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あの星に煌めきを  作者: そーら
第八章 私はあなたの隣で
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完璧の先へ

 



 奏空のバースデーライブから数日後。今日も二人はレッスンに明け暮れていた。

 月末のライブも差し迫り、本格的に仕上げていく。


「っ…!」


 今は曲を流しながらダンスを入念にチェックしている。水明に見てもらっているからか、緊張感が走る。


「…うん、完璧だね。」


「本当ですか?」


「奏空は変なクセが抜けたみたいだし、蘭もちゃんと合わせられてたよ。」


 水明は笑顔でそう言う。けれど、どこか違和感のある言い方に蘭は疑問を持つ。


「合わせられてたって…それだけですか?」


「ん?うん。そのままの意味だよ〜。」


 奏空の隣に立つという目標を持っていた蘭にとって、第三者からそう言ってもらえるのは嬉しい。しかし、それでも水明の飄々とした姿に首を傾げる。


「…完璧って…どういう意味ですか?アイドルとして百点なのか、実力を百パーセント出せているということなのか…それとも両方?それ以外?」


「うーん…両方だし、それ以外とも言えるかな。」


 水明の曖昧な答えに、蘭と奏空は意味がわからないという風に顔を見合わせる。それを見て痺れを切らした水明がビシッと二人の目の前に指を差す。


「ズバリ、完璧過ぎて見えてないねっ!」


「見えてない…?」


「うんっ。ぶっちゃけ二人は他のチームより仕上がってるけど、他のチームに見えてることが二人には見えてないねっ!特に奏空!んじゃあね〜。」


「えっ…私?って水明さんっ!」


 言うだけ言って水明はパパッと周囲を片付けてレッスン室を出て行った。取り残された二人は、言葉の意味を聞く間もなく、その場に立ち尽くす。特に、名指しされた奏空は。


「ど、どういうことでしょう…。」


「他のチームには見えていて、私たちには見えていないもの…?」


 水明が出て行った扉を見つめ、言葉の意味を探ろうとしても他のチームの現状を知らない彼女たちに答えは出なかった。


「…ゆずちゃんに水野さんと何してるか聞いてみますね。」


「それなら私も…アイリーンちゃんに聞いてみようかな。」


 とりあえず二人は室内の隅に座り、レッスンの休憩がてら各々に連絡することにした。


『ゆずちゃん、今大丈夫?』


『大丈夫だよ〜!どしたの〜ん。』


 蘭が連絡すると、すぐに返信が来る。蘭は安心して楓とのことを聞いた。


『最近、水野さんと何してるのかなって気になって。この前は合宿してたって言ってたけど。』


『最近?んとねー、めぷるとお互いの家にお泊まりしてるよ!今日はめぷるの家〜って言ってもあかつき寮だけど。和斗先輩もいるよ〜。』


 そう返事が来ると、続けて写真も送られてくる。楽しそうな柚希と楓、その後ろには「蘭ちゃん!?」と今にも飛び出してきそうなくらい躍動感のある和斗が映り込んでいた。


『蘭の話したら飛びつかれたぁ〜。』


「ふふっ。」


 変な動きのスタンプと共にそう言われ、つい笑みが零れる。


「柚希ちゃん、何て?」


「ふふ、すみません。水野さんの部屋で楽しんでるみたいです。」


 蘭が珍しく声を出して笑ったからか、奏空が気になってスマートフォンを覗く。奏空も柚希から送られてきた写真を見て笑みを零す。


「柚希ちゃんと楓ちゃん楽しそう〜。アイリーンちゃんも莉愛ちゃんと一緒にいるみたい。莉愛ちゃんの実家に着いて行ってるんだって。」


 奏空もスマートフォンを差し出し、アイリーンとのチャット画面を見せる。そこには公園のブランコに乗る二人が映っていた。


「…これは………。」


「二人の思い出のブランコなんだって。小さい頃に会ってたなんてドラマチックだよね。」


 この前、事務所で近況を報告し合った時に莉愛が言っていた話を思い出す。その中に出てきたブランコのようだ。


「…良いですね。二組とも、素敵な時間を過ごしているようで。」


「うーん…水明さんが言ってたのって一緒にいること、なのかな?」


「ここ最近は時間さえ合えば殆どレッスンして一緒にいますが…、それだけでは駄目なんでしょうか。」


 水明の言葉の意味に遡る。自分たちも柚希たち同様に一緒に過ごす時間は増えたが、それ以外に彼女らと違う点を考える。

 すると、柚希からメッセージが来た。


『蘭は最近そらしとどう〜?』


『一緒にレッスンやってるよ。』


『レッスンだけ?真面目だねぇ〜もっと別のことも一緒にやらないと!』


 またメッセージと一緒に変な動きのスタンプが送られて来る。けれど、蘭はそれに目を向けず文字をジッと見つめていた。


「蘭ちゃん?どうしたの?」


「…星屑さん。」


 画面を見て固まった蘭の顔を覗き込む奏空。蘭は奏空の名前を呼んだ後、勢いよく顔を上げて元々大きな目をさらに開いて言った。


「一緒に出かけませんか?」




 ・・・




「はぁ〜…楽しかったねっ!」


 奏空は楽しそうな顔で伸びをした。背景には、隣町にある有名なテーマパーク『フルムーンランド』が立っている。

 外からはアトラクションが夕焼けに染まっているが、中に入ればそこは夜。ホログラムを活用していつでも夜を体験出来るのが特徴的だ。


「いつもはサッカー部員で来ることが多いのですが、少数でも十分に楽しめましたね。」


「そうだね。イルミネーションで明るいとは言え、夜だから人にもバレにくいし…また来てみたいな〜。」


 有名人である奏空たちでも他の人と変わらず楽しめるところが気に入ったようで、パンフレットで回った場所を思い出す。


「ジェットコースター面白かったなぁ〜。坂とか回ったりとかは少なかったけど、スピード感があって…乗り慣れてない私でも楽しめたし。蘭ちゃんは何か気に入ったアトラクションあった?」


「そうですね…観覧車の仕掛けが良かったと思います。上から見るとマスコットキャラクターの形になるように道が作られていて。」


 遊園地とベタな場所ではあるが、学生らしい思い出を共有出来てお互い嬉しさが込み上げる。この時間がまだ続いて欲しいと願うように、思い出を語る。


「写真もいっぱい撮ったよね。後で何枚かSNSに上げてもいい?」


「はい。私は構いませんが………星屑さん。」


 駅に着いたところで、蘭が奏空の名前を呼ぶ。「ん?」と蘭の方に振り向くと、透明で真っ直ぐな瞳と目が合った。


「今度は私の家に来ませんか?」


「えっ?」


「まだ…星屑さんと居たいんです。」


 蘭の優しい笑顔が茜色に染まる。あまりの美しさに奏空は言葉を失った。


「以前、星屑さんのお部屋にお邪魔した時…私の家にも行ってみたいとおっしゃっていたので、良い機会かなと思ったのですが…どうでしょう?」


「え、あ………。」


 蘭が首を傾げて奏空の顔を覗く。見蕩れていた奏空はハッとして、すぐに顔を縦に振った。


「う、うんっ。蘭ちゃんが良いなら行ってみたいな。」


「それは良かったです。では、母に連絡がてら行きましょうか。」


 そうして、二人は電車に乗り蘭の家へ向かった。


 ・


「奏空ちゃん、いらっしゃい♪」


 蘭の家に着くと、侑香がご機嫌に迎え入れる。奥からは美味しそうな香りが漂い、食欲を唆る。


「手土産も無くすみません。お邪魔致します。」


「手土産なんて良いのよ。もうすぐ夕ご飯出来るから上がって上がって!」


「お母さん………。」


 侑香は奏空の手を取り、リビングに連れて行く。変にテンションの高い優香に呆れる蘭。


「蘭、おかえり…ん?星屑 奏空………?」


「あっ、お邪魔します…えっと……。」


「弟の侑くんです。」


「侑くん、初めまして!」


 リビングにはソファに座ってテレビを見る侑がいた。奏空の存在に驚きを隠せないようだが、奏空のアイドルらしい笑顔に心が惹かれる。


「む…は、初めまして。」


「ふふっ、侑ったら可愛い女の子が二人並んでドキドキしてるのね〜。」


「んなっ!していない!!!」


 頬を赤らめる侑を揶揄いながら、侑香はキッチンの方へ向かう。プリプリと怒りながらも、侑は先程見ていたテレビに目を移す。


 蘭は荷物を置きに、奏空を自室まで案内した。初めて入る蘭の部屋にドキドキしながら、奏空は扉から顔を出した。


「どうぞ、星屑さん。」


「わぁ…真っ白な家具が多いね。」


「はい。白は個人的に落ち着く色なので。」


 第一印象は白くて清潔感がある。蘭らしい部屋だが、よくよく見ると紺などの落ち着いた色味がアクセントになっている。


「持ち物はこちらに。パジャマ等はこちらで用意しますので。」


「ありがとう。」


 奏空は言われた場所に荷物を置き、少しソワソワした面持ちで再び蘭の部屋を見渡す。

 入口側からは見えなかった本棚にはたくさんの本が並び、難しそうなタイトルや中には様々な外国語の本もある。

 机の上には本格的なデスクトップパソコン、付近にはタブレットが数台と綺麗にまとめられたケーブルたち。そして最近見たばかりなのか、事務所の資料のライブ映像が数枚。


「あ…これ、Pentagram☆*。の…。」


「はい、サードライブの映像です。ファースト、セカンドと見させていただいたのですが、徐々にチームとして機能し始めた頃合いで見ていてとても参考になります。」


「ふふ、よく見てくれてるんだね。確かにサードの時はチームの一体感みたいなのが実感出来て………。」


 奏空は当時のことを思い出して黙る。今になってどう言葉にしたらいいのか分からない感情がぐるぐると巡る。

 しかし、蘭はその感情を理解出来た。


「才能が押し込められてる気がした…ですか?」


「えっ…。」


「チームとして出来上がるということは、星屑さんが才能を抑えるということです。優しいあなたは気付いていなかったと思いますが、今になって複雑な気持ちになるのではないかと。」


 蘭に全てを見透かされてしまったようで、奏空は苦く笑う。ぐるぐるとしていた感情がハッキリと言葉を持ち、スッと奥底に流れていく。


「…今の自分だから、気付いたんだね。蘭ちゃんは凄いなぁ。」


「いえ、凄いのは星屑さんですよ。難しい気持ちを抱えながら、たくさんの人の期待に応えることは簡単ではありません。私はただ、言葉にしただけです。」


「それが難しい」と奏空は言おうとするが、侑香から夕飯の呼び出しがさえ、開いた口は行き場を無くす。


 夕飯をいただき、そのままお風呂も入らせてもらうことになった奏空は蘭から着替えを貰いゆっくりと湯船に浸かる。


「はぁ………。」


 小さな溜息もよく響く広いお風呂場。足をどんなに伸ばしても、身体をどれだけ浸からせてもストレスフリーでのんびり出来る。


「…他のチームに見えてるものが見えていない…かぁ。」


 一人でゆっくりしていると、つい考え事をしてしまう。昼に水明に言われて、今日は蘭と二人でいつもとは違う過ごし方をしてみた。

 時間は少なかったが、フルムーンランドで遊び、今は蘭の家にお邪魔している。どれもこれも、蘭が提案してくれた。


「私って…手を引っ張ってもらってばっかりだなぁ。」


 今日だけじゃない。才能を抑え込まなくなったのも、Pentagram☆*。が出来たのも、芸能界に入ったのも。

 全て誰かに手を引かれて。たくさんの人に引かれた手は、その期待に応えられているだろうか。ずっと心のどこかで思っていた。


「…Pentagram☆*。は皆が着いてきてくれたから。ASK Lightはそれぞれが同じものを見ていたから。

 蘭ちゃんは…私を真っ直ぐ見て、着いてきてくれて…時に力強く引っ張ってくれる。」


 白く長い指を持った手で掬った湯は、簡単に零れ落ちていく。自分には何も残っていないと案じるように。


「星屑さん、バスタオルこちらに置いておきますね。」


「あ…蘭ちゃん、ありがとう。」


 磨りガラスの奥に蘭の影が見える。そちらに手を伸ばしてみても、濡れた手が空気をまとって冷えるだけ。


「星屑さん。」


 すると、蘭の凛とした声がドア越しに聞こえる。その声にドキリ…とするのは、また心を見透かされたような気持ちになるからだろう。


「今度のライブ、あなたの隣に立てるのがとても楽しみです。いつも上を行くあなたの隣に…。」


 見えずとも、蘭の表情が浮かぶようだった。俯きがちに下を向きながら、女神のように微笑む姿。


「才能を抑えるのをやめてから、どんどんと力を発揮していく星屑さんが怖くなったこともありました。私がそうさせたのに…。

 でも、あなたの放つ才能の輝きは優しくて暖かくて…怖かった気持ちが溶けるように無くなって、ただ純粋に隣に立ちたくなりました。一つの目標として。」


 扉越しでもハッキリと耳に残るその言葉に、奏空はいつの間にか涙を流していた。その涙は湯船に落ち、溶けていく。


「…すみません、ゆっくり入ってたのに勝手な話をして。私は部屋に…。」


「蘭ちゃん、待って!」


 蘭が部屋に戻ろうとして、咄嗟に湯船から飛び出す。ザパッと波立ち、扉に手をかけたところで自分が裸だということに気付き、そろりと扉を開けて顔を覗かせる。


「あ、あの…蘭ちゃん。」


「…お風邪を引きますよ。」


 奏空がお湯の熱でなのか、恥ずかしいからか頬を赤く染めながら、何か言いたげに蘭を見つめる。

 すると、蘭は笑って持ってきたバスタオルを渡す。ふかふかと柔らかいバスタオルに身を包み、お風呂場から出る。


「………。」


 一呼吸置くと、少し言葉が濁る。先程まで浮かんでいた言葉が違うような気がして。

 奏空は蘭の顔を真っ直ぐ見る。すると、蘭もまた真っ直ぐ奏空を見ていた。そうすれば、自然に言葉は出てきた。


「…蘭。」


「!…何ですか、奏空。」


 奏空がいつもと違う呼び方をすると、それに倣うように蘭も呼ぶ。蘭にそう呼ばれると、胸の奥が優しく揺れる。


「私、期待に応えようとして何も見れていなかったのかもしれない。こんなに…見られていたのに。」


 いつも奏空の心を見透かす蘭。それは蘭が特別だからじゃない。蘭が、ただ純粋に真っ直ぐ人を見ているからだ。そして、その純粋な心を言葉の奥に潜ませてくれる。


「だから、誰の期待も背負うのをやめる。蘭のその透明な瞳がキラキラ輝くくらい、輝いて…あなたの隣に立つ!」


 言い切った奏空はもう既に輝きを放っていた。太陽を遮るものが無ければ、影が差さぬように、もう彼女を抑えるものは何も無い。

 蘭はそんな彼女の眩しさに凛とした目で返す。


「はい。私も奏空の光を受け止めて…あなたの隣で輝くことを約束します。」


 また、蘭の言葉からは言葉以上のものが詰まっている。それが、じんわりと奏空の心に染み渡る。


 心がひとつになったような、そんな気がした。


「…でも、その前に着替えましょうか。」


「あ…忘れてた。パジャマ借りるね。」

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