表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの星に煌めきを  作者: そーら
第六章 全てのはじまり
34/64

突然の来訪

 



「_____っ、美神…貴様、俺を裏切ったのか………?」


「…裏切った……?何を言っているのですか、会長。私は最初から…あなたの秘書ではありません。」


 少女は口に弧を描き、その表情に少年はさらに怒りを露わにした。少年は震える手で刃物を持ち、それを少女に向ける。

 少女はそれを見ても顔色一つ変えず、勢い良く飛びかかってくる少年を華麗に交わして、美しく薙ぎ倒した。


「………はい、カットぉ!」


 男性の声がスタジオ内に響く。これは来期から始まるテレビドラマ『ミドル・スパイ』の撮影中。謎多き美少女スパイが様々な学校に潜伏し、その学校の闇を暴くという内容だ。


「蘭ちゃん、良い表情だったよ。台詞のミスも無いし、すごいねぇ!」


「ありがとうございます。」


 そしてその美少女スパイ、美神(みかみ) スミレの役に蘭は選ばれたのだった。中学生とは思えない美しい容姿がスミレと重なり、監督がある意味惚れた形で配役に至った。


 さらに台詞の覚えは良く、周囲の俳優たちから色んなものを吸収し、演技力もやる度に進化していく。だと言うのに性格は謙虚で嫌味が無い。

 そんな彼女に惹かれない理由が無く、その場にいる全員から『演技初心者』というレッテルは既に剥がれ落ちていた。


「駿河さん、お疲れ様。」


「南木さん、お疲れ様です。お怪我はありませんか?」


「大丈夫だよ。気を使ってくれてありがとう。」


 彼は今回のドラマで生徒会長役を務める南木 雄也(みなぎ ゆうや)。大手事務所に所属する大人気若手俳優で、蘭が務めるスミレとは会長と秘書の関係である為、絡みが多く自然と仲が深まった。


「それにしても、本当に演技上手いね。初心者だなんて未だに信じられなくて。」


「そんな…皆さんの演技を見てたくさん勉強させて頂いています。」


 談笑を繰り広げながら、次のシーンの準備が整うのを待つ。

 ドラマの現場は非日常感があり、刺激をたくさん受けられる良い機会。最初にこの仕事を持ち掛けられた時は驚いたが、やってみて良かったと蘭は改めて思う。


「それでは今日ラストのシーン行きまーす!」


 スタッフのその声で蘭はスッと気持ちを切り替える。美神 スミレが彼女の中に降りてくる感覚だ。

 撮影開始までのカウントダウン。次に目を開けた時にそこにいるのは、駿河 蘭では無い。


「…私は美神 スミレ。この学校の闇を暴くスパイ。」


 ・


「蘭さん、お疲れ様です!」


 ドラマの撮影も終わり、楽屋で荷物をまとめていると、マネージャーの小夜がやって来る。

 彼女は以前まで、結弦のサポートとしてPentagram☆*。のマネージャーに着いていたが、蘭の急激な仕事量の増加を見兼ねた秀一郎が彼女をマネージャーとして就かせたのだ。


「小夜さん、お疲れ様です。この後はドラマの取材でしたよね?」


「はいっ。ですが、撮影がかなり早めに終わったので予定の時間まで余裕がありますよ。事務所へ向かう前にどこか寄りますか?」


「…いえ、真っ直ぐ事務所に向かって下さい。」


 小夜と今後の予定を確認し合い、荷物を持ってスタジオを出る。

 この後の取材は事務所で受けることになっており、スケジュールの都合上、早く着くのは仕方が無い。それに事務所には仕事に役立つ資料がたくさんあり、蘭はそれを読むのが最近の楽しみ。

 その時間が出来て、珍しく嬉しそうな顔を浮かべている。


 事務所に着くと早速資料室へ向かい、いくつかの資料を借りて談話室で読む。ドラマ撮影の影響か、最近は過去の俳優や女優に興味が向いている。


 撮影の役に立つし、何より人が生きた証というものは知識を得られ、心が豊かになる。

 過去に秀一郎が働いていた事務所は業界では大手のところで、たくさんのタレントの資料があった。


「…これ、綴さんだ。子供の頃のもある…。」


 特に子役の頃から高校時代まで、数々のドラマや舞台に出演していた結弦の資料はとても興味深い。

 どの演技も高い評価で、天才子役とまで謳われることもあった彼が、何を思い俳優を辞めるに至ったのか。さらにはマネージャーという裏方に行き着いたのか。少し、興味がある。


『…見つけた。』


「えっ…?」


 今度彼に話を聞こうかな…と考えながら資料に目を通していると、突然脳内に声が響く。思わず顔を上げるが、そこには誰もいない。

 不思議に思った瞬間、世界は白く光る。


「…っ!」


 あまりにも急な出来事に理解が追いつかず、薄らと目を開けると目の前に人がいるのが見えた。

 しばらくして光が収まり目を凝らすと、白く美しい容姿の少女が立っている。


「………え…?」


「蘭…………。」


 見たことの無い少女だが、蘭の名前を呼ぶその声にはとても聞き覚えがある。蘭はその記憶から彼女の声を引っ張り出した。


「…アリア、さん………?」


「良かった…覚えていてくれて………。」


 驚く蘭を他所に、アリアは覚えてもらえていたことに微笑む。あまりの美しさに蘭は息を飲む。


「急に驚かせてごめんなさい。この姿では初めましてですね。」


「は、はい………。どうして、あなたが…。」


 蘭の質問にアリアは微笑むだけで答えない。少し俯いて、真っ白な睫毛を伏せる姿すら美しい。


「ごめんなさい、今は何の問いにも答えられない。あなたたちは私たちのために尽くしてくれていることにとても感謝はしているけれど…これは今じゃないの。」


 アリアが複雑そうに顔を歪ませると、蘭はそれ以上何も聞かなかった。しかし彼女が意味も無く現れるわけがなく、その行動の真理を探る。


「ふふ、どうして現れたのか知りたそうな顔をしていますね。」


「…分かりますか?」


「えぇ。と言ってもあまり顔には出ていませんよ。ただ…私たちには分かるのです。」


 アリアの薄く綺麗な色の瞳が蘭を映す。その全てを見透かすような瞳は、秀一郎によく似ていた。


「私がここに来たのは、あなたに伝えたい事があったからです。」


「伝えたい事…?」


 アリアがそう言った瞬間、ブワッと部屋の中に風が巻き起こる。窓を開けていたわけでもないのにどこからとも無く急に吹き、蘭が見ていた資料が空を舞う。


「明日、星空学園の学園長室に行って欲しいの。そこで、とても大事な話があるから。」


 風が止むとアリアの白髪が太陽の光に反射してキラキラと輝く。その真剣な表情の彼女に何故、とは聞くことすら出来なかった。


「…それじゃあね、蘭。あなたたちのお陰で私たちはこうして姿を現すことが出来ました。そのささやかなお礼として、私も世界中に煌めきを届けましょう。」


 そう言ってアリアは蘭に近付く。そして、蘭の瞳を覆い隠すように手を添えようとすると、蘭はその手を掴む。けれど掴んでいるのに、触っている感じがしない。冷たい空気を掴んでいるような。

 しかし、蘭はそれに構わず言う。


「待って。煌さんに、あなたのことを…。」


「あの人には言わないで。」


 どこかへ消えてしまう前に、彼女を会わせてあげたかった。きっと、それが彼の望みだと蘭は気付いていたから。

 しかし、それはアリアの苦しそうな表情で掻き消されてしまう。


「あの人には、知って欲しくないの。」


 そう言い残して、アリアは蘭の瞳に手を添えた。

 次に蘭が目を開いた時には彼女はもうそこにはいなかった。気配すら無く、消えるという表現がしっくり来るほどに理解が追いつかない。


「どこに……………。」


「蘭さん!大変ですっ。」


 すると、慌てた様子の小夜が談話室にやって来る。混乱しそうになる頭を整理して、冷静に小夜の用件を聞いた。


「小夜さん、どうかしたんですか?」


「そ、それがたった今テレビにっ…!」


 説明するより見せる方が早いと、小夜は蘭の手を引き、事務室まで連れていく。大きなテレビに映るのは、先程まで蘭の前にいた彼女の姿。


「アリアさん……………。」


 聖なる衣装を身に纏い、透き通るような容姿は、背景の神殿のような建物と相まって本物の女神のよう。


『あの星に煌めきを…………。』


 ふと、蘭の頭の中にその声が響く。アリアの声で紡がれたそれは、テレビからの音ではなく、蘭の耳に直接伝えているような感覚。


 テレビに再び目を向けると、瞳を閉じてマイクを握っていたアリアが、スゥッ…と息を吸った。




 天空に導かれた 命の輝石

 手繰り寄せる


 古の灯火 消えない


 見つめているよ あなたを

 キラメキの彼方から_____。

・南木 雄也

大手芸能事務所に所属する若手俳優。爽やかな見た目通りの好青年。要領が良く器用でストイック。努力家だが、決して表には出さない。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ