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あの星に煌めきを  作者: そーら
第三章 ふたつの光
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心に残る言葉

 



 その日、奏空は久しぶりのオフの日で朝から登校していた。だからと言って特別なことは無い。周囲も奏空自身も普段通りに過ごしている。


「奏空〜!」


「あ、楓ちゃん。今行くね。」


 昼休みのチャイムが鳴ってすぐ、二年A組に楓がやって来る。いつもなら柚希を呼ぶ彼女だが、今日は奏空に用事があるようだ。


「あれ、めぷる?そらし〜何かあるの?」


「うん。アイリーンちゃんと一緒にチーム名考えなきゃって話になって…私が今日一日オフだし昼休みに考えようってことになったの。」


「ヤバ、ゆずたちも決めなきゃ〜。」


 ライブは二週間後に迫っている。チーム名の締切もそろそろで考えてはいるが、中々しっくり来ない。

 柚希が蘭の元へ向かったのを見送り、奏空は昼食を持って楓の元に向かった。


「お待たせ。どこで食べるの?」


「ん〜…あんま人の目に着かないところのがいいっすよね。」


 考える場所をどこにするか考えながらアイリーンを迎えに行く。

 廊下を歩くだけで奏空はよく目立つ。食堂で食べると話を聞かれてしまうこともあり、どこから情報が漏れてしまうかわからない為、どこか良い場所が無いか探していた。


「アイリーン〜!行くっすよ〜。」


「あ、ハイ!リアさんまた後でデース。」


「う、うんっ。」


 アイリーンのいる一年B組に着く。アイリーンは莉愛とその友達とも仲良くやっているようで、奏空と楓は安心して彼女を迎えた。


「アイリーンちゃん、クラスどう?」


「楽しいデース!リアさんの他にも優しいヒトがイッパイで…ニポンに来て良かったデス!」


 星空学園は急な転校生が多く、この中途半端な時期でも受け入れてくれる生徒ばかり。キラキラとした笑顔のアイリーンを見ればその様子は一目瞭然だ。


 どこを歩いても昼休みの今、行き交う生徒は多い。その為、三人は先生に許可をとって空き教室を使わせてもらうことになった。

 空き教室と言っても掃除は行き渡っており、とても綺麗で快適だ。


「は〜…お腹空いたっす…。」


「早く食べて、チーム名決めようか。」


「クールな名前が良いデース!」


 それぞれが昼食を広げる。楓とアイリーンは寮で用意されているお弁当、奏空は手作りのお弁当のようだ。


「わ、奏空は手作りっすか?凄く綺麗っす!」


「ありがとう。身体が資本だから時間がある時は自分で考えて用意してるんだ。」


 奏空のお弁当を見て感嘆する楓とアイリーンを横目に食べ始める。自分が作ったのだから嫌いな味も工夫しているため、とても美味しそうに食べている。


「それじゃあちょっと行儀悪いっすけど時間無いし、食べながら決めるっす!」


 楓がスマートフォンのメモ機能を開いて、箸片手に見やすくメモを始める。


「漢字が良いデス!カッコイイ!」


「漢字っすかぁ…外国人にはそうでも日本人は逆に英語の方がかっこいいっす!」


 アイリーンがキラキラした目で漢字を推す。育った環境が違うと価値観も変わってくるのも必然。奏空は二人の意見をどうまとめようか悩む。


「うーん…日本語にも英語にも聞こえる言葉、とか?」


「そんなのがあるデスカ!?」


 あまりの驚きに片言がいつもより強くなるアイリーン。そんな彼女に苦笑しながら奏空は続ける。


「良いのが思いつかないけど、空耳英語ってあるでしょ?『Have a nice day.』が『幅無いっすね』に聞こえるみたいな…。」


「あー…確かに聞こえるっす。」


「そういう感じで良い言葉があれば良いんだけど…。」


 うーん…と唸るも、あまり良い言葉が出てこない。しばらく考えた後、あまりにも浮かばないため別の観点からも考えてみる。


「あとは…三人の頭文字を取ったり、共通点やそれぞれの好きなものを文字って造語にしたりとかが無難かなぁ…。」


 奏空は職業柄、アニメのタイトルやキャラクターの名付けの由来なんかは聞くことが多い。そこからもヒントを得て、まずは順に試しながら言葉を並べてみる。


「頭文字は…か、そ、あ…?あそか?かあそ?…難しいっす。」


「英語だと…S、K、A…。」


「ン〜…ask?」


「ask…意味はなんだっけ?」


「『尋ねる』…だね。あんまり上手く使えないかも…?」


 次に共通点や三人の好きなものを並べてみたが、バラバラで上手くハマらない。チーム名を考えることがこんなに難しいと知らなかった楓はガクッと項垂れる。


「何ヶ月分かの思考力を使ったっす…。」


「ワタシもデース…。」


 昼食は食べ終わったが、頭を使った分あまり食べた気がしない。奏空は苦笑いを浮かべて一度考えることをやめた。


「そういえば、二人はこの後の授業どうなってるの?」


「ん、今日は五時間目で終わりっす!その後は…あ、近々部活で使うからプール掃除を頼まれてるっす。」


「エーット…ワタシは六時間目まであるデース。ソラさんは?」


「私も六時間目まで。お仕事ある分、行ける日はちゃんと受けなきゃいけなくて。」


 それぞれ放課後まで忙しいらしく、考える暇が無い。ズルズルと考える時間が長引きそうで先が追いやられるな…とつくづく思う。


「とりあえず、何か良い単語が見つかったらまた持ち寄る…ということで良いっすかね?」


「うん、そうだね。あ…でも、明日は仕事と事務所に用事があるし、チャットでやり取りした方が効率良いかも…。」


「大変デスネ…ご無理はなさらず…。」


「うんっ、ありがとう。」


 奏空が笑うと丁度チャイムが鳴り、それぞれの教室へ向かう。


 奏空の次の授業は、仕事で欠席した音楽の補講だ。奏空たちがいた空き教室から音楽室への道はそれ程遠くはなく、あっという間に着いた。


「…あ、奏空!良かった、今日は来れたんだね。」


 適当な席に着くと、音楽教師の橙咲 亜沙美(とうさき あさみ)が手を振りながら呑気に入って来る。


「橙咲先生、こんにちは。補講ありがとうございます。」


「奏空は真面目だね!そんな丁寧にお礼する人あんまいないよ〜。」


 アハハ!と元気に笑う亜沙美。彼女の明るさには不思議と惹かれる魅力がある。


「そーいえば、最近忙しくしてるよね。大丈夫?」


「え?あぁ…そうですね、最近は特に。」


 亜沙美から芸能活動の話題が出るなんて初めてに近い。奏空はそれに一瞬驚くも、普通に答えた。


「今やってる活動が優先的になっていくので…Pentagram☆*。の活動が難しくなってしまうかもしれないんです。」


 奏空は浮かない顔をし、それを見た亜沙美は密かに眉を顰める。


「仕方ないことは分かってるんです。それに解散ではなく、一時的な休止になるだけなので…でも、それでも来るものはあります。」


 事務所の方針には逆らえない。いくら奏空の気持ちを話したところで秀一郎の目的は煌めきの夢を調べること。そのために全力を尽くす。

 結弦に受け入れる必要が無いことを言われて少しは気が楽になったが、それでも休止に対する感情が綺麗さっぱり無くなるとはいかない。


 亜沙美はそんな奏空を見ても黙ったまま。そして始業のチャイムが鳴る頃には周りに数人の生徒が集まっていた。


「…ねぇ奏空、これだけは言っとく。」


 授業を始める前に、周囲に聞こえないよう亜沙美はこっそりと机に手を置き、小声だけれどよく通る声で囁く。


「星は、見えなくてもずっとそこにあるんだよ。」


「…それって、どう言う………。」


 亜沙美の急な意味不明の言葉に奏空は目を見開いて首を傾げる。しかし、その意味を聞く前に亜沙美は授業を始めてしまった。




 ・・・




「…星は見えなくても…。」


 寮に帰宅後、奏空はスケジュール帳を見ながら、亜沙美に言われたことを思い出していた。

 意味がわからずしばらく考えているようだ。


 こうして悩む日は星を眺めると心がスッキリするのだが、こういう日に限って天気は曇りでよく見えなかった。


「見えない…か。」


 亜沙美の言葉と今の天気が重なり、奏空はふとベランダに出て雲が掛かった夜空を見上げる。


「…確かに、雲に隠れてるだけでその奥に星はあるんだよね………。」


 ボソリと呟くと、ポケットに入っていたスマートフォンが震える。そこには影日向(かげひなた) ナツメという名前があった。


「もしもし、ナツメくん?」


『…起きてたか?』


「うんっ、明日のスケジュール見てたとこ。それで、どうしたの?ナツメくんたち、確か仕事で遠征だったよね。」


 ナツメは年上だが事務所の同期で気が合い、プライベートでも仲良くしている間柄だ。

 ナツメが所属するユニット『Truth Emperor』は女性人気が高く、熱狂的なファンがいる。今日はテレビ番組の収録で地方にいるようだ。


『最近忙しそうにしてるから、少し気になって。』


「そっか、ありがとう。私は大丈夫…だよ。」


 亜沙美と同じ切り口に笑いながらも、元気に大丈夫と言おうとしたが、Pentagram☆*。が休止することが頭に過ぎる。

 そのせいで電話越しのナツメには無理をしているように聞こえてしまった。


『奏空?』


「あ…えっと、ちょっと喉が詰まっちゃっただけでだいじょぶ…」


『…無理をするなとは言わない。この業界は無理をしないといけない時もある。だが…。』


 慌てて言い訳をしようとするが、ナツメが話し出す。その声はとても悲しそうで、彼にも何か思うところがあるようで奏空は押し黙る。


『…無茶は駄目だ。身体を壊すだけじゃない。精神的に自分を追い詰めたり、自分を見失ったり…何も見えなくなって消えてしまうことは何も生まない。』


「何も…。」


 ナツメの言葉はいつも真っ直ぐで、スッと心に染み込む。もう一度空を見上げると、月明かりが雲間から漏れていた。


『…つまり、その…悩むことを悪とは思わない。自分を見つめ直し、成長する機会になるから。だが、自分を失ってしまうリスクもある。

 …何も知らず、居なくなられた方はどうすることも出来なくて、悲しみが来る頃には何も出来ない無力さに苛まれる…。

 だから、奏空には自分を忘れないで欲しい。』


 最後の方は消え入りそうな声で、ナツメと出会った日のことを奏空は思い出す。

 一緒に現場の見学をしていた時、ふとナツメを見るとその横顔は真剣でどこか悲しそうで、何を思っているのか分からない顔をしていた。

 今思うと、誰かが彼の危惧する通りになってしまったのだろうか…と奏空は考え至る。


「ナツメくん…。」


『お前の大切なものは、全部お前の中にあるから。絶対に見失うな。』


 力強いその言葉は奏空の胸に刺さった。息を飲むと、奏空の瞳からは一筋の涙が零れていた。

 胸の前で強く拳を握って空を見上げると、雲が少し晴れてよく月と星が見えるようになっていた。


「ありがとう、ナツメくん。」


『…あぁ。』


 奏空のすっきりと晴れた声を聞いて、ナツメは彼女の今の心を感じたのか優しく返事をした。

 その後は軽く雑談をして、お互い眠くなり電話を終えた。

 ベッドに腰を掛けると、今日の亜沙美とナツメの言葉を振り返りながらPentagram☆*。のことを考える。


「…明日、事務所に行く時…きっと皆に言うんだろうな。」


 明日は仕事の合間に事務所に行く予定がある。そのスケジュールを聞かされた時の結弦の声が、それを予感させていた。

 先程まではそれが怖かったが、今は何故か心が軽い。


「人の言葉って不思議だな。」


 悩みが晴れた訳では無いが、今の状態ならどんな答えを言い渡されても大丈夫だろう。彼女たちとの思い出が無くなる訳では無いし、活動休止に対する感情を受け入れる必要も無い。


「星は見えなくてもそこにある。大切なものは全部私の中にある。


 …だから大丈夫、きっと。」


 奏空はスマートフォンのアラームを設定して、そっと眠りについた。

・橙咲 亜沙美

星空学園中等部三年B組担任 音楽教師

非常に元気な性格で、その明るさには惹かれる何かがある。生徒思いで面倒見が良く、お節介を焼きがち。楽器は弾けないが、歌は上手い。


・影日向 ナツメ

明日香男子高等学校三年一組

端正な顔立ちでクールな雰囲気の一匹狼。心根は純真無垢で、幼馴染の聖に頼りきっている。奏空とは同期で唯一仲が良い女性でもある。


・Truth Emperor

ナツメ、聖、叶汰、和泉、帆高からなる五人組アイドルグループ。女性人気が非常に高く、甘い歌と絶妙なパフォーマンスで魅了している。

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