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あの星に煌めきを  作者: そーら
第五章 月夜に照らされて
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想いを胸に

 



 それから数週間、雛たちはそれぞれのやるべきことを全うした。

 以前よりも仲が深まったメンバーとの息も合うようになり、今日は待ちに待ったライブの日。


「はぁ……………。」


 雛はドクドクと高鳴る心臓を抑えてゆっくりと深呼吸をする。

 人前に立って歌うなんて初めてのこと。それも初めてやるにしては大きすぎる会場で。


「雛様、大丈夫ですか…?」


「あ、うん…ちょっと緊張してるかな。」


 緊張する雛を心配して覗き込む弥生。弥生も緊張していない訳では無いが、日々の鍛錬のおかげか程よい緊張感を保っている。


「時間はまだありますし、ゆっくりして下さいね。お茶淹れてきます。」


「あ、ありがとう…。」


 ティーポットがある机に向かう弥生を横目に、雛は気を紛らわそうと双葉を見る。双葉は緊張とは無縁そうで、初めて来たステージ裏を見て騒いでいる。


「わぁ〜い!お花がいっぱぁ〜い!」


「あれ、チルブレのみんなからも来てるじゃん。」


 双葉の横で歌唄たちも花を見ている。CHILL BLAZINGのメンバーや他にも知り合いの名前を見つけては盛り上がっている。


「今日来てくれるの?」


「いや、月女はテストで忙しいみたいで来れないって。代わりに…ってことなんだろうけど、言ってくれればいいのに…。」


「恥ずかしがってないで、素直に喜びなさいよ。」


 頬を若干赤くする歌唄に伊織はニヤリと笑う。伊織が揶揄っているのが分かり、歌唄はじろりと睨み今にも飛びかかりそうなところを奈帆が抑えている。


「あの三人も仲良くなれたみたいで良かった…。」


 最初の頃はとても険悪なムードだった彼女たちも、ある時を境に壁が無くなり、今ではすっかり同じチームの仲間。

 同じ寮生の奈帆や歌唄が楽しそうにしていると、雛も何だか嬉しくなる。


「雛様、お待たせしました。どうぞ。」


「ありがとう、弥生ちゃん。」


「あ!ぴーなんお茶飲んでる!双葉も〜!」


 弥生からお茶を受け取ると、双葉もやって来て賑やかになる。暖かくて美味しいお茶と、賑やかな空間で雛はすっかり落ち着きを取り戻していた。


「ひなた〜ん、来ったよ〜ん。」


「お邪魔します。」


 すると、楽屋に蘭や柚希たちがやって来た。ライブを見に来てくれるのは知っていたが、こうして楽屋にまで来てくれるとは思っていなかった雛たちは驚く。


「ゆず!来てくれたの?」


「もっちろん!ゆずは一応アイドルの先輩だからね〜!」


「と言っても数ヶ月程度ですけどね。」


「んもう!りあち〜!」


 相変わらず仲良しな柚希と莉愛。最近は忙しくて話す機会が無かったけれど、二人の漫才も健在で安心する。


「皆さん、良かったらこれどうぞ。私たちからと…星屑さんからの差し入れです。星屑さんは今日お仕事で来られないとのことで…。」


「あら、わざわざありがとう。星屑さんにも後でお礼をしないと…。」


「皆様、ありがとうございます。まぁ…これは星風堂(せいふうどう)の金平糖…!」


「わぁ…キラキラしててお星様みたーい!」


 蘭たちが持ってきた差し入れを開けながら、楽しそうに騒ぐ。ライブ前ということもあり、気持ちが高揚しているようだ。


「みんな、そろそろお着替えするよ!」


「まずは雛ちゃんたち〜!」


 小和と小枝は彼女たちを事務所に連れていった時からスケジューリングなど、何かとお世話をしてくれている。彼女たちにも仕事はあるだろうに、その疲れを見せぬ手腕に雛は信頼を置いている。


「はい!弥生ちゃん、双葉ちゃん行こう。」


「皆様、失礼致します。」


「行ってきま〜すっ!」


 それからしばらく、本番に向けての準備が執り行われ、邪魔にならないように蘭たちは関係者席に向かう。

 バタバタと忙しくなり、緊張する暇もない程だ。


 着替えが終わり、本番の段取り、セットリストの確認や立ち位置の見直しにリハーサル。

 覚えることが多すぎて頭がパンクするとは正にこの事と、どこか呑気な考えもしてしまう。


「ひ、雛さんっ!すみません…この装飾を着けるのを忘れていました…!」


「あっ、はい。」


 台本を読み込んでいると、今回も衣装を作った澄佳が目をぐるぐるにしながらやって来る。

 澄佳が持ってきた白い百合のモチーフは雛たちには欠かせないもの。それを衣装に落とし込んでくれたことにとても感謝している。


「澄佳さん、改めて素敵な衣装を作ってくれてありがとうございます。」


「はひっ…い、いえ…。私も素敵な思いの籠ったものを形に出来て…嬉しいです。」


 雛たちの衣装は妖精のような雰囲気に和柄でアクセントを付け、たくさんの小花で装飾されている。特に目立つのが赤いアマリリスと先程着けた白い百合。

 あの日、弥生の家に泊まった時に見た庭園で特に印象に残っていた花だ。


「雛様、そろそろステージ横に入るみたいですよ。」


「あ、うん!澄佳さん、行ってきますね。」


「はいっ、頑張ってくださいっ…!」


 弥生に呼ばれ、雛は澄佳と別れる。ステージまでの道のりが短いようで遠くも感じるこの不思議な感覚。緊張も混ざっているが、決して悪くは無い。


「あの…雛様。」


「ん?」


 弥生から話しかけられて、雛は首を傾げる。何やら思い詰めたような雰囲気に雛は押し黙る。


「改めて…ありがとうございます。」


「…えっと、何が…?」


 神妙な面持ちで何を言われるのかと思ったら、感謝されて雛は瞠目する。感謝される意味を理解出来ない雛が面白くて、弥生はクスリと笑う。


「私と双葉はずっと二人きりで…他の人に心の底から信頼出来るとは自信を持って言えませんでした。

 双葉は破天荒で突拍子も無いことをしますから避けられたり…私も家柄や、この前お話したようにこの容姿のせいでどこか敬遠されて来ました。

 生徒会の皆様は芯のお強い方ばかりで…どこか気の置けないところがありました。」


 ステージ横までの道を歩きながら、弥生の話を静かに聞く。どこか遠くを見つめて諦めていたような顔をする弥生が切なくて、雛は胸の前でキュッと拳を握る。


「でも雛様が以前、私に遠慮しないで欲しいと言ってくれた時…とても、救われたような気がしました。」


「え…?」


 弥生が顔を上げると、彼女の綺麗な黒髪と飾られた鈴蘭のアクセサリーが揺れる。


「雛様にとってはごく当たり前の言葉だったのかもしれませんけど…私はすごく嬉しかったんです。双葉の言動がどうとか、私の家柄がどうだとか関係無く…私たち自身を真っ直ぐ見てくれたように思えて。

 この前は、上手く伝えられなかったので…すみません、本番前に。」


 弥生の晴れやかな表情が、彼女の感情を物語っていた。

 自分は大したことをした気は無い。でもそれで誰かを心の底から救えたのなら、それはとても素晴らしいことだ。

 雛はじんわりと溢れそうになる涙を堪える。


「あ、弥生!ぴーなん!おっそ〜い!」


「ごめんね、双葉ちゃんっ。」


「まさか双葉に怒られる日が来るなんて…。」


 ステージ横に着き、三人は笑う。それはまるで美しく咲き誇る花のように。

 たくさんの花を纏って、光溢れるステージへ彼女たちは一歩踏み出した。


「「「皆さんこんにちは!Amaliles(アマリリース)ですっ!」」」




 ・・・




「…中々やるわね。」


 楽屋で雛たちのステージを見る伊織。彼女たちの柔らかで暖かいパフォーマンスに感心する。


「なんか胸が暖かくなるな。」


「そうだね。お花がたくさんで素敵…。」


 歌唄と奈帆もまた彼女たちのステージを見て心奪われる。

 双葉の小さな身体で繰り広げられる大きなパフォーマンス、弥生の淑やかで美しい目を奪われる動き、雛の全てを包み込んでくれるような暖かな笑顔。

 どれもが完璧な比率で成り立っている。


「みんな〜、そろそろステージ横に向かうよん。」


「…っ。」


 小枝に呼ばれ、三人はステージ横に向かう。道中、何かを話すわけでもなくただ本番に向けて気持ちを整える。


「…ん?奈帆…?」


 しかし奈帆の歩幅は次第に小さくなり、やがて立ち止まる。足が震えて、動かなくなっているようだ。


「奈帆!大丈夫か…?」


「う…うん…。大丈夫…だと思うんだけど…。」


 震える足を何とか前に出す。けれど、すぐにまた足は動かなくなる。


「…全然大丈夫じゃないわ。あなた、仮にその足でステージに立ったとして、歌って踊れるの?」


「…っ。」


 伊織の強い言葉に奈帆は怯む。そんな状態の奈帆をステージに上げるわけにはいかない。

 完璧を求めるのはやめたとしても、最高のステージにしたい。その気持ちは伊織も歌唄も同じだった。

 けれど、その為には奈帆が必要なことも分かっている。


「奈帆、あたしの目を見て。」


「…?」


 歌唄が奈帆の頬に手を添え、目線を合わせる。彼女の真っ直ぐな瞳は、初めて彼女と話した日から変わらない。


「あたしは自分の音楽を届けたくてここにいる。音楽が好きだから。

 奈帆はどうしてここにいるのか、自分で分かるか?」


「どうしてここに…?」


 歌唄の目を見ると落ち着く。歌唄と初めて話したあの日のことが思い出せるから。

 人形のように動かず喋らなかった少女が、ある日突然別人になったかのように学校に来た。そして、おとぎ話に出てくる王子様のように自分を救ってくれた。


 その日のことが頭の中で駆け巡り、そして煌めきの夢で起きたことを思い出す。あの時も光に包まれて歌唄がやって来て、助けてくれた。


「…歌唄が、太陽みたいに眩しくて…私もそうなりたかった。ずっと、歌唄の隣に立ちたかった…。」


 助けられるばかりじゃなくて、対等な存在になりたい。でも、歌唄は強いから何もしてあげられなかった。それが苦しかった。


 気持ちを吐露することで、頭が段々と冷えていくのを感じる。


「それなら隣に立てば良いじゃん。あたしはずっと奈帆の隣にいるつもりだったんだけど…違う?」


「…っ、ちが、わない…。歌唄はいつも…隣に居てくれた…。私が、それを受け入れられなかっただけ…。」


 歌唄の真っ直ぐな言葉に涙が溢れそうになる。それを伊織はハンカチで丁寧に拭いてくれた。


「本番前に泣くんじゃないわよ。メイクが崩れるでしょう?」


「ううっ…ありがとう、伊織ちゃん…。」


 奈帆の潤んだ瞳が伊織を見上げる。緑色の優しい瞳に愛おしさが込み上げてくる。それは以前までは無かった感情。


「奈帆、私はあなたに何があったのか知らないわ。でも、知りたいとも思わない。」


 伊織は鋭くも柔らかな瞳で奈帆を見つめる。以前のような冷たさは無く、暖かい眼差しを向けてくれている。


「だって、そこに私はいないから。私とあなたたちとの時間はこれから始まるもの。あなたが捕らわれているものは、()()()には関係無いの。」


 凛と告げる伊織の姿は夜道を照らす月のようで眩しい。太陽のような歌唄とはまた違う眩しさ。


「私の家にまで押しかけてくる度胸はどこに行ったの?」


 ふふ、と挑戦的な笑みを浮かべる伊織の優しさに触れられた気がして、奈帆も釣られて笑う。


「二人とも…ありがとう。まだ怖いけど、二人と一緒なら…出来る気がするっ!」


 ステージまでの時間が差し迫る中、彼女たちは笑っていた。先程までの震えを忘れるほどに、胸が高鳴る。


 高揚する気持ちを胸にステージ横に着くと、ステージを終えた雛たちが肩で息をしてやって来る。


「…お疲れ様。とても良かったわ。」


「壬生屋さんたちも…思いっきり楽しんで来てね!」


 伊織と雛が言葉を交わすと、目の前に広がるのは伊織たちのステージ。

 熱く照らす太陽の如く、闇夜に光る月のように、今燃え上がる。


「「「IGNITION(イグニッション) Now!(ナウ) オンステージ!!!」」」

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