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あの星に煌めきを  作者: そーら
第七章 重なり合う心
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交差した視線

 



「はぁ…。」


 曇天の下、雛は学校で溜息を吐きながらお弁当を食べている。夏休みの最中ではあるが、最初の一週間は生徒の殆どが登校する夏期講習がある。


「雛、朝からあんな感じだけど…。」


「何かあったんでしょうか。」


 向かい側で同じく夏期講習にやってきた雛の友達、燈子と史織は一緒にお弁当を食べながら、心配そうに雛を見つめている。

 彼女たちが言うように、雛は朝から何度も同じような溜息を吐いていた。


「あ…ごめんね、二人とも。ご飯中なのに…。」


「それは別に良いんだけど、どしたの?なんかあった?」


「私たちで良ければ聞きますが…。」


 悩みを聞いてくれる優しい友達がいてくれたことに泣きそうになる。こんなにも情緒不安定な雛を見ることは珍しく、それほど悩んでいるのだと察した二人はなんとか雛を宥める。


「今度、壬生屋さんとチームを組むことになったんだけど…壬生屋さんとどう話したらいいのか分からなくて…。」


「壬生屋さんって…副会長の?」


「うん…。なんだか近寄り難い雰囲気があるし、他のチームは元々仲良かったり、接点があったりするのに、私と壬生屋さんって同い年くらいで何もないし…。」


 雛は先日の蘭たちの話を思い出す。麗生と秀一郎の最愛の娘である有葵と命。

 元々は二人のことを調べるために活動を始めた雛。二人を救う術が見つかった今、それに協力しないわけにはいかない。しかし何故、有葵と命は自分と伊織を選んだのかが理解出来なかった。


「いくら考えても正反対過ぎてどうしたら良いのか…。」


「うーん…確かに難しいね。キリッとしてて綺麗だし、お嬢様だから話が合わなさそう。」


 相談したはいいものの、燈子も史織も伊織のことはよく知らない。彼女に対してどう接したらいいのか分からないのは二人も同じだった。


「憶測で話しても仕方ないですし、壬生屋さんと関わりのある方に聞いてみるのはいかがですか?例えば…。」


「あ、雛。ちょっといい?」


 史織が教室内を見渡そうとすると、雛の背後に敦夫がやって来た。資料を抱えた敦夫を見て、燈子は指差した。


「いたーーーーーっ!!!!!」


「うわっ、え?な、何?」


 燈子がいきなり大声で叫び、敦夫は一歩下がって驚いた。


「雛!白雪くんに聞いてみなよ!」


「え、でも…。」


「雛?何かあったのかい?」


 燈子が敦夫に聞くように促すも、いじらしい乙女心が小さく邪魔をする。しかし、背に腹はかえられんと言わんばかりに雛は少し頬を赤く染めながら言った。


「あっ、あっくん!壬生屋さんのこと教えてっ!」


「は、はい!え?伊織…?」


 頬が赤い雛に何を言われるのかと身構えた敦夫は突拍子もない伊織の登場にたじろいだ。

 説明も無しに聞くのは申し訳ないと思い、雛は伊織とチームを組むことについて話した。


「…なるほど、それで伊織について聞いたのか。」


「うん…ごめんね。急に…。」


 すると敦夫はしばらく考えた後、雛を見つめてピンと何かを閃いた。


「あっくん…?」


「それなら僕より詳しい人に聞いたらいいよ。正直な話、伊織とは友人だと思っているけれど、そこまでお互いのことを知ってると言えるわけでは無いんだ。伊織はあまり自分の事を話さないしね。」


 敦夫はそう言って、スマホを取り出すと何かを打ち始める。数秒後、満足気に笑い雛に画面を見せた。

 そこには『伊織様のことなら任せて下さい!』と元気いっぱいな返事があった。


「ほら、会ってくれるみたいだよ。」


「え、でも…。」


「善は急げだよ。お弁当食べて、行ってきな。僕の話は後で良いし。」


 敦夫に背中を押された雛はされるがままにお弁当を平らげた。


 ・


 その後、雛は一年C組にやって来ていた。

 敦夫が紹介してくれたのは、伊織に仕える見習いメイド。どうやら彼女はこのクラスにいるようだ。


「雛?」


「ひゃっ!」


 チラリと教室内を覗いていると背後から名前を呼ばれる。振り向くとそこには侑がいて、既視感に苛まれる。


「また何やってんだ。弥生と双葉に用事か?おい、弥生!双葉!雛が来てるぞ!」


「あっ侑くんっ!ちがっ…。」


 今日は弥生と双葉に用事ではないことを伝える前に二人を呼ばれる。丁度一緒にいた二人は雛に気付いてやって来る。


「ぴーなんだ〜!やっほ〜!」


「雛様、どうかなさったんですか?」


 ここ数日は今度のライブに向けて別々に活動する日々が続いていたからか、少し会っていないだけだったのに久しぶりに感じる。

 弥生と双葉もそうなのか、雛に会えてどことなく嬉しそうだ。


「あっえっと…今日は二人にじゃなくて…。このクラスにいる一条 蓮華さんに会いに来たの。」


「ぴーなん、れんれーと友達なんだ!」


「蓮華様なら…あぁ、いらっしゃいました。呼んで来ますね。」


 弥生が目的の人物、一条 蓮華(いちじょう れんげ)を呼びに行く。銀髪のシニヨンヘアで、背筋がピンとした姿勢から伝わる清楚で上品な雰囲気。

 雛を見るなり、敦夫が言っていた人だと分かり、ニコリと微笑んでやって来る。


「こんにちは。あなたが白雪さんが仰ってた小鳥遊さんでしたか。」


「あっ初めましてっ。急にすみません…。」


「いえいえ。伊織様のことを知ろうとして頂けるのは私としても嬉しいです。次の講習はお休みですし。」


 あまりにも完璧な所作に歳下ながら緊張する。弥生と初めて話した時もこんな感じだったな…と思いながら、蓮華に連れられてロビーに向かう。


「伊織様のどこからお話しましょうか。」


「えっと…どんな人なのかを聞きたいですっ。」


 雛が遠慮がちに言うと嫌な顔一つせず、むしろ嬉しそうに蓮華は頷き、愛しの主人について語り出した。




 ・・・




「はぁ…。」


 伊織は小さく溜息を吐く。ここ数日の間に溜まっていた生徒会の仕事がひと段落し、一息着こうと紅茶を淹れ始める。


「伊織先輩、私が淹れましょうか?」


「…確かに蘭が淹れてくれた方が美味しいけれど、あなたの方が仕事量多くて大変でしょう。」


 一緒に作業をしていた蘭が淹れようと立ち上がるも、伊織はそれを制してポッドが温まるのを待つ。


「…ねぇ、蘭。この前、事務所でした話…まだ話していないことあるわよね。」


 伊織は休憩の雑談がてら、蘭に気になっていたことを聞く。先日の会議でした話は綺麗にまとまっていたが、どうしても空白があるような気がしてならない。


「………そう、ですね。」


「蘭が話すべきでないと判断したことなら信じるわ。でも…どうして私のパートナーは小鳥遊さんなのか、ずっと考えても答えが出ないの。その答えが、話していない部分にあるのかもしれないって…考えちゃうの。」


「……………。」


 蘭も作業する手を止めて、伊織の話を聞く。彼女が気持ちを素直に吐露するのは珍しいことで、それくらい彼女の中で変化があったと言うこと。

 ゆっくりとお湯が沸いていく中、伊織は曇天を見つめた。


「他のチームは親しい人同士が組んでいるのに、何故私は面識の少ない小鳥遊さんなのか。彼女とどう接したらいいのか…少し前まで他人と関わろうとしなかった私には分からないの。」


 空は伊織の心を表したように、雲が厚く光を遮っている。今にも泣いてしまいそうな空。

 以前は奈帆と歌唄が歩み寄ってきてくれたからこそ、伊織も変わることが出来たが、雛はそんな積極的なタイプでは無い。二人を知る蘭はその微妙な距離が目に見える。


「どんな根拠があって、アリアさんとミコトさんは私と小鳥遊さんを選んだのか…全てを知っている蘭には分かるのかしら。」


「…どう、でしょうね。」


 伊織からの問いかけを濁して、彼女の元へ歩み寄る。見計らったのかタイミング良くお湯が沸いて、蘭は伊織が手を加える前に手際良く紅茶を淹れる。


「私もパートナーがどうして星屑さんなのかは分かりません。ですが、彼女たちには見えるんだと思います。」


「…見える?」


「私たちには見えない…心の奥深くで繋がっている、煌めきが。」


 艶めかしい紅茶を伊織に渡す。小さく揺らめく水面は、伊織の心を透かしてしまいそうな程くすみがない。


「…煌めき、ねぇ。」


「それに、伊織先輩と雛先輩はそういうところが似てると思いますよ。」


 蘭はクスクスと笑い、紅茶を持って自分のデスクに戻る。蘭の言葉の意味が分からない伊織は頭の上に疑問符を浮かべている。


「どういう意味かしら?」


「伊織先輩の思慮深さですよ。きっと今頃、雛先輩も伊織先輩のこと考えてますから、案外話しかけるだけで不安は拭えると思います。」


 蘭なりのアドバイスに伊織は驚きながらも、彼女のことだからその言葉に嘘は無いのだろうと絶大な信頼もある。

 彼女が言うのなら、少しの勇気を出してみようと思えるのが不思議なものだ。


「蘭のその憶測なのに断定的な言い方、たまに怖くなるわ。本当にそんな気がしてきて。」


「人の行動は案外簡単に読めるんですよ。ちなみに、そろそろ赤城先生がやって来ます。」


「あ!蘭ちゃんいたぁ…!」


 蘭の言う通り、生徒会の扉が開いて疲れた様子の智也がやって来た。まるで予言者のような風貌の蘭に驚きが隠せない伊織だった。




 ・・・




「…とまぁこんな感じで、伊織様は自他共に厳しい方ですが、根は優しく他人を思い、考え、悩んでくれる方なんです。」


 蓮華の話を聞き終え、雛は自分の中での伊織の印象が変わったような気がした。

 気難しい性格ではあるものの、近寄り難いと思うことはなくなっていた。


「ありがとうございます。一条さんが見てきた壬生屋さんはそんなに暖かい人なんですね。」


「はいっ。伊織様は最高のご主人様なんです。いつか、私が見習いでなくなっても…伊織様にお仕えしたいくらいです。」


 伊織の人柄が蓮華を通して伝わってくる。

 ライブに向けて近々彼女とは話す時が来る。しかし、さっきよりも心が軽いのは蓮華の話を聞いたからだろう。


 雛は蓮華と別れ、自分のクラスに戻ろうと階段を下りる。そろそろ昼休みが終わってしまう時間だ。


「きゃっ。」


「あら、ごめんなさい。」


 角を曲がろうとすると、誰かにぶつかりそうになり後ろに下がる。雛も謝ろうと相手を見ると、月のような瞳と目が合う。


「あっ…み、壬生屋さん………。」


「小鳥遊さん………。」


 先程までどう接したらいいのか悩んでいた相手が目の前にいて、その場に立ち止まってしまう。

 相手のことが分かったとはいえ、本人を目の前にして具体的に何を話せばいいのか上手く出てこない。けれど、それでは前に進めない。


「「あのっ!」」


 拳を握り、勇気を出して話しかけると、相手もまた話しかけてくれて言葉が被る。少しの沈黙の後、ジワリと笑いが込み上げてきた。


「あははっ!声被っちゃいましたね。」


「ふふ、そうね。」


 笑い合う二人の間にもう溝は無く、花のように可憐な瞳と月のように美しい瞳は交差する。その瞳を見れば、相手が何を言いたかったのか伝わる。

 その感覚が、パートナーだと認識するに相応しかった。


 二人は何を言うわけでもなく、それぞれの教室に戻る。先程と違うのは太陽を浴びたように晴れやかな笑顔だった。

・一条 蓮華

星空学園中等部一年C組

壬生屋家に仕える見習いメイド。伊織を大変尊敬しており、彼女に一生尽くすと決めている。賢く器用だが、たまにおっちょこちょい。

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