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あの星に煌めきを  作者: そーら
第七章 重なり合う心
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消えない存在

 



 夜、歌唄は自室でギター片手に曲を作っていた。

 今度のライブで歌う曲について打診されたところ、歌唄が作りたいと申し出たのだ。


「…ここは奈帆が歌いやすいようにして………。」


 IGNITION Now!の時は時間も余裕も無かったが、今回はライブまで一ヶ月ある上にそれまでの殆どは夏休み。持てる時間を全て使えるなら、使い倒したいというのは歌唄らしい。


「あー…、浮かばなくなってきたな。」


 一日中曲のことに頭を割いていたせいか、煮詰まってきてしまった。息抜きに歌唄は地下の防音室で思いっきりギターを弾こうと部屋を出た。


 夜の静かな寮内は少し不気味な雰囲気があって、ドキドキする。誰もいないと分かっていても警戒してしまうのは人間の本能だろうか。


「…っ!」


 すると、地下の奥の方から何やら音が聴こえる。誰かいるのだろうかとその近くに行ってみると明かりがついている。


「…な、なんだ………ってあれ?」


 良からぬものではなかったことに安堵してると、室内にはよく見慣れた人物がいた。

 コンコンとノックして扉についた窓から顔を覗かせる。


「う、歌唄!?」


 そこに居たのは奈帆だった。しかも、練習着を着てたくさん汗をかいている。


「どうしたの…こんな時間に?」


「それはあたしのセリフ。」


 歌唄は奈帆の首に掛けていたタオルを取って汗を拭く。何時間も頑張っていた証拠を見られ、奈帆は少し恥ずかしくなって俯く。


「…また、パニックになったらどうしようって思ったら何かやらないと気が済まなくて。」


「……………。」


 歌唄は煌めきの夢、そして前回のライブの時のことを思い出す。

 奈帆は過去のトラウマにより、歌唄が居ない状況で突拍子のない出来事が起きたり、人前に出ると混乱に陥るパニック障害を持っていた。


 星空学園に来てからは、歌唄が朝から夜までいつでも会える環境であることと、他者を重んじる校風により落ち着いていた。

 しかし、ここ最近は最低限の芸能活動により、いつどこでパニックに陥ってしまうのか自分でも分からない爆弾のような状態になっている。


「伊織ちゃんと組んでなんとなく変われた気がしたけど、結局この前のライブの時も直前になって震え出しちゃったし。二人がいなかったら、きっと台無しになってた…。」


 次第に自分自身が信じられなくなってしまい、レッスンを積むことで自信を付けようとしていた、と奈帆は話した。


「…そうか………。そんなに悩んでたんだな。」


 歌唄は奈帆を抱いて優しく頭を撫でた。色んな不安に押しつぶされそうになって、震える身体は少し冷えている。

 初夏とはいえ、汗をかいた身体で地下にいたらそうなってしまうのも当然だ。


「奈帆、まずは風呂入らないか?あ、臭いとかじゃなくて身体が汗で冷えてるからさ。あたしも部屋にこもってたからまだなんだ。」


「そ、そうだね………くちゅんっ。」


 歌唄に指摘されて寒さを自覚すると可愛らしいくしゃみが出た。

 二人はスタジオを綺麗に片付けて、一階の大浴場に向かった。夜は遅いが、まだ開いている時間だ。


 ・


 お風呂に入り、スッキリした二人は歌唄の部屋で話し合うことにした。まずは歌唄の曲の進捗を奈帆に確認してもらっている。


「…うん、すごくかっこよくて歌唄らしいね。」


「だろ〜?って言いたいんだけどさぁ、チルブレならこれが正解なんだけど、奈帆と歌うなら…もっとなんかこう………柔らかい感じを入れたいっていうか。この曲はピーキー過ぎるっていうか…?」


 個人的には満足のいく代物になったが、チームとして考えた時に足りないものが明らかにある。

 それを分かっていても、今まで作ったことの無い曲に挑戦するには引き出しが無かった。


「曲作りのことは分からないからなぁ…。あんまり良いアイデアが………あっ。」


 歌唄に無い引き出しが、曲を作ったことの無い奈帆にあるわけがない。そう思った時、奈帆は何かを閃いた。


「奈帆?どうかしたか?」


「えっと…、これを言ったら歌唄が困っちゃうような気がするんだけど、それでも聞く?」


 しかし、それを歌唄が聞くには少し勇気がいる事のようで、奈帆は忠告する。奈帆がハッキリしないことに疑問を抱くが、楽観的な歌唄はヒントなら早く話すように言った。


「じゃ、じゃあ言うね。歌唄ってギターで作曲してるでしょ?」


「ん、まぁ…これしか無いし、ロックならギターが一番イメージしやすいし。」


「だけど、ギターで作曲してるからいつもの曲になっちゃうんじゃないかな…って。歌唄が出来る他の楽器…ぴ、ピアノ…とかでやってみたら変わるんじゃないかなって思ったの。」


「ピアノ………か。」


 奈帆が言い淀んだ意味が分かり、歌唄は拳を握る。

 ピアノならばギターではイメージが出来ない優しく滑らかな奈帆らしいメロディーが作れる。しかし、ピアノを弾くのは歌唄にとって勇気がいること。


「伊織と話すために、一度弾いたけど…辞めてから弾いたのはあの一度だけ。

 あの時は咄嗟だったけど、指が動いてくれるか…。」


 歌唄は自分の掌に問う。生まれ持ったものは簡単に失われたりしない。けれど、指は簡単に動いてはくれない。


 二人は見つめ合い、お互いにまだ過去に捕らわれていることに笑ってしまった。


「ふふ、ダメだね。私たち。」


「だなぁ…。てかさっきから伊織のこと思い出してばっかじゃん。」


「伊織ちゃんが居たから、自然と動けてたんだね。私たちの中で、知らない内に伊織ちゃんの存在が大きくなってたんだ。」


 デュオチームは離れてしまったけれど、もう以前のような奈帆と歌唄だけの世界には戻れない。

 暗がりの世界を明るく照らしてくれる月はもう消えたりしない。


「………奈帆、やろう。あたしはピアノを弾けるように、奈帆は人前に立てるように。いつまでもこのままじゃ、何にもならない。」


「歌唄………。」


 歌唄のギラギラした太陽のような瞳が奈帆を見つめる。それぞれの胸に引っかかっているものを、見つめ直す良い機会だ。


「うん…私、頑張ってみようと思う。歌唄と、歌唄が作ってくれた曲をステージで歌いたいから。」


「奈帆〜〜〜!大変だろうけど、あたしたちなら絶対に出来る!やろう!!!」


 歌唄は力強く奈帆の肩を抱く。手は震え、顔は不格好に笑っている。

 それでも心の拠り所である相棒がいるならば、怖くても突き進めるような気がする。


「まずはさ、あたしがいつも行ってるライブハウスに行ってみないか?あそこならキーボード借りられるし、奈帆も新しい場所に慣れる機会になるだろ。」


「そう…だね。歌唄がいつも通ってる場所なら安心かも。」


 一歩一歩、ゆっくりと。けれど確実に。

 奈帆と歌唄は、外の世界へと歩き出した___。

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