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あの星に煌めきを  作者: そーら
第七章 重なり合う心
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不思議な気持ち

 



「駿河さん、クランクアップです!」


 たくさんの拍手と、薄紫と水色を基調とした花束を受け取ると、蘭は深々とお辞儀をした。


「今回、初めてのドラマ撮影にも関わらず、温かく迎え入れて下さった事に大変感謝しています。

 私個人としましても、かけがえのない経験になりましたし、それが素敵な皆さんの元で学べたということにも大変嬉しく思います。」


 蘭の真面目で丁寧で、それでいて堅苦しくない彼女らしいスピーチにスタッフや共演者は聞き惚れる。


「短い間ではありましたが、本当にありがとうございました。またどこかでお仕事する際は、よろしくお願いします。」


 再び深々とお辞儀をすると、先程より大きな拍手が蘭を包む。

 蘭のスピーチに感動して涙を零す者、家族のように温かく見守る者、反応は様々だが心地が良いのには変わりはない。


「蘭ちゃん、お疲れ様。スピーチ感動しちゃったよ。」


「南木さん、ありがとうございます。」


 ドラマ内で蘭と一番長く共演をした雄也とはすっかり仲良くなり、お互い初対面の頃より表情が朗らかだ。


「その花、蘭ちゃんによく似合ってるね。」


「本当ですか?南木さんのお花も明るくてスマートな南木さんにピッタリですよ。」


 雄也も今日がクランクアップの日で、先程蘭の前に白と黄色を基調とした花束をもらっていた。


「あ、そういえば今度大きな野外ステージでライブするって聞いたよ。」


「はい。とても大事なライブです。」


「…俺的には、もっと演技をしてる蘭ちゃんが見たいけどね。」


「南木さんにそう言って頂けるのは嬉しいです。でも…、私がやらないといけない事なので。」


 スタジオを後にして楽屋までの短い距離を会話で埋める。たくさんの事に挑戦していく蘭が、雄也には眩しく見えた。


「やらないといけない事…か。いいね、そういうの。」


 手に持っている花束に少し花を埋め香りを嗅ぐ。花独特の香りが胸いっぱいに広がった。


「…南木さんにもライブ来て欲しいです。スケジュールが合えば、ご招待してもよろしいですか?」


「え?それはすごく嬉しいけど…どうして?」


 蘭の唐突な誘いに雄也は目を見開く。社交辞令抜きに、今話題の彼女たちのライブを見られるのは嬉しいが、蘭がそれを言う理由が見つからない。


「今の南木さんを見ていたら…何故だか、そうしたくなってしまって。」


 蘭は純粋で素直だが、たまに魅せるミステリアスな部分は人の心を掴んで離さない。

 蘭の答えの意味が分からない雄也は、微笑む彼女の横顔を見ながら首を傾げた。




 ・・・




「…蘭ちゃんとチーム、かぁ………。」


 あかつき寮の自室で、奏空はぼんやりとライブ映像を見ていた。

 それは以前のrayとASK Lightの合同ライブで、記録として録画していた映像を結弦から借りたものだ。


 映像にはソロで歌う蘭の姿が映っており、奏空は何度もその場面をリピートしていた。


「歌もダンスも完璧…。あんな短時間でこのレベルまで持っていけるのは…やっぱり蘭ちゃんだからだろうなぁ…。」


 何度見ても凄いの一言につく蘭の才能。彼女の成績や学園での噂で耳にしていたけれど、自身のフィールドでその才能が発揮されると、どれだけのものなのか分かる。


「はぁ…。」


 蘭のあまりの眩しさについ溜息を漏らす。

 すると、ピンポーンと軽快な音のチャイムが鳴る。こんな休日に誰だろうと思いながら奏空は玄関に向かう。


「はーい……………。」


「こんにちは、星屑さん。」


「えっ、蘭ちゃん!?」


 そこには恐らく仕事帰りであろう軽くメイクが施されていた蘭がいた。突然の訪問に驚きつつも、声が廊下に響いてしまう為、とりあえず彼女を迎え入れる。


「すみません、連絡も無しに来てしまって。こちらお仕事帰りに星屑さんが好きだと言っていた金平糖のお店を見つけたので…良かったらどうぞ。」


「あっ…星風堂の…。覚えててくれたの?」


 それは合宿の帰りに奏空がくれた金平糖。いつも仕事で持ち歩いているが、蘭に見せたのはその一度きり。

 それでも覚えている蘭の記憶力には驚かされる。


「これを見たら星屑さんに会いたくなってしまって…。その、今度のライブの事もありますし、星屑さんの色んな事を知りたくて。」


「蘭ちゃん…。ふふ、ありがとう。」


 奏空は紙袋を受け取り、金平糖に合いそうなお茶を用意する。

 仕事で忙しい奏空の部屋に人が来るのは珍しい事で、あるとしても仕事の後にPentagram☆*。のメンバーが集まるくらいだったせいもあって、少し浮かれ気味だ。


「そういえば丁度この前のライブ見てたんだ。蘭ちゃんのソロ、すっごく綺麗で何回も見ちゃうんだよね。」


「そうなんですか?星屑さんに言われると特別嬉しいですね。」


 お茶を渡して、映像を映していたノートパソコンを目の前に持ってくる。蘭が客席に向かって手を伸ばしているカットで停止されている。


「…なんだか恥ずかしいですね。こうして映像に自分が残ってるというのも。」


「ふふ。私も最初は慣れなかったなぁ…。」


「Pentagram☆*。のファーストライブですか?私も見ましたよ。」


「え〜!嬉しいけど…恥ずかしいね。」


 少しだけ同じ気持ちになったことにくすぐったさを覚えて、静かに笑い合う。その瞬間が心地良くて落ち着く。


「…蘭ちゃん。」


「はい?」


「今度のデュオ…上手くいくかな。」


 麗生の話を聞いて以来、不安だった事を吐露する。不特定多数のファンに向けてなら出来たが、特定の誰かの為に何かをするという事は奏空にとって経験が無く、難しい事だった。

 しかしそれは、蘭も同じ事。


「…どう、でしょう。上手くいかない可能性は、どんなに練習しても捨てきれません。星屑さんもそれを分かってらっしゃると思いますが。」


「うん…そうだね。皆より経験はあるから、失敗の可能性があることは理解しているし、それによってどんな影響があるのか分かってると思うよ。」


 目の前の金平糖に手を伸ばし、口に含む。舌の上で転がした後、ガリッと奥歯で噛む。程よい優しい甘さが口の中に広がっていく。


「ただ、失敗の可能性をゼロにする方法があります。」


「え?」


「全てをやめること、です。」


「………。」


 口の中でじわり…と溶けた砂糖が唾液と混ざって流れていく。その甘い感覚が妙に舌に残る。


「やらなければならない事を全てやめれば、そこから生まれる失敗は絶対にありません。ですが、新たな失敗は生まれます。選択の失敗です。」


 蘭の真剣な眼差しがノートパソコンに移る彼女に注がれる。蘭はエンターキーを押して映像を再生した。

 蘭の美しく伸びやかな歌声が響く。


「どちらにしろ失敗だらけなんです。だから少しでも成功する可能性がある方を自ら選ぶしかない…そう思うんです。」


 映像の中の蘭はその選択をしたのだろう。だって、こんなにも美しい歌声を響かせることが出来るのだから。


「…蘭ちゃんは、凄いなぁ。」


 今、隣にいる彼女への言葉になのか、それとも映像の中の美しい彼女になのか、はたまた両方か。

 どちらに向けたのかは自分でも分からないけれど、不意に出た心の底からの言葉だった。


「そうだよね、失敗ばかり考えるんじゃなくて、成功するように選択するのが私たちの役目だよね。」


「はい。偉そうなことを言いましたが、私も不安はあります。でも、やるべきことは分かるから…やるしかないんです。」


 映像の中でも変わらず真っ直ぐな瞳をしている蘭に、彼女が放つ言葉に心が動くのは、彼女と同じステージに立つからだろうか。

 分からない感情が動き始めて、奏空は少し苦しく感じる。


「蘭ちゃんって不思議だね。」


「そう…ですか?初めて言われました。」


「ふふ、なんて言うか…言葉が魅力的?意味がよく分からなくても、不思議と気持ちが伝わって来るんだよね…。」


 蘭が歌い終えると、次は奏空のソロが始まる。本業だけあって、他の皆とは違う強いオーラを感じさせるステージだ。


「…星屑さんのステージも、そんな感じがしますよ。」


「そんな感じ?」


「はい。Pentagram☆*。のライブや声優としてのイベントの映像をいくつも見させて頂きましたが、歌やダンス…ステージ全体を通して、星屑さんが来てくれたファンや観客、ステージを支えるスタッフさん、そして同じ場所に立っている仲間…全てに対して伝えたい事。どれも言葉にせずともしっかりと伝わってきます。

 …だから、星屑さんは輝いて見えるんでしょうね。」


 奏空のステージは蘭とはまた違う煌びやかさがある。それは本人が元々持つオーラのようなものを見ている側に感じさせる力。

 言葉だけでは決して感じることの出来ない気持ち。


「…じゃあ、私たちは意外と似てるってことかな?」


「そうかもしれませんね。」


 奏空のソロが終わると、最後に全員でのMCが挟まれ、最後の曲になる。

 それぞれの声が混ざり合い、綺麗なハーモニーが耳を抜ける。


「このライブ、楽しかったです。こんなに誰かの前で歌うなんてこと…無かったので。」


「うん。私もPentagram☆*。とはまた違う感じがして、楽しかったよ。」


 ぼんやりと映像を眺めていると、あっという間にライブは終わる。一息つくと、蘭が部屋を見渡し始めた。


「…蘭ちゃん?気になるものでもあった?」


「あっ…すみません、不躾に。少し見て回っても良いですか?」


「良いけど…あんまり面白いもの無いと思うよ。」


 奏空の了承を得ると、蘭は立ち上がって部屋を見て回る。

 一人暮らしの寮生活をするには広すぎる部屋。なのに全体的に手入れの行き届いた綺麗な部屋は奏空の性格を表している。

 部屋毎に役割が分けられていて、生活する場所だけでなく、おそらく仕事で頂いたのであろう物が飾られていたり、趣味の部屋もあった。


「…わぁ、これは天体望遠鏡ですね。しかもかなり本格的な…。」


「うんっ。私の趣味なのもあるんだけど、元々お父さんが好きでね…都会は星が見えづらいから良い望遠鏡を持っていきなさい…って。

 本当によく見えるんだけど、ちゃんと高い物だから大切に使ってるんだ。」


 一室には空に向かって伸びた大きな天体望遠鏡があった。

 その周りには星に関する資料がたくさんで、どれだけの熱量を注いでいるのかが伺える。


「良かったら覗いてみる?まだ外は暗くないけど、明るい恒星なら見られるかも。」


 そう言って奏空は準備をする。慣れた手つきで動かす彼女はとても楽しそうにしている。

 先程のライブでの楽しさとはまた違う、等身大の姿。


「……………。」


「…うーん、と………あ!はいっこれで見れると思うよ。」


「…あ、ありがとうございます。失礼します。」


 望遠鏡を覗くとうっすらと丸い光が見える。星座の知識はあるが、実際に見た経験が少なく、蘭は少し高揚する。


「あれは…青白いのでスピカ、でしょうか?」


「うん!正解っ。そこから少し北東に進むと…アークトゥルスがあって…春の大曲線を進んでいくと、北斗七星が見えるんだけど………やっぱりまだ見えないかぁ。」


 手元でも望遠鏡が向いてる方をスマートフォンで映すも、まだ明るい空で星座らしいものは見ることが出来なかった。

 それでも、奏空が好きなものを共有してくれた事が嬉しかった蘭は満足そうに笑う。


「見せてくれてありがとうございます。また今度…見える時にお邪魔してもよろしいですか?」


「それは是非!そうだ、天文部で遠征に行く時は誘うよ。秋とか冬はよく見えるから。」


「良いですね。それならいっそ…生徒会と天文部でイベントを企画してみたらどうでしょう。野外活動の一環で許可が下りるかもしれません。」


「ふふっ、楽しみ…!」


 二人は距離を縮めて笑い合う。沈みかけた夕日がそんな二人を優しく照らす。


「…部屋、見せてくれてありがとうございます。星屑さんの事、少しは知れた気がします。」


「ふふっ、それなら私も蘭ちゃんの事知りたいな。蘭ちゃんってミステリアスで普段何をしてるのか想像つかないかも。」


「今度私の家にも来て下さい。歓迎しますよ。」


「わぁ!いいかも…蘭ちゃんのお部屋ってどんな感じなんだろう。」


 想像が出来ない蘭の部屋に思いを馳せ、奏空はその日が来ることを静かに願った。

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