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あの星に煌めきを  作者: そーら
第四章 世界に届く歌を
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分かたれた理由

 



 ある日の放課後。雛はあかつき寮にやって来ていた。

 それはいつもの事なのだが、今日は少し面持ちが違う。自室では無く、普段は行かない地下に向かった。


 あかつき寮の地下にはいくつかスタジオがあり、芸能人の生徒がよく使っているが、一般生徒の雛には縁のない場所だ。


「こ、こんにちは…。」


 呼ばれたスタジオにそっと入ると、そこには弥生と双葉がいた。二人とも動きやすい格好に着替えている最中で、雛は慌てて謝った。


「わっ!ご、ごめんねっ。」


「いえ、お気になさらず…。小鳥遊様は着替えていらっしゃったんですね。」


「あ、私はサッカー部のマネージャーだから…部活終わって、そのまま来たんだ。」


 雛も荷物を置いて、壁に寄り掛かる。まだ顔見知り程度の二人だからか、距離感が掴めずにいる。


「ぴーなんっ!こんにちはっ!」


「こ、こんにちは…ぴ、ぴーなん?」


 先に着替え終えた双葉がぴょんと雛の前に飛んでくる。屈託のないにっこりとした笑顔で挨拶された上に、聞き慣れない名前で呼ばれた雛は驚いた顔をする。


「うんっ!ひなセンパイだからぴーなん!」


「あっ双葉っ!す、すみません…双葉が失礼なことを…。」


「う、ううん。そうやって呼ばれたこと無かったからびっくりしただけ。好きに呼んでくれて良いよ!」


 雛がそう言うと双葉はぱあっと明るくなる。弥生も胸を撫で下ろし、綺麗な髪を束ねた。


「あら、皆さん揃ってるみたいですね。」


 すると、入口から顔をひょっこり覗かせて華乃子がやって来る。


「あれ、燈子ちゃんのお母さん?こんにちは…。」


「雛ちゃん、こんにちは。ふふ、びっくりしました?」


「はい…どうしてここに?」


「それも含めてこれからお話しますね。」


 華乃子は壁際に置いてあったキーボードをセッティングする。しばらくその様子を眺めながら立ちすくんでいた。


「…さて、すごく気になってるみたいだしお話しましょうか。」


 そう切り出した華乃子はバインダーに挟んだプリントを見ながら説明を始めた。


「私は火影 華乃子。秀一郎さんに頼まれて、皆さんのボイストレーナーを担当することになりました。

 そして、皆さんはライブに向けてこれから三人チームとして活動をしてもらいます。仮にチームCとします。」


 ・


「…って言うわけで、君たちはチームD!」


 同時刻、伊織と奈帆、歌唄もまたあかつき寮の地下のレッスンスタジオに集められ、同じくチームとして活動することを水明に告げられた。

 いきなりのことに伊織たちは驚いた表情をやめられない。


「ち、チームってどういうことですの?私一人ではやっていけないというご判断でしょうか?」


「秀一郎さんには色々考えがあるから…あたしからは何とも言えないけど、蘭たちもこうしてチームを組むことになったし、そんなに深く考えなくて良いと思うよ!」


「そんな………。」


 特に伊織は一人で活動することに固執しているようで、奈帆と歌唄をチラリと見てもそれが受け入れられない様子。

 奈帆と歌唄もそんな伊織を見て、身を寄せ合う。


「…社長が言うなら仕方ないけど…合わなかったらこっちから願い下げですからね。」


「う、歌唄っ…!」


 歌唄が警戒するように言うと、伊織は毅然とした態度でそっぽを向いた。

 あまり良いスタートとは言えないものの、そんな彼女たちの様子を見て、水明は面白いものを眺めているかのように笑う。


「さ、それじゃあ君たちの実力がどれだけのものか見せてもらうよっ!」


 手を叩いて不穏な空気を変え、ダンスレッスンが始まった。




 ・・・




「………どーぉー?見えてる〜?」


 あかつき寮の管理室に幼い子供のようなきらるの声が響く。珍しくお酒を飲んでいないきらるは、管理室に設置されたモニターで雛たちの様子を見ている。

 そして、それを秀一郎と画面共有していた。


『…あぁ、見えているよ。ありがとう小笠原くん。』


「別に良いんだけどさぁ、しゅーいちろーさんって結構性格悪いよね〜。」


『急に何の話かな?』


 無事、秀一郎にも見えるようになり、きらるは安心して頬杖をつく。そして先程から思っていたことを何の気無しに言ってしまう。


「いやぁ…チームの組み合わせだよ〜。」


 そうきらるが言うと、秀一郎は彼女が何を言いたいのか何となく察し「あぁ…」と声を漏らす。


『私はこれがベストだと思っているよ。』


「まぁしゅーいちろーさんが言うならそうなんだろうけどさ〜。ホントに大丈夫かなぁ。」


『小笠原くんが心配するのも分かるけどね。』


 きらるは寮生である雛と奈帆、歌唄のことはよく知っている。彼女たちの悩みや、過去の苦労も身近な大人である自分がよく理解している。

 そして、寮生では無い他の三人のことも噂で耳にすることがある。


「奈帆と歌唄、弥生と双葉。それぞれ昔からの知り合い。そこに雛と伊織を入れる。しかも寮や生徒会で知り合っている方じゃないところに。何か理由でもあるの〜?」


 伝わりやすいようにふざけたニックネームではなく、あえて名前で呼ぶきらる。彼女のたまに見る気遣いに秀一郎は軽く微笑んだ。


『理由、か。あるとするならこの瞳に聞いてほしいよ。』


「やっぱそうだよねぇ。しゅーいちろーさんの瞳はいつでも正しいから〜。」


 今は音声だけでやりとりしているが、これがもしカメラ越しならばきらるのことも透けて見える。わざわざこんな会話をせずとも、秀一郎はきらるの考えていることがその瞳で読み取れる。


『ただ、この瞳からは現在の内面しか分からない。複雑に絡み合った少女たちの色がどうしてそう形成されたのかは知る由もない。』


 秀一郎は今も真剣にレッスンに臨む少女たちの様子をただ見ている。彼女たちに宿る不安の色が少しずつ無くなるように願いながら。


『涼風くんと響木くん、神楽坂くんと夢心くんはお互いを信じ合っている。それは過去の記憶と経験による結果だ。それが数年続いたからか、彼女たちは互いに離れられなくなっている。』


「離れられない?」


『特に涼風くんは…響木くんに依存にも似た感情を持っているようだ。』


 ダンスレッスンでは歌唄が実力を見てもらっている様子が映っている。その後ろで伊織は興味が無いのかそっぽを向き、奈帆は真っ直ぐ歌唄を見つめている。

 秀一郎の瞳には映る。彼女のドロっとしたような限りなく黒に近い色が。


『このままだと涼風くんは、響木くん以外の人間を本当に信用出来なくなってしまう。そうならない為に、壬生屋くんが必要なんだ。』


 横顔を晒す伊織を見る。彼女も限りなく黒に近い感情を胸の奥底に隠している。それもまた彼女の過去の記憶と経験によるものだ。


『小鳥遊くんたちも同じだ。離れられなくなっている神楽坂くんと夢心くんの間に入れるのが小鳥遊くんだけなんだ。』


 小鳥が囀るような綺麗な声でボイストレーニングを受けている雛。その美しさに弥生はオレンジ色の希望を抱き、双葉は無数の色がついた心に一つの小さな芽が浮かんでいる。


『ある意味、賭けだ。これが上手くいくかどうかかは彼女たち次第。その上であの子たちは導いたのだろう…。』


「あの子たちって______。」


 きらるが秀一郎の愛する名前を言う。それを聞くだけで胸が苦しくなる。

 いつからか姿を消してしまった愛する彼女たち。


『………あの子たちのためにも、私は何としてでも成さなければならない。そして、彼女の為にも…………………………。』


 秀一郎は強く拳を握り、固い決意をする。その気配を感じつつ、きらるは頬杖をつきながら画面に映る雛たちを見つめていた。




 ・・・




 雛たちはレッスンが終わり、それぞれ荷物をまとめたり着替えたりしてレッスンルームを出る。すると同じく隣でレッスンをしていた伊織たちも出てきて、タイミングの良さに顔を見合わせる。


「………。」


 誰が声を掛けるわけでもなく、しばらく沈黙が続く。気まずい雰囲気が流れ始めると、いたたまれなくなった歌唄が明るく言った。


「ひ、雛センパイ!この後って食堂行きますよね?一緒に行きましょ!」


「え?あっ…うんっ。いいよ。」


「奈帆!行こーぜ。」


「う、うん!」


 歌唄は振り返ることなく、そそくさと雛たちとエレベーターに乗る。

 そんな彼女たちの後姿をその鋭い目で伊織は見つめ、少し居心地が良くなったのか溜息を吐く。


「…伊織様、お疲れ様です。」


「弥生こそ。そっちはどう?」


「お歌楽しかったよ!」


「…あなたには聞いていないのだけれど。」


 生徒会で共に仕事をする弥生と話せて安心するが、双葉に対しては伊織は微妙な顔をする。弥生を通して彼女のことを知っているから、扱いにくいとは思っても嫌な顔はしない。


「…小鳥遊様のことをあまりよく知らないので…少し距離感を掴めずにいます。レッスンは頑張れそうなのですが。」


「…そう………。」


「伊織様はどうですか?」


 エレベーターを待ちながらそんな会話をする。まだ平和そうな彼女たちに羨ましさを感じながら、伊織は先程の空気の悪さを弥生に伝える。


「最悪ね。お互い、苦手意識があって距離感も何も無いわ。これからやっていける気がしないもの。」


 エレベーターが着き、そのまま一階に辿り着く。広いロビーを抜けて外に出ると、目の前には伊織が見慣れた黒塗りの車が止まっていた。


「…それじゃ、また明日。」


「はい…また明日。」


「いおりん、ばいばぁーい!」


 伊織が車に乗り込み、弥生は頭を下げ双葉は大きく手を振って見送る。その車を見えなくなるまで弥生は目で追う。


「弥生?お〜い!帰ろっ!」


「…あ、すみません。そうですね。」


 二人は歩き出し、双葉が落ち着きなく周りを楽しそうにキョロキョロと見つめる。その横で弥生は、先程車に乗り込んだ時の伊織の顔を思い出す。


「…まだ、あのことに固執しているみたいですね。」


 悲しさに包まれた彼女の横顔が晴れることを弥生はただ願うしかない。

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