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あの星に煌めきを  作者: そーら
第八章 私はあなたの隣で
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才能の海から

 



 奏空のバースデーライブの翌日。初めて全力以上のものを出し尽くし、いつもの様に回復が出来なかった奏空は、大事をとって一日休みをもらっていた。

 そんな中でも、蘭は一人で練習を続ける。


「…っ!ふっ………!」


 昨日のライブが目に焼き付いて離れない。

 太陽を直視した時、目を閉じてもその光がじんわりと残っているような感覚のように。


「…よくやるなぁ………。」


「!あ…綴さん………。」


 突然結弦の声が聞こえ、集中が切れる。振り返ると、いつの間にかスタジオの壁に寄りかかって蘭を見ていた。


「奏空の様子を見に来たら、きらるにお前がいるって聞いてな。

 昨日のライブに感化されたか?動きが奏空によーく似てる。」


「そ、そうですか…?」


「あぁ。やっぱり、奏空の相棒はお前にしかなれないよ。」


 結弦は片手に持っていたペットボトルを蘭に渡し、彼女の隣に座った。その床はレッスンで削られた傷でたくさんだ。


「…奏空の才能、感じただろ?」


「はい、日頃からどんなものなのかは知っていましたが…昨日のライブで確実に理解しました。チームのためを思って抑え込むのも分かる気がします。」


「……いや、奏空が才能を抑え込んでしまったのは、俺のせいなんだ。あの日…奏空の才能を目の当たりにしてしまったから。」


 結弦の言葉に、蘭は首を傾げる。

 記憶を呼び起こすように、結弦は目を閉じた。蘭の知らない奏空の姿がそこにはあるのだろう。


「社長はどこからか奏空を見つけてきた。まぁ、あの人は見えてるものが普通の人と違うからな。

 そして、俺は奏空のマネージャーになって…声優として初めてもらった役の歌の練習を聞いて、耳を疑った。」


 結弦の頭には、焼き付いて離れない奏空の歌声が流れる。


「…完璧だった。まだ誰も、何も教えていないのに完璧だったんだ。

 涼やかで伸びやかな声も、声を出すための身体の使い方も、役にある蕾のような未熟さも。

 歌っているのは星屑 奏空じゃなかったんだ。」


 そこにあるのはキャラクター。奏空が歌っているのに、そこに奏空はいない。

 演者として完璧な姿が結弦の目に焼き付き、理想の声が耳を焦がす。


「ほら、俺…元俳優って話しただろ?引退したのは、元々こういう裏方をやってみたいって思ったのもあるが………才能ある奴らがみんな壊れていくのを見たからなんだ。」


「…壊れる………?」


「分かりやすく言うと、才能に身体や心が着いていかなかったんだよ。」


 結弦は拳を握り、震える手を抑える。彼が見たものは、蘭が奏空に感じた畏怖よりも強いものなのかもしれない。


「お前が知ってる奴だと…木咲 アイがそれだ。」


「橙咲先生が…?とても元気な方ですけど…。」


 亜沙美の名前が出てきたことに蘭は驚く。けれど、いくつか合点がいくところもあった。


「今は、な。当時の彼女の人気の殆どは生まれ持った才能によるもので、プロデューサーも彼女の人気は想定外だった。だから対応が追いついていなかったんだ。

 勢いを増すファンに振り回され、杜撰な対応しか出来なかった事務所、一番近くにいたプロデューサーはアイの秘匿性を優先し過ぎて橙咲本人を見てあげられなかった。

 唯一自分でいられるステージでさえ…才能に振り回されてしまった。

 元々飽きっぽい性格だったが、それ以上に心身共に続けることが出来なくなってしまった。」


 結弦の話を聞いて腑に落ちる。以前、侑香が話していた木咲 アイの引退までの経緯が異質だったからだ。


「…母に聞きました。ライブでファンの方を一切見ることなく、一方的に引退発表をして去っていった…と。」


「あぁ、そうだ。誰も信用出来なくなってしまったんだよ。最後の最後だけは、自分の好きに歌いたい…彼女なりの決別だったんだ。

 その後、活動が支障になって留年した彼女と同じクラスになったが…まるで別人のようだった。才能が燃え尽きた…の一言に限る。」


 木咲 アイとは全くの別人。アイを知る結弦にしか分からない亜沙美の姿がそこにはあった。

 笑顔を失い、他人と関わることを恐れ、彼女の心は閉鎖的になっていた。


「それを見て、怖くなったんだ。今思うと俺はそうなる程の才能は持ってなかったが、若かった俺は自分もそうなるかもしれない…って思っちまったんだ。」


 それからは新しい仕事を入れず、既に入っていた仕事だけをこなし、裏方になる為に秀一郎の独立を手伝っていた。


 そして、数年が経ち奏空に出会った。


「奏空の才能を見た時、アイと同じものを感じた。同時に、その才能の終わりも。」


 一瞬で目を焦がす才能。それを自分で使いこなせなければ、アイの二の舞だ。才能が終わる瞬間を見た結弦は、奏空をそうさせたくはなかった。


「だから社長と相談して、奏空のためにチームを作った。」


 Pentagram☆*。の結成理由を知った蘭は息を飲んだ。あれだけ息の合ったチームが、たった一人の才能のためだけに作られたものだったのだから。


「勿論、誰でも良かったわけじゃないし、他のメンバーのことを考えていなかったわけじゃない。

 エンターテイナーになる素質があり、そのために欠けているものがあった蘭世たちと、全てを持っている奏空を一緒にすることで彼女たちが得られるものはたくさんあった。

 そして、奏空にとってそれは…才能を抑えるための箱になった。」


 自分だけの世界で踊っていた蘭世。好きを仕事にするための経験が無かった乃愛。幼いが故に夢も目標も無かった来夢。歌うためだけに一人で無作為に走ろうとした夕空。


 奏空の周りを彼女たちで囲むことで、彼女たちの成長を助け、チームとしてレベルを均等にするために奏空は才能を抑えたのだった。


「…そうなると、私は星屑さんに無理をさせてしまったのでしょうか…。彼女の心身のために抑えていた才能を、自分を高めるためだけに放ってしまって…。」


 奏空の事情を知った蘭は、やってはいけないことをした後悔が募る。しかし、結弦はそれを否定した。


「いや、良いタイミングだったよ。」


「…え………?」


「今年の四月、奏空が煌めきの夢を見た日から少しずつ…本当に小さな変化だが、才能の輝き方が違って見えたんだ。」


 一番近くで奏空の輝きを見てきた結弦にしか分からない変化。それが、絶好のチャンスだと考えた。


「曖昧だった輝きが、しっかりと意志を持ち始めていた。霞がかった景色が晴れるように鮮明に。」


「…それはきっと、夢の中で本当の自分を見つけたんでしょうね。私もそうでした。」


 蘭は煌めきの夢の中で有葵に言われたことを一言一句、思い出す。


 "蘭、あなたの煌めきは心の奥底に眠った深い深い闇の果て。一筋の光だけを宿した儚い美しさ。闇を知っているからこそ、その強い煌めきが世界を魅了する。"


 幼少期、今の家族ではない…血の繋がった人たちとの生活。陽の射さない真っ暗な部屋の中が蘭の唯一の居場所。

 そこに、自分と同じくらいの小さな手が光の中から伸びてきた。その手を握り、光の中を歩いた。


「私が有葵さんからもらった言葉は、私の中の光を思い出させてくれました。小さな光だけれど、世界で一番あたたかな光。

 星屑さんも、星屑さんにとっての光を思い出したのかもしれません。」


「そう…なのかもな。だからあんな…強い輝きを放てたんだろうな。」


 奏空の変化が嬉しくて仕方ない。そう言いたげな結弦の表情に、蘭も無意識に笑みがこぼれる。


「…なるほど、だからPentagram☆*。を活動休止にしたんですね。星屑さんが才能に振り回されることが無くなり、星屑さんと一緒にいた他の皆さんも欠けていたものが無くなったから。」


「あぁ。蘭世たちは奏空に頼る必要が無くなった。奏空も抑える必要が無くなった。それでも、この一年で築いた絆は固く強い。離すのは心苦しいし、何よりそれまで無意識の内にやっていた癖は中々抜けなかった。

 まだ才能を出し切れずにいたところに、お前が言ったんだ。」


 数日前、蘭が奏空に才能を抑え込まないで欲しいと言ったあの日から、奏空は本当に抑え込むのをやめた。

 結弦にも何がきっかけになったかは、すぐに分かった。


「心身共に壊れることなく、奏空本来の才能を出せるようになったのはお前のおかげだ。ありがとうな。」


「…いいえ、私だけじゃ出来ませんでしたよ。

 彼女の才能を見出した煌さん。その才能の未来を予見した綴さん。常に行動を共にし、居場所を与えたPentagram☆*。の皆さん。彼女に輝くことを思い出させた命さん。世界を広げたASK Lightの二人。


 星屑さんの周りにいた全ての方々が、彼女を才能の海から救い出したのです。私はたった最後、彼女に手を伸ばして掬い上げただけ。」


 蘭は今までの話を聞いて、自分だけが奏空に尽くしたわけではないことを理解した。たくさんの人が彼女のために動き、彼女はそれ以上の輝きを持った。


「才能の…海、か。」


 結弦は自分が少しでも奏空のためになれたのだとようやく実感する。


「…お前なら………、何でも吸収して自分のものにする蘭なら、本気の奏空ともやっていけるだろうな。」


 わしゃわしゃと大きな手で蘭の頭を乱雑に撫でると、サラサラとした絹のような銀髪が揺れる。


「奏空をよろしく頼む。」


「…はい。星屑さんと同じ場所に立って、二人でさらなる高みに向かいます。」


 何にも染まらない透明な瞳が真っ直ぐ、結弦の瞳を貫いた。

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