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あの星に煌めきを  作者: そーら
第十章 道無き道を歩む少女たち
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星屑たちの未来

 



 ライブの翌日、蘭たちは秀一郎に呼ばれ事務所に集まっていた。

 あの後、場は解散となり、有葵と命は結弦が病院へと送っていった。どうなったのか気になっていた蘭たちは、少し落ち着かない様子で秀一郎が来るのを待っていた。


「…皆、待たせてすまないね。」


 やけに久しぶりに感じる彼の姿。一目見た瞬間、心配は杞憂に終わる。

 どこか焦るような、死に物狂いで蘭たちの活動を支えていた彼はもういない。背筋を伸ばし、凛とした姿がそこにはあった。


「昨日はお疲れ様。本当に…ありがとう。

 画面越しで見ていても最高のライブだったよ。実際に見ていたらもっとだっただろうに…少し勿体無いことをしたね。」


 朗らかに笑う秀一郎。それを見て、蘭たちも自然と笑みが零れる。

 全て解決したんだと実感し安堵する。


「おっと、世間話をしに呼んだわけでは無いんだ。皆に大事な話をしようと思う。」


 椅子に座り、その黒い瞳で蘭たちを見る。そこに映る少女たちには、以前あった有葵や命の軌跡は無い。


「有葵と命が無事にこの世界に戻り、麗生の体調が安定した今、これ以上…私の勝手で君たちの身を預かるわけにはいかない。ここから先は君たちの自由だ。」


 手を組んで秀一郎はそう言った。つまり、芸能活動を続けるも、辞めるも蘭たちの意志に委ねるということだった。


「芸能事務所の社長、煌 秀一郎として言えば、君たちは逸材だ。活動を続け、その煌めきをさらに広めて欲しいと思うが…一個人として、皇 秀一郎としては、恩人である君たちの意志と未来を尊重したい。出来るならば、その未来に協力させて欲しい。」


 秀一郎の言葉に蘭たちはお互い目を合わせた。

 今の生活が当たり前になってしまった以上、すぐに元の生活に…と言われても、戻れるような気はしない。


「社長、それはつまり…Pentagram☆*。は活動を再開する、ということですか?」


「あぁ、そのことについてはこの話が終わった後、蘭世たちを呼んでいる。その時に話そう。」


 奏空は懸念していたPentagram☆*。のことを聞くが、秀一郎の表情を見るに悪い話では無いと感じ、ホッと一息吐く。


「…今すぐに決めるのは難しいと思うが、安心して欲しい。ここで決めようとそうでなかろうと、契約は九月末まで続く。それまでにどうするか、よく考えて決めれば良い。」


 今すぐに決めなければならないのかと焦りを感じていた一同も、その言葉に一息吐く。残り一ヶ月もあるのなら、答えを決められそうな気がした。


「私からの話は以上だ。他に話がなければ、今日は解散にする。後日改めて、予定の合う日にでもお礼を兼ねた打ち上げでもしよう。」


 秀一郎がにこやかに言うと、その場は解散となり、秀一郎と奏空のみが残る。

 結弦も蘭世たちを呼びに行ったようで、久しぶりの二人だけの空間に不思議な雰囲気が漂う。


「奏空、ありがとう。」


「…ふふ、お礼ならさっきも聞きましたよ。」


「さっきのはライブ成功へのお礼だ。今のは、麗生の話を聞いて信じてくれたことへのお礼だよ。」


 秀一郎のその言葉に、彼が麗生から全て聞いたのだと奏空は察する。それは同時に、彼らに蟠りが無くなったことを意味する。


「事のあらましは一族の者から聞いていたんだがね。麗生の言葉できちんと聞いたよ。

 私が聞くことが出来たのも、麗生が話すことが出来たのも、全部奏空たちのおかげなんだ。」


「そう…ですか。それは良かったです。」


 先程のお礼の意味を理解し、きっちり受け取る。


 ふと二年前の秋、お互いに出会った頃のことを思い出す。あれは、突然の事だった。

 田舎にある至って普通の小学校に通っていた奏空は、先生に頼まれて職員室に書類を届けていた。その時、校長室にやって来ていたのが秀一郎だった。


 校長と昔からの知り合いだった秀一郎は、話を終えて室外に出ると奏空と目が合った。

 奏空は見知らぬ男性に誰だろう?と純粋な疑問の目を送るが、秀一郎は違った。目の前の少女が放つ色に目を奪われていた。


 目線を交差させたまま少しの時が流れ、ハッとした秀一郎が奏空に名前を聞いた。

 奏空はその涼やかで透き通る声で答える。小さな星が空の上で舞い、楽しく奏でるような名前を聞いて、秀一郎は耳を焦がすような電流が走った。


 懐かしいな…と思いを馳せていた秀一郎は、当時の電流が残っているのか、耳を親指と人差し指で摩る。


 奏空に目線を送ると目線に気付いたのか、あの時と変わらないあどけない表情で見つめ返される。けれど、その瞳には星が宿っていた。


「………。」


 お互い、何を言うわけでもなく小さく笑い、人の気配が近付く扉に目を向けた。


「失礼しまーっす!」


「奏空ちゃ〜ん!昨日はお疲れ様っ!」


「…ん。」


「失礼します。夕空、口元チョコ付いてるよ。」


 蘭世たちと結弦が入って来る。見慣れた顔たちに奏空は自然と笑みが零れた。

 それぞれいつもの位置に座り、秀一郎に注目する。秀一郎は一度全員の目を見てから、ゆっくりと息を吸った。


「皆、お疲れ様。最近の仕事はどうだい?一人での活動は慣れたかな。」


 秀一郎がそう聞くと、少しの沈黙が訪れる。一人での活動という言葉に反応しているようだ。


「…最初は不安だったけど、思ったより仕事は出来てますよ。元々やりたかったことやらせてもらえるようになったし、視野に無かったけど経験を得られるものもありましたし。」


「うんっ、まぁ…良い意味で五人だと出来ないことも出来たし…?」


 沈黙を破ったのは蘭世。言葉を選びながらも、後に続いたのは乃愛。

 二人の言葉に来夢と夕空も頷きながら、秀一郎を見ている。


「ふむ…それは良かった。この活動休止は奏空の活動緩和だけでなく、君たち個人の成長も目的だったからね。」


「えっ…そうだったんですか!?」


「…通りでソロデビューのタイミングが良いと思った。」


 活動休止のもう一つの目的も聞いて、来夢は驚き、夕空が腑に落ちたように息を吐く。


「初めからそれを言えば、君たちは焦るだろう?こう言ってはなんだが、君たちは奏空を追いかけることで精一杯だったはずだ。」


 四人はギクリと肩を揺らし奏空を見る。奏空も四人に目を送らずとも、その背中に感じる視線に気付く。

 否、ずっとそれを感じていた。


「だが、それでは君たち個人の良さは消えてしまう。奏空のために集めたメンバーとはいえ、君たち自身の個性に魅力を感じたから声を掛けた。

 だから、活動休止をしてでも個人個人の成長を促した。奏空という壁に追い詰められることなく、ゆっくりで良い…新たな自分を見つけて欲しかったんだ。」


 秀一郎の言葉を真剣に受け止める。

 良くも悪くも、彼女たちの中心は奏空だった。奏空という輝く才能のために自分たちは存在する。それを嫌だとも、妬ましいとも思ったことも無く、ただ奏空の輝きのためになにか出来ていたならそれで良かった。

 それほどまでに、心酔してしまう輝きなのだから。


 けれど、自分たちにも輝きがあった。

 奏空には遠く及ばないかもしれない。小さくて見劣りしてしまうかもしれない。それでも、その輝きは秀一郎の目に映っていた。


 蘭世は目頭が熱くなるような感覚に、目を開けられなくなった。震える肩に乃愛は手を添え、小さく笑った。


「…嬉しい誤算、と言うか。君たちは私の想像を遥かに超える勢いで、それぞれ自らの道を切り開き、輝きを磨いた。

 しかしこうなってしまうと、以前のようなチームとしてのまとまりが無くなってしまった。」


 急な展開に一同は顔を上げ、秀一郎を見る。険しい表情と言葉の先に最悪の結末を思い浮かべながら。


「…それは、私も望んでいない。強い光を持つ五つ星が繋がれば、それはとても美しい五芒星となる。


 だから…これは、新たな試練だ。」


 秀一郎がそう言うと、コンコンと会議室の扉がノックされる。入るよう秀一郎が言うと、ゆっくりと扉が開いた。


「失礼します。」


 そこには凛とした瞳と艶やかな薄桃の髪をした女性がいた。見蕩れる五人の視線を受け流し、女性は秀一郎の隣に立った。


「紹介しよう。君たちPentagram☆*。のプロデューサーとなる渡月 命華くんだ。」


「渡月です。よろしくお願いします。」


 女性、渡月 命華(とげつ めいか)はぐるりと部屋を見渡し、奏空を見た。真っ直ぐで曇りのない彼女の目に、奏空はドキリと胸を弾ませる。


「…あなたが、星屑 奏空ね。活躍は聞いているわ。先日のライブも見させてもらいました。」


「あ…ありがとうございます。」


「ただ………。」


 奏空がお礼を言うと、命華は目を細めて貫くように奏空を見つめる。


「あれでは、あなたの実力は底が知れているわね。」


「え…?」


「んなっ、なんてこと言うんだ!!!」


 命華の言葉に、奏空が小さく驚くと蘭世が声を荒らげた。他の三人も蘭世ほどでは無いが、命華の言葉に怒っている様子だ。


「…諸星 蘭世、そこで怒るのね。」


「ど、どういう意味…ですか。」


「自分に言われた訳でもないのに怒るなんて…随分彼女に心酔しているようだけれど、その感情は捨てなさい。」


「ハァ?」


 命華の冷静な態度に釣られて、落ち着きを取り戻した蘭世だが、再び彼女の言葉に頭がカッとなる。


「星名 乃愛、星元 来夢、星影 夕空…あなたたちもよ。星屑 奏空が何であれ、彼女に心酔するのはやめなさい。」


「心酔って…、乃愛たちは奏空ちゃんを尊敬してるだけで………。」


「口答えは許さないわ。私の言うこと全てにイエスと答えて。」


 命華は乃愛の言葉に被せてそう言うと、髪を靡かせて会議室を出て行く。彼女の横暴な物言いに、開けた口が塞がらない蘭世はその感情を秀一郎に向けた。


「社長!あの人なんなんですか!?」


「これからの君たちのことは、彼女に任せてある。私は口出しするつもりは無いよ。

 今日の話はここまでだ。解散して構わない。」


 そう言うと秀一郎は席を立ち、命華に続くよう会議室を後にする。そこに残ったのはPentagram☆*。の五人と結弦。

 一部始終を静かに見守っていた結弦は、小さく溜息を吐いた。


「…さ、お前たちも帰るぞ。送ってってやる。」


「綴さん…。」


 いつも多くは語らずサポートに徹してくれる結弦。けれど、今は何か言葉が欲しかった。兄のように、何があっても味方でいてくれると信じてくれるような言葉が。


 そのまま誰も言葉を交わすことも無く、ただお互いの苛立ちや戸惑いを身体に感じながら車中での時が流れた。


「それじゃ、奏空は明日の朝に生放送。夕空は昼からレコード会社で打ち合わせだからな。」


「はいっ。」


「ん…。」


 明日の仕事の確認をして、結弦は事務所へ戻って行った。残された五人はしばらく立ち尽くした後、それぞれの部屋に戻る。


 奏空の部屋は最上階。エレベーターの中で来夢と夕空、乃愛の降りていく様子を眺めながら、着くのを待つ。


「…なぁ、奏空。」


「ん?何、蘭世ちゃん。」


 エレベーターの壁に寄りかかっている蘭世が話しかけて来る。彼女は下を向いていて表情はよく見えないが、なんとなく気持ちは伝わって来るような気がした。


「アタシ、負けないから。」


「…。」


「あの、プロデューサーにも。奏空、にも。」


 蘭世がそう言うと、エレベーターが止まる。一瞬目が合い、彼女はそのままエレベーターを降りて自室に向かう。


 その目の輝きは、月のように眩しく、太陽のように力強かった。


「………私たちの未来は、どうなって行くのかな。」


 エレベーターの小さな個室の中、小さく呟いた言葉は誰にも届かぬまま、身体に気圧を感じながら、彼女の背中には重い未来が伸し掛るようだった。

・渡月 命華

煌プロダクション 社員

Pentagram☆*。の新しいプロデューサー。渡月財閥の令嬢で、煌プロダクションのスポンサーでもある。容姿端麗で手厳しい性格。

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