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あの星に煌めきを  作者: そーら
第二章 星の輝き満ちる時
13/64

『あの星に煌めきを』

 



「今日で合宿も終わりかぁ。」


 連休の合宿を経て、蘭たちは帰りの身支度をしていた。

 この連休は彼女たちにとって大きく成長することの出来た有意義な時間。それを次に繋ぐか、無駄にするかは今後の彼女たち次第なのだが。


「播磨さん、この度はお世話になりました。」


「いえいえ。皆様のお力になれて光栄でございました。また是非いらして下さい。」


 レッスンが目的だった合宿だが、彼がいなければ美味しいご飯や、心置き無く過ごせる部屋は無かったのだと思うと頭も下がる。

 清史郎は大きく成長した皆を見て、にこやかに笑った。


「荷物積んだら順番に乗れ。忘れ物無いか、ちゃんと確認しろよ。」


「あ!洗面所に歯ブラシ忘れちゃったー!」


 結弦が言ったそばから慌ただしく歯ブラシを取りに行く柚希。彼女に呆れながらも荷物を積んでいく。


「大きな車デスネ!」


「ロケバスだよ。今回は特別に貸してもらったんだって。大きいワゴン車だと荷物まで積んだらぎゅうぎゅうになっちゃうし。」


 雑談をしながら車に乗り込む一同。最後に歯ブラシ片手に走ってきた柚希が乗り込み、コテージを後にした。


「はぁ〜!疲れたね〜。」


「そうっすねー。今日は流石に家でゴロゴロしたいっす。」


「何言ってんだ、帰る前にまずは事務所だ。昨日説明があっただろ?」


 グッと背伸びをする柚希と楓に結弦は言う。

 車は事務所に向かい、今後の予定について詳しく話すことになっていた。


 ・


 昨日の夜、蘭たちはコテージのリビングに集められていた。秀一郎によると、明日からの活動の方針をここで改めてまとめたいとの事だ。


「皆、合宿お疲れ様。頑張ってくれたこと、心から感謝するよ。君たちの努力の甲斐あって今後の活動も予定通り進められそうだ。」


 秀一郎は華乃子と水明から受け取った成果を見ながらそう言う。芸能人として活動していく力量…つまりプロとしてやっていけるかの基準を蘭たちは見事に超えられたのだ。


「これからも君たちのサポート、プロモーションは事務所総出でやっていく。煌めきの夢についても世間に知れ渡っている今、君たちについて知りたいという人が増えている。」


 この合宿期間中、秀一郎は煌めきの夢についての詳細を世間に広めていた。分かった情報はまだ数少ないが、蘭たちの映像を見て気になる人は多いようだ。


「その為に、アイドルとして多くの人と接する機会を設けた。」


 そう言うと、秀一郎は冊子を全員に配る。


「企画書…ライブ?」


 表紙を見ると『煌めきの夢 ライブ(仮) 企画書』と書かれていた。


「まだ正式なタイトルは決まっていないが、君たちを中心としたライブイベントをやろうと思っている。」


 台本の中身を見ると、まだ断片的だがライブの内容が書かれていた。パフォーマンスをしたり、トークやバラエティ的な企画、観客との交流と本格的だ。


「明日は朝早くに出発をして、そのまま事務所でこのライブについての会議をする。それまでに君たちがやりたいことを、どんなことでもいいから案として用意しておいて欲しいんだ。」


 ついに始まる活動に少し胸踊るような感覚がして、その夜は解散となった。


 ・


 柚希と楓は昨日のことを思い出し、まだ家には帰れないと思うと少し落胆した。


「昨日は色々考えてあんまり寝れなかったからぼやぼやしてた〜。」


「疲れてる時は甘いものがいいよ。私がいつも食べてる金平糖あげる。」


 奏空はそんな二人を見て、いつも常備してる金平糖を差し出す。小さくコロッとした形は食べやすいし、何より奏空が好きな星にも見える。さらに頭に糖分が行くため、奏空にとっては一石二鳥どころではない。

 柚希と楓が美味しく頬張ると、蘭と莉愛も一つ欲しくなる。


「星屑さん、私も頂いても?」


「わ、私も欲しいです…!」


「うん!いいよ、アイリーンちゃんもどうぞ?」


「…何デスカ?コレ…。」


 日本人には馴染み深く、懐かしい感じがあるが、そういえば海外に金平糖は無いのかとハッとする。

 金平糖は日本の砂糖菓子で少し固いと説明するとアイリーンは目を輝かせて一つ食べた。


「…ん!甘いデース!ニポンのお菓子、もっと知りたいデス!」


 頬を抑えてとても気に入ったようだ。本当に日本のものが大好きなんだなと一同はほっこりする。


「落ち着いたら色んなところ紹介するよ。」


「ゆずも!あ、日本のお菓子って言ったらやよちんが詳しいよね、蘭!」


「うん、色んなお店知ってると思うよ。」


 スイーツの話題を中心にその後の長時間、車内は賑やかだった。




 ・・・




 合宿が終わってから一週間、蘭たちはいつも通り学園に登校していた。

 その日の午後、授業が無い蘭は放課後の生徒会までに図書室の整理をしておこうと、大きな本棚を前に一つ一つ丁寧に見ていた。


 生徒会で本のリクエストがあったものの必要性や、今ある本の具合、読まれていない本の確認などをしていると、何やら本と本の間に見慣れない薄い小冊子のようなものが挟まっていた。


「…何だろう、これ。」


 それを引き抜くと、真っ白な表紙に『あの星に煌めきを』というタイトルと『らぎ うららか』というペンネームが書かれていた。


「聞いたことないタイトルと作者…。」


 本を開いてみると、それは絵本のようで可愛らしくキラキラとした世界観が描かれていた。


 __________


 その世界はこの世界とは違う別の星


 その世界はとても美しかった


 銀河のように広がる輝き 白の幻想的な空間


 そんな世界に二人の美しい少女がおりました


 一人は女神のように美しく また一人はその瞳に無限の煌めきを宿していました


 二人の少女は楽しく唄を歌っていました


 胸に手を当て 澄んだ声で 誰のかも分からない幸せを 心の底から 願っていました




 そんな時 世界は突然揺れを始めました

 怖くなった二人の少女は身を寄せ合い 世界の行く末をただ見ているしかありませんでした


 美しかった真っ白な煌めきの世界は 真っ黒な海に飲み込まれてしまいました


 __________


「これって…。」


 絵本を読んだ蘭は驚きを零す。そこには蘭たちが見た煌めきの夢の光景が描かれていたからだ。


 この絵本がいつ出来たものなのかは不明だが、本の古ぼけた具合を見るに、かなり前からあったように思える。少なくとも、蘭たちが煌めきの夢を見る前から。


 そして次のページを捲ると、何か描かれたものの上にぐしゃぐしゃと黒く塗りつぶされ、その先は破かれていた。


「これを描いた人は誰なんだろう…。」


 ふとした疑問を零す。こんなに今の状況と似ている話を創った人、関係無い方がおかしいだろう。ここにあるということは卒業生か、学園の関係者だろうか、と思考を巡らせる。

 蘭はとりあえず、タイトルと作者をネットで検索をすることにした。


「…!らぎ うららかは実在している…、絵本作家?」


 タイトルは引っかからなかったが『らぎ うららか』という絵本作家がいることは分かった。

 出版された絵本の冊数は少ないけれど、いずれも人気作だったようで、人知れずファンは存在しているようだ。

 しかし現在は活動を停止しており、本の製造も止まっている為、人気は衰退しているようだった。


「作者が活動していたならば、この絵本は…。」


 作者は引っかかったのにも関わらず、絵本の情報が何も無い。絵柄や作風は他の絵本と変わらないが、どこか造りの脆い本。そこから察するに、これはどこにも発表されていないものだと蘭は推測した。


 新しいヒントになるかもしれないと思い、蘭はいち早く秀一郎にアポイントメントを取った。


 ・


「ふむ…。」


 翌日、蘭は学園を休んで事務所にやって来ていた。絵本を興味深く読む秀一郎を前に、ゆっくりお茶を飲む。


「なるほど…これが君たちが言っていた夢の内容、それが全く同じように描かれているんだね?」


「はい。描かれている絵も、文章も…そのままあの夢を表しています。」


 しばらしくして読み終えた秀一郎は絵本を置き、考えるように顎を撫でる。その絵本をじっと、目を細くして見つめている。


「これは一度こちらで預からせてもらってもいいかな?」


「はい。学園にはありましたが、確認したところ学園のものでは無いようなので、問題無いかと思います。」


「ありがとう。これを辿れば、重要な人物に出会えるかもしれないね。」


 秀一郎は絵本を丁寧に仕舞う。

 用事はそれだけだった為、帰ろうとしたところを秀一郎に呼び止められる。蘭は首を傾げて再びソファに座った。


「駿河くん、私も少し君と話したいと思っていた。」


「…何でしょう?」


 秀一郎は正面に座る蘭を見つめて、目を細める。その目線に蘭は物怖じすることなく、凛とした硝子のように透明な瞳で見つめ返す。すると、秀一郎はフッと笑った。


「…君のことはお父様から聞いたよ。義理の父親とは言っていたが…それに至るまでの経緯が複雑だ。

 本来は全くの他人、親戚でも無ければ…ただ孤児院にいた君を一目見て引き取ったと聞く。そこにあったのは情か、はたまた運命か…。」


 駿河 蘭という特異な存在を興味深そうに見る。そして、蘭もまた秀一郎を不思議だと思っていた。

 彼は異様に目が良い。視力の話ではない、感性としての目だ。


「君には嘘、偽りが無い。複雑に絡み合った人生でありながら、まっさらな心をしている。普通なら歪んでいく…いや、それが普通というならば今の君が歪んでいると言うべきか。」


 その不思議な目で、蘭の様子を伺っている。それでも、蘭の心は変わらず美しいままだ。


「…私は、たくさんの人に助けられて今があります。今の家族も、孤児院の先生も…彼も。」


 最後、何かを思い出した蘭の顔に一瞬だけ影が差す。その僅かな影が、彼女に眩しいくらいの光をもたらしていることに気が付いた秀一郎は目を閉じた。


「すまない、詮索が過ぎたようだね。君には期待をしているよ。

 奏空と同等の才能を持つ者、しかしその中身は全くの別物だ。宇宙のように果てしない可能性を持つ奏空と…まるで言葉に表すことが出来ない駿河くん。二人が同じ場に立った時、どうなるのか楽しみだよ。」


 秀一郎は立ち上がって、窓から外の景色を見た。この世に存在する全てのものに比べたらとてもちっぽけな景色。

 しかし、駿河 蘭という少女には無限の…この世の全てに筆頭する可能性を秘めていると感じていた。


「…失礼します。」


「あぁ、呼び止めてすまなかった。絵本の件、進展があったら連絡するよ。今度のライブも、よろしく頼む。」


 そうして蘭は事務所を後にした。改めて秀一郎と話してみて分かった。彼には何か秘密がある。

 自分を見つめるあの目は他の人とは違う。そして、彼がこの一件にここまで深く関わる理由も…きっとあるのだろうと蘭は察する。


「…不思議なのはあなたも同じです。」


 ポツリと呟いた言葉は誰の耳にも届かなかった。しかし、それは蘭の記憶の中に残り続けるのだった。

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