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あの星に煌めきを  作者: そーら
第五章 月夜に照らされて
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背中を押されて

 



「…はい、歌唄お疲れ!」


 今日はダンスレッスンの日。歌唄は順調に身体使い方をマスターしていった。


「バンドやってるからか、パフォーマンスとしての動き方が分かってて、飲み込みが早いね。」


「ありがとうございま〜す!」


 水明に褒められ、頬を赤く染める。自分の好きなことを技術面で追求出来ることに嬉しさを感じていた。


「ただやっぱり素人っぽさが目立つかな。トレーニングの成果は出てるからこれからも根気よく続けること!」


「はいっ。」


 具体的なアドバイスをもらえることに感謝しながら返事をする。

 次は伊織の番となり、歌唄は奈帆の元へ向かう。離れた位置でメモをする真面目な彼女の横にそっと座った。


「歌唄、お疲れ様。」


「お疲れ!奈帆は何書いてんだ?」


「歌唄が先生に言われてたこと…自分にも役立つことがあるかなと思って。」


 まるっこい優しい字で書かれたノートを覗く。先程言われたことは覚えているが、こうして見返すと自分はまだまだなんだと自覚する。


「…早くもっと出来るようになりたいなぁ。歌もダンスも。」


「歌唄は今でも上手だと思うけど…?」


「いいや、まだだ。素人っぽさが目立つなんて、言われてるうちはまだ。」


 グッと拳に力を入れて気合いを入れ直す。周りの小さなことでも吸収しようと、今レッスンを受けている伊織に目をやる。


 綺麗なスタイルを存分に魅せる美しい動き。歌唄の熱の篭ったパフォーマンスとはまた違う。それはまるで月と太陽のように真逆だ。

 自分にはない物に少しの妬ましさがあるが、彼女にだって自分と同じことは出来ない。そう思うことで心の均衡を保つ。


「…はい、オッケー!良い動きが出来るようになって来てるね。」


「ありがとうございます。」


「筋肉もついてきたから動きにも幅が広がってると思う。次は新しいことに挑戦しよっか!」


「はい。ご教授感謝致します。」


 伊織の丁寧な言葉使いに歌唄は目を細める。活動に込める熱意はあるものの、本人の目は冷たい。


「次、奈帆!」


「は、はいっ!」


 呼ばれた奈帆は急いでノートを片し、水明の前へ向かう。その様子をぼんやりと見つめ、真反対側の壁に向かってストレッチをする伊織の背中へと視線を向ける。

 今日の動きを復習しているようだ。


「…柔軟でもしよっかな。」


 歌唄は足を広げて身体を前に倒す。最初は硬かった身体も今では充分に曲げられるようになった。

 小さな積み重ねがこうして振り返ると大きな実感に変えられている。

 その感覚がギターを始めた時と少し似ているなと思いながら、また奈帆のレッスンに目を向けた。


 ・


「みんな、お疲れ様!明日はレッスンも無いから、ちゃんと休むように。」


「は〜い!水明せんせ、ありがとうございました!」


 数分後、奈帆の指導も終わり、今日のレッスンは終わる。連絡事項等を済ませ、三人は帰る準備をする。


 奈帆と歌唄は隣同士にまとめた荷物を雑談をしながら片す。その真反対側で伊織が迎えの連絡をしていた。

 最近はずっとこのようにお互い牽制し合っているようなそんな状態が続いていた。


「さようなら!」


「お先に失礼しますっ。」


「はぁい、じゃあね〜。」


 水明はそれに気付かないふりをして、いつも通り彼女たちを見送る。

 先に出ていくのはいつも奈帆と歌唄。伊織はそれから少しして出ていく。


 普通ならばもっと仲良くしようと声を掛けるものなのだろうが、水明は秀一郎が決めた彼女たちを正しいと信じることしかしないのだ。




 ・・・




「…はぁ………。」


 翌日の中休み。数学の授業を終えて、奈帆は机に突っ伏す。日々のレッスンの疲れもあるが、それ以上にあるのは伊織との微妙な距離感から来る緊張感。無駄に気を張り合って余計疲れさせている。


 何とか出来ないかと思考を巡らすも、歌唄は何故か敵対心に近いようなものを抱いているし、意気地のない自分にはどうすることも出来ない。

 自分を律することも誰かに頼ることも出来ない今、奈帆から出てくるのは溜息のみだった。


「涼風さん。」


「は、はい!あ…姫路さん。」


 名前を呼ばれて顔を上げるとそこにはクラスメイトの姫路 月雫(ひめじ るな)が何かプリントを抱えていた。


「あの、響木さんはどちらにいるか知りませんか?朝からお見かけしないのですが…。」


「あ…えっと、歌唄は………。」


 今日は歌唄がいない。その理由を奈帆は知っているが、真面目で堅物な月雫に本当のことを言うか迷う。

 しかし、下手な嘘を付けない奈帆はすぐに観念して正直に言う。


「今日は朝から機嫌が悪くて…その、サボってる………。」


「…サボり、ですか。」


 一段と声のトーンが低くなった月雫に怯える。はぁ…と短く溜息を吐くが次に来たのは彼女らしからぬ言葉。


「仕方ありませんね。」


「え?」


 いつもなら「サボりはいけません。今すぐ連絡して来るよう伝えてください。」と厳しいことを言うだろうし、奈帆もそれを予想して正直に言うのを躊躇った。


「今回は大目に見ます。涼風さんもここのところ疲れているようですし、何かと大変なのでしょう。」


 しかし普段の鋭く冷たい瞳も今日は少し優しくて暖かい。厳しい彼女に苦手意識のあった奈帆は勘違いをしていたのかもしれないと頭の中で訂正する。


「よく、見ているんですね。」


「当たり前です。学級委員なので、クラスメイトのことを把握しておくのは立派な役目です。」


 今度は真面目な彼女らしい言い方に奈帆はクスリと笑う。そして月雫もまた奈帆に微笑む。


「…涼風さんは元気が無いように見受けられますが、悩み事ですか?」


「あ…バレて、ます?」


「はい。小さな溜息を何度もしているので。」


 自分が思っていたよりも態度に出ていることに驚いたが、困ったように笑い思い切って月雫に相談してみた。


「…姫路さんって壬生屋先輩と面識ってありますか?」


「壬生屋先輩?ありますよ。学級委員会で何度か…。」


「その壬生屋先輩と歌唄と…今度、チームを組むことになって。」


 それを聞いた月雫は「あー…」と声を漏らし、何かを察した。二人のことをよく知っているという訳では無いが、なんとなく馬が合わなそうだと感じた。


「…つまり、居心地が悪いと。」


「まぁ…はい、そうですね。私、慣れてない人と一緒にいるとその…どうしても苦しくなってしまって。」


「…………。」


 奈帆は胸の前でギュッと手を握る。俯いて暗い表情を浮かべる奈帆を見ながら、月雫はふと思ったことを口にする。


「…これは私の見解ですが、壬生屋先輩と響木さんはすごく似ていると思います。」


「えっ?」


 思ってもいなかった言葉に奈帆は顔を上げる。驚いた表情になった彼女にクスリと笑いかけて眼鏡を上げる。


「壬生屋先輩はプライドが高く、一度これと言ったことを曲げることはありません。響木さんも思い立ったらすぐ行動。その目的が果たされるまで他には目もくれません。

 どちらも目の前の目標に向かって突っ走るタイプ。まぁやり方は正反対かもしれませんが。」


 月雫のその見解に奈帆は頷く。歌唄のことはよく知っているが、伊織のこともここ数日一緒にいてそういうタイプだというのは理解している。


「二人とも我が強いんです。だからまるで同じ極の磁石のように反発し合う。その点で言えば、涼風さんは響木さんとは真逆な穏やかで事なかれ主義。だからこそ引き合う…違う極の磁石のように。」


『磁石』という具体的な例えをされて奈帆はピンと来る。

 確かに自分と歌唄の関係は磁石のようだ。違うからこそ惹かれ合うのだと。


「となると、涼風さんと壬生屋さんも引き合えるという事になるのではないでしょうか?」


 胸の中でモヤモヤしていた何かがスーッと晴れていくような感覚がする。奈帆の顔付きが変わったのか、月雫は安心したように目を細めた。


「…姫路さん、ありがとう。なんか今なら壬生屋先輩と話せそうな気がする。」


「お役に立てたなら良かったです。新しいことばかりで大変かと思いますが、無理なく頑張ってください。僭越ながら応援しています。」


 月雫と少し距離が縮んだように感じ、二人は笑い合う。伊織ともこうして少しずつ、仲良くなれたらと心の中で思いながら奈帆は次の授業の準備を始めた。




 ・・・




「_____♪

 今日も明日も ずっとその先も 足掻き続けるだけ

 I just hope I am here.」


 パチパチパチと疎らな拍手が響く。ふぅ…と息を吐き、歌に浸っていた歌唄は目を開いて目の前の客に頭を下げた。


 学校をサボって駅前に来た歌唄はギターを弾いていた。

 バンドを結成した時も修行のためにこうして弾きに来たっけ…と思い出しながら、ギターを拭く。その時の経験を生かして大人っぽい服装をしており、中学生だとは思われていないようだ。


「………歌唄。」


 客も散り散りになった時、名前を呼ばれて顔を上げた。そこには帽子を深く被り、眼鏡とマスクをした少女が立っている。

 一瞬知らない人に話しかけられて驚いたが、川がせせらぐような美しい青髪に見覚えがあり、記憶を巡らせるととある人物が浮かび上がった。


「…蘭世か?」


「あ、やっぱり分かってなかった?ごめんこんな格好で…。」


 アハハ…と苦笑いを浮かべて、蘭世は歌唄の隣に座ると眼鏡を外した。


「仕事終わりでこれから学園に戻ろうと思ってたんだけど、歌唄はここで何してんの?」


「あ〜…サボって弾き語り?」


「いやそれ結構ヤバいでしょ…。」


 蘭世は呆れたように目を細め、歌唄のギターを見る。少し古いが、大事にされているのがよく分かる。


「…ギター、ほんとに好きだよね。」


「あぁ…好きじゃなきゃ、やってないよ。」


 優しくギターを撫でると弦に指が触れ音が鳴る。そんな小さな音ですら歌唄の胸は震え、高鳴る。


「…それで何でサボってたの?理由、あるんでしょ。」


 前屈みになってマスクをずらした蘭世は、薄く笑って真っ直ぐに歌唄を見た。そんな彼女から目を離して、ギターを仕舞った歌唄は、はぁ…と息を吐いて最近思っていたことを吐露した。


「…三年の壬生屋 伊織っているだろ?」


「あぁ、生徒会副会長の。」


「そいつと奈帆とチーム組むことになったんだ。」


 チームを組む、ということに蘭世は耳をピクリを動かす。彼女にとってチームを組むことは人生において大きな分岐点だったからだ。


「正直言って気に食わない。あたしたちのことなんか視界に入ってないみたいな態度で…ずっと一人で良いと思ってる。」


「…一人で良い?」


「あぁ…昔のあたしと一緒で、ムカつく。」


 険しい表情で睨む。その目線の先には何も無いが、歌唄には昔の自分が見えていた。

 真っ暗な瞳の空っぽな少女はピクリとも動かず、何も見ていない。苦しさと虚しさが歌唄の中に蘇ってくる。


「…あのさ、そのチームって社長が決めたんだよね?」


「ん?あぁ…うん。トレーナーの人が言ってた。」


「そうだよね…。」


 歌唄の心の中を他所に蘭世が考え込むような顔をした後、いきなり歌唄の顔を見て微笑んだ。


「え、何?」


「…アタシたちもさ、最初バラバラだったんだ。」


「アタシたち…ってPentagram☆*。が?嘘だ。」


 今ではすっかり信頼しきった完璧なチームの印象のPentagram☆*。にそんな時期があったなんて信じられない。

 予想通りの反応にニヤリと笑って蘭世は話し始める。懐かしそうに、物憂げな表情で。


「ホントだよ。アタシたちって今もだけど、個性が強くてさ。夕空は歌手になることばっかで、来夢はそんな夕空と自分を比べて落ち込んで。乃愛は自分のことしか考えてないし、逆に奏空は、何考えてるか分かんないし。

 …アタシも何したらいいか分かんなくて、ダンスしかすること無くてさ。」


 今から一年と少し前、デビューする前の合宿で初めて彼女たちと出会った時のこと。今とは全く違う自分たち。


「今となっては良い思い出って感じだけど…あの時はお互い牽制し合ってて…。

 今の歌唄も…きっとそんな感じなんだよね。」


 ギターを弾いてスカッとしていたけれど、それは一時的なもの。歌唄の心にはまた少しずつモヤモヤが募っていた。

 しかし、それを分かってくれる人がいる。それだけで、胸が軽くなったような気がした。


「……………。」


「でもあの時さ、奏空がアタシの中に光をくれたんだ。道を照らす、光を。」


 真っ直ぐ空を見上げる蘭世の目にキラリと星が宿る。まだ昼下がりの青空に星を見ているかのように満点の星空を描いて。


「社長はアタシたちの中にある僅かな光を見つけて、繋げてくれた。あの人は、アタシたちには見えないものが見えてるから…意味も無くチームを組ませる人じゃない。


 …きっと、歌唄と涼風さんと壬生屋先輩にしかない光が何かあるんじゃないかな。」


 蘭世の瞳が眩しい。目の前の彼女はもう立派な(アイドル)だった。


「もしかすると、もう歌唄の中に答えはあるんじゃない?その…()()()()()ってやつの中にさ。」


「…昔の、あたし……………っ!」


 そう呟いた歌唄は何かを思い出したように顔を上げ、スッと立ち上がった。蘭世の方に振り返ると、その瞳には先程までの迷いは無かった。


「あたし、行ってくる!」


「…うん。行ってらっしゃい。」


 蘭世が優しく見送ると、歌唄はギターを背負って走り出した。

 一人、取り残された蘭世は歌唄の背中が見えなくなると小さく息を吐く。


「…奏空、アタシ…奏空みたいに背中を押せたかな。」


 今もどこかで忙しくしているであろう憧れの人に向かって、そう呟いた。

・姫路 月雫

星空学園中等部二年B組

真面目で堅物な学級委員。どんな時も冷静で、厳しすぎるが故に敬遠されがち。誰よりも生徒思いで、困っている生徒にはすぐ気が付く。

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