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あの星に煌めきを  作者: そーら
第三章 ふたつの光
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絵本の切れ端

 



 ライブから数日後。蘭は生徒会の書庫を整理していた。

 あれから世間の興奮は冷めやらぬまま、インタビューや雑誌の撮影が増え、少しずつだが番組出演の仕事も舞い込んできた。今、注目すべき人は誰かと街中で聞けば蘭たちの名前が大半を占めるほど、蘭たちの活躍は広がった。


「…っと。」


 そんな中でも学園に来れば生活は変わらない。来る回数は明らかに減ったが、それでもここは変わらず彼女たちの安心する場所であり続ける。


「…ん?これって………。」


 資料を記憶の通りに戻していると、本の隙間から数枚の紙が出てくる。明らかにその本とは材質が違い、古いものだ。

 そして、それには見覚えがあった。


「これ、絵本の…?」


 絵本の切れ端だった。綺麗な絵に似つかわしくない破れた跡。何故ここにあるのかという疑問より、早く秀一郎に見せなきゃと思う。

 連絡を急ごうと、整理する手を早く動かして書庫を出た。


「…おや、駿河くん。」


 蘭はハッとして横を見た。彼女のことをそう呼ぶのは一人しかいないが、蘭の願いを叶えたようなタイミングで動揺する。


「き、煌さん…?何故、ここに…。」


 数回瞬きをして驚きを表す。彼が今、扉を閉めて出てきた場所は学園長室。

 学園長室は人が出入りするところを誰も見た事がないという噂が立っている場所だ。さらに学園長の姿を見たという人がおらず、その存在自体が七不思議となっている。

 タイミングの良さにもなのだが、そんな場所から秀一郎が出てきたことに珍しく蘭は驚いている。


「私は少し、野暮用でね。それより駿河くんは…私に用事だね?」


 秀一郎は目を細めて柔らかく笑った。

 本来なら偶然と思うところを彼は断定的に自分に用事があると言った。彼の物言いに少し違和感を覚えたが、彼の言う通りなため蘭は頷いた。


「はい。例の絵本について…お時間あれば生徒会室でお話をしたいのですが。」


「あぁ、構わないよ。」


 秀一郎は頷いて蘭に着いていく。

 生徒会室へは距離がある為、会話でもして場を持たせようとして彼の方へ振り返るが、行き交う生徒を一人一人眺める秀一郎の瞳は優しくもどこか寂しそうなのを見て、蘭は何も言えなくなった。


 生徒会室に着き、ノックをして室内に入る。そこには伊織と弥生が机に向かって仕事をしていた。侑と敦夫は高等部から借りた機材を返しに行っている為、不在だ。


「どうぞ、こちらにお座り下さい。」


「あぁ。ありがとう。」


「え、煌 秀一郎…さん?」


 突然の来客に伊織と弥生は驚く。蘭は彼がここにいる理由を簡単に説明した。


「…ということなので、気にせずお仕事して下さい。」


「そういう事ね、分かったわ。」


「あ、弥生ちゃん。煌さんにお茶淹れてもらえないかな?」


「はい、畏まりました。」


 蘭の頼みを弥生は快く了承してくれる。蘭が淹れても良いのだが、話の準備もあるし、何より弥生はお茶の淹れ方が上手で美味しいのだ。


「…君は『Lunatic(ルナティック) Caelum(カエルム)』を手掛けるマリー=アンジュ・壬生屋(みぶや)・ルフェーブル 氏のお孫さんだね?」


「……え?あ、はい…。どうしてそれを…?」


 ジッと生徒会室を見ていた秀一郎は伊織に目を向けて言う。秀一郎が自分に話しかけてくると思っていなかった伊織はさっきよりも驚いて彼を見る。


「お仕事中にすまない。彼女に以前、うちのタレントを起用してもらったことがあってね。その新作発表のパーティーに呼ばれた時、お祖母様に君のことを話していたんだ。」


「あのパーティーですか。いらしてたんですね。私、芸能人に詳しくないので…無知ですみません。」


「いいや、良いんだ。お祖母様によろしくお伝え下さい。」


 秀一郎がニコリと笑うと、伊織は一礼して仕事に戻る。丁度お茶を淹れた弥生が秀一郎の前にそれを置く。


「お待たせ致しました。どうぞ。」


「ありがとう。」


 学園長室から歩いたせいか、喉が渇いていた秀一郎はお茶を飲む。今まで味わった中で1番美味しいお茶だと自信を持って言えるそれに瞠目した。


「…とても美味しいよ。君は神楽坂流の当主 神楽坂(かぐらざか) 龍堂(りゅうどう)氏のお孫さんだね。」


「は、はい。よくご存知で…。」


「うちの女優が殺陣を学んだ時にお世話になってね。君の話も聞いていたんだ。」


 伊織だけでなく、弥生の親族とも繋がりがある秀一郎。

 弥生の祖父は業界関係者からの伝で殺陣を教えることがある。その中に煌プロダクションの女優がいたことはなんら不思議ではなく、彼と知り合いでもおかしくはないが、弥生のこともしっかりと覚えている彼の記憶力もまた、蘭に通ずるものがあるのかもしれない。


「お祖父さんにもよろしくお伝え下さい。」


「は、はい。それでは失礼します。」


 伊織と同じように丁寧に礼をして、弥生は席に戻った。

 蘭がそのタイミングを見て、タブレットと絵本の切れ端を手に秀一郎の正面に座る。


「すみません、お待たせしました。秀一郎さんのお知り合いに二人と関係のある方がいて驚きました。」


「はは、有難いことにこの業界に長年いると、自然と関係が出来ていくものだよ。」


 秀一郎は再び仕事をしている伊織と弥生の方を見て目を細める。彼が二人の何を見ているのかは蘭には分からないけれど、先程見透かされたものもあり、その瞳にはやはり何かあるのだと確信している。


「それで、話というのは何かな?」


「はい。先程、書庫でこれを見つけまして…。」


 蘭に目を向けると、本題に入る。蘭は絵本の切れ端を差し出した。


「これは…。」


「あの絵本の切れ端だと思われます。絵柄の雰囲気、紙質、切れ目が同じですから。」


 秀一郎は切れ端を手に取り、その内容を見た。


 __________


 夢を見ていた少女たちは 何事も無かったかのように 日常を過ごします


 一人は 現実に一縷の望みをかけて


 一人は 先の見えない光を願い求めて


 一人は 純粋な心と誇りを夢現に描いて


 一人は 燃え上がる心を奥底に閉じ込めて


 少女たちはまた眠りに着く


 しかし眠りに着いたはずの 少女たちは夢で見た世界で 不思議な声に導かれました


 "煌めきの世界を 取り戻す為に"


 "あなたたちの煌めきをこの世界に届けて"


 頭の中に響く 女神のように美しい声と 煌めきを帯びた幼い声は 確かにそう言いました


 __________


「………あの絵本の続き、煌めきの夢の後に君たちに起きた出来事だね。」


「はい。やはりこの『あの星に煌めきを』という絵本は今回のことを表しているんだと確信していいかと。」


 古い絵本と酷似している出来事。あまりに信じ難いことに、以前絵本の本体を見た時は確信が持てなかったが、今これを見てその内容を身を持って体験している蘭は信じる他無かった。


「この『現実に一縷の望みをかけて』はray、『先の見えない光を願い求めて』はASK Lightだろうか。チーム名まで予言、されているということか…?」


 秀一郎は指で絵本をなぞる。その表情は訝しげで、彼なりの考えがあるように蘭には見えた。

 絵本の切れ端は秀一郎に預けることとなり、蘭は「よろしくお願いします」と頭を下げた。


「さて、それではそろそろお暇するよ。」


「はい。わざわざお時間割いていただきありがとうございます。」


「君たちのためならいくらでも割くよ。この前のライブも最高だった。これからどんどん忙しくなっていくが、よろしく頼むよ。」


 最後に蘭の肩を軽く叩き、生徒会室を後にした。丁度帰ってきた侑と敦夫と入れ違いになり、彼らは秀一郎を見て先ほどの伊織たち同様に驚いていた。


 そして学園の外で車に乗った秀一郎は一人、鞄に入れた絵本の切れ端を眺める。


「…『純粋な心と誇りを夢現に描いて』『燃え上がる心を奥底に閉じ込めて』か。これはきっと、彼女たちのことだろう…。今日、一目見て分かった。」


 秀一郎は目を閉じて、複数の人物を思い浮かべる。学園で見かけた生徒数人の中に、他とは違う色を持つ者たちがいた。


 秀一郎はその瞳に残る銀河のような色を、そっと記憶に閉じ込めた。

・マリー=アンジュ・壬生屋・ルフェーブル

伊織の祖母。世界的に有名なハイブランド、Lunatic Caelumのデザイナーで、とても気品のある女性。母国であるフランスに在住。


・神楽坂 龍堂

弥生の祖父。威厳に満ち溢れた存在感を放つ。実際は朗らかな性格で人を揶揄うのが好き。神楽坂流剣道の師範で数多くの弟子がいる。

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