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あの星に煌めきを  作者: そーら
第七章 重なり合う心
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瞳に映る思い出

 



「〜♪」


 彼女の朝は早い。

 朝は五時起き。あかつき寮の花壇に水をやり、学校の準備は入念に行う。どれもこれも色んなアニメの影響だ。


「ん〜!気持ちの良い朝デース!」


 彼女、アイリーンは大きく伸びをしてベランダから外の空気を吸い、朝日を浴びる。


「ふぅ…。あっ!そろそろ朝食の時間デス!」


 たまにのんびりし過ぎることもあるが、これが彼女の日課。大好きな日本で充実した暮らしをしていた。


 朝食を終え、再び部屋に戻って来たアイリーンは制服に着替え、忘れ物が無いか確認する。


「…OK、大丈夫デース。」


 鞄を置き、登校時間まで何をしようかと部屋を見渡す。最後に目につくところには大切な写真立てが置いてあった。

 それを優しく手に取り、目を細める。


「リアさん………。」


 莉愛の名を小さく呟いたのは、その写真に幼い彼女が映っているからだ。そしてその隣には彼女と同い年くらいの金髪の少女がいた。


「It's so beautiful.」


 あの日、アイリーンが胸に刻んだ言葉。アイリーンの世界を変えてくれた言葉。


「…アナタは覚えているでショウカ。」


 写真を大事に胸に抱え、追憶するアイリーンの今の髪はあの日の莉愛と同じ色。


「アノ日、ワタシと出会った日のコトを……………。」




 ・・・




「でさ、この前出た新製品のエアガンが…。」


 ホームルームまでの間、莉愛は友達の夜神 風夏(やがみ ふうか)と話をする。サブカルチャーの趣味が合うことから話をするようになったが、今ではすっかり一緒にいることが当たり前になっていた。


「欲しいんだけど、やっぱり新しいのって高いんだよねぇ。」


「学生には厳しいよね。でもその分、持ってる一丁が大切になるっていうか…。」


「それな〜。家でも無意味に手入れしちゃうもん。サバゲーしたくなって来ちゃった〜。」


 風夏が机に伏せて指鉄砲を作り、銃を打つ振りをする。本番を想定するように目を細めていると、ぼや…と人が映り込む。


「わっ!」


「エヘヘ、おはようございマス。フウカさん!」


 驚いて目線を戻すと、悪戯に成功した子供のように笑うアイリーンがいた。


「おはよ…ビックリした。」


「スミマセン〜。つい射線に入ってみたくなりまして…。リアさんもおはようございマス!」


「ふふ、おはよう。アイリーンちゃんは朝から元気だね。」


「ハイ!元気いっぱいデス!」


 腕を上げて元気いっぱいなポーズをする。いつも活力に溢れていて、羨ましいと莉愛は思う。


「あ、リアさん!今日の放課後か…夜ってお時間ありマスカ?今度のライブについてお話がしたくテ…。」


「今日?えっと…今日は部活があるから夜の方が都合が良いかな。」


「わかりマシタ!それじゃあ…お手数デスが、ワタシのお部屋まで来てクダサイ。」


 莉愛が頷くと、アイリーンはとても嬉しそうに笑い自分の席に戻った。その手は強く、固く握られている。


「…緊張してるのかな。」


「おっきなライブするんでしょ?莉愛、大丈夫〜?」


「か、揶揄わないで…!今から物凄く緊張してるんだから…。」


 あがり症の莉愛はいくら仕事をしても緊張してしまう。けれど、覚悟は決まっているから頑張るしかない。

 今はライブに向けてアイリーンと共にやるしかない、と気合を入れた。


 ・


 夜。部活も終わった莉愛は、部屋で姉の内海 莉桜(うちうみ りお)が作ってくれた夕食を頂いていた。今日はビーフシチューのようだ。


「ん、おいひい…。」


「あらほんと?良かったわ♪」


 莉桜は美味しそうに食べる莉愛を見て満足する。妹が大好きで仕方ない彼女は、その顔を見るだけて満腹になってしまう程だ。


「あ、お姉ちゃん。今日さ、この後アイリーンちゃんのお部屋に行く約束をしてるんだけど良いかな?今度のライブの話があるみたいで…。」


「アイリーンちゃんって…前に莉愛と一緒にライブに出てた………黒髪でオッドアイの子よね?良いわよ〜。」


 可愛いわよね〜とアイリーンの容姿が大分気に入っている様子の莉桜。そんな彼女を横目に、時間がある分に越したことはないだろうと莉愛はビーフシチューを急いで食べた。


 身支度をして早速七階にあるアイリーンの部屋の前まで来た。インターフォンを鳴らすとすぐに彼女の声が返ってくる。


『ハーイ…あ!リアさん!今開けるのでどうぞ入ってクダサ〜イ。』


 カチャリ…と鍵の開く音がして、扉を開ける。中に入ると、自室と同じ構造の玄関が出迎える。


「リアさん、いらっしゃいませ!コチラにどうぞ!」


「お邪魔します………。」


 リビングに入ると、構造は同じもののやはり個性が出ていた。日本文化らしい和風の小物や掛け軸があったり、アニメのグッズが置いてあったりとアンバランスだが、アイリーンの好きなもので溢れている。


「あ!このポスターって、確かアメリカ限定の超レアもの…!」


「それはダディがアメリカに行った時に買ってきてくれたんデス!リアさんやっぱり知ってマスカ!」


「海外グッズは手に入れられない分、目に焼き付けておこうと思って色々見てるんだ。」


 珍しいものを実際に見られて興奮するが、今日の目的を思い出し、アイリーンに案内された椅子に座る。


「ちょっと待っててクダサイ。飲み物持ってきマス!」


「うん、ありがとう。」


 アイリーンが飲み物を持ってくるまでなら部屋を見てもいいかなと思い、くるりと見渡す。

 いつも話してて伝わっていたが、本当にアニメが好きなのが充分に伝わってくる部屋で嬉しくなっていると、棚の上に飾られた写真立てが目に入る。


 少し距離があってよくは見えないが、家族写真らしきものと、その後ろには倒れてしまっているものがあった。


「リアさん、お待たせしました!」


「あ、ありがとう…。アイリーンちゃん、あそこの写真…倒れてるみたいだけど。」


「…アー………あれはイイんデース!それよりライブについてお話しまショウ!」


 アイリーンからお茶を受け取り、会議を始める。

 まずは決めなくてはならないこととデュオの方向性を確認していった。


「チーム名は自分たちでってのと、曲の雰囲気は要望があればって言ってたよね。」


「ハイ。特に曲に関してはクリエイターさんの時間もあるので、早めとのことデシタ。」


「うーん、曲かぁ…。私たちの共通点ってアニメが好き…くらいしか浮かばないなぁ。」


「……………。」


 共通点から探っていくが、出会ってあまり日が浅い二人には思い当たる節は無い。

 しばらく黙って考える時間が続くと、アイリーンが顔を上げた。


「…?アイリーンちゃん、どうしたの?」


「………リア、さん。」


 アイリーンは倒れた写真立てを見つめ、震える手を必死に抑えている。


「やっぱり、覚えて…ないデスカ?」


「えっ………?」


 じわり…と涙を浮かべながら言うアイリーンに莉愛は驚いた。自分が何かしてしまったのかと心配になり、優しく頭を撫でる。


「覚えてないって…私、アイリーンちゃんに何かしたかな?」


「い、イエ…スミマセン。リアさんは悪くない…悪くないデス………。覚えてないのも、仕方ナイことデース…。」


 溢れる涙をどうにか止めようと必死に目を擦る。跡になってしまうため、莉愛はハンカチで拭いてあげた。

 アイリーンは莉愛に小さくお礼を良い、写真立てを手に取った。


「コレ…この子、覚えていマスカ?」


「…え、これ小さい頃の私?………と、外国の女の子?」


 写真に映る幼い自分を見て莉愛は目を細めた。写真をアイリーンが持っているのもそうだが、隣に映る少女が記憶に無かったのだ。


「…今日はソノ話をしようと思って呼んだんデス…。」


 アイリーンは寂しそうに、けれど大切な思い出に馳せるように写真に手を置いた。




 ・・・




 それはアイリーンが六歳の頃、父であるオスカーの出張に着いて行った時のこと。イギリスにあるゲーム会社が日本をモチーフとして制作するゲームの資料のためにやって来ていた。


 オスカーの影響で日本に興味があったアイリーンは念願叶って来られたことに心踊っていた。


「アイリーン、お仕事だからあまり構ってやれないが大人しくする約束は守ってくれよ。」


「うんっ!連れて来てくれてありがとうダディ。」


 初日は東京の至るところにある観光名所を練り歩いた。人が行き交う風景をカメラに収めながら、リアルな日本の空気を味わう。

 アイリーンもただ見ているだけで楽しそうにしていた。


 翌日、数時間の移動を経て簡素な田舎町にやって来ていた。


「ダディ、ここは?昨日のところとは全然違う…。私たちの町みたいなところ…。」


「日本にだって小さな町はあるさ。観光名所は写真でもたくさん見られるけれど、こういう日常的な部分は現地じゃないと見られないからね。日本人も私たちと同じなんだよ。」


 少し歩くと町で一番広い公園に辿り着いた。簡素ではあるが遊具がたくさんあり、アイリーンは食い入るように見ていた。


「アイリーン、公園で遊んでいるかい?」


「え…いいの?お仕事…。」


「大丈夫だよ。公園の風景を撮るのも仕事にあるし、こういう空気も知りたかったしね。」


 オスカーの許可をもらい、公園に走るアイリーン。何から遊ぼうかと見渡していると、砂場では現地の子供たちが楽しそうに遊んでいた。


 しかしアイリーンは、反対方向の誰もいないブランコに向かった。


「……………。」


 ブランコに乗って、ジッと砂場で遊ぶ子供を見る。楽しそうに遊ぶ彼らは自分とは全く違う髪色をしている。

 折角憧れの日本に来たというのに、何も出来ない自分に少し嫌気が差す。


「__!」


「…?」


 アイリーンが暗く落ち込んでいると、隣のブランコの前に同い年くらいの女の子がいた。俯きがちにアイリーンを見上げ、ブランコをポンポンと叩きながら何かを訴えている。

 言語は分からないけれど、座りたいのかと思いコクリと頷くと女の子は柔らかく笑ってブランコに座った。


 彼女も大人しい性格なのか、話しかけてくることはなく穏やかな時が流れる。

 やけに赤い夕焼けが二人を照らした。


「………。」


 チラリ、と隣の少女に目をやると、彼女のピンク色の目と合う。


「…!」


「っ………。」


 少女はアイリーンを見るなり目を見開き驚いた。その理由が分かったアイリーンは反射的に目を背ける。


「___……………。」


 少女がアイリーンに向かって何かを呟いたけれど、やはり言語は分からない。おそるおそる目を向けてみると、少女は予想外の表情をしていた。


「___!」


 少女は目をキラキラと輝かせて、眩しいくらいの笑顔で同じ言葉を叫んだ。

 これまで好奇の目でしか見られてこなかったアイリーンは、少女の純粋な目で見られて胸がキュッとなった。


「_____りあ!___りあ!」


「…リア?」


 すると少女は自分を指差しながら、名前らしき言葉を発した。アイリーンが首を傾げながら復唱すると大きく頷いた。

 そして自身に向けていた指をアイリーンに向けて首を傾げる。名前を聞いているようだ。


「…アイリーン・クルス。」


「あ、あい…る………?」


 英語の発音が上手く聞き取れなかったようだが、アイリーンはそれが可笑しくてクスッと笑った。


「あいる…!」


 少女は合っていると捉えたのかその名前をもう一度呼び、アイリーンはニックネームが付いたようで嬉しくなってまた笑った。


「アイリーン、お友達かい?」


「ダディ。」


 写真を撮り終えたのか、オスカーがやって来る。日本語が話せるオスカーは少女と少し会話をして、ツーショットを頼んだようだ。


「それじゃあ撮るよ。」


 茜空の下、パシャリとシャッターの音が響く。

 そして、少女は大きく手を振って帰って行った。


「アイリーン、どうだった?」


「言葉は分からなかったけれど…楽しかった!」


「…!そうかい。それは良かった。」


 アイリーンが見たことの無いくらい満面の笑みを向けたからか、オスカーは目頭が熱くなるのをなんとか抑える。


「ねぇ、ダディ。リアは何を言っていたのか分かる?」


「あぁ、それはね………。」




 ・・・




「It's so beautiful. それが、ダディに教えてもらったリアさんの言葉デス。」


 二人が出会った時のことを話し終えたアイリーンは、あの時と同じ笑みを浮かべて莉愛を見つめた。その、赤と青の瞳で。


「本当に嬉しかったデス。ワタシの故郷では、この瞳を血に塗れた冷酷な悪魔と呼び、この歯を吸血鬼のものだと思われていましたカラ。」


 故郷で忌み嫌われた記憶は一生拭えないほど脳裏にこびり付いている。何もしていないのに、他とは少し違う容姿をしていただけで迫害のような扱いをされた。

 けれど、それを綺麗だと言ってくれる人がいた。


「あの時、リアさんが綺麗な目でワタシを見つめてくれて…綺麗だと言ってくれて…すごく救われたんデス。」


 あんな純粋な目を輝かせて言う莉愛が、アイリーンの中で全てになった。

 そして、また莉愛に会うために日本語を勉強し、今ここにいる。


「そう…だったんだ。そんな大事なこと、私…忘れてたなんて………。」


 莉愛は涙を流して、アイリーンに抱き着いた。アイリーンの話を聞くうちにどんどんと記憶が遡り、赤と青の瞳を持つ少女のことを思い出した。

 幼い日のたった数時間の出来事。忘れているなんて当たり前のこと。けれどアイリーンはずっと覚えており、莉愛は今思い出した。


「あいるちゃん。」


「…!」


「あの日を、大切にしてくれていてありがとう。あいるちゃん。」


「リアさん………。」


 二人とも涙で顔が濡れているけれど、心は晴れやかであの日の夕焼けが赤く照らしているようだった。

・夜神 風夏

星空学園中等部一年B組

莉愛とアイリーンのクラスメイト。何でもハッキリ言う性格で裏表が無い。たまにドジ。サバイバルゲームが趣味でミリタリーオタク。


・内海 莉桜

星空学園大学情報科学部四年

莉愛の姉。しっかり者で一緒に住んでいる弟妹の世話もやっている。年の離れた莉愛を溺愛しており、ついつい甘やかしてしまう。

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