輝きの星空
ここは星空学園の学園寮『あかつき寮』。
親元を離れて暮らす生徒が、暁を共にする場所という意味でその名が付けられた。あかつき寮の前で、今日もいち早くここを出る生徒がいた。
「綴さん、おはようございます。」
透き通った綺麗な声の少女、星屑 奏空は玄関前に停まっている銀色の乗用車に向かってそう言った。
ドアを開けて乗り込むと、運転席には若く爽やかな印象の男性。
「おはよう奏空。荷物重くないか?」
彼は奏空のマネージャーである綴 結弦。
奏空が朝早くにここを出るのは仕事に行くためで、彼女は今をときめく人気アイドルであり、声優でもある。
今から向かうのは声優の仕事だが、一日に二つの仕事を抱えることも稀では無い。
「大丈夫です。」
「あとこれ、今日の歌番の台本。奏空はリハ出れないからあいつらにちゃんと聞いとけよ。」
「分かりました。」
奏空が所属する五人アイドルグループ『Pentagram☆*。』は国民的な人気を誇るグループとして様々な番組に引っ張りだこ。それぞれが個々で活動をしながら、アイドルをしているという少し特殊なグループだ。
奏空は車が出発するのを横目に、台本を見ていた。
今日の夜に控える歌番組『MUSIC STUDIO』通称Mスタの生放送。地上波で一番有名と言っていいほど大きな歌番組で、今日は定期的に行われている生放送の日だ。
「…私たちは最初の方…二十時前で…あ、その前にTruth Emperorがいるんだ。」
頭に染み込ませるように音読して確認する。傍から見たら独り言をブツブツ呟いているようだが、それはいつものことで結弦もあまり気にしてはいない。
「今晩のドラマの宣伝で歌うから監督も来てるだろうな…挨拶忘れないようにしないと。」
揺れる車の中、慣れたように綺麗な文字でメモをする。
一通り確認し終えた奏空はふと、空を見上げた。まだ夜の色を残した空にうっすらと浮かぶ月が見える。奏空が好きな星はもう見えない。
「…綴さん、今日の夜って歌番組で最後ですよね?」
「ん、あぁ。そうだが…何か用事でもあるのか?」
「いえ、明日が休みなのでゆっくり出来る時間どれくらいかなぁ…って。」
「そうか。久々のオフ…と言っても学校はあるが、リフレッシュして来いよ。」
奏空はシートに身を沈ませてスマートフォンを取り出す。SNSを見て、現在のニュースやトレンドを少し見た後、自分も書き込みを始める。
『みんな、おはようございます☆
今日の夜はMスタの生放送!その後は待望のドラマ"Secret Diamond"の一話が放送されるよ!私は一話から出てるので見逃さないようにね(´˘`*)』
ドラマの撮影の時に撮ったキャストとのオフショットを載せて投稿する。早速ファンからの反応が付く。コメントも多く、楽しみだという声ばかりだ。
「…はぁ。」
ここ最近は息付く暇も無く、疲労が溜まっており、無意識に溜息を吐いた。急に重くなった瞼を閉じて、ふと今朝見た夢を思い出す。
真っ白な世界に少女が二人。綺麗な歌声を響かせて、煌めいていた。煌めきに溢れた世界はやがて闇に飲み込まれてゆく___。
その闇が怖かった。
目を開けると、信号に引っ掛かって車が停まる。すると反対側の歩道に車椅子に乗った女性と目が合った。
女性はふわりと微笑み、車はそのまま出発する。
どこか、夢の中の少女と似ていた気がした。
・・・
「お疲れ様でした!お先に失礼します。」
「奏空ちゃんお疲れ様〜。また来週ね!」
慣れ親しんだアフレコ現場。毎週この時間帯に行われるアフレコも無事に終わり、少しまったりする先輩たちを横目に奏空はブースを出た。
「奏空、お疲れ。はちみつレモンティー買ってきたぞ。」
「あ、ありがとうございます。」
ロビーに出ると、結弦がレジ袋を片手に待っていた。
奏空は結弦からはちみつレモンティーを受け取り、少し飲む。レモンティーは好きでは無いのだが、喉を労わって我慢して飲んでいる。
「…っはぁ………。すぐにスタジオですか?」
「あぁ、リハはもう終わってるみたいだ。出来るだけ早めに入って段取り確認した方が良いからな。」
二人はそのまま車に乗り込み、次のスタジオへと向かった。
奏空はその間に今日歌う初披露の曲を聴きながら、メンバーとのやり取りを始める。
『アフレコ終わったよ!今からそっちに向かうね』
『奏空ちゃんお疲れ様!乃愛たちもリハ終わって休憩中〜』
メンバーの星名 乃愛が写真付きで送って来た。仲睦まじいメンバーの様子が映っている。
『奏空が着いたら一緒に撮ってSNSにあげよーな!』
『うん、ありがとう蘭世ちゃん。』
そう返信してスマートフォンを仕舞い、シートに身を沈ませる。スタジオまでまだ距離がある為、奏空は少し仮眠をすることにした。
・
「あ!奏空来た!」
「ごめんね!ちょっと道が混んでたみたいで…。」
急いで楽屋に入ると、諸星 蘭世が安心したようにそう言った。どうやら道中混んでいたようで、その分よく眠れたが、結弦に叩き起された。
「奏空ちゃん、衣装着替えてメイクしないと。」
「う、うん!」
乃愛に言われて、衣装を着る。少しでも時間を短縮出来るようにメンバーに手伝ってもらいながら着替えて、そのままメイクに入る。
「奏空ちゃん、リハの内容伝えるね。」
「うん。お願い、来夢ちゃん。」
星元 来夢がメイクする乃愛の邪魔にならないよう近くに座り、リハーサルの内容を奏空に伝える。
「…蘭世、奏空来たのスタッフに伝えなくて良いの?」
「んー…多分綴さんがいるから大丈夫じゃないッスか?てか、エクレア食べてチョコ付けると来夢に怒られるよ。」
「別に、そう何度も付けない。」
その後ろでマイペースにエクレアを食べるのは星影 夕空。本番前に大好きなエクレアをチャージするのが彼女のルーティンだ。
小さな口を大きく開けて頬張るのだが、いつも口の周りにチョコを付けては来夢に怒られている。
「奏空の準備出来たかー?」
「はーい!丁度出来ましたー!」
結弦の声に、丁度メイクを終えた乃愛が返事をする。
一同は楽屋を出て、スタジオ近くの廊下で待機していた。
「わぁ…Truth Emperorは流石だねー。」
「耳がキーンってする…。」
同じ事務所で同期の五人組男性アイドルグループ『Truth Emperor』が前の出番のようで、女性の歓声が鳴り響いている。
「私たちも負けてられないねっ!」
「うん。私たちは私たちらしく行けば良いよ。」
お互いに励まし合って、士気を高めていく。彼女たちはそんなグループだ。
互いに尊重し合って、高みに上る。宇宙の彼方の星を目指して。
「Pentagram☆*。さん、そろそろ準備お願いします!」
「「「「「はいっ!」」」」」
ステージ袖で、五人ピースを突き合わせて星の形にすると円陣を組む。
「…五人で、満天の星空に。」
「「「「「Pentagram☆*。!Let's Starry…!」」」」」
・・・
夜、ステージを終えた奏空たちはあかつき寮に帰ってきていた。それぞれ自室に戻り、奏空は寝る準備も完了していた。
すると、何度かスマートフォンが震える。
『みんな、今日はお疲れ様♡明日はみんなオフだよね?』
『うん、アタシは何も無い。』
『エクレア買いに行く。』
『夕空と私もオフです♪』
上から乃愛、蘭世、夕空、来夢の順でチャットが来ていた。明日のスケジュール確認らしい。
『奏空ちゃんは?』
『私も明日はオフだよ。久々の完全オフだから、ゆっくりする予定。』
『そんなに仕事してたんだ!無理しすぎないでね。』
メンバーは心配してくれるが、そこまで無理はしていない。結弦がしっかりスケジュール管理してくれているし、出来る範囲のことは弁えている。
『大丈夫だよ。学校あるし、もう寝た方が良いよね?』
『そうだねー!じゃあまた明日ねー!』
『おやすみー。』
『おやすみなさい♪』
メッセージとスタンプがおやすみ一色となり、奏空は布団を被った。
明日の登校で忘れ物は無いか、など少し考えた後に目を閉じる。ふと、昨日の夢を思い出して、スッ…とどこかへと落ちる感覚がした。
_____ふわふわとした曖昧な意識の中、気がつくと奏空は不思議な場所に立っていた。どこか現実味の無い幻想的な空間。
夢か…と思いながら意識が薄れゆく瞬間、奏空は目を見開いた。
そこが見たことのある場所だったからだ。
「え…ここって………。」
寝る前の一瞬、思い出した夢の中の場所だった。妙に感じる自分の体温や心臓の音が生々しくて、そこが現実なんだと理解するにはそう時間は掛からなかった。
『…奏空。』
すると、頭の中に聞き覚えのある声が響く。それも夢の中の少女の声だった。
辺りを見回すが、彼女の姿はそこには無い。
『初めまして、私はミコト。奏空に直接語りかけているから、姿は見えない。』
ミコトと名乗る少女は奏空の疑問を見破るようにそう答えた。
現状を把握しきれていないが、奏空の頭は至って冷静でその言葉の意味もなんとなく受け入れることが出来た。
「…ミコト、さん?ここは一体…何が起こっているんですか?」
『ここは『煌めきの世界』。世界中の煌めきが集まる場所。奏空は昨日見た夢を覚えてる…?』
奏空はミコトの問いにコクリと頷く。
いつもハッキリと頭に残るほど夢を見ていない。それがこの少女の力なのか、たまたまなのかは分からないけれど、鮮明に思い出せる。
『ここにいる理由はその夢が全て。夢の結末、煌めきが消えて闇に飲み込まれたこの世界を救う為、奏空に歌って欲しい…。』
「…歌、ですか?」
『うん。奏空の歌には特別な力がある。あの闇を消し去ることが出来るくらいの煌めきを世界に広める力…。』
彼女の言葉は全く持って理解が追いつかない。しかし何故か、彼女の言葉にはそうさせる力があった。
煌めいた美しい世界が闇に飲み込まれる映像が鮮明に蘇る。それに奏空の胸はざわつき、違和感を覚える。
『…奏空の煌めきは、心の奥底に眠った本当の夢。いつの間にか忘れてしまった果てしない夢が持つ煌めき。闇をも跳ね返すその強い光を持った煌めきが世界を魅了する…。
奏空には天性の才能と努力で出来た光がある…。』
ミコトの言葉に奏空は一瞬、何かを思い出す。いつか見た満点の星空。
気がつくと奏空は星空をイメージとした綺麗でポップな衣装を身に纏い、左手にはマイクが握られていた。
『奏空、歌って。奏空の持つ…煌めきを解き放つように。』
導かれるように手に持つマイクを口元へと持っていき、自然と詩が浮かぶ。目の前に広がるのは、いつか見た星空に似た光景。
涙が頬を伝い 見上げた星空に
一粒の光 流れ落ちた
夜空に星を繋いで
手を重ね想う ミライのカタチ
瞳に星を宿して
手を重ね光る ミライのワタシ_____。
・綴 結弦
煌プロダクション Pentagram☆*。マネージャー。
爽やかで整った顔立ち。昔から芸能界にいるため、顔が広く頼りになる兄的存在。
社長である秀一郎には恩義を感じている。
・諸星 蘭世
星空学園中等部二年C組
常に元気でノリが良い性格。ステージに立つ時のみ語尾に「〜ッス」を付けている。ダンスが得意でヒップホップを好む。奏空とは親友。
・星名 乃愛
星空学園中等部二年B組
オシャレが大好きで女の子らしい性格。アイドルと兼業でスタイリストもやっている。
可愛いものを全世界に布教する夢を持つ。
・星元 来夢
星空学園中等部一年B組
穏やかでしっかり者。夕空とは幼馴染だが、マイペースな彼女の保護者のような存在。
趣味は登山で見た目に依らず体力がある。
・星影 夕空
星空学園中等部一年C組
ミステリアスな美少女だが、性格はとてもマイペース。エクレアが大好物で常に食べている。
『天使の歌声』と呼ばれるほどの歌唱力。
・Pentagram☆*。
奏空、蘭世、乃愛、来夢、夕空からなる五人組アイドルグループ。国民的な人気を誇り、五人揃った時の一体感はファンを熱狂させる。




