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あの星に煌めきを  作者: そーら
第八章 私はあなたの隣で
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畏怖と涙

 



 煌プロダクションにて。今日はライブに向けて、全体の段取りを確認するために全チームだけでなく、関わっている全ての者が集まっていた。


 出番を決めたり、事前に用意してきたセットリスト案を提出したり、衣装や音源などの細かい演出の確認まで、まるで本番直前かのような緊張感が漂っている。


「水明さん、ダンスで変えたいところが…。」


「この曲の時に、曲をイメージした映像を流したいんですけど…。」


「あ!この曲にすると少し時間がオーバーしちゃうなぁ。」


 各々が担当者に確認しているため、室内は少し騒がしい。

 蘭は別室で澄佳と衣装合わせをしながら、漏れ出る声に耳を傾けていた。


「…こ、こんな感じですけど窮屈だったり、緩かったりしませんか?」


「今のところ大丈夫です。ちょっと動きの確認してきますね。」


 姿鏡で動きを見ながら、衣装に問題が無いか確認する。その様子を、先に衣装合わせを終えた奏空が着替えながら見つめている。


「…あ、蘭ちゃん。今の動き、腰のチュールを持ってサラ…ってしたら綺麗に見えると思うよ。」


「こ、こう…ですか?」


 奏空の言う通りに動いてみると、確かに動きが良くなった。より良く見せるために、元の振付に縛られない柔軟な発想に感嘆する。


「…澄佳さん。蘭ちゃんのコルセット、もう少し締めてもらっても良いですか?その方がシルエットがスッキリすると思います。」


「えっ…。」


「あっ、はい…!奏空さんの方は問題無いようなので、次は隣の部屋でバースデーライブの衣装も合わせたいのですが…。」


「分かりました。先に行ってますね。」


 衣装を着替え終えた奏空が隣の部屋に向かう。

 奏空の指示でコルセットを締めてもらった蘭は、動きに問題が無いか確認する。

 確かにシルエットにメリハリが着き、蘭らしいクールな印象が強まった。


「……………。」


「らぁ〜ん〜〜〜。衣装合わせ終わった〜?わ!蘭の衣装かっこい〜!」


「ヒェッ…蘭先輩!素敵過ぎます………!」


 確認が終わったのか、柚希と莉愛がやって来る。最近はチーム同士で一緒にいることが多かったからか、こうしていつものメンバーで集まると不思議と安心する。

 けれど、蘭は鏡の中の自分を見てしばらく固まってしまった、


「ん、蘭?」


「…あ、あぁ…ありがとう。二人はこれから衣装合わせ?」


「ううん、今から十分くらい休憩だって〜。」


「なので、蘭先輩も一緒にどうかと思って…。お、お着替え手伝います!」


 柚希と莉愛に手伝ってもらいながら着替えを済ませ、事務所の一階にあるロビーでゆっくりと過ごした。

 蘭はブラックコーヒー、柚希は炭酸ジュース、莉愛はミルクティーとそれぞれの好きなものを飲みながら近況を報告し合っていた。


「え!りあちとアイリーンちゃんって小さい頃に会ってたの!?」


「はい…。私は全然覚えてなかったんですけど、あいるちゃんは合宿の時から気付いてたみたいで。ずっと、私との思い出を大事にしてくれていたんです。」


「奇跡みたいな巡り合わせだね。」


「そうなんです!思い出してからは今まで以上に仲良くなれた気がして…息も合ってきたんです。」


 莉愛がサッカー部員以外に心を開いているのはとても珍しい。唯一、クラスメイトで趣味が合う風夏がいるくらいだった。

 けれどアイリーンが彼女の心に入り込み、その純粋な目で見つめたからこそ信頼出来ているのだろう。


 莉愛にそんな存在が出来たことが先輩として、友人として嬉しい蘭は、柔らかな笑みを浮かべる。


「ゆず先輩は楓先輩とどうですか?きっとゆず先輩が足を引っ張っているんでしょうけど。」


「も〜りあち!そんなことないもぉん。ゆずとめぷるは元々仲良しだったけど、も〜っと仲良くなったもんねぇ〜!」


 どうやら柚希と楓はこの夏休みの間、秀一郎に頼んで前に使ったコテージで合宿をしていたようだ。丁度シーズンということもあり、前は入れなかった海にも入ることが出来、満喫していると楽しそうに話す。


「観光地じゃないからお土産は無いんだけど、写真ならいっぱい撮ったよ!」


「うわ…海綺麗ですね。」


「でっしょ〜!あとね、播磨さんがバーベキューしてくれて…。」


 柚希はとても楽しそうに思い出を語る。

 例年通りならば、今頃サッカー部の夏合宿が始まる頃。しかし、今年は女性陣が全員ライブに参加することから断念することになった。

 部員全員の総意で決まったが、誰かと一緒にいることが大好きな柚希からその機会を奪ってしまったことに呵責する。


 麗生や秀一郎のためとは言え、歩むはずだった道から逸れたのは確かだ。


「……………。」


「…蘭?どしたの…?」


 柚希はスマートフォンをスクロールする手を止め、暗い顔になった蘭に気づく。柚希の言葉にハッとして、蘭は反射的に首を横に振った。


「あ…ううん、ちょっとボーッとしちゃった。」


「最近、奏空先輩とレッスンしてるって聞きました。お疲れでは無いですか?」


「レッスンは大変だけど、疲れてないよ。大丈夫。そろそろ休憩時間終わるし戻ろうか。」


「…蘭、待って!」


 蘭はブラックコーヒーが入った缶の蓋を閉め、先を歩く。柚希はそんな蘭の腕を掴んだ。


「ゆずちゃん?何…?」


「蘭、また一人で抱え込んでない?」


 柚希のその言葉に、蘭は一年前のことを思い出す。

 それは、蘭が中等部の生徒会長に任命されてから数ヶ月後のこと。前任の生徒会長が優秀過ぎたが故に、後継者がいなかったところ、編入してきた蘭が抜擢された。あまりにも突然の事で、怒涛の勢いで生徒会長としての仕事を叩き込んだ。


 当時の蘭は何でも一人で引き受け、他人に物を頼もうとしない。結果、無理が祟って倒れてしまった。


「あの時、蘭の異変に気付けなかったこと…今でも後悔してる。あんな後悔、もうしたくないから…ゆず、ちゃんと蘭のこと見てるんだよ!」


 必死に訴えてくるエメラルドグリーンの瞳は、当時のことを思い出しているのか、ゆらゆらと揺らめいている。


「蘭、話して!もう一人になんてさせない!」


 腕を掴む柚希の手が熱い。じわじわと、蘭の体温と混ざり合う。


「…本当はね、ライブが怖い。」


「!」


 透明な瞳に影が差す。それまで無意識に抑え込んでしまっていた感情が、濁流を起こしてとめどなく押し寄せてくる。

 奏空が才能を抑えていたように、蘭も抑えていたものがあった。


「星屑さんの隣に立つことがどれだけ重いのか…段々分かってくる。

 一等星のように輝くことにした彼女の隣には影が差す。そしたら、私は影に埋もれてデュオでやる意味が無い。有葵さんと命さんを助けることが出来なくなってしまう。」


 蘭は目を横にやり、何も無い壁に奏空の姿を重ねる。日に日にその輝きを増していく彼女は、本来の姿を隠していただけに過ぎない。

 バースデーライブに向けて、その頭角を現し始めた奏空はとめどない無限の光を散りばめている。


「学園長は、二人というものには不思議な力が宿ると言っていた。だから、その均衡を崩してはいけないのに…私にはそれが出来ない。

 星屑さんもそれが分かっていたから、抑えていたのに…。もうきっと、彼女は止まらない。」


 壊れた機械のように言葉を紡ぐ蘭に、柚希は何が出来るのかを考える。初めて、蘭が心の中をぶちまけたのだ。それを無駄にしたくない。


「蘭!そらしのとこ、行こっ!」


「…え………。」


「良いから、良いから!」


 奏空のことで弱っている蘭にその提案はあまりにも惨いのでは無いかと莉愛は心配になるが、それでも柚希は強引に蘭の腕を引っ張った。


 会議室フロアに戻り、一部屋ずつ奏空を探す。たくさんの人が行き交っていて、探すのが大変だったが、最後の部屋にそれはあった。


「〜♪」


 衣装を身に纏い、歌い、踊っている。彼女は星屑 奏空。


 けれど、それは本物の星。

 自ら光を放つ星。


「っ…。」


「蘭、ちゃんと見て。」


 あまりの眩しさに目を逸らしてしまいそうな蘭を諭す。柚希を見ると、真っ直ぐ奏空を見ていた。

 真似をするように奏空を見ると、彼女の輝きは柔らかい、優しい光に溢れていた。


「Lalala………ハロー!マイワールド♪」


 歌い終えた星の美しさたるや。そこに畏怖など、存在しなかった。


「ふぅ…あ!蘭ちゃんに柚希ちゃん、莉愛ちゃん!見てたの?」


「あ…えっと………。」


 奏空がこちらに気付き、恥ずかしそうに頬を染めながら近寄って来る。すっかり魅入ってしまった蘭は言葉を失っている。


「どうだったかな?今度のバースデーライブでやるソロ曲なんだ。あ…蘭ちゃんにはネタバレになっちゃったけど。」


「…す、素晴らしかった…です。」


 蘭の瞳から涙がポロリ…と一粒零れる。それに奏空は驚くが、蘭の力強い瞳を見て息を飲んだ。


「迷いが晴れました。もう…見失ったりしない。」


「…!」


 蘭の真っ直ぐで透明な瞳が見れて柚希は笑い、莉愛は安堵し、奏空は胸がドキドキと高鳴る。


「…これでもまだまだだよ?ライブもすぐだし、どんどんギアを上げてく予定!」


「これでまだまだ…凄いですね。」


 奏空もまた、迷っていた。今まで才能を抑え込んでいたのは周りとのバランスを考えて。それをやめ、自分をさらけ出すことに拒否している自分がどこかにいる。

 けれど、蘭の瞳はそんな気持ちを真っ直ぐにそれを焼き焦がす。


「でも、必ず追い付いて見せます。あなたの隣で、同じ輝きを放てるように。」


 さらに強まった奏空の光が蘭の瞳に反射する。

 何でもその身に投影してしまう映し鏡のような蘭の才能ならば、きっと奏空の才能さえも。


 そうして二つの才能は混ざり合い、やがて一つの星になるであろう。

 それを見た柚希は、安心したように笑った。

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