊織ちゃんと友達だよ。」


 伊織と奈帆は目を合わせて笑う。それと同時に一曲目が終わり、ギターの余韻が響いた。


「ふぅ…一曲目、聴いてくれてありがとう!じゃあ、ここらでメンバー紹介っ!

 ベース、二科梢っ!キーボード、有栖川 萌絵っ!」


 歌唄が大きく手を掲げると、梢はベーススラップで掻き鳴らし、萌絵はそれに合わせてキーボードを奏でる。


「ドラム、ハカセっ!DJ、エマっ!」


 綺羅は感情の赴くがままにドラムを叩き、それが終わるとエマはサンプラーでレゲエホーンを鳴らす。


「そしてあたし!ギターボーカル、響木 歌唄っ!この五人でCHILL BLAZINGだっ!!!」


 最後に五人全員で演奏し、いつもの挨拶が終わる。

 いつもより観客は少ないが、拍手の一つ一つに楽しかったという気持ちが篭っているのが分かる。歌唄は紅潮する頬を上げ、マイクに手を掛けた。


「一曲目はあたしたちの定番曲なんだけど、みんなの前で披露するのは初めてだったから緊張した〜!」


「ふふ、でもいつもよりギターも歌も乗ってましたねぇ。」


「そりゃ今日は知ってる顔ばっかだし、配信であたしのこと応援してくれてる人も見てるしさ。」


 歌唄と萌絵のMCが始まる。大体いつもはこの二人が進行、横で梢とエマが楽器の調整をし、綺羅はドラムを叩きたい衝動を必死で我慢している。


「やっぱ…バンドって良いよな………。」


「歌唄ちゃん?」


 歌唄はマイクに乗らない小さな声で呟いた。ギターのネックをキュッ…と握り、真っ直ぐな視線を目の前にぶつける。


「さっき、皆が今後の進路についてちゃんと話してて凄いなって思ったんだ。雛先輩は新しい夢が見つかって、楓は元からあった夢を真っ直ぐ進んで…莉愛も、好きなことを大切にしていて…。

 あたしは大好きな音楽でプロになるっていう夢があって、それに迷いは無いけど…そのために事務所に残る選択肢もあるんだろうなって思ってた。」


 ずっと悩んでいた気持ちをマイクに乗せて吐露する。

 多くの選択肢が目の前にあり、それによってこの先の未来が変わっていく。中にはきっと、予想もしていない出来事もあるだろう。


 後悔の無い道を進むことは難しい。必ずどこかで後悔し、ああしていればと思い悩むこともある。けれど今しなければならない選択は後悔したくない。

 その想いが歌唄の中でぐちゃぐちゃに交差してしまっていた。


「でもあたしが事務所に入ったとしても、あたしの音楽はきっとそこには無いって今…みんなと弾いてみて気付いた。だって、あたしの音楽はCHILL BLAZINGにしか作れないからっ!」


 直前まであったその想いも、今一曲弾いただけでスッとひとつにまとまった。

 ライブまで休止していたバンド活動も、一度戻って来ればそこは、前と変わらない自分の音楽がある居場所となる。


 帰ってきたような安心感が次のステップへと進む足を軽くさせる。


「だから、煌さん!あたし事務所を辞めます!そして、必ずCHILL BLAZINGでプロになってみせますっ!」


 観客席の一番奥で配信の邪魔にならないよう、一部始終を見守っていた秀一郎に向かって宣言する。

 彼の特別な瞳には彼女の情熱と夢に溢れた光が映っていた。


「…響木くんは眩しいね。けれど、しっかり影の暗さを知っている。だからこそ、あんなに眩しい………。」


 秀一郎はその眩しさに目を細めながら、しっかりと焼き付ける。


 星の煌めきに導かれた少女たちは今、その導き手から解放され、道無き道を歩み始めた。けれど以前のような覚束無さはどこにも無く、しっかりと一歩一歩を力強く歩いている。


「皆、手放すには惜しい才能だ。けれど、私の意志で彼女たちの道を捻じ曲げることは、それこそ彼女たちの才能を潰してしまうだろう。

 私たち大人は見守っているよ。君たちの煌めきを。」


 答えを出した歌唄はステージで思いっきり自分の音楽を奏でている。そして、それを見ている少女たちも自ら選び出した道に希望を持っている。


 その煌めきを信じて、秀一郎はこれ以上関与しない。そう心に決めた。事務所に残る莉愛やアイリーン、そして奏空にも。




 ・・・




「………。」


 蘭はボーッと夜空を見上げていた。まだ夏の暑さがじんわりと残る夜、彼女はライブハウスの前にあるベンチに身を置いていた。

 室内から聞こえる賑やかな音と声を背に感じながら、それとは対照的な程に人通りの無いライブハウス前の静けさに溶け込む。


 入り組んだ道の先にあるライブハウスには、人も車も中々寄り付かない。

 そこへ、一つの小さな影がゆらりと姿を現した。


「…あれ、蘭?」


「奏空。今、お仕事終わったの?」


 影が近付き、ライブハウスの明かりがそれを照らすと現れたのは奏空だった。

 変装用の眼鏡と帽子で顔が分かりにくいが、その明瞭に耳を通る声は彼女そのものだ。


「今日はお仕事じゃなくて、新体制に向けた打ち合わせとレッスンだったの。ちょっと疲れちゃった。」


「お疲れ様。そこに自動販売機があるから何か買うよ。何が良い?」


「んー…じゃあ、お言葉に甘えて…ブレンド茶が良いな。」


 折角の厚意を無下にするのも悪いと思い、蘭からブレンド茶を貰う。

 コクリ…と少量飲むと、疲れた身体にひんやりと染み渡る。喉に気を使ってたまにしか飲まないが、個人的の好みで言えばこの甘くも苦くもある味と鼻を通る麦の香りは大好物の部類に入る。


「そういえば、蘭は事務所辞めるんだよね。寂しいなぁ。」


「…昨日まで、迷ってたんだけど…。」


「…?」


 奏空が寂しそうにしていると、蘭は昨日の出来事を話し始めた。


「奏空は前に…合宿の時に、話したこと覚えてる?」


「合宿の時………あ、朝に空を眺めてた時かな。」


「うん。その時に、私に幸せをくれた人の話をしたでしょう?家族にも友人にも恵まれたのは彼のおかげだ…って。」


 二人は合宿二日目の朝焼けを思い出した。今思えば、蘭ときちんと話したのはあれが初めてだったな…と奏空は物思いに耽る。


「その彼って言うのが、私の双子の弟で…ずっと行方が分からなくなっていた駿河 蓮。昨日、学園長のおかげで蓮と再会することが出来たの。」


 蘭は昨日の衝撃を再びその身に宿す。きっと、蘭の中で一生消えることは無いだろう。幼い頃の記憶と同じように。


 辛い記憶は普通ならば段々と薄れていくものだが、蘭の場合は違う。ずっとその瞬間の恐怖がそのまま蘇る。

 けれど、彼女の中にあるのはそれだけでは無い。今の家族や大切な友人たちとの楽しく幸せな記憶もそのまま残っている。


「蓮と過ごした時間に良い思い出は無いけれど…その中でずっと私のことを想ってくれていたのは伝わってた。だから私を助けてくれたし、それがあって今の幸せな生活がある。でも、その幸せの中に蓮はいなかった。


 …私は、あるはずの無かった蓮がいる今の幸せを大事にしたい。

 勿論、今まで私たちを応援してくれたファンの方や支えてくれたスタッフさんも大切だけど…今の私には手に余るような気がして。

 だからいつか…私が今の幸せを享受した時、たくさんの人と世界を見てみたいっていう夢も出来たんだ。」


 過去のことをいくら思い出せても、未来のことは分からない。けれど、いつかこの幸せが自分の中で満ち足りた時、新しい幸せに目を向けることが出来るのではないか。そう思ったのだ。


「勿論、奏空と過したこの数ヶ月のことも一生忘れないよ。奏空からもらったたくさんのことを胸に、自分の歩きたい道を歩いていきたい。」


 蘭の揺るがない真っ直ぐな精神は、今の奏空に刺さる。

 Pentagram☆*。の活動再開と、新しいプロデューサーである命華の存在は奏空の心を大きく揺さぶっていた。


「…蘭はやっぱり凄いなぁ………。」


 声を絞り出すように奏空は言った。皮肉でも嫉妬でもなく、ただ純粋に彼女が羨ましい。

 どんなに現状が辛くても、真っ直ぐでブレることのない芯を持つ彼女が。数日前まで隣にいたからこそ、大きく見える。


「奏空。」


 その凛とした声で呼ばれると、反射的にそちらの方を向いてしまう。


「目を瞑って、両手を貸して。」


「え?う、うん………。」


 奏空は蘭の言葉に素直に従い、目を閉じ、手を差し出す。真っ暗になる視界の中で、彼女が何をするのか待つ。


「………。」


 しばらくすると両手が握られ、蘭の呼吸がとても近くで聞こえるようになる。額から熱を感じ、ゆっくりと瞼を開けると蘭の長い睫毛が目の前にあった。


「え…蘭………?」


「静かに…。しばらくそのまま………。」


 彼女の行動の意味が分からず、戸惑うも再び目を閉じた。




 すると、合わせた額が熱くなるような感覚がした。実際にあるのは彼女の体温のみだが、それ以上にチリ…とした熱が一瞬あった。


 そして蘭は奏空から離れ、奏空が目を開けると蘭の瞳にくっきりと自分が反射していた。


「あ………。」


「私の言いたいこと、伝わった?」


 蘭がふわりと笑うと、その瞳に映る自分は消え焦点が彼女に合う。

 さっきの熱は何だったのか…と額に手を当てながら、蘭の行動の意味を考えた。


「…よく、分かんないけど………でも、なんとなく…?」


 言葉にし難い何かが熱と共に流れたような気がした。それを伝えると、蘭は小さく頷いて奏空を再び瞳に映した。


「昨日、蓮と再会した時…額を合わせたら私も似たような感覚がして…。上手く言葉に出来ないことも気持ちが伝わるような不思議な感覚があったんだ。」


 蘭は奏空が抱えているものを見抜き、少しでも寄り添おうとしてくれていた。

 たった数ヶ月とは言え、蘭と過ごした時間が奏空の中で大きくなり過ぎていた。それは同時に、Pentagram☆*。との時間が薄れてしまうことになる。


「私は、奏空とは別の道を行く。それは決して交わらないものかもしれないけど…でも、きっとすぐ近くにあって、いつでも視線を交わせる距離にいる。

 それに、奏空にはPentagram☆*。の皆さんが一緒に並んで歩いてくれるでしょ?チームとして歩幅を合わせることは大事だけど、Pentagram☆*。なら…合わせなくても、最初から一つの星だと私は思うな。」


 だから蘭が奏空の隣を歩くのは、ここで終わり。これからはそれぞれの道を進んでいく。

 けれど決して、関係が断ち切れるわけではない。


「…これからは一緒のステージに立つパートナーじゃなくて、一人の大切な親友として応援してる。」


「…蘭………。」


 奏空は声を震わせながら、大切な彼女の名前を呼んだ。一粒の涙が奏空の手の甲に落ちると、奏空の胸の中でも何かがストン…と落ちた。


「…ありがとう。なんか、私ちょっと焦ってたのかも。

 Pentagram☆*。でまた活動出来るのが嬉しくて…でも、前みたいに皆に合わせることが出来なくて。

 自分を抑えるのをやめてからは、蘭としかやって来なかったし、みんなの前でさらけ出すのに抵抗があったんだけど…もう、そんなことしなくて良いんだよね。」


 先程までの思い詰めたような表情は無くなり、晴れやかな表情で奏空は夜空を見上げた。暗い空の上に五つの星が輝いている。


「蘭と過ごした時間があったから、私たちは前に進める。きっとこれから、どんなことがあっても。」


 手を掲げ、五つの星を強く握れば自分の中で答えは一つとなった。

 そんな彼女の姿に、蘭はフッ…と柔らかく笑う。


「…あ!蘭見っけ〜って、そらしもいるじゃん!!!ちょっ、来てるなら早く言ってよ〜!そらし来ないと配信終われないんだよ〜!!!」


 ライブハウスの中から蘭を探していた柚希が飛び出てくる。彼女の声は静かな夜も賑やかにしてしまうほど明るい。


「わ、そうだったの?柚希ちゃんごめんねっ。蘭、行こっか。」


「うん。ゆずちゃん、今は何をしてるの?」


「えっとね、りあちがね〜そらしが来たら絶対にやりたいとっておきのゲームがあるんだって!それと、アイリーンちゃんと通話が出来たから今はみんなとお話してるよ〜。」


 そうして、三人はライブハウスの中へと消えていった。

 再び夜は静かに更けていく。ただ一つ、少女たちの笑いが響くこの場所を残して。

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