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あの星に煌めきを  作者: そーら
第九章 煌めきのふたつ星
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太陽の道標

 



「んん〜〜〜!おいひ〜♪」


 熱狂的な歌声が響く中、柚希は頬に手を当てて口の中に広がる甘さに舌鼓を打った。


「ゆーず、あんまり食べ過ぎると本番中お腹痛くなるっよ。」


「分かってるよ〜。ちゃーんと考えて、主食系は我慢してるもんっ!」


「そういうコトじゃないんすけど…。」


 楓の指摘も微妙にズレた観点で受け止めながら、主食系の屋台は見るだけにしてチョコバナナやクレープなどのスイーツを買っては食べるの繰り返し。


 野外ステージというのを存分に活かして、スタジアムの外には祭りのように屋台が並んでいる。

 ステージから歌も響いてきて、ノリながら楽しんでいる人で溢れている。


「それにしても熱いっすねぇ。気温もっすけど、熱気が。」


「だねぇ〜。流石うたちーのライブって感じ。」


「涼風さんもあんなに熱い人だったんすねぇ。意外っす。」


 今は奈帆と歌唄のステージ本番真っ最中。

 柚希たちが居る場所からは豆粒よりも小さい姿しか見えないほど遠いけれど、二人らしい熱風が巻き起こっている。それは会場中を巻き込む台風になり、どんどん外へと広がっていく。


「う〜〜〜これは負けてられないぞ〜!!!」


「そろそろ準備しに戻るっすか?時間に余裕持った方が………ん?」


 気合いが高まる柚希を連れて楽屋へ戻ろうとした時、楓は何かに引っ張られるような違和感を覚え後ろを振り向く。

 目線の先には誰もおらず、引っ張られているであろう服の裾に目線を移すとそこには、ポロポロと涙を零している少女がいた。


「う…うぅ………。」


「うわあっ!ど、どうしたっすか!?」


「んえ!たいへ〜ん!」


 二人は驚いてあやそうとするもどうにもならず、周囲を見ても彼女の親らしき人は居なかった。


「ま、迷子…っすよね?どうするっすか…。」


「え、えっと…こういう時は………。」


 焦る楓を他所に、柚希は深呼吸して少女に目線を合わせるためにしゃがんだ。


「こんにちは!お父さんやお母さんとはぐれちゃったの?」


「あ…ゆ、ゆずきちゃんだ………!」


「わぁ!ゆずのこと知ってるの?」


 柚希が明るい笑顔で聞くと、少女は目を開け柚希を見るなり大きな目を見開いた。


「う、ん…。今日はゆずきちゃんに会いに来たの。」


「そうなんだ!ありがとう〜♪」


 思いがけない小さなファンに柚希は嬉しくて、少女の頭を撫でる。安心したのか、涙が落ち着いたようだ。


「はい、これで涙拭くっす。」


「ありがと…あ!かえでちゃんだぁ!」


 楓がハンカチを渡すと、彼女にも気付いて先程よりも笑顔になる。

 人混みから離れ、二人はどうやって彼女の両親を探そうか話す。準備の時間も迫っているが、短時間で見つかるほど人通りは少なくない。


「スタッフさんに任せるのも忍びないっすよね。こんなに懐いてくれてるし…。」


 少女は柚希と楓の手をギュッと握り、人の流れをボーッと見ている。その中に両親がいないか探していると思うと、胸が苦しくなる。


 色々考えている内に、時間は経つ。すると、柚希のスマートフォンに着信があった。


『柚希、今どこにいる?合流したいんだけど、楽屋にいないよね。』


 それは藍音からの着信で、本番前に会う約束をしていたことを思い出す。現在地を伝え、迎えに来てくれることになり、その場にジッと留まった。


「あ!藍音〜。こっちこっち!」


「柚希。もうすぐ準備だし、こんなところにいて良いの?」


「行かなきゃだけど…この子放っておけなくて。この人混みの中、探すのも難しいし…一緒にいてあげたいの。」


「なるほど…」と呟いて藍音は考える。すると、藍音は何かを閃いたのかスマートフォンを取り出して少女に写真を撮っていいか聞いた。


「藍音?写真撮って何するの?」


「柚希たちはこの子を楽屋に連れてって、サッカー部のみんなで会場内探すよ。それで、親御さん見つけたら楽屋に行くよう伝える。

 それなら準備も出来るし、この子も不安にならなくて済むかなって。」


「それはナイスアイディアっすね!」


 藍音は一緒に来ていたサッカー部員たちに少女の両親を探すようグループチャットに連絡し、写真を添付した。


「よし、それじゃあ一緒に行こっか!」


「うんっ。あの…お兄ちゃん、ありがとうっ。」


 藍音と分かれ、柚希と楓は少女を連れて楽屋に向かった。

 たくさんの大人が忙しなく動いている様子に最初は驚いていた少女だったが、楽屋の中には見知ったアイドルたちがいっぱいですぐに笑顔に変わる。


「かわいい〜!そのリュックの缶バッジ、双葉ちゃんだよね?」


「う、うん。ホントはみんなのバッジほしかったんだけど、ママが一個だけって。今度夏休みの宿題がんばったら、もう一個買ってもらうの!」


「へぇ…夏休み、もうそろそろ終わるけど大丈夫なのかしら?」


「えっと、あとちょっとなの!だから今日も連れて来てもらったんだ。」


 柚希と楓が着替えている間は出番を終えた雛と伊織に相手をしてもらい、少女が寂しくならないようにする。

 サッカー部のチャットには着信が無いまま、時間は過ぎていった。


「柚希さん、楓さん!そろそろステージ下に待機してください。」


「は、はいっす!」


 ポップアップで登場する二人はステージ下に待機することになっている。本番はとうとう目の前となり、緊張感が走る。


「ゆずきちゃん!かえでちゃん!がんばってね!」


 少女の笑顔に元気を貰い、緊張が解れるような気がした。

 けれど、ライブを見に来た少女を楽屋に留めておくことに罪悪感が苛まれる。楽屋にはモニターがあるが、やはり生で見てもらいたい。


「…ねぇ、ステージの横から見てみない?」


「え?い、いいの………?」


「うん。誰か一緒に着いててもらって…ひなたん、お願いしても良い?」


「良いよ。することないし、あっくんもその子のご両親探してるところだから。」


 雛に付き添いをお願いし、少女に傍でライブを見てもらう。それなら心置きなく全力でライブが出来るような気がした。


 柚希と楓はステージ下へ向かい、気持ちを一つにする。二人らしい明るく元気でパワフルなステージにしたい。

 そう願いながら、手を合わせた。


「…ゆず。」


「ん?なぁに、めぷる。」


 お互いの手の温度が混ざりあって、その手を通して心が通じ合うような感覚がする。


「ずっと、ゆずに憧れてたんす。」


「どしたの〜?急に…。」


 中等部の入学式、彼女に出会った。明るい彼女はとても奔放で突拍子も無くて、見ていて飽きない。そんな印象だった。


 二年に上がりクラスは別々になった。けれど彼女との繋がりは消えず、毎日のように会い、その笑顔に笑顔で返す。


 そして同じ夢を見て同じ目標を持ち、今日まで共にした時間はかけがえのないものとなった。


「…こんなこと普段は恥ずかしくて言えないっすけど、今なら言えるっす。」


 楓は深呼吸をして、真っ直ぐと柚希の目を見た。

 エメラルドのような澄んだ緑は心を穏やかにしてくれる優しい色。


「いつも元気なゆずを尊敬してるっす。いつも考え無しに突っ走ってるのに、誰かが落ち込んでいたらすぐに元気にしちゃうゆずは凄いっす。


 そんなゆずだから、一緒にいたいと思うんす!」


 柚希の顔がみるみる赤くなっていく。そんな彼女すら、愛おしい。


「め、めぷるだって…いつも元気だし、ゆずが変なことしてもノリ良く返してくれるし…。」


 柚希は下を向いたまま楓にゆっくり抱き着いた。柚希のシトラスの香りが楓にも移る。


「ゆずだって、そんなめぷるだから一緒にいたいの!めぷるばっかり褒めててずるい!!!」


「アッハハ!褒めるにズルいも何も無いっすよ〜。」


 頬をぷっくりと膨らませる柚希に笑みがこぼれる。


 蘭と組みたかったけれど、それは叶わなかった柚希。でもそのおかげで、もう一人の親友がこんなにも近くにいたことを知る。


 それは楓にとって残酷なことだっただろう。それでも、見捨てずに歩み寄って来てくれた。

 今度は自分が彼女に寄り添いたい。

 歩み寄って来てくれたお礼じゃない。眩しい彼女に追いつきたい。大好きな彼女の隣にいたい。


「お二人とも、スタンバイお願いします。」


 どちらともなく身体を離し、導かれるように視線を交差し、それぞれの位置に立つ。

 上には外からの光が降り注ぎ、まだ熱気が残っている。


「ステージ上げます!三、二、一………!」


 真っ暗なステージ下から一気に景色が変わる。

 熱気溢れる世界が太陽の光を浴びて煌めいている。


 〜♪


 あの夢の中で見た煌めきは、こんなにも近くにあった。

 太陽のように眩しい彼女が隣にいて、自分も輝ける。


 ステージ袖に目をやると、雛の隣にあの少女が目を輝かせてみている。それに笑顔で返せば、彼女も笑う。


 もう迷わない。彼女が隣で道を照らしてくれる限り。彼女が、手を引っ張ってくれる限り。

 真っ直ぐ歩んでいける。

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