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あの星に煌めきを  作者: そーら
第一章 煌めきに導かれた少女
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煌めきの導き

 



 朝、目が覚める。正面には見慣れた真っ白な天井、視界の端で朝日が眩しく降り注いでいる。

 自分の体温ですっかり温かくなった布団から惜しみなく出て、毛先が濃い紫色で彩られている銀髪をさらりと揺らす。


 微睡みから覚めてゆく頭で考えるのは、先程まで見ていた夢のこと。

 この部屋よりもずっと真っ白で広い綺麗な世界と二人の美しい少女が歌っている夢。最後には闇に飲み込まれてしまい、その瞬間に目を覚ました。

 そのせいか、しっとりと額が滲んでいる。


「…何だったんだろう。」


 誰にも届かないその小さな声を呟いて、駿河 蘭(するが らん)は何も無かったかのように今日も日常を過ごす。

 現在は朝の四時半。彼女はいつもこの時間に起きている。

 壁に掛けられたランニングウェアを手に取り、それに着替え、最後に髪を白いリボンでキュッとひとつに結んで部屋を出る。


 まだ寝ているであろう家族を起こさぬように気を使いながら、蘭はリビングへと向かう。

 キッチンの冷蔵庫からゼリードリンクを取り出して、着替えた時に付けたランニングウォッチで時間と現在の体調を見つつドリンクを飲む。


「…よしっ。」


 洗面所で軽く顔を洗い、玄関を出て外の空気を思いっきり吸う。朝のすっきりとした空気と、まだ夜の青さを残した空が蘭を迎える。

 蘭はこの景色が好きでいつもこの時間にランニングすると決めているのだ。


 しっかりと準備運動した後、蘭はいつもの様に走り出す。自分らしい美しいフォームで自分のペースを保ちながら走る。


 まだ人通りの無い静かなこの街の名前は常盤(ときわ)市。今も昔もこの優しい雰囲気だけはずっと変わらないこの街。

 その街の間を前だけを見て何も考えずに、蘭はただ駆け抜けていく。流れゆく景色も、白んだ空気も、感じる風の爽快感も全てが大好きで、ずっと走っていたい気分になる。


 数分後、もうすぐ家に着く頃。河川敷を走っていると向こう岸に一人の女性がいた。

 女性は車椅子に座り、ただじっと川を眺めていた。人間離れした美しい容姿に蘭は目を奪われる。不思議と女性の傍を流れる川さえもキラキラと輝いているように見える。


 女性は蘭に気が付き、川に向けていた視線を向けてくると、ふわりと微笑んだ。そこにいるだけでも空気が変わって見えるというのに、微笑むとさらにそれを感じる。

 目が合った手前、無視をする訳にもいかず蘭は女性に軽くお辞儀して、ランニングへと戻った。


「…彼女が、駿河 蘭。」


 走りゆく蘭の姿を女性は目で追いかけて、そう小さく呟いた。しかし蘭には届くはずも無く、そのまま走り去って行った。




 ・・・




「らぁ〜ん〜〜〜!!!」


 朝のランニングを終えた後、学校に行く準備を済ませて通学路を歩く蘭に、彼女を呼ぶ可愛らしい声が聞こえる。


「ゆずちゃん、おはよう。」


「おっはー!」


 振り向くとそこには親友のゆずちゃんこと、立花 柚希(たちばな ゆずき)が蘭の後ろを追いかけて来ていた。蘭はしばらく立ち止まり、柚希が隣に並ぶと再び歩き始める。


「ね、蘭!昨日言ってた番組見た?」


「うん。ゆずちゃんが好きなアイドルが出ていたクイズ番組でしょ?」


「そう!ナツメくんほんとかっこよかったなぁ〜…!」


 二人は朝、会うなり雑談を始める。と言っても、基本的には柚希があれやこれやと話して蘭はたまに相槌を打つ程度。

 それでも話すのが大好きな柚希は、しっかりと耳を傾けて聞いてくれる蘭が大好きだった。


「それでさ、(ひじり)くんが答えてた…えっと、バームクーヘン効果?」


「バーナム効果。」


「そう!それ!ネットとかの占いってあんま信憑性無いんだな〜って思った。」


「ネットだけじゃなくて、売ってる本とかも色んな人に需要を向けなきゃいけないからバーナム効果を取り入れてるものが多いよ。」


「んえ〜そうなんだ〜。じゃあ今日のさそり座が12位ってのはそういう人もいるってだけで、ゆずは当てはまんないよね!!!」


 早朝ほどの静けさでは無いものの、まだ人が活気づくには早い時間。だと言うのに、柚希の止まらない雑談のせいか、いつも賑やかな朝を過ごしている。


 しばらく歩くと次第に周りには同じ制服を着た学生が多くなり、大きな学園はすぐに見えてくる。


 蘭たちが通う星空(ほしぞら)学園は小中高大一貫校。生徒の自主性を重んじる自由な校風のおかげで、伸び伸びと学校生活を送れている。


 昇降口で靴を取り替え、二人は教室棟二階にある二年A組へと向かう。

 相変わらず賑やかな教室の窓際に二人の机はあった。蘭は窓際の後ろから二番目、柚希はその斜め後ろの席だ。


「あ、今日体育あるよね。メガネケース忘れちゃった〜。」


「昨日ロッカーに入れてたよ。」


「あれそうだっけ?教えてくれてありがとう〜!」


 他愛もないやりとりが蘭にとっては幸せで、抱き着いてくる柚希から香る柑橘系の甘酸っぱい香りに微笑んだ。


 ・


 放課後、蘭はホームルームを終えると柚希と分かれて生徒会室にいた。

 蘭は中等部の生徒会長を一年生の時から務めている。それだけの力量が彼女にはあり、周囲もそれを認めざるを得ない程のものだった。


「皆様、今日は抹茶マカロンをお持ちしました。今、日本茶を淹れますね。」


「ここのお菓子美味しいのよね。」


「弥生ちゃん、いつもありがとう。」


 現在生徒会室では仕事に一段落が着いた為、休憩の流れに。

 休憩の時には必ず、一年生で書記の神楽坂 弥生(かぐらざか やよい)が持ってきた高級感漂うお菓子と彼女の淹れる美味しいお茶が出る。

 今日のお菓子は有名老舗店の抹茶マカロンとそれに合わせた日本茶。三年生で副会長の壬生屋 伊織(みぶや いおり)白雪 敦夫(しらゆき あつお)は嬉しそうにして、ペンを置いた。


「蘭様も区切りが付いたら休憩なさって下さい。」


「あ…うん、ありがとう弥生ちゃん。もう少しで終わるから先に皆で休憩してて下さい。」


 蘭はタブレットとデスクトップパソコンを同時に操作しながら書類を作っている。その仕事量に対する速さに周囲は尊敬しているのだが、適度に休ませないと蘭からは決して休まないのが難点だ。


「蘭ってば…そんなに一度に仕事しなくても良いのに。」


「でもあれを一度にやれるっていうのが凄いよね。」


「見る度関心しますが、それと同じくらい心配もしてしまいます…。」


 彼女の仕事スタイルを見て、休憩中の伊織たちはそう呟く。

 すると、荒々しく生徒会室の重い扉が開いた。


「クソッ…やっぱりこの僕に仕事を押し付けてのんびり休憩してやがる………!」


「あら、帰ってきたわ。」


 息を切らしてやって来たのは一年生で会計の星明 侑(きりあ ゆう)。蘭の弟で、先程まで蘭に任された仕事のために図書室で作業をしていた。

 どうやら作業が終わったのと同時に嫌な予感がして、急いで戻って来たようだ。


「僕の知らない内に全部食べる気だっただろう!」


「どうかしらねぇ?まだ全然残っているし…被害妄想にしかならないわよ?」


「その言い草は図星だろ!」


 本当にその気は無いのだが、伊織は侑を揶揄って楽しんでいる。彼女の手のひらで踊らされていることも知らずに侑はフンと鼻を鳴らし、蘭に完成した書類を届ける。


「侑くんありがとう、ゆっくり休憩してね。」


「それを言うなら蘭もだ。仕事はある程度片付いているんだろう?また下手に手を付けるより今休憩しよう。」


 蘭は困った笑顔をして渋々頷いた。弟というだけあって、蘭が無茶をしないように先手を打った。

 その姿に感心しながら弥生は二人の分のお菓子とお茶を改めて用意した。


 ・


「今日はこれで以上です。お疲れ様でした。」


 蘭のその言葉で生徒会の活動は終わる。各々荷物をまとめて、下校したり部活へ向かったりする。


「蘭、今日もサッカー部行くのか?」


「うん。敦夫先輩も行きますか?」


「あぁ。少しでも顔出さないと明日、和斗がうるさいからね。」


 蘭と侑、敦夫は同じサッカー部だ。生徒会の活動を終えた後は大抵三人で部室棟へ向かうのだが、廊下を出てすぐに侑は少し不機嫌そうに下を向く。


「侑くん…?どうかしたの?」


「いや……。」


「…あ、生徒会室に忘れ物したみたいだ。取ってくるから二人は先に行ってて。」


「え、敦夫先輩?」


 侑の不機嫌の理由を察した敦夫は嘘を吐いて生徒会室へ戻る。蘭は二人の行動が不思議で首を傾げるが、部活の時間もあまり無い為、敦夫に言われた通り何故かご機嫌になった侑と共に部室棟へ先に向かった。


「あ、蘭〜!生徒会終わったの〜?」


 二人が室内グラウンドに着くと、一番最初に柚希が気付く。彼女の可愛らしい声がグラウンド内に響き渡る。

 小さな身体を目立たせるように大きく手を振って迎え入れてくれる。


「蘭先輩っ!お疲れ様です!」


「侑くんもお疲れ様。」


 柚希に手を振ってから荷物を置こうとベンチの方に向かうと、休憩中の後輩、内海 莉愛(うちうみ りあ)と先輩のマネージャー、小鳥遊 雛(たかなし ひな)が笑顔で迎えてくれる。


「お疲れ様です。まだ時間ありますか?」


「うん、あと30分くらいだけどハーフタイムで試合なら出来るんじゃないかな。あ…あっくんは?」


「生徒会室に忘れ物を取りに行きました。すぐに来ると思いますよ。」


 彼女の言うあっくんというのは敦夫のことだ。雛と敦夫は恋人でとても仲が良い。とは言ってもそれは周囲には秘密で、従姉妹である柚希だけに話したのだが、こっそりと彼女が蘭に話してしまった為、蘭も知っている。


「蘭〜早く着替えて試合しよー!ゆうゆうも!」


「あ、うん!すぐ着替えてくるね。」


 蘭と侑はそれぞれ更衣室に向かい、そそくさと着替える。グラウンドに戻る頃には敦夫も着替えた状態で来ていて、試合のチーム分けもされていた。


「うおー!蘭ちゃんと同じチームなら負ける気せんちゃん!」


「和斗先輩、せんちゃん呼ばないで〜。」


 蘭の隣で息巻くのは三年生でフォワードの水野 和斗(みずの かずと)。福岡出身で訛りの強い博多弁が特徴的なチームのムードメーカーだ。


 蘭のチームは他にオフェンスに莉愛、ディフェンスに侑、そして本来のポジションはディフェンダーなのだがチーム分けの時に代理でキーパーを任されることが多い敦夫だ。


 相手チームはフォワードに一年生ながらにエースストライカーの青空 藍玖(あおぞら あいく)、オフェンスには彼の兄の青空 藍音(あおぞら あいと)、ディフェンスには柚希と三年生の紫苑 匠(しおん しょう)。そしてキーパーは一年生の緑鳥 吉人(みどり よしひと)だ。


 蘭のチームは攻めを重視、相手チームは守りを重視したバランスの良いチーム分けがされており、蘭もワクワクする。


「それじゃあ私が審判するね。行くよー!」


 雛がフィールド外のセンターに着き、笛をピーッと吹いて試合がスタートした。




 ・・・




『今日の試合楽しかったね!』


 夜、夕食も食べ終わり、お風呂も先程済ませた蘭は自室で明日の予習をする為に机に向かっていた。

 すると、個人チャットの着信が来て見ると柚希からメッセージがあった。


『そうだね、ゆずちゃんまた上手になってたよ。私のシュート止められちゃったし。』


『一回だけだけどね〜、しかもあれ絶対和斗先輩が悪いし。でもそう言ってもらえて嬉しい!』


 先程の試合、結果は蘭のチームが勝った。その結果も嬉しいのだが、みんな笑顔で楽しそうにサッカーをしていたのを思い出して蘭は顔が綻ぶ。


『私もボール独占しすぎちゃったから…和斗先輩もいっぱいシュートしたかっただろうし…。』


『りあちがめーっちゃ蘭にパス送るからね〜。味方にパスカットは笑った〜。』


 途中、蘭のことを尊敬している莉愛が蘭にばかりパスすることに怒って、和斗がパスカットをしてしまった。それに驚いたり笑ったりして、やはり楽しかった。


『あ、お風呂入るから落ちるね!』


『うん、おやすみなさい。』


 柚希がおやすみのスタンプを送ってその会話は終了した。

 柚希と会話が出来て良いリラックスになった蘭はまた予習に戻り、早々とそれを片付ける。


 明日の準備をしてベッドに横たわる。すると、部屋の窓に掛かるカーテンの隙間から、綺麗な星空が覗いた。

 綺麗だな…と思いながら重くなった瞼を素直に下ろし、眠りに着いた。






 _____ふわふわとした曖昧な意識の中、気がつくと蘭は不思議な場所に立っていた。どこか現実味の無い幻想的な空間。

 夢か…と思いながら意識が薄れゆく瞬間、蘭は目を見開いた。


 そこが見たことのある場所だったからだ。


「…何、ここ。」


 ボソリと呟いた言葉も鮮明に聞こえる。頭も次第にハッキリしてくる。目が覚めてゆく感覚が現実だと教えてくる。


『蘭。』


 すると、頭の中に自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。女神のように美しい、透明感のある声。それにより、蘭の記憶は引き戻される。

 ここは昨日見た夢の中で見た世界だ。この声もその夢に出ていた一人の少女のものだ。

 しかし、その姿はどこを見ても現れなかった。


『初めまして、私はアリア。今はあなたに直接語りかけているから、姿は見えないの。』


 アリアと名乗る少女の声は蘭の疑問を見破るようにそう答えた。

 よく分からない現状の中、蘭の頭だけは冷静でその言葉の意味もなんとなく受け入れていた。


「…アリア、さん。ここは…何ですか?何が起こっているのか理解出来ないのですが…。」


『ここは『煌めきの世界』。世界中の煌めきが集まる場所。蘭は昨日見た夢を覚えているかしら?』


 蘭はアリアの問いにコクリと頷く。

 蘭は目を瞑らずとも鮮明に夢の中の出来事を思い出せるその異常なまでの記憶力を持っている。

 今日の生徒会の仕事で入力した文字も、一週間前の夕食も、一年前の入学式や、いつのどんな些細な出来事も。蘭は覚えている。


『ここにいる理由はその夢が全て。夢の結末、闇に飲み込まれたこの世界を救う為、蘭に歌って欲しいの。』


「…歌?」


『えぇ。あなたの歌には特別な力がある。あの闇を消し去ることが出来るくらいの煌めきを世界に広める力。』


 彼女の言葉は全く持って理解が追いつかない。しかし何故か、彼女の言葉にはそうさせる力があった。

 煌めいた美しい世界が闇に飲み込まれる映像が鮮明に蘇る。それに蘭の胸はざわつき、不安になる。


『…蘭、あなたの煌めきは心の奥底に眠った深い深い闇の果て。一筋の光だけを宿した儚い美しさ。闇を知っているからこそ、その強い煌めきが世界を魅了する。』


 アリアの言葉で蘭の不安はスッと消えてゆく。

 気がつくと蘭はフォーマルな印象の綺麗な衣装を身に纏い、左手にはマイクが握られていた。


『蘭、歌って。あなたのその…煌めきを。』


 導かれるように手に持つマイクを口元へと持っていき、自然と詩が浮かぶ。目の前に広がる銀河の空が蘭を照らした。




 夜空に瞬く星たち 強く儚く煌めき

 今も想うあなたのために

 幸福を願う流星になれ


 たとえ遥か遠くても 小さな願いだとしても

 またあなたに会いたい


 それが私の願い_____。

・白雪 敦夫

星空学園中等部三年C組

温厚で落ち着いた性格。博識で周囲のサポートに長けている。雛の彼氏。

星空学園中等部生徒会副会長を務めている。


・星明 侑

星空学園中等部一年C組

小柄な割に態度は大きく意地っ張り。弥生とはクラスメイトで仲が良い。蘭の義弟。

星空学園中等部生徒会会計を務めている。


・青空 藍玖

星空学園中等部一年A組

一年生ながらサッカー部のエースストライカー。しかし飾らず控えめな性格で、時にちゃっかりしている。


・青空 藍音

星空学園中等部二年C組

一見ごく普通の男の子だが、ピアノの腕前は世界レベル。誰にでも平等に接するが、彼女の柚希は特別。


・緑鳥 吉人

星空学園中等部一年A組

大柄な割に小心者でネガティブ思考。双葉とは幼馴染で妙に懐かれている。その体躯と身軽さを活かしてサッカー部のキーパーを任される。


・水野 和斗

星空学園中等部三年A組

サッカー部のムードメーカー。お調子者でいつも元気。訛りの強い博多弁で時々何を言ってるのか分からない。楓の兄。


・紫苑 匠

星空学園中等部三年B組

見た目は厳ついが、情に厚い兄貴肌。面倒見が良く、後輩たちからはよく懐かれており、相談に乗ることが多い。


・常盤市

蘭たちが住む今も昔も穏やかな時が流れる街。

星空学園があり、駅前広場はストリートライブが盛んに行われる。

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